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10/12

10,人影

隣国へ留学してから、そろそろ1ヶ月が経とうとしている。

最初の1週間は、泊まらせてもらっている親戚の家の周りを散策していたが、それからは学校に通っていた。


慣れない文化の中でも、何人か友達は出来た。

……勿論異性の友達も。


でも、暫くすると彼らは皆、私を避けるようになってしまうのだ。

留学する前から思っていたのだけれど、もしかして私には何か重大な欠点があるのだろうか?


そんなことを考える時もあるが、基本的には穏やかで楽しい生活を送っている。


今日は学校は休みなので、マリーに手紙でも書こうかと机の引き出しから便箋を取り出した。


「ニックへ毎月手紙を送っていたのを思い出すわね」


異性の友達が私を避けるのに加えて、もう1つ重要な問題がある。

結局どんな人と出会っても、ニックと比べてしまうことだ。


そして比べた後には、やっぱりニックの方がいいな、なんて思ってしまうのだ。


「まぁまだこの国に来てから一か月しか経っていないし……長年の想いを忘れるには、まだ時間が足りないのかもしれないわ」


私がそんな独り言をつぶやいていると、ドアが軽くノックされる。


「イェレナちゃん、いるかしら?」


奥さんがわざわざ私の部屋まで来たようだ。

私は手紙を書くために握っていたペンを机に置き、急いでドアを開けに向かう。


「どうしたんですか?」


私はおなかの大きい彼女をソファーに座らせ、要件を聞く。


「気遣ってくれてありがとうね。私が直接話に来る必要はなかったのだけれど……なんとなくイェレナちゃんに会いたかったから来ちゃったわ」


ふふふ、と笑う奥さんはとても可愛らしい。

私も見習おう、なんて思いつつ、話の続きを促した。


「そう言ってもらえてうれしいです。それで……?」


「そうそう、とても急な話なのだけれど……今日の夜舞踏会に出席するつもりはないかしら?」


「舞踏会……ですか!?」


「そうなのよ、お昼前にいらっしゃったお客様が、せっかくならイェレナちゃんも舞踏会に参加したらどうかと話していて……」


その舞踏会はゆるく広く様々な人とつながりを持つための会となっていて、そのお客様は私が留学しに来ていることを奥さんから聞いて、私のことを誘ってくれたそうだ。


もっとも緩い会なので、招待状などの必要もなく、ある程度の身分さえ名乗れば入場できるらしい。


「もちろん、そのお客様は舞踏会に招待したわけではなくて、その舞踏会の存在を教えてくれただけだから、イェレナちゃんの気が乗らないなら全く行かなくていいのだけれど……良いチャンスなんじゃないかしら? って思って」


私は一応、奥さんと旦那さんに留学の目的を伝えていた。

勿論一つは新しい世界を学ぶため。

そしてもう一つは……将来の相手を見つけるため。


それを知っている奥さんは、私に出会いの場を進めてくれているわけだ。


「……ぜひ行きたいです!」


「えぇ、いい機会になると思うわ……今夜だから、今すぐ準備しないといけないわね」


「急いで準備します! あの、いつものメイドに、準備を手伝ってほしいと声をかけておいてくれませんか?」


「勿論、彼女一人では間に合わないかもしれないから、他の子にも協力してほしいと伝えてくるわ」


「ありがとうございます!」


奥さんがここまで私のことを気にかけてくれているんだ。

今夜のチャンスをちゃんとものにしなければ!


こうして気合の入った私は、急いで支度を始めたのだった。


◇◇◇


「よし、今日こそ良い人を見つけるわよ!」


みんなのおかげで何とか支度が間に合った私は、最終チェックをしながら自分に喝を入れる。


「髪のリボン良し、アクセサリーも良し、服も靴も良し!」


我ながらかなり可愛くなれたのではないかと思う。

手伝ってくれたみんなに感謝だ。


「こんなに可愛くしてくれてありがとうね。まだ時間はあるし……そうだ! お誘いを受けた時の予行練習でもしておきましょうか。男性役をやってくれるかしら?」


そばに控えていたいつものメイドにそう聞くと、彼女は少し困った顔をする。


「えっと、そろそろ出発なさった方がよろしいのでは?」


「でもまだ30分は余裕があるわよ? ……あ、もしかして男性役は嫌だったかしら、ごめんなさい配慮が出来なくて」


遠回しに断られたのかと思って謝ってみたが、


「いえいえ、男性役が嫌という訳では無いんです。こちらこそすみません」


と、こちらが謎に謝罪を受けてしまった。


「とにかく、余裕を持って出発することも大切だと思います。もう行きましょう」


いつになく自分の意見を押し通すところを見れば、何か理由があるのだろう。

ここで練習をしようと、早く行こうと、私はさほど気にしないので、とりあえず彼女の意見に従うことにした。


「分かったわ、確かに遅刻したら、出遅れてしまうものね」


私の答えに安堵したような顔をしたメイドは、さぁさぁと私の手を引っ張り玄関まで歩く。


幸い馬車の準備はもう出来ているようで、玄関を出て、庭から見える屋敷の入口には、もう既に馬車が止まっている。


「行きましょう」


しかし、メイドに連れられて庭を半分ほど横切った時、1台の黒い馬車が、私が乗る予定の馬車の前に止まった。

こんな時間から、旦那さんか奥さんにお客様だろうか?


「……」


何故かメイドは立ち止まってしまう。

私はよく分からなかったが、彼女の手を引っ張りそのまま自分用の馬車の元へと急いだ。


お客様は馬車からおり、じっとこちらを見ているようだ。

私がさっさと乗り込まないと、お客様に迷惑をかけてしまう。

そう思った私は、更に門に向かって急いで歩く。


しかし門に着く直前で、私も立ち止まった。


何故なら……



お客様だと思った人影は、いるはずのない人だったからだ。

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