第七話「思わぬ落とし穴」
とりあえず、Cの部屋から出てきた歩きキノコはフロンが狐火で倒してくれたが、そこでMPが切れたらしい。このままだとまたキノコが溢れ出てしまう。
どうにかしたいところだが。
「……フロン、歩きキノコって知能は低いって言っていたよな?」
「はい。胞子をつける対象がいたら一直線に歩いてくるだけ、誰もいなければただ歩き回るだけの魔物です」
「なら、罠が有効だな」
俺はそう言うと、さっそく管理メニューを見る。
ポイントが増えていた。
Cの部屋とDの部屋を繋ぐ境目に落とし穴を一つ設置することにした。
「一応部屋から出るぞ」
「はい、かしこまりました」
Dの部屋の外から、落とし穴設置を選択。
10ポイント減ったが、一辺二メートルくらいの正方形、丸見えの落とし穴が出来上がった。正面からでも走ればギリギリ飛び越えてCの部屋に行けそうだけど、横から壁を這うように移動すればリスクなくCの部屋に入ることができる。
落とし穴に近付いてみると、穴の深さは五メートルくらいあり、底は石のスパイクが敷き詰められていた。
しばらく部屋の外から様子を見る。
すると、Cの部屋から歩きキノコが出てきて、Dの部屋の落とし穴に落ちた。
穴の底を見ると、歩きキノコは消滅し、キノコと魔石だけが残っていた。
キノコにとっては思わぬ落とし穴だろうな。
「ご主人様、さすがです。これなら安全に眠ることができますね」
「ああ。ちょっとキノコは勿体ないけどな」
俺はそう言って欠伸を噛み殺すように、うーんと背を伸ばした。
迷宮の中じゃ時間の感覚がわかりにくいけど、まだ夜だよな?
「フロン、二度寝しようか」
「はい、お供させていただきます」
こうして、俺とフロンは同じ部屋で二度寝を決め込んだ。
その日、俺は夢の中でキノコの天ぷらを腹いっぱい食べる夢を見た。
天汁も塩もないので、味がほとんどないなぁと思っていて(夢なので味がないのは当然だが)、朝起きたとき、調味料の開発は急務だなーと思った。
そして翌朝――俺はおかしなことに気付いた。
ステータスを確認すると、レベルが上がっていたのだ。
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名前:ジョージ
種族:ヒューム
職業:迷宮師(神)Lv3
HP:32/32
MP:21/21
物攻:19
物防:18
魔攻:30
魔防:35
速度:16
幸運:11
装備:ジャージ スニーカー
スキル:迷宮管理Ⅱ
取得済み称号:なし
天恵:職業【迷宮師(神)】解放
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なんだこれ?
数時間寝ただけでレベルが上がり、迷宮管理のスキルがⅡに上がっている?
「……フロン、聞いていなかったんだが、レベルって魔物を倒したら上がるものなのか?」
「はい。職業によって条件の異なるレベルアップ方法がありますが、どの職業でも魔物を殺せばレベルを上げることができます」
「もう一つ質問。それって仲間が倒してもレベルが上がるのか?」
「冒険者ギルド等でパーティ登録をしている仲間でしたらレベルが上がります。それ以外は魔物にとどめをさした者しかレベルが上がりません」
経験値はラストアタックを決めた人だけか。
わかった。これまで歩きキノコは全部フロンが倒してきたので、レベルを上げるための経験値は全てフロンのものになっていた。それが、罠とはいえ俺が歩きキノコを倒した結果、俺のレベルが一晩で2も上がった。ステータスも運以外、五割増しくらいに上昇している。
「放置系のアプリゲームみたいだな」
相手が歩きキノコだったのが幸いした。これが別の魔物だったら、たとえば空を飛ぶ蝙蝠とか壁を這う蛇とかだったら落とし穴の効果もなかっただろう。
二階層を追加するとき、注意しないといけないな。
「ん?」
管理メニューを開いてみたところ、小さな変化があった。
まず、一日の収入ポイントが20ポイントに増加。レベルが上がったお陰だろうか?
そして、倒した魔物の確認も可能なことが判明。
俺は夜中のうちに歩きキノコ13匹を倒していたそうだ。
最後に、財宝確認メニューがアンロックされていた。
それを確認すると、
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▶食用キノコ×22
▶干し食用キノコ×4
▶魔石(極小)×13
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とあった。その中から干し食用キノコを選択すると、【鑑定】と【取り出す】の二つのコマンドが。
鑑定した結果、
【食用キノコを干したもの。栄養価と旨味が凝縮されている】
と表示された。
もしかして――と魔物の画面を確認してみる。相変わらずCの部屋には歩きキノコが五匹くらいいるそうだ。
前はここからなにもできなかったが、歩きキノコを選択してみるとやはり【鑑定】の項目があった。
【胞子をつける生物を探すため、歩くことを覚えたキノコ。魔物の中では無害な部類】
鑑定結果でも無害認定か。
ドロップアイテムの説明がないのはちょっと残念だが、もしかしたらレベルアップしたら鑑定できる項目も増えるかもしれない。
まぁ、なにはともあれ、これでなにもせずにのんびり過ごせるわけだ。
これから魔物の数を増やし、手に入る食材を増やしていけばいい。
人との交流ができるようになったら魔石を売ってお金に換えよう。一生遊べるだけ金を稼げれば、あとはフロンとふたりでどこかの村でのんびり生活を――のんびり生活を……あれ? のんびりの生活ってどうすればいいんだ?
というか、妙に落ち着かない。
いったい――いったいこの気持ちはなんなんだ?
皆様のお陰で500ポイント達成しました。ありがとうございます。