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大迷宮と迷わない仔羊  作者: 遊崎さんちの。
第一章 幽玄の幕開け
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第十六話 ラノベを表紙だけで選ばないこと

 

 迷宮都市、その南北を縦断する『ダライアス商店街』は今日も騒がしい。春の心地よい陽気と、出店から聞こえる快活な客寄せの声。行き交う人々は人種国籍様々で、各国から選りすぐりの迷宮挑戦者達が集まってくる。


 そんな雑踏の中に、一際優れた魔力を持つものが二人。決して周りのレベルが低いわけではない、むしろ激戦区といってもいいだろう。ただそれだけ、彼らの戦闘能力は別格であった。


「なぁイサミツ。今視界に入る人間で、俺より強い奴はいるか?」

「……一人か二人ってところか。無論、お前がハナから遊ばずにやるのなら話は変わるが」


 イサミツ、と呼ばれた男は随分とくたびれた和服を身につけていた。その陰鬱な表情は騒がしい商店街に似合わず、喧騒に目をひそめている。


「ははっ、流石迷宮都市だ。手練がゴロゴロといやがる……今すぐにでもやりてぇ気分だ」

「……ボルドール、“俺達”の掟を忘れたのか。『持たざる者からは奪わない』、無闇に殺ってはいけない」


 残忍な笑みを浮かべる筋骨隆々の大男、ボルドール。だがしかし、彼はイサミツの言葉をすんなり受け入れる。


「わかってるさ。ここに来たのも、“あいつ”を呼び出すためだろ?」

「……あぁ、相変わらず連絡のとれねぇ奴だ。わざわざここまで来るのも面倒だったが、この中から探すのはもっと面倒だな……それもこいつのせいか」


 イサミツはそう言うと、彼が先程受け取ったチラシに目をやった。そこには『幻獣祭』の文字、どうやらこの催しのおかげで多くの人間が集まっているようだった。


「イサミツ、そう暗い顔をするな。折角来たんだ、その『幻獣祭』とやらも見物して行こうぜ」


 ボルドールがイサミツの肩を豪快に叩く。イサミツは鬱陶しそうに手で払いのけるも、直ぐに不敵な笑みを浮かべてこう言った。


「どうせこれから更に大きな『祭り』が始まる……焦らず気長に待ってやるとするか」

「あぁそうだ、実に何年ぶりだろうなぁ……」


 そう言うと、ボルドールは青く晴れ渡った空へ向けて感慨深く呟いてみせる。


「――『幽玄一味』が全員揃うのは」


 その声は騒がしい喧騒にすぐにかき消されてしまった。それでもただならぬ雰囲気を放つ男二人は、探し人を求めてひたすら商店街を歩き進んで行く。


 そして彼らは雑踏の中へと消えていった。









「――『幻獣祭』? 初めて聞いたなこんな祭、流行ってるのか?」


 ここは『海猫亭』の地下、俺の居候先だ。綺麗に整頓とされた部屋には地下室特有の閉塞感は感じず、むしろ隅々に置かれた観葉植物が癒しを与えてくれる。


 居候させてもらっている立場にも関わらず、ついついそれを忘れてしまうほどの居心地の良さだ。俺は居間のソファの上で横になり、休日を謳歌しきっている。今読んでいたチラシはエリーが外で貰ってきたものだ。


「……マヤさん、それは何百年前から流行ってる伝統的な祭りだよ。そんな一過性のブームじゃないよ……」

「へぇ、そんな歴史のある催しなのか。まぁどちらにせよ俺には縁のないことだ」


 俺苦手なんだよな……そういう人混みとか、人集りとか、人とか。


「マヤさんがそう言うとは思ったけどさ、折角の休日なんだし行ってくればいいのに」

「折角の休日だからこそ行かないんだよ、最近の若者と来たら休日に遊びすぎだ。そんなに遊んだらダメ人間になるぞ」


 俺はそう言って大きな欠伸をし、ソファーで寝やすい体制に寝転がる。「どっちがダメ人間なんだか……」という声が聞こえたが、気にしない。平日なら反応したが、今日は休日なので気にしないのだ。


 読み終わったチラシを机に置き、ぐぐぐっと身体を伸ばす。やはり休日の朝は最高だな、地獄の朝稽古もスパルタ女教官もここにはいない。ただひたすらに、自由が広がっているのみだ。


 そうして優雅に過ごしていると、ドア前のベルが鳴らされるのが聞こえた。客人だろうか、珍しいな。俺は過ごしの気だるさを覚えながらソファから上体を起こすも、エリーが先に玄関へ行ってしまったのを見る。


 彼女の友人が訪ねてきたのだろうか、それならば俺はすぐに押し入れにでも隠れなければならないのだが。今の俺は髪の毛ボサボサ、こんな体たらくではエリーの評判まで悪くしてしまう。

 すると玄関の方から話し声が聞こえてきた。


「エリーさんお久しぶり、すみません急に押しかけてしまって」

「いえいえー。むしろありがたいですよ! マヤさんですよね、早いとこ連れてっちゃって下さいな!」

「私も、お邪魔します」


 ……不穏な会話だ。それに、客人はどうやら二人いるらしい。居間へとやってくる足音が聞こえると、俺はソファーに寝転がりながら首だけをそちらに向けた。

 するとそこにいたのは俺の目も覚めるような美少女、リタ。そしてその後から可愛らしく顔をのぞかせるマイロだ。

 リタは居間で(くつろ)いる俺を見ると、眉一つ動かさずに言い放った


「あら、面白い観葉植物ね。でもエリーさん、これはもう枯れてるわ」

「……せめて人間として認めてくれ」


 開口一番、存在を否定された気がする。しかし植物として生きるのもありかもしれないな。ナンバーワンにならなくたって、オンリーワンであればいいのだ。


「あ、マヤさんもこのチラシ受け取ってたんですね、意外です」


 薄藍色髪の薄幸少女、マイロは机にあった『幻獣祭』のチラシを拾い上げる。


「それは俺じゃなくてエリーがだな……それよりも、お前らどうしたんだ。金ならやらんぞ?」

「お金は借りませんよ……借りるとしてもマヤさんからは借りないです、後々面倒くさそうですし」


 マイロは大袈裟に、やれやれといった表情でそう返す。


「マヤ君……あなた、お金目的以外で客人が来たことがないのね」


 リタは憐れむような目で俺を見る。呆れられるよりも、そういう目の方が心にくるな……俺だって客人くらい来るぞ。最近は色んな人が定期的に物を持ってきてくれるし、そして領収書に判子を押してる。


「じゃあお前らはなんの用で来たんだよ。俺は今幸せだぞ、十分」

「宗教の勧誘でもないわ……早く支度をしなさい。出かけるわよ」


 一体どこに、と聞こうとするも、マイロが先程のチラシを指差しているのが見える。意外だな、まさか彼女達がそんな所に行きたがるとは。


「『幻獣祭』か……リタ、お前は苦手だと思ってたんだけどな、人混みとか」

「確かにそうだけど……それを抜きにしても行きたい場所があるのよ。それに、最近は色んなことがあったから息抜きぐらいしたいわ」


 最近は色んなことがあった、というのは俺も同意だ。ありすぎたと言っていい。それは少なからず俺の生活にも影響を与え、結果このような美少女二人が家に押しかけるまでになってしまった。


 しかし、往々にして変化とは受け入れ難い物である。この漫画は初期の頃の方が面白かっただの、あのバンドはメジャーになって変わってしまっただの、例を挙げればキリがない。いつかこの小説も言われてしまうのだろうか、そもそもそう言われるまで続いているのだろうか。


 ……まぁそれは置いといて、俺の日々の変化というのもやはり受け入れ難い。休日は家でのんびりゆったりする、これだけは俺の譲れないラインなのだ。


「俺はパスだ、休日は休むって決めてるんでな」


 彼女らには申し訳ないが、二人で楽しんできてもらおう。……本当に楽しんできそうだし、何だったら俺がいる時よりも楽しそうだな。


「はぁ、こうなったマヤさんは動きませんね」


 マイロが諦めたような顔で言うと、リタもため息をつく。……なんだこの居た堪れない空気は。人からそんな誘われたことないから断り方もわからないんだよ、悪かったな。

 俺の肩身も狭まり、むしろソファに収まりが良くなったところで第三者が口を開いた。


「マヤさん、どこにも出かけないのならおつかい頼まれてくれない?」


 エリーだ。彼女はキッチンで作業をしているようで、片手間に俺に話しかける。


「えぇ……俺今ちょっと忙しくて」

「……頼まれてくれない?」


 彼女の声に覇気が増す、簡単に覇王色を修得するな。彼女は笑っているはずなのに、伝わってくるのは活気じゃなく殺気だけだった。

 こんな自由奔放に生きてきた俺も、二つ心に決めた心情がある。一つはラノベを表紙だけで選ばないこと、もう一つはエリーに逆らわないことだ。


「わかりました……行ってきます」

「そう、いつもありがとね、マヤさん」


 居候でこの家に居させてもらっている俺としては、とてもじゃないが彼女には逆らえない。


「ところで何を買ってくればいいんだ?」


 俺がエリーにそう尋ねると、帰ってきたのは予想もしない答えだった。




「――『幻獣祭』で私へのお土産一つ、よろしくね」


 エリーはそう言って自慢げにウィンクを決めた後、リタとマイロに笑いかける。二人はまるで路上の猿回しでも見るような感心の目をエリーに向けていた。



 ……やっぱり、彼女には敵わない。


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