第七十話「ゴブリンの坑道」
付かず離れず、アイアンゴーレムを尾行していると、遠くに明かりのようなものが見えた。
フロンに狐火を一度消させ、闇の中、明かりの方を目指す。
『ガガゴ!』
なにかの声が聞こえた。
この声はゴブリンのものだ。
「やっぱりゴブリンが住んでいるのか?」
「ゴブリンの視力は人間と変わらん。こんな暗い坑道に住むとしたら、せいぜい入口付近だ。こんな奥までくるものか」
「ご主人様、ゴブリンは何と言っているかわかりますか?」
「俺が言葉を理解できるのは、俺の使い魔の魔物だけだ」
ゴブリンの使い魔ができたら、翻訳してくれるかもしれないが、まだ使い魔になっていな――
【ゴブリンの討伐数が百になりました。ゴブリンを使い魔として召喚可能です】
……なんというか、タイミングがいいな。
マシュマロが頑張って討伐してくれているから、そろそろかと思っていたが、このタイミングか。
「ゴブリン召喚」
俺はゴブリンを召喚させた。
暗闇でよくわからないが、通常のゴブリンより背は低そうだ。
「ガガブ!」
ゴブリンは俺に「我が主に敬礼」と敬礼をしてきた。
「静かに! ……ゴブリン、あっちにゴブリンがいるみたいなんだが、言っている言葉を翻訳してくれ。気付かれないようにな」
俺はそう言って、耳を澄ます。
『ガガ……ゴ……ガガ』
「ガガ……ゴ……ガガ」
ゴブリンが木霊のように姿の見えないゴブリンの言葉を繰り返す。
「この石、魔法で作られたもののようだ。何者かが入ってきたようだ……と言っているみたいだな」
「同じことを言っているようにしか聞こえないが」
「同じ言葉でも、使い魔の言葉ならわかるんだよ」
「流石はご主人様です」
フロンがそう言ったときだった。
『ガガガ!』
「ガガガ」
「誰かそこにいるのか……やばい、気付かれたみたいだ」
誰の声が原因かわからないが、人がいることに気付かれたようだ。
俺たちは慌てて引き返そうとし、気付いた。
同じゴブリンなら、話し合いでなんとかなるんじゃないか?
「ゴブリン、話をして情報を聞き出してくれ」
「ガガゴ」
ゴブリンが頷いた。
そして、俺たちは通路の陰に隠れ、新しい仲間を見守る。
ゴブリンが青白い灯を持ってどんどんと近付いてきた。
そして、俺は気付いた。
ゴブリンが青白い灯を持っていると思ったが、その表現は正しくて間違っていた。
なぜなら、青白い光はゴブリンそのもの――ゴブリンが青白く光っていたからだ。
しかも宙に浮いていて、半透明状態。
「ご主人様、あれはゴブリンゴーストです」
「ゴーストか……幽霊でも魔物なんだな」
フロンが落ち着いているせいで、俺も全然怖くない。
まぁ、ゲームなんかでもゴーストって普通の魔物枠だもんな。
光魔法とか浄化魔法で倒せそうだ。
『ガブガゴゴ』
「ガ……ガブガブガゴゴ」
『ガガガブガ』
「ガーブブ」
使い魔のゴブリンの言葉だけでよくわからないけれど、「自分は正真正銘ゴブリンであります」「名前はありません」「お心配り感謝します」「いえ、他の生物は見ておりません」と言っていることから、友好的な関係は結べているようだ。
暫く話すと、ゴブリンゴーストは奥に戻っていった。
「ガブガガブ」
ゴブリンも俺のところに来て報告をしてくれた。
予想していたが、あのゴブリンは賢者ゴブリンのゴーストらしい。
ゴブリンのことは、迷子の子供だと思ってくれたようで、親切にも帰り道を教えてくれたそうだ。
ゴーストになったあとも、この坑道に籠もり、ゴーレムを使って坑道を広げているという。
なにが目的なのかまではわからなかったが。
「サンダー、お前ならゴーストくらい倒せるんじゃ……サンダー?」
サンダーの反応がない。
もしかして、サンダーの身になにかあったのではないかと俺はフロンに狐火を出させた。
すると、サンダーは青ざめた表情で立ち尽くしていた。
「サンダー?」
「はっ、ここを出るぞ!」
意識を取り戻したサンダーは、俺たちの手を引いて元来た道を戻っていった。
なにがあったのかと思ったら、サンダーは帰り道に全てを打ち明けてくれた。
「ジョージ、フロン。包み隠さずに言う。俺は幽霊が苦手だ」
「そうなのか? まぁ、俺も得意な方じゃない――いや、苦手だな」
サンダーの顔が青ざめていたことから、本当に苦手なんだろうなと思った。
こりゃ、サンダーの力を借りてゴースト退治っていうのは難しそうだ。
ちなみに、フロンの狐火で照らされたゴブリンの姿は、緑色の肌で頭がツルツルであること以外は五歳くらいの子供みたいな姿で、醜悪なゴブリンとは似ても似つかない。
よく、ゴブリンゴーストも同族と認識してくれたものだ。
フロンに名前を考えて貰ったところ、その候補はゴーヤチャンプルだった。由来は言わずもがな、俺の寝言だ。
ただ、それだと長いので、シンプルにゴーヤと改め、決定した。




