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二船駅の肆番線  作者: 仁羽 孝彦
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4

 アゲハが消えた。そのショックに宗一は茫然としていた。


 由美の娘で、短い髪をツインテールで束ね、人懐っこく、オカルトが好きで、剣道が得意な一つ年下の少女。


 十年近く共に過ごしてきた家族の一人が家族から忘れ去られ、世界からも忘れ去られていることを受け入れられず、両親の言葉に上の空でいた。


「大丈夫? 調子悪いの?」


 心配する由美の言葉に、宗一はなんら反応を出すことができない。心配そうにおろおろする由美がまるで宥めるように宗一に懸命に声をかけていた。


 ピンポーン。


 インターホンが鳴り、雅臣と由美が顔を合わせる。


「見てくるよ」


 雅臣は玄関先へと向かった。


 玄関先で何か話しているようだが、宗一の耳にまでは入ってこない。


 いまだに呆然とする宗一の姿に由美は心配することしかできなかった。


「おい、宗一。後輩の湯川亜紀さんがおまえに用があるって言ってるぞ?」


 湯川亜紀。その名前に聞き覚えがあった。


 昨日、アゲハと一緒に二船駅に向かった友達のはずだ。


 宗一は立ち上がり、玄関先へと向かう。


 玄関に行くと、よくアゲハの隣で一緒に居るのを見かける背の低い少女、亜紀の姿があった。


「え、えっと……」


 亜紀はどこか言いづらそうにしている。「君は……」と言葉を漏らしたところで、「アゲハちゃんのお兄さんですよね?」と恐る恐るという感じで尋ねてきた。


「君は、アゲハのこと、憶えてるのか!?」


 思わず大きな声を出してしまう宗一。その大きな声に気づいた雅臣が「どうした? 大丈夫か?」と尋ねてくる。


「もし、長話になりそうだったら、部屋に上げたらどうだ? おまえの知り合いだろ?」


 正しくは、アゲハの知り合いだ。けれどもアゲハを忘れてしまった雅臣にそんなことを言っても仕方がない。


 宗一はアゲハを覚えている亜紀を部屋に上げることにした。彼の客人を部屋へと連れた後、由美がオレンジジュースをもって、宗一の部屋へと訪れた。由美は突然の来客に嫌な顔一つせず、笑顔でもてなし、そのまま宗一の部屋から去った。


 宗一は亜紀を勉強机の椅子に座らせ、自分はベッドの上に腰かける。(とし)の近い女の子と部屋で二人きりになっているけれども、アゲハのことで心に余裕がない宗一は、そのことに気にする素振(そぶり)を見せなかった。


「あの」と最初に亜紀が口を開く。


「アゲハちゃんのこと、お父さんとお母さんは覚えてますか?」


 その言葉にズキッと心が痛む。宗一はゆっくりと首を振った。すると亜紀は「ごめんなさい」と大きな声で謝った。突然の大きな声に宗一は目を白黒させる。


 戸惑いを隠せずにいると、亜紀は昨日のことを語り始めた。

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