第二十七話「アビリティ」
アビリティを設定――テンツユがレアメダルを食べたときに出たアレか。
なるほど、アビリティを設定するには、一度テンツユが戻ったり死ぬなどして、再召喚しないといけなかったというわけか。
どうりで、これまで発動しないと思っていた。
「ご主人様、どうなさいました?」
「あ、いや――メッセージで、アビリティの設定をするかどうか聞かれてな」
「アビリティとは、ご主人様がテンツユにレアメダルをお与えになったときの――」
「うん――とりあえず、設定する! これでいいのかな」
アビリティって、ゲームだと特技や特殊能力だよな?
持っていて損をするということはないはずだ。
すると、テンツユが現れた。
「キュキュキュッキュー」
テンツユは絶好調だ。どうやらこの湿度が気に入ったらしい。あとは大きな木材か枯草が欲しいようだ。
「テンツユ、アビリティは設定されているか?」
「キュー?」
わからないらしい。
んー、どうしたらいいんだ?
「ステータスを見ることはできないでしょうか?」
「ステータス? あれって自分のステータスしか見られないんじゃないのか?」
「いいえ、許可を出した者のステータスを見ることができます。私のステータスをご覧になってください。ステータスオープンの後に、名前を言えば可能です」
「わかった。ステータスオープン、フロン!」
……………………………………………………
名前:フロン
種族:茶狐族
職業:妖狐Lv15
HP:142/142
MP:47/102
物攻:71
物防:65
魔攻:92
魔防:94
速度:32
幸運:10
装備:なし
スキル:扇装備 狐火 風刃 気功 焔弾
取得済み称号:―
転職可能職業:平民Lv3
……………………………………………………
おぉっ! 見ることができた。
あれ? 俺は自分のステータスも見てみる。
……………………………………………………
名前:ジョージ
種族:ヒューム
職業:迷宮師(神)Lv13
HP:96/96
MP:62/62
物攻:54
物防:53
魔攻:89
魔防:102
速度:42
幸運:14
装備:なし
スキル:迷宮管理Ⅲ 使い魔召喚 魔石変換
取得済み称号:魔物使いの卵
天恵:職業【迷宮師(神)】解放
……………………………………………………
二つ同時にステータスを見ることもできる。
予想はしていたが、俺のほうがステータスがほとんど下なんだよな。
勝っているのは魔防値だけだ。
「あれ?」
俺はフロンのステータスを見て、あることに気付いた。
「どうなさいました、ご主人様」
「いや、フロンのこの称ご――」
俺はフロンと向き合って――そして気付いた。
お互い、現在裸であることに。そして、正面からフロンの裸を見てしまったことに。
「だ、大丈夫――」
俺は顔を押さえた。
フロンは何で平然としているんだ?
「……見えませんか?」
「見えないっていうか、見えたっていうか」
「テンツユのステータスですが」
「あ、うん、そっちだったな。テンツユ、ステータスを見せてもらうぞ」
「キュー」
同意したらしいので、俺は唱える。
「ステータスオープン、テンツユ」
おぉ、見ることができた!
……………………………………………………
名前:テンツユ
種族:歩きキノコ
ランク:2(ランク3になるまであと2枚)
HP:201/201
MP:10/10
物攻:195
物防:182
魔攻:89
魔防:82
速度:100
幸運:10
装備:なし
スキル:なし
アビリティ1:魔石ハント
【10%の確率でPTメンバーが倒した魔物が魔石を二個落とす】
取得済み称号:ジョージの使い魔
……………………………………………………
「フロンの言った通りだ。テンツユのアビリティが確認できた」
「おめでとうございます」
「魔石ハントというアビリティで、魔物を倒した時一割の確率で魔石が倍になるらしい。しかも、俺やフロンが倒したものでも有効みたいだ」
「それは助かりますね……ですが、ご主人様、嬉しくないように思えますが」
「いや、テンツユのステータス、俺やフロンより高かったんだ。物攻とか195ある」
「それは……レアメダルの効果でしょうね。でも、魔物はレベルが上がりませんから、きっとご主人様はそれよりも強くなりますよ」
「……そうだといいんだが、俺はこれからテンツユのことを――ぶくぶく」
俺は湯の中に顔を半分沈め、ぶくぶくと口から泡を出した。
テンツユのことをテンツユさんと呼んだ方がいいだろうか?
なんて考えていたら、いろいろとふっきれてきたな。
「フロン――」
「なんでしょうか?」
「あとで背中を流してもいいか?」
「私がご主人様の背中を流してからでよければ」
序列を大事にするフロンにとって、そこは譲れない線らしい。
「それで頼む」
「あと、尻尾を触るのは――嫌いではないのですが、強く握られると変な声が出てしまうので」
「ああ、わかった気を付けるよ。乾いてからブラッシングさせてもらうのなら」
「……はい、楽しみにしています」
「…………」
「……ご主人様、もう少し近付いてもよろしいですか?」
「……ああ」
俺とフロンは、触れるか触れないかの距離まで近づき、暫くの間無言で過ごした。
多分、俺がこれまで生きてきた人生(一度死んだけど)の中で、一番幸せの時間だったと思う。そして、その一番は、フロンと一緒に生活する中で更新されていくのだろう。
俺たちのスローライフはこれからも続くのだから。
~完~
「ってなんだこれ、人生が完結に向かうくらい湯が冷水――というか氷水みたいになってきたぞ! 外もめっちゃ寒い」
「ご主人様、消えない松明を水の中に――外側から氷が張ってきます!」
「ああ、追加でどんどん追加するぞ! フロンも狐火を頼む」
「はい、狐火っ!」
消えない松明を十本追加してお湯――いや、水を温める。
フロンの狐火は水風呂の中に入ったが、焼け石に水――いや、氷山にマッチだ。
しかし、水になってもここから出ることができないのは、外がもっと寒いからだ。
外気温は氷点下どころか北極南極状態になってるんじゃないか?
テンツユの奴、寒さのあまり即座に戻りやがった。
これは外に出て着替えることもできない。
フロンと体を寄せ合って水を沸かして何とか耐えているが、エッチな気分なんて完全に吹き飛んだ。
とその時だ。
部屋の中に何か青い光の玉――人魂みたいなものが近付いてきた。
「ななななんだあれは」
「ご主人様、あれは氷の精霊です!」
「どどどどうすればいいんだだだだ」
震えで顔ががくがくする。恐怖で震えているのではなく、寒すぎて震えている。
フロンはまだちゃんと喋れているようだ。
「氷の精霊が去るのを待ってください。氷の精霊は火が苦手です――消えない松明があるこの部屋からすぐに出ようとするはずです」
そして、その光の玉は俺の前に止まる。
寒い寒い寒い痛い痛い痛い。
水の中はギリギリ耐えられるが、顔が限界だ。
耳が千切れそうになっている。
間違いない、この寒さの原因はあの青い玉だ。
もも、もう限界だっ!
狐火を放て!
そう、頼みそうになったときだった。
『あ、ごめん……これで大丈夫? これ以上は力を弱められないから我慢してね』
と声が聞こえてきて、寒さが急に和らいだ。いや、まだ寒いけど。
そして、青い玉は――空飛ぶ青ウサギの姿に変わった。
『はじめまして。僕は氷の精霊――君にお願いがあってここに来たんだ』
空飛ぶ青ウサギは紅い目で俺を覗き込み、確かにそう言ったのだった。
主人公は完結に向かいたかったようですが
最終回じゃないぞよ、もうちっとだけ続くんじゃ。




