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2,優しい人

今日は16歳になると参加出来る、国の若い男女が集まる大きな舞踏会。

これに参加したくて、私はずっと16歳になるのを楽しみにしていた。


私の友達のマリーは、そんな事ないみたいだけれど……

でも、会場の豪華絢爛さを目の当たりにして、彼女も驚きと感動の面持ちであたりを眺めている。


「さすが1年の中でも一番大きな舞踏会ね、あぁ、ニックは2年も前からこれに参加していたなんて……一体どれだけの令嬢からのアプローチを受けていたのかしら」


私のいつも通りのぼやきには耳も貸さず、彼女はひたすら会場の様子を食い入るように眺めていた。


マリーはどちらかと言えば人見知り。

でも正義感が強くて、博識で、自分の世界をちゃんと持っている。

そんな彼女に対して、私もああなりたいという憧れの気持ちもあるが……私だってニックに見初められる為に頑張ってきた。


だから、私だって魅力的な令嬢になれているはず……はず。

少し気分が下がりかけたところで、私の視界にニックが映った。

もう既に令嬢達に囲まれている!


「はっ! あれはニックだわ! 見て頂戴、令嬢3人に囲まれているわ!! 早く私も行かなきゃ」


後ろでマリーが「え」と声を漏らしたのが聞こえたが、今日だけは許して欲しい。

友人を置いていってしまって申し訳ない気持ちもある。

しかし今は急いでいかなければ、ニックを他の令嬢に取られてしまうから!


まぁ、モテているのは毎回なのだけれど……


「こんばんは、ニック」


「毎回よく飽きずに来るな。たかがイケメンとかいう理由の為に」


「たかがなんて言葉で表していい理由じゃないわ!」


だって彼は少し冷たくはなったものの、顔も性格も国宝級のイケメンなのだから!

周りの令嬢達も賛同の意を表すように、ニックににこやかに笑いかける。


「はぁ、そうか」


彼は呆れた顔をして、私に飲み物を手渡した。

中身は、私が大好きなレモネード。

レモネードが好きという話は、手紙の中でしかした事がないのに……やっぱり人間が出来ている。


「ねぇ、ニコラス様、一緒に踊って下さいませんか?」


取り囲んでいた令嬢の一人が、頬を染めて彼に話しかける。


「踊ってくれるだけでいいので」


別の令嬢も、両手を胸の前で重ねて懇願する。


原因はよく知らないが、彼は特定の相手をもつ素振りがない。

これはニックを知っている人にとっては、もはや当たり前のこととなっている。


だからこそ、ダンスだけしてくれないかと皆こぞってお願いをするのだ。


「踊るだけなら……」


そう言って彼は一番最初に頼み込んだ令嬢の手を取る。


「私が次でよろしいかしら?」


「それなら私はその後で」


こうして自動的に私の順番は最後になった。

でも別に構わない。

私はニック以外の人にダンスを誘われることは無いから。


他の令嬢達はニックと踊った後、別の令息とも踊っている。

多分もうニックのことは諦めていて、思い出作りとして彼と踊っているに過ぎないのだろう。


私は……ニックのことを諦めていない!

……私に声をかけてくれる人が居ないからとか、決してそういう理由ではなく。


これでもかなり令嬢として努力してきたのだけれどなぁ……


なんて悲しく思いながら会場を眺めていれば、あっという間に私の番になった。


「待たせてごめん」


「私が踊りたいって言ったんだから、待つくらい平気よ!」


私がニコニコして答えれば、彼の口元も上がる。


「そうか、それならいいんだ。行こうか」


彼は私の手を取り、ダンスフロアへとエスコートをした。

そこから1曲踊り終わるまでの時間はあっという間。


やっぱりかっこいいな……なんて考えていたら、音楽は終わってしまった。


「踊ってくれてありがとう。じゃあ……」


またねと言おうとした時、彼は私の手首を掴んだ。


「どうしたの?」


「もう一曲踊るか?」


想定外の彼の言葉に、私は驚く。

そして段々と優越感が湧いてくる。


……私だけ、2回目を誘われた!


「いいの?」


「イェレナが踊りたいなら、俺が断る理由は無い」


「踊りたいわ!」


私の返事に彼は優しい瞳で頷いた。

もしかしたら……誰にも声をかけられない私に同情して、もう一曲誘ってくれたのかもしれない。

だって彼は優しい人だから。


それでもこの機会を逃す手はない!


「そういえば、いつも俺に送っている手紙にかけてる香水、変えた?」


ステップに合わせて2曲目を踊っていると、彼の方から私に話しかけてきた。


「そうなのよ! 気がついてくれて嬉しいわ!」


「今日のイェレナから同じ香りがしたから思い出したんだ。ちなみに、どこで買ったの?」


「今流行りの雑貨屋さんで買ったの! 金木犀のいい香りでしょう?」


「あぁ、秋が感じられていいなと思ったよ。買い物は誰と?」


なんだか今日はやけに質問が多いな、なんて思いつつ私は答える。


「マリーを家から引っ張り出して、一緒に来てもらったのよ……ってあれ、そういえばマリーはどこかしら」


ニックを見つけた瞬間、条件反射で走り出してきてしまったので、マリーは一人でやっていけてるか不安になる。

しかし、どれだけ会場を見渡しても彼女はいなかった。


「無事に過ごしているかしら……」


「見当たらないってことは楽しんでいるんじゃないか?」


「確かに、そうかもしれないわ。どうしよう、この後はマリーと合流しようかと思っていたのだけれど……邪魔しちゃ悪いわね」


他のお茶会仲間の友人達も、舞踏会ではそれぞれいい感じの相手と一緒に過ごしているから、行く宛てがない。

一人でふらふらとスイーツでも食べて回るか……なんて考えていると、彼が事も無げに提案をしてきた。


「それなら、マリー嬢が帰ってくるまで俺と一緒に回るか」


「えぇ、うん…………え!? いいの?」


私が彼の目の前で行く宛てがないなんて話をするから、彼は気をつかったに違いない。


「構わないよ」


ニックにだって予定はあるだろうに……本当に優しい人だ。

これだから、何回振られても私はまだ彼のことを好きでいてしまうのだ。


◇◇◇


それから私たちは思う存分舞踏会を楽しんだ。

途中でマリーが第二王子と一緒に会場内に現れた時は、さすがにそちらに気を取られたが、その時以外はずっとニックのことを考えていたと言っても過言では無い。


「そろそろマリーと第二王子、解散しそうね。あのまま彼女を放置したら危ないから、私と一緒に帰らせることにするわ」


きっとこのまま彼女が会場に残れば、質問攻めにされるか、嫌味をぶつけられるか……何らかの悪い事が起こるだろう。


「そうか。今日は楽しかった、ありがとう」


「それはこっちのセリフよ」


今日はなんだか初めて会った日のような距離の近さを感じた。

だからだろうか?

最近は面と向かってあまり言っていなかったあの言葉を口にした。


「ねぇ、私と付き合ってくれない?」


「何故?」


「何十回言ったと思ってるの? ニックほどのイケメンは居ないからよ!」


私がそう言うと、彼は持っていたドリンクを飲み干してこう告げる。


「……無理だ」


彼が再びこちらを見れば、先程の暖かい目から、冷たい雰囲気を纏った顔に変わっていた。

……やっぱりダメか。


「そっかそっか。でも私、諦めないわよ!」


「せいぜい頑張ってくれ」


何十回告白しようと、振られて悲しいのは変わらない。

私は彼の方を振り返らず、マリーの所へ走り出したのだった。

ちなみに友人マリーと第二王子の話は完結済みです。

気になる方は作者ページ⇒「王子だと知らないで接していたら、何故か気に入られたみたいです」からどうぞ!


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