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身体をゆすられる感覚に亜紀がハッと我にかえると、いつの間にか一番線のホームのベンチに座っていた。周囲を見れば、兄の友則の姿があった。
「帰りが遅いから心配したぞ」
辺りはほんの少しだけ明るさを増していた。時計を見ると、もうすぐ四時になろうとしていた。
「さっさと帰るぞ。駅員に見つかると大目玉だ」
友則は亜紀を引きずるように手を引いた。
亜紀は混乱する中、友則に尋ねる。
「ねえ、兄さん。アゲハちゃん見なかった?」
亜紀の言葉に友則は立ち止まる。
ゆっくりと振り返った友則の顔は……。
まるでハトが豆鉄砲を食らったかのようなものだった。
「アゲハちゃんって誰だ?」
「ほら。一緒に来た同級生の女の子だよ」
混乱しながら亜紀がそういうと、「一緒に来たって?」と本当に分からないとでも言うように怪訝な顔をする。
「この子だよ!」とでも言うように、スマホの写真を探そうとする。
けれども、探しても探してもアゲハの写真は見当たらなかった。
「あれ? あれ?」
亜紀は困惑顔を浮かべた。
「いいから帰るぞ」
友則はしびれを切らし、そのまま亜紀を連れて車へと向かう。
亜紀の混乱はとけず、一生懸命アゲハの写真を入念に探していた。それでも見つけることはできなかった。
家に辿り着くと、亜紀は真っ先にアゲハの痕跡を探そうとした。写真、プレゼント、クラス名簿。
けれども、そのどれも消失していた。クラス名簿に書かれていたはずの『如月アゲハ』という名前はどこにもなかった。
スマホを取り出し、電話帳を開く。そこには『如月アゲハ』という名前とそのアドレスが書かれてあった。
亜紀は安堵し、すぐさまメールを送る。
『アゲハちゃん、今どこ?』
すぐさま着信音が鳴った。急いでメールを見ると……。
『エラー:このアドレスは間違っています』
亜紀の世界は真っ暗になった。