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1, 想い続けて数年

新連載よろしくお願いいたします〜!

それは言葉通り、雷に打たれたような一目惚れ。

当時8歳だった私でも分かった。

これこそ、恋に落ちるということなのだ……と。


それはお父様に連れられて参加した、とあるガーデンパーティーでの事だった。

年齢の近い子供で集まって、仲良くなろうという趣旨のお茶会。

とはいえ、私を含め、集められた子供たちは皆幼い。

会場のあちこちでトラブルが発生し、使用人達はてんやわんやしていた。


私は一旦会場を回ったあと、テーブルに置かれているドーナツに手を伸ばす。

人手が足りていないせいか、お皿にはもうドーナツは1つしか残っておらず、私は慌てて掴み取った。


身分の高い貴族の子もいるガーデンパーティーで出されているドーナツだ。

とても美味しいに違いない!

そう思って口を開けた瞬間、後ろで女の子の叫ぶ声が聞こえてきた。


「わたしのどーなつ、かえして!!」


「あぁ? このパーティーでは俺が一番身分が上なんだぞ! 一番偉いんだ、いいからよこせよ」


私より2、3個年上の男の子が、私より年下の女の子の手から、ドーナツをひったくろうとしている。

女の子は必死に抵抗していたが、体格差も大きく、あっという間にドーナツを取られてしまった。


止めに入ろうか?

でも、相手は男の子。

それに身分も高いらしい。

直接割って入ったら、今度は私が標的になるかも?


そんなことを考えてしり込みをしていたら、男の子はさっさと庭の奥の方に消えて行ってしまった。


残されたのはしゃくりを上げながら泣く女の子ただ1人。

周りの子達も遠巻きに彼女を見ている。


しり込みなんてせずに、女の子の所へ行けばよかった。

どっと後悔が押し寄せてきた私は、そっと女の子の方へ近づく。


「私のドーナツ、いる?」


「えっ……」


泣いていた女の子は驚いたような顔で私の方を見る。


「でもそれは、おねえちゃんのどーなつでしょう?」


「いいのよ、別にそこまで食べたかったわけじゃないから。きっとこのドーナツもあなたに食べてもらえた方が幸せだと思うの」


「……いいの? おねえちゃんありがとう!」


女の子は嬉しそうに私からドーナツを受け取ると、その場で一口食べる。


「おいしい!」


「良かった! もう取られちゃだめよ」


「はーい!」


すっかり元気になった女の子を置いて、私はパーティー会場のはずれの方のベンチへ向かった。


私もドーナツを味見してみたかったな


なんて実は思っているのが、周りの子達にバレたらかっこ悪いから。

ベンチに座って、あとは誰に話しかけに行こうかな……ドーナツはどこかのタイミングで補充されるのかな……なんて、ぼんやり考え事をしていると、右手の茂みからガサゴソと音が聞こえてきた。


「だ、誰ですか?」


さっきの男の子みたいな乱暴な人ではありませんように!

そう願いながら顔をそちらへ向けると……


とてもかっこいい人がいた。


その人はドーナツを片手に持ち、頭に葉っぱを付けていたが、それでもなおかっこいい。

こんなにかっこいい人、生まれて初めて見たかもしれない……


私の頭の中は彼のことでいっぱいになってしまい、心臓はドクドクと音を立てて脈打つ。


……あぁ、私、一目惚れをしてしまったんだわ!


「ごめん、俺、驚かせるつもりはなかったんだ」


固まっている私を見て、彼は私が驚いてしまっていると思ったのか頭を下げる。


「い、いや、そんなことないです! 大丈夫です!」


パニックでかなり大きな声で答えてしまい、私はハッと口を抑える。

それを見た彼は面白そうに笑っていた。


「やっぱり驚かせてしまったな。俺はただ、一緒にドーナツを食べないか誘いに来たのだけれど……」


そう言いながら、彼は手元のドーナツを半分にちぎる。

その指も綺麗で……いや、指だけではない。

彼の何から何まで全てかっこよく見える。


「どうぞ」


そしてそのちぎられた半分のドーナツは私に差し出された。

きっと、さっき私が女の子にドーナツを渡したのを見ていたのだろう。


「で、でも申し訳ないです。そのドーナツ、もう今ある分で最後かもしれないのに……」


「君はその最後のドーナツをあの子にあげたわけだ。それなら、俺が君に半分渡してもいいだろう?」


「いいんですか?」


「二人で食べた方がおいしいからね」


ニコッと笑う彼に、私の心臓はますます激しく高鳴る。

私のことを気にかけて、ここまで来てくれたのだろう。

顔だけにとどまらず、性格までイケメンだなんて!


「ありがとうございます!」


私は震える手でドーナツを受け取った。

そして彼は私の隣に腰かけると、ドーナツを一口頬張る。


「おいしいな」


私も一口ドーナツを食べてみたが、緊張しているせいか、あまり味がわからなかった。


「ところで、君の名前はなんて言うの?」


「わ、私はイェレナ・ラングドンと言います」


「俺はニコラス・セルデン。敬語も要らないし、ニックと呼んでくれて構わない」


セルデン……と言えば、有名な侯爵家だ。

でも、彼もニコニコしているし……きっと大丈夫だろう。


「じゃあよろしくね、ニック!」


「あぁ」


私達はそこからお互いについて色々な話をした。

ここでもやはり、何を話したかよく覚えていないくらい緊張していたけれど、ただ彼との時間が楽しかったことは覚えている。


……そう、楽しかったはずなのだ。


「じゃあ、そろそろ私戻ろうかしら」


「確かに、少し話しすぎたな」


「こんなにイケメンな人と話せてうれしかったわ、また会いましょう!」


「……あぁ」


そのまま彼はすっと立ち上がり、スタスタと会場の方へ戻って行ってしまう。

さっきまで楽しく話していたはずなのに……なんだか突然彼は冷たくなったような気がした。


……でもでも! それは私の思い違いかもしれない!

そんな薄い希望を持って、早八年。


今日も私は舞踏会で彼のもとを目指す。


「こんにちはニック」


「また来たのか」


初めて出会った時のような彼が見れることを願って。

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