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第五十二話「二人の社畜」

 四階層、五階層は特に変わった感じはしなかった。複雑な迷路というわけでもない。ただの草地の迷宮だ。五階層では草だけでなく木や花が生えていた。

 マンドラコラは、引っこ抜こうとしなければ害はないということなので、その奥の部屋に宝箱を設置した。中身は俺とフロンにとって無人島生活始まってすぐの生命線となったブルーツの実、三個だった。

 ちなみに、アイドルラビットは、近くにいるウサギ系の魔物――ワイルドラビットとアルミラージをパワーアップさせるというちょっと色っぽいウサギだったが、自分自身はパワーアップできないので、フロンが遠くから風刃で倒したあと、残りのワイルドラビットとアルミラージを倒すという方法で問題なく倒すことができた。

 しかし、この問題なくというのも曲者で、つまるところこの迷宮程度の魔物なら、これから島にやってくる傭兵も苦労しないだろうとのことだ。

 せめてゴブリン王クラスの魔物でもいたら話が変わってくるのに、とのこと。

 

「六階層は追加するのか?」

「ええ――でも、隠れるとすれば五階層になりそうですが」

「なんでだ?」

「いろいろと作戦を考えているので」


 俺はそう言うと、持ってきた干し肉を炙るために設置した消えない松明を撤去した。一度設置した設備は、ポイントを使わずに撤去することができる。再設置するのにポイントが必要なので、むやみに撤去できないが、草地に消えない松明を置いておき、もしも火が燃え広がったら困ったことになりそうだからな。


「バリケードの設置場所は階段と通路だな。流木や木材をかき集めたが、本当にお前らだけで設置できるのか?」

「ええ。だって手伝ってもらったら、ブナンさんが外に出られなくなりますから。ブナンさんにはブナンさんでやることがあるんですよね?」

「……まぁな」

「あぁ、それとお願いです。明日、迷宮にはできるだけ近付かないでください。危険はないはずなんですけど、万が一のことがあったら困りますので」

「わかった」


 ブナンはそう言うと、俺に単語カード――もとい魔札を渡した。


「これをお前に預けておくよ。使い方はさっき教えた通りだ」


 ブナンが俺に渡したのは、五種類の魔札だった。

 一種類目は通信札。二枚一組であり、相手と会話できる札。ガメイツが使っていたのと同じものだ。うち何枚かはブナンと通信できるようにしていて、定期的に連絡できるようになっている。計画の終了も通信札で知らされるのだが、ここまできて、俺はブナンから詳しい計画を聞かされていない。

 知らない方がいいとのことなので、信じるのみだ。

 二枚目は爆破札。裏面には受信札が描かれていて、三枚目の送信札を使うことで遠隔爆破できる。

 四枚目は録音札。録音した音を再生することができる。

 五枚目は消音札。札を使用した周辺から音を消し去る。完全に消すのではなく、音を小さくするだけのようだが、隠れるのに便利だろう。


 爆破札と送信札だけは返そうと思ったのだが、

「なにがあるかわからないから持っておけ。使わなかったらそれでいい」

 と言われたので預かった。


「俺ができるのはここまでだな。無事に終わったら酒を飲もう」

「そうですね――実は、こっちに来てから酒はまったく飲んでなかったんです。楽しみにしています」


 俺はそう言って、ブナンに頭を下げた。

 ブナンが手を振って帰っていく。


「さてと、これから忙しくなるぞ。頑張るぞ、フロン、テンツユ。これからバリケードの設置、時間がないぞ」

「はい」

「キュー!」

「メー!」


 ん? あぁ、一匹忘れていた。


「悪い悪い、頑張るぞ、うどん」


 俺はそう言って、可愛らしい緑の亀の甲羅を撫でた。

 このうどんは、新しい俺の使い魔――子犬サイズの緑の亀だ。

 帰り道にスロータートルを倒したとき、ちょうど討伐数が百匹になって召喚できた。

 名前を聞いたところ、俺の寝言食べ物シリーズから、うどんという名前になった。


「メー! メー!(はーい! がんばりまーす!)」

「ああ、そうだな。いまはここにいないマシュマロも頑張ってるんだ。頑張らないとな」


 ちなみに、うどんもアイドルラビットが落としたレアメダルを食べて、ランクを上げている。アビリティは【緑の甲羅:仲間が攻撃を受けたとき、5%の確率でノックバックする代わりにダメージを無効化する】というものだった。これはパッシブアビリティであるが、オンオフの使い分けができるとうどんが言っていた。まぁ、怪我をするくらいならノックバックは受け入れようということで、常にONにしている。あと、テンツユの二つ目のアビリティは【魔力充填:仲間のMPの回復速度を30%上昇させる】というものだった。


 うどんが木材などを運んできて、バリケードの設置を手伝う。

 僅かにテンツユが通り抜けられる隙間を作っておくのは、今後の作戦のためだ。


「バリケードで稼げる時間は、長くないそうだよな」


 五分も時間を稼げたらいいそうだ。その五分のために何倍もの時間を費やしているのは、ちょっと笑えてくる。


「相手の気力を削ぐことが目的ですからね」

「だな。そうだ、バリケードを突破した先は行き止まりだけど宝箱があって、中身が空っぽとか相手のやる気を削ぐことができると思わないか?」

「相手を怒らせるだけかもしれませんね」

「やっぱりやめておこう」


 報復とかあったら怖いからな。


「ご主人様――私、ちょっとだけ楽しいんです」


 うどんが運んできた木材を組み上げながら、フロンが言った。


「このバリケード作りが? 結構重労働だぞ? 給料も出ないし」


 俺はそう言って、土台をストーンスパイクで支える。

 このストーンスパイク、一度使えば半永久的に設置することができる。


「……はい。でも、楽しいんです」


 フロンはそう言って、スライム粘液を木のつなぎ目に塗った。

 時間がたてば完全に固まる。火に弱いのが弱点だ。

 疲れてきたが、俺は笑っていった。


「まぁ、俺もちょっと楽しい。お互い、いい社畜になれそうだ」


 もしも、日本の同じ会社で働いていたとしたら、ふたりでサービス残業をして、こんな風に楽しく会話していたんだろうなって思えてくる。

 そして、その時はやってくる。

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