第1話 抜け駆け発覚
久々の走馬灯。みんなとの思い出が浮かんでくる。
最近見てなかったけど、今回は生きて戻れるだろうか。
それにしてもこの光景、すでに懐かしな......。
まだたった1ヶ月前......だったか?
*****
「デキました」
「「「何が?」」」
「だから、ほらっ」
「「「っっっっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?」」」
玲有さんが珍しくみんなを呼び出すから何事かと思ったら。
彼女が手に持ってる白とピンクの短い棒状のモノを見せられてすぐわかった。
『終了』と『判定』の2箇所ともに線が浮き出ている。
これはすなわち。
「新型ウイルスに罹ったんですか? 外に出ちゃダメじゃないか。みんなに移しちゃいけないから家に帰りましょう」
「違うわよっ」 「「「違うでしょ!?!?!?!?」」」
はぁ、わかってるよ。混乱した場を収める小粋なジョークじゃないか。
ジョークってる場合じゃないか?
この検査キット。実物は初めて見たけど。
「オメデタ、ってこと?」
「そうなのよ! ちーくんと私の赤ちゃん、デキたわ!」
んー、ちゃんと避妊してたはずなんだけど。
まぁ、100%回避できるってわけでもないんだし、こういうこともあるか。
「そっかぁ。そんじゃあ名前考えなきゃn............『ふっっっっっざけんなよ!!!!!!!』............衣莉守?」
「このっ......こんの泥棒猫! ボクの......ボクだけの知火牙の子どもを妊娠したなんて......。よくもそんな戯言をほざけたもんだな! 知火牙の赤ちゃんを最初に産むのはボクだ! ボクだけが知火牙の赤ちゃん産むんだ! 知火牙のことなんにも知らないお前が産むなんて......ボクは絶対、絶対許さないからな! その節操なしの子宮、ボッコボコにして堕ろさせてやる! そんで2度と孕めなくしてやる!!!!」
おぉおぉ、衣莉守は相変わらず元気が良くて過激だなぁ。可愛いけど。
でも『ボクだけの知火牙』っていうのはいただけないな。
「まぁまぁ、衣莉守ちゃん、一旦落ち着いて話を聞こ〜よぉ〜。ね? あと、チカは衣莉守ちゃんのじゃなくて藍朱のだからね? そこのところ間違えちゃだめだよ? ぶちころすよ?」
「..................は? イカれ女の藍朱はやっぱり言うことがイカれてるね。藍朱みたいなヤバいやつに諭されるとか屈辱なんだけど?」
うわー、俺の前でここまで攻撃的になんのも久しぶりだな。
藍朱も、仲裁するふりして煽りに行くなよなー。
つーか、やっぱり裏ではケンカし続けてたか。
俺からすれば藍朱も衣莉守もどっちもどっちだけど。
「ヤバヤバのメンヘラストーカー女の衣莉守ちゃんなんかに何を言われても、なぁんにも感じないよ〜。それよりも今問題なのは......このどろぼ......鎚先輩の戯言の続きを聞いてあげることなんじゃな〜い?」
「......確かにそうだね。ボクの知火牙の子どもを孕んだとか、意味不明なこと言ってるんだもん。しかも想像妊娠女のときと違って検査キットまで出してきたし......。理解不能な妄想女の虚言を聞いてあげようじゃないか」
この子らはいつもいつも、仲がいいのか悪いのか。いや悪いんだろうけど。俺のせいなんだろうけども。ま、一旦落ち着いたってことなら、ひとまずいいか。
「ふっ。負け犬幼馴染ちゃんたちは好きなように言ってたらいいよ。私がちーくんの子どもを身籠ったのは紛れもない事実だし。現実逃避は好きなだけしたらいいと思うよ。現実は辛いもんね? ただ単に出会ってからの時間だけ長くて、ちーくんのハジメテはなーんにも貰えてない可哀想な幼馴染ちゃんたち♡ でも、この子を堕ろさせるっていうのは聞き捨てならない。私は絶対この子を守るし、絶対に健康な子に産むから。これでちーくんのお嫁さんは私、だね♡」
玲有さんも。わざわざこの子たちを煽らないでほしいな。
「泥棒猫......じゃなかった。鎚先輩はそれ以上滅多なことを口にしないほうがいいんじゃないですかね〜? 前々からクールぶってるくせに中身は超絶ヤバい人だと思ってましたけどぉ、想像妊娠とか、いよいよ限界突破してるっていうか〜。今どきイカれメンヘラなんて流行りませんよぉ?」
藍朱......君はあんまり人のこと言えないでしょ?
あと、俺はみんなのメンヘラっぽいとこも、好きだよ?
「いや藍朱......。想像妊娠に関してだけは人のこと言えないでしょ......。ってかあんたも十分メンヘラだから」
「は? なに? メンヘラは衣莉守ちゃんでしょ。藍朱は違うもん。ストーカーの分際で藍朱に文句でもあるの?」
「いーや? 文句なんてないよ? ただ、やっぱり想像妊娠の先輩は怖いねぇ〜って思っただけ。ま、どうでもいいけどね。ねぇ知火牙。こんなヤバい奴らほっといて、ボクと大人のデートしに行こーよ!」
「「「何勝手なこと言ってんの!!!」」」
はぁ、みんなちょっとうるさすぎるなぁ。
玲有さんの話の途中なのに全然進まないじゃないか。
そろそろ一回口挟むか。
「みんな一旦黙って......『あんたたちちょっと静かにしなさい!』」
おっ、さすがは唯桜さん。
見た目はパリピなギャルでも最年長なだけあって今すべきことがわかってるわけだ。
「藍朱ちゃんも衣莉守ちゃんも、それにもちろん玲有ちゃんも。そのうるさくて臭い口を一回閉じようよ。空気が汚れるよ」
「「「は? 誰にでも股を開くビッチは黙っててくれます!?」」」
んー、わざわざ余計な煽り文句つけなくてよかったと思うんだけどなぁ。やっぱ見た目通り、ちょっとおバカなんだよなぁ。
まぁ、そういうとこも可愛いけど。
ってか、唯桜さんは誰にでも股を開くビッチじゃないよ。万が一にでも俺以外に靡いたりしたらそんときは......。
「はぁ!? 誰が『誰にでも股を開くビッチ』ですって!? あたしの股は知火牙くんにしか開いたことないから!」
「でも、唇のハジメテは別の男にあげちゃったんでしょ? 初彼氏も別の男だし。やーい、クソビッチ〜。ボクは全部のハジメテを知火牙にあげたよ〜?」
「......っ」
衣莉守......。その話は俺も嫉妬しちまうから出さないでくれよ。
まぁそれも含めて今はどうでもいい。今はそろそろ本題を進めよう。
「みんなうるさいよ。ちょっと静かにして。今日は玲有さんの話を聞く日でしょ」
「ち、知火牙! でもっ!」
「衣莉守。俺、ちょっとうるさいって、言ったよね?」
「うっ......。わかったよ」
うん、ようやくみんな黙ってくれたね。偉いよ、みんな。
「それで、玲有さん。妊娠したってのは本当なんですか?」
「うんっ、本当だよっ♪」
「ほんとに俺の子ですか?」
「むーっ。疑うなんてサイテーだよ! 絶対そうだから! ちーくん以外の人と寝たことなんてないもんっ!」
「俺、いつもちゃんとゴムつけてたと思うんだけど? それにピルも飲んでもらってたよね?」
「あー......それはねー............」
何か隠してるのは確実なんだよなぁ。だいたい察しはつくけど。
「やっぱり俺の子じゃない?」
「ち、違う! 間違いなくちーくんの子だよ! その......怒らない?」
ないと思うけど、もし浮気とかなら......。
「内容によるかなぁ」
「うっ......。その......危ない日のゴムにはいつも穴を開けてました......。それで、破けてるのがちーくんにバレないようにするために、ゴムの中のやつを飲んで誤魔化してました。それともらった避妊薬は適当なサプリとすり替えて飲んだふりしてました......。あとたまにちーくんに睡眠薬盛って、寝てる間に......生で襲ってました............」
ほっ。よかった、それだけか。