表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

11,本当の彼は

「やぁイェレナ」


目の前の人物は、何もおかしなことなどない、とでもいう風にこちらへ近づいてきた。


「……ニック?」


そんなわけがない。

だってここは留学先の隣国。

ここにいる意味がわからないもの。


「俺のことなんて忘れてしまったかと思っていたよ」


「……そ、そんなわけないじゃない」


むしろ忘れたくても忘れられなかった。

どんな人と出会おうとも、いつでも心の中にはニックの姿があった。


「えっと、それでここには何をしに来たの?」


「イェレナこそ、そんなにお洒落をしてどこへ行くんだい?」


「私は今から舞踏会に行くの」


貴方を忘れるために。

貴方を諦めるために。

貴方ではない人を探すために!


どうしてこう諦めようとしたときに彼が来るのだろう?


「へえ、それはアラン・ウィルソンと会うためか?」


「……アラン?」


誰のことかと思い、一瞬考えを巡らせた後に、この国へ来たばかりの頃に街を案内してもらった人の名前だということに気が付いた。


「どっ、ど、どうしてアランの話になるの? それにどうしてここに来たの? 私、もう行かなくてはならないのだけれど……」


混乱に陥っている私の疑問には全く答えない。

その代わり、彼は私の目をまっすぐと見て、はっきり言い放った。


「今日の舞踏会に、行かないでほしい。その代わり、俺とどこかご飯でも行こう」


「そんなことを言われても……私、この舞踏会でいい人を見つけないといけないから……」


こんな風にニックに誘われたら、いつもの私なら断れないだろう。

今だってそのお誘いはとっても魅力的だ。

それでも……今日は、彼のことを諦め、新しい人を探すと決めたから……


またこのまま彼について行ってしまったら、それこそ留学する前と同じで、何も進展はないではないか!


「やっぱり、俺のことは……もう……」


彼は私の返事を聞いて、何やらぼそぼそと小声で呟いている。


様子がおかしい。


そう思った次の瞬間、彼は私の腕をグイっと引っ張る。

そこまでの力は込められていなかったものの、予想外の動きに、私の体は前方へ倒れこむ。

彼はそのまま私を受け止めると、ひょいと横抱きにして持ち上げた。


そんな、恋人がするようなことをされたら……私はまた彼のことを好きになってしまう!

でも、彼は私のことなんて好きでも何でもない。


こんなむなしい気持ちは……もう懲り懲りだ。


「ねえ、ニコラス様」


私の言葉に、彼は目を見開いて私の方を見つめた。


「もう、こういうことをするのはやめてほしいの」


私がそう言うと、彼は何とも言えない顔をする。

そして最後に顔をゆがめた後、その瞳からは光が消えた。


「……」


彼は何も答えず、門の外に向かって走り出した。

そして、私はあっという間に彼の馬車まで連れていかれてしまう。


「待ってください! ニコラス様!!」


後ろで固まっていたメイドが、ニックに呼びかける。

彼は一瞬動きを止めたものの、すぐに馬車の中へ入る。


「……俺はこういうことしかできないんだ」


そのまま私を馬車に放り込み、彼はドアを閉じた。


◇◇◇


私を乗せた馬車は、30分ほど走った後に、とあるそこそこの広さの屋敷の前に止まる。

まだ隣国からは出ていないようだけれど、少し郊外にある家のようだ。


ドアが開き、彼は私に手を差し出す。

でも、なんだか彼の様子が怖かった私は、その手を握れずにいた。


「……」


私が無言で手を見つめていると、彼は強引に私の手首を引っ張って下車させる。

そして屋敷の中に連れて行こうとするので、私は出来る限りの力で抵抗した。


ここに入ったら、何かまずいことが起こる気がする。

私の直感がそう言っていた。


ただ私のそんな様子を見た彼は、片手でポケットから小瓶を取り出すと、自身の口に含む。

そしてそれを……私に口移しした。


「……ふっ、う、うう」


「……」


それは今までに飲んだことのない味がして、そのまま私は地面にへたり込む。

全身の力が入らない……


「ごめん、体に害はないから……それに、イェレナだって悪いんだ……」


彼は弱々しくそう言って、抵抗できない私をそっと抱きかかえた。

連れていかれる先はやはり屋敷の中。


玄関を抜け廊下を突き当たりまで進んだ後、とある部屋の中に連れ込まれる。


「……ここは?」


「俺の家の別荘だ」


そう言いながら、彼は私をベッドの上へおろした。

私の様子を一瞬伺ったあと、彼はドアの方へ向かいそのカギを閉める。


体の感覚がだんだんと戻ってきて、手足も動くようになったものの、ドアの前に彼がいては逃げ出すことは出来ない。


……どうしてこんなことをするのだろう?


私には行動の意味が分からず、状況の整理も追い付かず、ただ茫然と彼の方を見ていた。

面白いと感じて頂けたら、いいね・ブックマーク・評価等よろしくお願いします!

今日はもう一話更新+完結予定です!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ