表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/62

第0話 プロローグ

「は......ははは、俺の腹に穴開けるなんて、やるね......ぐっ......」


「悪いのはあなただよ。わかってるでしょ。それに、これでわかったよね? 自分が誰のお婿さんになるべきなのか。こんなにも愛してるんだよ? 受け入れるしかないよね? ううん、返事はしなくて大丈夫。二度と逆らえないようにしてカワイがってあげるから! 他のお便女ちゃんたちには、わけてあげないも〜ん♡ ね? 一緒に幸せな家族になろ?」


 脇腹に突き刺さってるのは、よく研がれた切れ味最高の出刃包丁。

 その周りには血が滲んでる。幸いなことに内臓に到達する前に筋肉で止められたから体内へのダメージはほとんどないっぽい。


 それでも、こんだけ刺さってたらさすがに痛い。ズキズキとした鈍い痛みがして額に脂汗がにじむ。


 極限まで鍛え上げた俺の身体から血を出させられるなんて、最近ではすっかりなかった。いっそ懐かしさまで覚える。

 ここまで俺にダメージ与えるくらいの包丁を調達するのも、そもそも俺を油断させて包丁を刺すなんてのも、よっぽど頑張って計画したんだろうね。並大抵の執着心じゃなかったんだろう。可愛いじゃないか。


 それに確かに、目の前で披露されている彼女の妖しい笑顔は、激しく俺の情欲を誘うくらいにはキレイだ。


 けど、結婚相手の条件に、包丁でぶっ刺してくるってのを挙げたつもりはない。手に持ったトンカチも、使ってほしくはないね。


「もしかして、俺のこと包丁でぶっ刺すのが『一番配偶者に相応しい子』の条件だとか思っちゃった? 俺、殴られるのも刺されるのも、別に趣味じゃないんだけど?」


「......こんな状態でもまだナマイキなこと言えるんだ。違うよ、愛情を伝えたいだけ。やっぱり愛は自分で掴み取りにいかないとねっ。もちろん、包丁を刺した程度で無力化できるなんて思ってないからね。このトンカチはダメ押しだよ。しばらく眠っててね」



 うん、確かに。欲しいものは自分でつかみ取りに行く姿勢。素晴らしい意識だね。

 でもこんなおイタをしちゃうなんて、だめじゃないか。ここは漢としてちゃんとお仕置きしてわからせてあげないといけないかな。


「ぐっ、痛! ..................だ......か............っ!?」



 トンカチ振りかぶって思いっきり頭殴られた......。グワングワンする。


 ............?

 それよりも......声が上手く出せない!?


 それに意識が朦朧としてきた......?

 出血も痛みも、そこまで大したものじゃないのに......?


「あっは! ようやく効いてきたかな?」


「......包丁、に......毒でも、仕込んで......た?」



 この感覚にも懐かしさがある。神経毒の一種、かな?


 昔、修行の一環で少量ずつ摂取して訓練したときの感覚に似てる気がする。


「お〜。さすがだねっ。そうだよ、包丁にたっぷり塗っておいたの! 大丈夫、死んだりはしないから! おつむはくるくるぱーになっちゃうかもしれないし、手足くらいは、壊死しちゃうかもしれないけどねっ♡ でも、もういいよね? もう自由なんていらないもんね? 五体満足じゃなくっても、いいよね?」


「ほ、ほん、と......やる、ね......」



 まぁ、俺の身体なら、これくらいの毒で脳が破壊されたり五体不満足になることはないだろうけど、数時間は起きられないだろうな......。


「ゆっくり眠ってていいよ、ち・か・げ・ちゃん?」



 ......は? 知火牙(ちかげ)『ちゃん』......だって?

 そんな女みたいな呼び方......それだけは辞めてくれって、言わなかったか!?


「お......れを、『ちゃん』付けで......呼ぶ......な!」


「ううん、いやだ。これまでたっくさん意地悪されたお返しだよっ。それに、今のあなたはとっても可愛いよ。力もよわよわでまるで女の子みたい♪ ね、知火牙ちゃ〜ん?」


 まだ言うかっ!


 でも、くそっ......。不覚......一本取られた......。

 あぁ......だめだ。もう意識を保っていられない......。

 この毒、なかなか強烈だな。


「今までの間違いに気づいたんだ。他の女とダーリンをわけわけするなんて、そんなのじゃ満足できるわけなかったんだよ。愛は独占してこそ、だよねっ。ふふふ、自分だけじゃ生きていけない、なーんにもできない身体になっても。知火牙ちゃんのことは、赤ちゃんみたいにちゃーんとお世話してあげるからね〜?♡」



 ..................。お仕置き、確定だな。


 けどそれよりも今は......。あ〜、これ、走馬灯くるやつだわ。

 走馬灯なんて、もう何年も見てないから、これも何か懐かしい、な。


 なんかちょっと前の記憶が一気に頭の中を駆け巡ってくる。

 けど彼女の声だけ、いやにはっきり聞こえるな。












「ダーリンは他の誰にも渡さない。もう二度と離れない。二度と他の便女どもとは交尾させない。他の女にお世話させたりしない。他の女を視界に入れさせない。他の女の匂いも嗅がせない。他の女に優しくさせない。他の女のことを考えさせたりしない。これからはずっとずっと、2人っきり、だよ。これからはダーリンの優しさは全部ぜ〜んぶ、お嫁さんだけに注いでね? 浮気しちゃ、ヤだよ? 愛してるよ、旦那様♡」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ