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「うそ」
亜紀とアゲハはほぼ同時に言葉を漏らす。あまりにも信じられず、驚くことも喜ぶことも恐怖で悲鳴を上げることもできなかった。
二人は肆番線へとつながる階段を見下ろしながら棒立ちしていた。
ありえない。こんなありえないことがあるのか?
理解が追い付かず、自問自答ばかりする二人。
暫く固まっているところで、アゲハが口を開いた。
「降りよっか」
亜紀は自然と頷いた。不安ではあったけれども、心のどこかで恐怖よりも好奇心の方が勝ってしまったようだった。
カツン、カツンと二人分の足音を階段に響かせながらゆっくりと降りていく。
長い長い階段を二人一緒に降りていく。
一番下までたどり着くと、あるはずのないホームに、屋根のないホームが存在していた。
左手には漢数字で「肆」と書かれてある駅名標がつけられてあった。
『← 如月 | 蓮 →』
如月駅も蓮駅も聞いたことがない。存在しないはずの駅名が記されている奇妙な駅名標を見て、二人はどこか興奮を覚え、自然とスマホのカメラを起動させる。
カシャリ。カシャリ。
肆番線のホームを示す証拠を手に入れたのだ。アゲハはこれを宗一に見せつけることができることにどこか優越感に浸っていた。
満足し、お互いに帰ろうかと言おうとしたところで、昼間であれば聞きなれた音が聞こえてくる。
ガタンガタンッガタンガタンッガタンガタンッガタンガタンッ、ガタンガタンッガタンガタンッガタンガタンッガタンガタンッ、ガタンガタンッガタンガタンッ、ガタンガタンッガタンガタンッ、ガタンガタンッ、ガタンガタンッ、ガタンガタンッ、ガタンガタンッ、ガタンッ、ガタンッ、ガタンッ……、ガタンッ……、ガタンッ……………………、プシューッ。
肆番線に二両編成の列車が入ってきた。そして多少の明りが灯された薄暗い車両の扉が開いたのだ。