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7/12

7,隣国へ出発

「イェレナ、やっぱり行ってしまうの?」


私を隣国との関所まで見送りに来てくれたマリーが、引き留めるように私の袖を掴む。


「えぇ、これはもう決めたことだから……」


予定より少し早く、あのお茶会の翌月には旅立つことにした。

本当なら2,3ヶ月待とうかとも思っていたが、マリーと第二王子が無事この間の舞踏会でくっついたので、それならもう出発しても良いだろうと思ったのだ。


「そんなに悲しそうな顔をしないで。ちゃんと帰ってくるから」


これは本当だ。

もし仮に向こうで結婚が決まったとしても、1度この国には帰ってくる予定でいる。


「今は付き合いたてホヤホヤな時期なんだから……彼と仲良くしていれば、私なんてすぐに帰ってくるわ」


「ちょ、ちょっと、そんな言い方をされると恥ずかしいわ」


「いいじゃない。マリーも王子もお互いのこと大好きなんでしょう?」


「そ、それはそうだけど……」


3日前の舞踏会でようやく想いが通じあった2人だもの。

今だって王子は、見送りに行ったマリーの帰りを、仕事をしながら今か今かと待っているに違いない。


「じゃあ、私行ってくるわ」


「えぇ、行ってらっしゃい……あと、最後に」


「何?」


マリーはそれまで照れていた顔を引き締めて、真面目な声で言う。


「後悔だけはしないようにね」


その含みのある言い方はきっと、私の恋愛に対しての忠告なのだろう。

彼女からの言葉が深く胸に刺さる。


「……そうするわ」


「ならいいの。気をつけてね」


馬車に乗り込み、マリーがこちらに振る手が見えなくなるまで、私も手を振り続ける。


こうして私は隣国へと旅立ったのだった。


◇◇◇


「今日は街に買い物に行っても良いかしら? この国の文化と直に触れ合ってみたいの」


「良いと思いますよ。一応旦那様に確認を取ってきますね」


あの後私は無事に隣国に到着し、そこでの生活を満喫していた。

まだ着いてから3日しか経っていないとはいえ、自国には無い少し開放的で自由な雰囲気が新鮮で面白い。


私を家に泊めてくれているのは、私の遠い親戚のご夫婦で、奥さんは妊娠している。

そのせいもあって家はとても和やかな雰囲気だ。


「ただいま伺って参りました。夜遅くでなければ問題ないとのことです」


「ありがとう。それなら今から支度して出かけても良いかしら?」


「えぇ、構いませんよ。では身支度の準備をお手伝い致します」


服やヘアメイクを見ても、やはり文化の違いは感じる。

それが街に出たとなったらどれほど違うのだろうか?


私がワクワクしているうちに、支度は整った。


「それじゃあ行ってきます!」


地元なら道が分かるから1人でも平気だが、流石に他国の……それに来てから3日しか経っていない街を1人で歩くのは無理なので、支度を手伝ってくれた侍女と一緒に行くことにした。


「あのスイーツは何と言う名前なの?」


「あれはマラサダです。もちもちとした食感で、お腹にたまりやすいですがとても美味しいんですよ」


「食べてみたいわ。でも、ほかの所も回ってみてから決めた方がいいわよね……あら? あの建物の中では何をやっているの?」


「あれはフラですよ」


「素敵な格好に見たことないダンス……少し外から覗いても大丈夫かしら?」


「えぇ、大丈夫だと思います。行きたいところは全て行きましょう!」


窓から見えるダンスは、全く見たことがない振り付けとステップだ。


きっとマリーだったら、「これが本で読んだスイーツね」だとか、「このダンスは伝統的な……」とか言って目を輝かせるに違いない。


もしニックだったら……


「あ……」


「どうしました?」


「な、なんでもないわ、」


侍女は少し不思議そうな顔をしたものの、それ以上は聞いてこなかった。


私ったら、ニックを忘れるためにここへ来たというのに、何馬鹿なことを考えているのだろう。


このままでは気分が沈んでしまいそうだったので、とりあえず色々なものを見て気分を誤魔化すことにした。


「ねぇ、次はあのアクセサリーのお店に行きましょう」


「フラはもういいんですか?」


「えぇ! 今日中に色々見て回りたいもの!」


振り回してしまうことに罪悪感を覚えつつ、私は侍女の手を引っ張って斜向かいにあるアクセサリーショップへ入った。


「いらっしゃいませ」


そう言って私達を迎えた店員は綺麗なお辞儀をする。

店内にいるお客さんも皆、優雅な雰囲気を纏っている人ばかりだ。


「ここは……周りのお店と雰囲気が違うわね」


そっと侍女に囁くと、彼女もまた私の耳元で囁き返す。


「この店は庶民向けに設定してあるものの、高級店なんですよ。ジュエリーの品質も良いことから貴族の方もいらっしゃるので、このような雰囲気なのだと思います」


確かに見渡してみれば、貴族と思わしき人もいる。

いくら自由で開放的な雰囲気の国と言えど、こういう部分もあるみたいだ。


「なるほどね。それなら私もその雰囲気に合わせないと」


「お嬢様は十分ですよ」


なんて話していたら、突然横から声をかけられる。


「すみません、あの……少し相談に乗ってくれませんか?」


そう言ってやけに困り顔をした男性が私に話しかけてきた。

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