第四十二話「金平糖」
二階層は特に目立った設備はない。
スライムが何匹か現れたので、部屋に設置してある消えない松明で溶かして倒す。
「まるでスライムを倒すために設置してあるみたいですね」
「そうですね」
消えない松明だが、迷宮内で一時間以上放置したら自動的に元の場所に戻る。迷宮の外に持ち出したら消えない松明としての機能が失われてしまい、放置しても元の場所に戻ることはない。そして、丸一日経過した後台座に新たに現れることが最近の調べでわかっている。
「この先がスライムイーターの出る部屋です」
「これは……火の中を歩かないといけないのですか? あ、上にスペースがあるから飛び越えることはできそうですね」
クラリスさんが豪快なことを言い出した。
「いやいや、この松明を一本一本外していけばいけますよ」
通路には消えない松明が低い場所に何本も設置しているので、向こう側に行くときは松明を外さなくてはいけない。
不便ではあるが、スライムがこの部屋からスライムイーターの出る部屋に行くことができないというメリットもある。
というか、スライムイーターが現れたら、スライムはみんな火の中に飛び込むんだが。
「この奥はスライムイーターが出るだけですか。なら、別にみる必要は無さそうですね」
面倒というより、スライムイーターとは関わりたくないという感じだ。
服を剥がれるのは嫌なのだろう。
つづいて、東側の部屋に行く。
「このあたりはスロータートルのいる部屋ですね」
「じゃあ、私が倒してもいいですか?」
「はい。武器は持っていますか?」
「はい、コンペイトウがあります」
「金平糖?」
お菓子が武器になるのか?
いや、でも本で殴って戦うゲームキャラクターもいるくらいだし、そういうのもあるのだろうか?
と思っていたら、クラリスさんはサンタの袋の中から、柄に巨大なトゲトゲの玉のついた武器――モーニングスターを取り出した。
「それがコンペイトウなんですか?」
「はい、そういう名前で売っていました」
それ、名前つけたの日本人だろ。
俺が生まれる前にやっていたというアニメに出てきた気がする。
「百トンハンマーとかも売ってませんでしたか?」
「あはは、ジョージさんも冗談がうまいですね。百トンもある武器扱えるわけないじゃないですか」
「……そうですね」
彼女は重そうなコンペイトウを引きずるように歩いていく。
そして、スロータートルを見つけると、正面からそのコンペイトウを振り下ろした。
亀が一発で昇天していく。
俺が倒す時は石斧で何回も叩かないとダメなのに。
「はぁ、気持ちいいですね。ジョージさんもやってみますか?」
「いえ、間に合ってます」
恐ろしいよ、冒険者ギルドさん。
可愛い顔して強すぎるよ。
その後も、クラリスさんはスロータートルが現れるたびに、コンペイトウを振り下ろして倒していった。
「夕ご飯が豪勢になりますね」
「――ソウデスネ」
「しかし、本当に三階層がないんですね……弱ったな」
「え? どうしてですか?」
「いえ、成長する迷宮というのは、三階層から特色のようなものが如実に出てくるものでして、二階層までしか迷宮がない場合、三階層が出るまで一カ月に一度訪れないといけないんですよ」
――なんだってっ!?
これはマズイ。
クラリスさんやブナンあたりはまだいいが、ガメイツがまた来るかもしれないのは嫌だ。
それに――と俺は後ろから歩いてくるフロンを見て思った。
彼女は彼らが来てからずっと元気がない。
フロンが辛い顔をするのを二度も見るのは嫌だ。
三階層――こいつらが帰る前に追加する必要があるってことか。
迷宮の調査を終えて、俺たちは地上に戻った。
ちょうどブナンたちも調査が終わったようだが、何か持っている。
「ブナンさん、それはなんですか?」
毛のない緑色の猿?
人間ではなさそうな、凶悪な面構えをしている。耳は尖っているし、歯は鋭い。
「ん? 見たことないのか? これはゴブリンだ。北の方にいたから適当に殺してきた」
「……ゴブリン、島にいるって聞いていましたけど、本当にいたんですね」
「まぁ、このあたりに来ることはないだろうな。ドラゴンの巣より北側にいけば意外と見つかるぞ」
「これ、どうするんですか?」
「迷宮に食わせるんだよ。魔物の死体を入れると迷宮の成長速度が速くなるからな」
ブナンはそう言うと、ゴブリンを迷宮の階段の中に放り投げた。
迷宮の成長が速くなる?
迷宮の中を見ると、ゴブリンは階段の途中で止まっていたが、やがて光の粒になって消えていった。
もしかして、と思って管理メニューを見る。
さっき確認したときより、ポイントが三ポイント増えていた。
なるほど、これが迷宮に食べさせるってことか。
面白いことを知った。
「ところで、クラリスの嬢ちゃん、それはなんなんだ?」
「コンペイトウですよ」
「――いや、なんでうちの嫁さんの武器を嬢ちゃんが持っているんだって聞いたんだが」
「ブナンさんが悪さをしたら、これでとっちめてあげてくださいって言われていますので」
ブナン、本当に奥さんの尻に敷かれているんだな。
と俺は心の底から彼に同情したのだった。
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