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第三十七話「冒険者ギルドの使い」

 本当はこの場から逃げ出したいが、既に船に乗っている人陰も見えるようになっている。相手からも俺の姿が見えていることだろう。ここで逃げたら印象が悪い。

 国旗を掲げているのだから、いきなり襲われるようなことはないだろう。

「なぁ、あの船、なんかおかしくないか? 帆が畳まれているし、誰も漕いでいないのになんで動いているんだ?」

「ご主人様、船の手前を見てください」

「手前?」


 船の手前を凝視した。

 あれ? なんか波飛沫が上がっている。


「あれは従魔としている巨大な鳥が船を曳いているのです」

「馬車みたいな感じか?」

「はい。大型船を曳くには力が足りず、小型の船を曳くには逆に力が強すぎて船が転覆してしまう恐れがありますので、中型船でしかできない方法です。長距離の航海もできないなどの欠点もありますが、しかし小型の海の魔物に襲われるリスクが大幅に減るというメリットもあります。凪の状態でも進みますし、魔物使いがひとりいたら他の人手もさほど必要ありません」


 帆があるのは、従魔としている鳥になにかあったときの予備的なものか。

 しかし、ここにいて大丈夫なのだろうか?

 危険はないか?


「ってあれ? 鳥? 海の中にいるように見えるんだけど」

「はい。海の中を泳いで船を曳いているのです」

「鳥なのに?」

「空を飛ぶ魚もいますから」


 トビウオのことだろうか? それとも、この世界には本当に空を飛ぶ魚がいるのかもしれないが。

 ただ、海の上に浮かぶ鳥は、アヒル、白鳥、鴨、鵜など様々な種類を知っているが、海の中を泳ぐ鳥なんて俺は一種類しか知らない。

 まさか――?


「ご主人様、手を振っています。ここは危険です」

「あ、ああ!」


 俺は森の方に遠ざかった。

 そして、そいつは現れた。


「グワァァァっ!」


 巨大な声とともに上陸を果たした鳥――青いダチョウのような鳥だった。

 ペンギンじゃないのかよ――と思う。

 うーん……海チョ〇ボかな?

 いや、あれだってさすがに海の中を潜ったりはしないか。

 船は豪快に浜辺に乗り上げた。

 もともと浜辺などに上陸することを想定していたらしく、小船などは積まれていない。


「いたたっ……あーすみません、今降りますので」


 船の上から女性の声が聞こえてきた。

 そして、ひとりの女性が飛び降りる。

 眼鏡をかけたショートヘアの女性だ。何故か腰には鞭を丸めて持っている。


「ジョージさんとフロンさんでお間違いないでしょうか?」


 俺たちのことを知っている。

 つまり、サンダーとトニトロスから聞いたということか。


「……えぇ。俺がジョージです」

「はい。フロンです」

「そうですか、よかったです。私は冒険者ギルドから派遣されてきましたクラリスです。今回、迷宮が発見されたということで調査に来ました。ジョージさん、フロンさん、ご協力をお願いします」

「はあ……」


 迷宮の調査。

 なるほど、サンダーにこの島の話を聞いて、調査に来たってところか。


「わかりました。ただ、迷宮といっても、出てくる魔物はいまのところほとんどいませんし、平和なものですよ。むしろ島に昔からいるドラゴンの方が危ないそうですし」

「ドラゴンのことは私もうかがっています。こちらからちょっかいを出さなければ安全だとも――ところで……その歩きキノコはいったい?」


 クラリスさんが不安そうに指さした――そこにいたのはテンツユだった。


「ああ……これは俺の使い魔――従魔の歩きキノコで……」


 ――ん?


「テンツユ、お前、ずっと一緒にいた?」

「キュー」

「ずっとって、ずっとだよな?」

「キューキュー」


 俺は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。


「どうなさったのですか、ご主人様」

「え? え?」


 フロンが心配そうに尋ね、クラリスさんがどうしていいか困っている。

 しかし、俺の心はそれどころじゃない。

 一世一代の告白からの玉砕、その後恋人宣言からの手繋ぎデート。

 それを行っている間、テンツユの奴、ずっと見ていたのか。

 見ていたのなら言えよっ!

 いや、こいつがいることをすっかり忘れていた俺が悪いんだけどさ。


 まぁ、むしろ、テンツユでよかったというべきか。

 こいつなら、万が一にも他の人に漏らす心配はないだろうし。


「おい、いつまで待たせるつもりだ! いい加減にしろ!」


 船の上から男怒鳴り声が聞こえてきた。


「あ――ちょっと待ってください! 現地の方の協力をいただいているところでして――」


 クラリスさんが船に向かって大きな声で言った。


「現地の方といっても、国を捨てた人間の言うことなど聞く必要はあるまい。我々の時間は有限なのだっ!」

「まぁまぁ、ガメイツさん。協力者と良好な関係を築けた方が仕事が円滑に終わりますから」


 別の男の宥める声が聞こえた。


「あの、ジョージさん。迷宮調査に協力していただけるということでよろしいでしょうか?」

「具体的にはなにをすれば?」

「いろいろと質問に答えていただくだけです」


 迷宮師については答えたくないんだけど、聞かれたら誤魔化せばいいか。

 逆にここで断ったら怪しまれてしまう。


「わかりました。俺にできることなら」

「ありがとうございます。それと、ジョージさん……先にいろいろと失礼な事があると思いますが、すみません」


 あ……うん。

 なんとなく失礼なことがあるのは承知していますから。

 まぁ、元会社員なので、横暴な取引先やクレーマーを相手にするのは慣れています。

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― 新着の感想 ―
[一言] え?ガメツイさん?笑
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