第八十八話「技能書の中身」
【技能書『?』:使用すると一つ、スキルを獲得できる】
メニューの財宝確認から、技能書について鑑定したところ、そんな文字が現れた。
なんのスキルを獲得できるか一切書かれていない。
ランダムなのだろうか?
とりあえず、テンツユと一緒に一階層に戻ると、フロンが風呂場の掃除をしていた。
迷宮の壁や床、設備などは埃なども溜まらずコケなども生えてこないのだが、風呂場に持ち込んだ椅子に水垢がたまったり、タオルにカビが生えたりすることがある。そのため、風呂場の備品は定期的にきれいに磨いている。
「フロン、お疲れ様。昼食は済んだか?」
「いえ、まだです」
「なら、今日はテンツユと三人で食事にするか。聞きたいこともあるんだ」
「はい、かしこまりました」
魔石と交換して料理を注文する日だ。
うどんがラムフィッシュを狩り、マシュマロとゴーヤがゴブリンたちを狩っているお陰で、魔石もだいぶ溜まってきたので、週に何度かは贅沢させてもらっている。
今日は食事のメニューは俺が決める。
フロンに何が食べたいか聞いて、それを食べることもあるのだが、そうすると彼女は最初は断り、しつこく聞くと「いなり寿司が食べたいです」と言う。
かなりのお気に入りなようだが、しかし毎回それしか頼まないので正直、俺は少し飽きてきた。
だが、「いなり寿司以外で食べたいものはある?」と聞くと、フロンのことだから俺がいなり寿司に飽きてきていることに気付くかもしれない。
そうなったら、彼女は俺に「いなり寿司を食べたい」と要望を出せなくなってしまうので、俺がいなり寿司以外のものを食べたいときは、俺がメニューを決めることにした。
ちなみに、俺が魔石と交換したのはナポリタンだ。
一皿10M。
いなり寿司が五個で3Mだから、ナポリタン二皿で、いなり寿司三十個分以上とお高い。
その代わり、白いお皿の上に載って現れるサービス付きだ。
パスタ系はすべて白い皿に載って現れる。
パスタ系料理は合計六回注文したことがあり、倉庫には真っ白な皿が十枚ある。
俺はどのパスタでも美味しかったのだが、フロンは好みがハッキリ別れた。
ナポリタンとミートソーススパゲティとペペロンチーノは好評だった。
明太スパはかなり戸惑っている様子だった。明太子の食感に違和感があるらしい。
納豆スパは、口では美味しいと言っていたが、明らかに辛そうだった。 納豆は苦手のようだ。
あと、カルボナーラを注文したこともあるのだが――
「ご主人様の世界の卵はこんな色なんですか?」
「いや、俺もこんな色の卵は初めてだ」
何故か、カルボナーラの上の卵黄が真っ黒だった。
黄色くないから卵黄と表現していいか不明なほどに真っ黒だ。
さすがに俺もフロンも食べることができずにいると、うどんとマシュマロが代わりに食べると言い出した。
ふたりは満足気に完食し、美味しかったそうだが。
「ナポリタン――今日はお皿に載っているんですね。ご主人様の故郷の料理なんですよね?」
「ああ。正確には俺の世界の遠い国の料理……いや、ナポリタンは日本料理発祥だったか? まぁ、俺の世界の料理だ」
あと、ナポリタンの裏メニューで15MPのナポリタンも存在し、前回はそちらを注文したのだが、フライパンの上に載って現れるだけだった。
喫茶店のナポリタンというものなのだろう。
「この料理は女神様が作っているのでしょうか?」
「うーん、トレールール様は絶対に作りそうにないからな」
ピオニアとかいうホムンクルスかもしれない。
コショマーレ様の命令で飲み物を用意していたし、日本語を理解しているから日本の料理を作ることもできそうだ。
俺たちがいなり寿司を注文したときのために、せっせと油揚げの中に酢飯を詰め込む彼女の姿を想像すると、少し微笑ましく思えた。
タバスコや粉チーズもないが、トマトの自然な甘みが口いっぱいに広がる。
「そうだ、フロン。技能書って知ってるか?」
「はい。女神の間で祈りを捧げたときに極稀に手に入る貴重な石です」
「貴重なのか。実は宝箱から出て来たんだ」
俺はそう言って、技能書を机の上に置いた。
「凄いです。宝箱から出るだなんて聞いたことがありません。ご主人様が作製なさった迷宮はやはり特別なのですね」
となると、宝箱が光り輝くというのも滅多にないことなのかもしれない。
「高い物だと一個一千万センスにもなるものもあるとか。スキルの内容次第ですが」
「ん? でも技能書って使ってみないとわからないんじゃないのか?」
「技能書鑑定という特別なスキルを持っていればどのようなスキルを習得できるか確認できるそうです。ただし、鑑定料はとても高いそうですが」
「なるほど……」
なら、鑑定してもらった結果、しょぼいスキルだったら元を取ることもできないということか。
それなら、未鑑定のまま売るというのもありかもしれない。
いや、売らずに自分で使うという手も……しかし、剣を使わないのに剣のスキルを覚えたりするのも。
「シャルさんに相談してみるか」
※※※
「技能書鑑定なら私が持っています。鑑定いたしましょうか?」
フロンと一緒にシャルさんのところに尋ねると、彼女がいきなりそんなことを言い出した。
「持ってるの?」
「はい」
「技能書鑑定スキルを?」
「持っています」
そんな偶然があっていいのだろうか?
「とても珍しいスキルなんじゃ?」
「はい、珍しいですね。昔、初心者向けの迷宮に入ったときに偶然手に入れました」
なんでも、戦闘の苦手な人でも、日帰りで攻略できる初心者向けの迷宮を冒険者を雇って攻略し、最奥にある女神像の間でスキルをもらう人は少なくないんだそうだ。
その時に手に入れたのが技能書鑑定だったという。
ただし、技能書鑑定を使ってお金を稼ぐには、鑑定ギルドに入る必要があるらしい。シャルさんは迷ったが、その時には既に商業ギルドに所属していて、ギルドマスターにも恩があったので、鑑定ギルドに入らなかったそうだ。
「なので、お金をいただくわけにはいきません。無料で鑑定いたします」
「無料ならいいんですか?」
「看板を掲げて無料で鑑定とまでは許可されませんが、友人や知人の技能書の鑑定をするだけなら、鑑定ギルドも文句を言ってきませんよ。それに、ジョージさんが使わない技能書であれば、私としても買い取らせていただけますし」
そういうことか。
まぁ、買い取ってもらえるのならそれはそれでありがたい。
俺は彼女に技能書を渡した。
「はい、鑑定できました」
はやっ!
鑑定って呪文の詠唱とかいらないのか?
「スキルの内容は闇魔法ゼロですね」
「闇魔法ゼロ……なんか凄い響きですが……闇魔法ってどんな魔法なんだ?」
「ご主人様。闇魔法とは、闇の力を相手にぶつける魔法です」
フロンが説明してくれた。
「闇魔法Ⅰでプチダーク、闇魔法Ⅱでダーク、闇魔法Ⅲでメガダークを覚え、それぞれ闇属性の球を相手にぶつける魔法です。さらにレベルを上げると、闇の剣を生み出したり、闇の糸で相手を操ることもできますね。かつての魔王は、一度に千本の闇の剣を生み出し、勇者と戦ったそうです」
千本の闇の剣……そんなものを生み出すとかさすがは魔王だな。俺なら千回死ねるわ。
そんな魔王と戦って勝つ勇者も凄いな。
てことは、闇魔法ゼロは、始祖の闇魔法――きっと凄い魔法に違いない。
そう思ったら、シャルさんが闇魔法ゼロについて教えてくれた。
「闇魔法ゼロは単純に黒い靄を生み出すだけの魔法です」
「黒い靄を出すだけ?」
「はい」
「靄に触れたら相手にダメージを――」
「与えません」
「状態異常になったり」
「しません」
……本当に、ただ黒い靄を出すだけの魔法らしい。
「技能書の中ではハズレですね。高く買い取ることができず残念です」
「本当に残念……ん?」
いや、待てよ?
この闇魔法ゼロがあれば、もしかしたら、あれができるんじゃないだろうか?
昨日、コミックウォーカー&ニコニコ静画で、成長チートの漫画の最新話が更新されています。