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第八話「仕事中毒」

 俺とフロンは海に来ていた。

 海は穏やかだったが、いろいろな漂流物が流れ着いていた。

 俺たちは海で亡くなったものたちに、ふたりで冥福を祈った。

 手を合わせるというのは、俺の世界でもこの世界でも共通のものだったらしい。


 それからは、漂流物を調べた。やはり、彼女の乗っていた船の残骸がいろいろと流れ着いているらしい。

 鍋とお玉、あと錆びたナイフが入っている箱を見つけた。厨房辺りのものがまとめて流れ着いてきたのだろうか? それなら缶詰とかでも流れ着いてくれればよかったのに。

 別の小さな木の箱が流れ着いたので期待して開けてみたが、中に入っていたのはカメオのブローチだった。


 その後、朝は魚釣りと食べられる貝を集める作業をすることにした。

 貝の種類がわからないので、貝集めはフロンに、魚釣りは俺がすることになった。

 といっても、やはり結果は坊主だった。餌がよくないのか、魚がいないのかはわからない。


 そして、昼前の作業だが、これは決まっていた。

 フロンが言うには、彼女と出会った日、鍋で煮込んで灰汁が出まくって捨てたあの海草は、一度天日干しにしてから焼くと美味しくなるらしい。

 流れ着いた船の側面の板を昨日から乾かしておいたので、その上に海草を並べていく作業に取り掛かる。


「ご主人様、ここは私がしますから休んでくださって結構ですよ」

「いや、これは俺がする。フロンには別の頼みがあるんだ」

「なんでしょうか?」

「どうも俺には釣りの才能がないらしい。魚釣りを頼んでいいか?」


 フロンは俺から釣り竿を受け取るも、微妙な顔をした。

 彼女も釣りの経験はないらしい。


「別に釣れなくてもいいんだ。どうも釣りは落ち着かない」


 最初は釣りをしていたのだが、

 時間を無駄に過ごしているだけじゃないか? 他にできることがあるんじゃないか? そんな風に思ってしまう。

 視界の端でフロンが一生懸命海草を集め、海水で砂などを洗い流しているところを見ると猶更だ。

 海草を並べ終えたあとは、フロンが集めてくれた貝を見ながら、同じ種類の貝を岩から剥がす。漂流物の中に錆びたナイフのようなものがあった。錆が酷く、いくら研いでも料理には使えそうにないが、貝を岩から剥がすくらいには使えた。


【ジョージのレベルが上がった】


 と声が頭に響き、レベルが4に上がっていた。どうやら迷宮から離れた場所にいても経験値は蓄積しているらしい。管理メニュを開くことはできないけれど、これだとキノコや魔石もかなり集まっているだろう。


「ご主人様、釣果をお持ちしました」


 そう言ったフロンの声は誇らしさはまるでない。

 彼女が持っていた鍋の中には、イワシのような小魚が二匹いるだけだった。


「いや、十分だよ。魚を食べるのは久しぶりだな」


 ということで、遅めの昼食は獲れたての魚を焼いて、ふたりで食べた。

 そして午後。俺とフロンはふたりでブルーツから種を取り出す作業をしていた。植えるためではない。それは既にやっている。

 ブルーツの種から搾油するためだ。

 フロンがやり方を知っていたので教わった。

 ブルーツの種を布で包み、拾ったナイフの柄の部分で何度も潰す。すると、種の中から出た油が布に染みていくので、それを拾ってきた瓶の中に搾り取る。

 種十個で僅かな分の油しかできない。これまで食べてきたブルーツの種だけでは限度が来たので、収穫しておいた実からも種を取り出して作業を繰り返す。

 なんとか小瓶いっぱいの油が出来上がった。


「ご主人様、これでなにをなさるのですか?」

「なにって、石鹸作りだよ」


 素人がやってうまくいくとは限らないけれど、やってみようと思った。

 焚火の灰を水に入れて上澄みをおたまで掬って別の容器に入れる。

 フジツボの貝殻を砕き、消えない松明で熱する。

 灰の水の上澄みに熱した貝殻を入れることで、強アルカリの水……になるはずだ。学校の授業で実験したときはそうなった。リトマス試験紙がないのでわからない。


「フロン、その水をこの木箱の中に流し込んでくれ。危ない水だから触れたり零したりしないようにな」

「はい、ご主人様」


 最後に、カメオのブローチが入っていた木箱に油と強アルカリの水を流し込み、混ぜ、ある程度硬くなってきたら完成――のはずなんだが。

 全然硬くならない。

 うろ覚えで石鹸作りはやっぱり無理だったのだろうか?

 貝を熱するときの火力が弱かったのか、配分がおかしいのか、それともなにか重要な工程が抜けていたのか。

 とりあえず、今日の配分はメモしておこう。

 尖った石で、拾ってきた木片に力付くで文字を刻む。

 あぁ、パソコンで入力していた頃が懐かしい。そうでなくても、紙と鉛筆が欲しいところだが、流石に紙を一から作るのは至難の技だろうな。


「この石鹸作りだけでも明日から仕事になりそうだ」


 俺はそう言って朗らかに笑い――気付いた。

 気付いてしまった、昨日からの違和感に。


 俺が落ち着かなかった理由――釣りをしていたとき、寝ていたとき、スローライフを満喫しようとしていたとき、妙な感じがした理由。


「まさか……俺は仕事を求めているのか」


 仕事中毒――ワーカーホリック。

 スローライフを送る者と相対する症状に俺はかかっていたのか?

 そう思ったときだった。


【歩きキノコ討伐数が百になりました。歩きキノコを使い魔として召喚可能です】


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