12,大変な人!
「可哀そうだ……俺なんかに好かれたばかりに」
私が彼に……好かれている?
更に混乱した私の様子に何を思ったのか、彼はその暗い瞳のまま薄く笑った。
「ずっと、イェレナには俺の外見だけじゃなくて、内面も好きになってもらいたくて頑張ってきたんだ……でも、無駄だったみたいだ。それに……俺のことを好きじゃないイェレナなんて許せそうにない」
少し早口になって、私の方へ近づいてくる。
そして、私の隣に腰をかけた。
「イェレナが俺のことをもう好きじゃなくても、どうでもいい。他の男のところへなんて行けないようにすればいいだけだったと……もう少し早くに気が付けばよかったよ」
「ちょ、ちょっと待って」
「待たない」
私はようやく今のこの状況が飲み込めてくる。
彼は……ニックは、私のことが好きなのだ。
私が「イケメン」という理由で告白するから断っていただけ。
それに。私をこうやって引き留めたのは、きっと嫉妬から……
そこまで分かったとき、こんな状況にも関わらず、私の顔には笑みがこぼれた。
だって……私はニックのことが好きだから!
嬉しくないわけがない!
彼は私のことを押し倒そうとしていたが、私が急に笑顔になったのをみて、何か怖いものを見るような目をする。
そして、一旦上半身を起こし、私から人一人分の距離を取った。
そんな彼に、私は頬を上気させ話しかける。
「私、ニックのことが大好きよ!」
「……え」
そのまま私の方から彼に抱き着いた。
彼は見ていて可愛いと思えるほど、挙動不審になっている。
「ごめんなさい、私てっきり、ニックは私には恋愛感情がないのだと思っていて……だから、諦めようとしたの。でも、結局諦められなかったわ。だって、ニックはこんなにイケメンなんだもの!」
私の言葉に彼は深くため息をついた。
「やっぱり顔か……でもいい、イェレナが俺のことを好きでいてくれるだけで十分だと、気が付いた」
嬉しそうな、それでいてどこか悲しそうな顔をするニックに、私の方からも真相を伝える。
「これは……私が悪かったのだけれど」
「なんだ?」
若干の、いやかなりの申し訳なさを感じながら、私は答える。
「私が言う『イケメン』には、外見は勿論だけれど……性格の話も入っているの。ほら、ニックと初めて出会った時、ドーナツを分けてくれたでしょう? 私はそれが……その優しさが、とっても嬉しかった」
「……そ、そうなのか……でも」
彼はパッと顔を明るくしたが、すぐにまた暗い顔に戻る。
「でも?」
「こんなことをする俺は嫌だろう? 無理やり連れて来て、薬まで盛って……本当に申し訳ない」
ベッドに座ったまま、私の方を向いて彼は頭を下げた。
「うーん。怒らなくちゃいけないのかもしれないけれど……ニックが私のことを好きすぎてしてしまった、っていう理由なら、許せてしまうみたいなのよね」
彼が私のことを好きではないと思っていた時は、なぜこんなことをするのかと、怒りや悲しみ、恐怖があったように思う。
しかし、ニックの本当の気持ちを知ってからは……なんだかそれすらも愛おしく思えてしまうのだ。
「……俺もひねくれているが、イェレナも相当だな」
「ふふっ。それだけニックのことが大好きだってこと」
「ははっ、俺もイェレナのことが好きだ。夢の中にいるみたいな気持ちになってしまう」
「夢にしたら許さないわよ!」
夢になんてさせない。
私は彼との距離を詰めて、その頬にそっとキスをした。
唇を離して五秒後、彼はようやく私の行動を理解したようで顔を赤くする。
「本当に君って人は……」
私が笑っていると、彼はムッとした顔をする。
そして、私の首筋にそっと唇を寄せたかと思えば……そこには赤い痕が残った。
「一生離さないから、覚悟をしておいてくれ」
「……うん」
どうやら大変な人につかまってしまったようだ。
……でも、それは彼にも言えることかもしれない。
まだまだ夜は長い。
◇◇◇
「ニック! 第一王子の結婚式ですって!」
私は家に届いた招待状を開き、内容を確認した後、隣にある彼の部屋へと駆け込む。
「そうか、それは一度国に帰らなければならないな」
彼は本から目を外し、なんだか残念そうに答えた。
「おめでたいことじゃない! 帰ったら、久しぶりにマリーに会えるから楽しみだわ!」
「でも、俺はこの家を気に入っていたから……」
「それは部屋の構造がってことかしら?」
「……」
おそらく図星だったのだろう。
ニックは何も言えなくなってしまった。
想いが通じ合った私たちは、あれ以来ニックの家の別荘に二人で住んでいた。
住まわせてもらっていた親戚の家にはきちんと事情とお礼を言い、実家への連絡も済ませた。
実家は私の婚約が決まったこと、そしてずっと私が想い続けてきていたニックが相手だということに、とても喜んでいた。
ニックの実家にも手紙でご挨拶をして、今度直接会おうという話になっている。
こちらの家も、
「あのニコラスを受け入れてくれて、うれしい限りです。どうか見捨てないでやってください……」
と手紙を送ってきてくれた。
おそらくニックの執着心の強い面は、家族にバレているに違いない。
そんなこんなで、周囲の了解も得た新婚生活さながらな暮らしのだけれど、一つ困ったことがある。
「イェレナがどこかへ行ってしまったらと思うと、気が気でないんだ」
「だからといって、ニックの部屋を通らないと外に出ることができない部屋が私の部屋って……まぁ、愛されているみたいで嬉しくもあるけれど……」
そう、部屋の間取りがおかしいのだ。
でも、そんなところにも嬉しさを感じてしまう私もいる。
「さて、そろそろ支度をしないと今日の授業が間に合わなくなってしまうわ。第一王子の結婚式には絶対出席するからね!」
「分かった。その代わり、今日は俺も学校に行こう」
「そんなこと言って、毎日心配だって言ってついて来ているじゃない!」
「イェレナは可愛いから、何があるかわからないだろう?」
実は私が今までモテなかったのは、裏でニックが手を回していたらしい。
それを聞いた時は、自分に魅力がないわけではないのだと安心したが、別に心配になるほどモテるわけでもないだろう。
「いいわよ、一緒に行きましょう。私も……ニックがいる方が何倍も楽しいもの!」
「そう言ってもらえてうれしいよ」
そんな甘い会話をしていると、ドアの外から
「まだですかー?」
という声が聞こえてくる。
隣国に来てから、いつも一緒に居るメイドの声だ。
彼女はどうやらニックの家のメイド……情報部員だったらしい。
彼が私の動向をよく知っているのは彼女のおかげ、そして彼の暴走を頑張って抑え込んでいたのも彼女だったのだ。
「今支度をしに行くわ!」
私はメイドに返事を返し、再びニックの方を向き直る。
「後でね、ニック。大好きよ」
私は彼の口にそっとキスをして、二人で笑いあった。
まず、ここまで読んで頂きありがとうございました!
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まだ読んでいない方は、マリーと第二王子の物語、「王子だと知らないで接していたら、何故か気に入られたみたいです」も読んで下さると嬉しいです!
執筆の方は少しお休みを頂いて、この作品か上の作品のポイントが1000を超えたら、マリーと第二王子の話の続編(イェレナとニックも少し出演予定)を書いていこうと思います(_ _*)