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第二十三話「ジョージの答え」

 その日の夕食は、サンダーが狩ってきた鳥の肉だ。今日は内臓モツや羽は落ちていない。しっかり穴を掘って埋めてくれたんだそうだ。

 俺とフロンもご相伴に預かり、四人で分け合って焼いた鳥の肉を食べていた。

 鶏よりも鴨に近い味だが、とてもうまい。


「ガハハハ、スライムイーターに殺されるって思ったのか」


 俺の話を聞いて、サンダーは褒めるどころか大笑いした。ツボに入ったのか、腹を抱えている。

 どうやら、スライムイーターが人間を食べないという話は、俺以外全員知っていたらしい。


「仕方ないだろ。蔓が八本のときの討伐難易度Cって言ったら、お前らだって苦労するって聞いたぞ」

「苦労はするさ。あいつらは蔓が増えるごとに服を剥がす速度が上がるんだ。人間だって、一本の腕より二本の腕を使ったほうが服を脱がしやすいだろ?」


 ……そう言われて、俺はフロンと初めて出会ったとき、彼女の服を脱がせたことを思い出して顔が熱くなった。


「蔓八本になったら、ランクD程度の冒険者なら文字通り一瞬で身ぐるみ剥がされた上で逃げられるからな。もっとも、俺はそんなへまはしねぇがな」


 やけに自信たっぷりだが、先日、俺にドラゴンステーキを食べさせると嘯いていたことを考えると、文字通りには受け取れない。

 俺が疑いの眼差しを向けると、トニトロスがサンダーのフォローをした。


「サンダーはスライムイーターと戦うとき、最初から裸で戦うのにゃ。裸で剣を持って戦うものだから、同じ依頼を受けてきた女性パーティに悲鳴を上げられ、石をにゃげられたこともあるにゃ」

「全部避けたがな。それに、見られて恥ずかしいものはつけていない!」


 サンダーが自慢げにいうが、女性パーティは不運だと思った。

 それ、日本だと公然わいせつ罪で捕まるぞ。

 頼むから、フロンの前では同じことはしないでほしい。


「次の日に露出罪で罰金を払って、報酬と相殺されたの忘れたのかにゃ?」


 この世界でも同じ罪はあるようだ。

 裸族が生きやすい場所は異世界でも少ないんだな。


「それで、お前の方はどうだったんだよ?」

「テンツユが役に立った。お陰で、予定よりも早く目標の素材を揃えることができたよ」

「どうだ? こいつ、俺のパーティに入れてくれないか?」

「断る。こいつはうちのマスコット兼働き手だからな」



 俺は即答した。フロンも可愛がっているしな。

 サンダーもテンツユを引き抜けるとは思っていなかったらしく、簡単に引き下がった。


「まぁ、テンツユのお陰で依頼が終わった。礼を言うよ」


 そうか、依頼達成か。

 なら、もうサンダーはこの島を去るのだろう。

 そう思うと少しだけ寂しくなるな――と思ったら、サンダーが思わぬ提案をしてきた。


「どうだ? テンツユだけがダメなら、お前らふたりも一緒に俺のパーティに入らねぇか?」

「パーティに入らにゃくても、一緒にこの島を出るのはどうにゃ? 病院がにゃいから、病気ににゃったらそれでお陀仏にゃ。家もにゃければ、食事処もにゃい」

「酒場もないし、教会がないから転職もできないぞ」


 転職と教会についてはよくわからない。あ、でも某ゲームでは「転職=神殿」だったから、教会で転職できるのは不思議じゃないか。

 本当に思わぬ提案だ。

 だが、思っていなかったのはこの場で提案されることであり、いつかは答えを出さないといけないと思っていた。

 だから、ずっと俺は考えて、そして答えを出した。


「俺は――この島にいたい」


 俺はサンダーの目を見て言った。


「そう思っていたよ」

「思ってた?」

「ああ。詳細は言わないが、俺にはこの迷宮で、簡単に魔石を貯める……まぁ、裏ワザみたいなものがあってな。他の島に行くにしても、この島でお金に換えられる魔石を増やして楽な生活を過ごしたいって思っていたんだ。でも――」


 彼女と離れ離れになるのは嫌だと思って、スライムイーターにフロンが殺されそうになったとき彼女のために何かしなくちゃと思って、いろいろと思って、思って考えてさらに考えて、俺は答えを出した。


「結局、俺は勇気がなかっただけなんだって思ったんだ。楽に金を稼げる環境から逃げ出してこの島から出るのが怖かった。だから、フロンさえよければ、この島から出たい。そう思っている」


 迷宮師として活動できなくても、俺とフロン、そしてテンツユのパーティなら、そこそこやっていけると思う。まぁ、迷宮から離れていたら、魔石を取り出すことはできなくても歩きキノコの経験値は入ってくるからレベルアップできるだろうし、大陸のどこかで新しい迷宮を作る場所が見つかるかもしれない。

 環境は変わっても、ここでの生活が無駄になることはない。


「そうか……じゃあ、明日は四人で島から出る。持っていけるものは持っていくから準備をする。それでいいな」


 サンダーが同意を求めるように尋ねると、俺は頷いた。

 そして――



 翌朝、海の上を船が行く。

 船の上ではトニトロスとサンダーが面白そうになにかを話していて、そんなふたりを俺とフロンは、浜辺から見送った。

 そう、俺たちは島に残ったのだ。

 その理由は、サンダーが島から出る同意を求めたとき、フロンが言ったのだ。


「すみません、私は島から出たくありません」


 最終回答を出すにはそれで十分だった。

 フロンが島に残るなら、俺も島に残る。

 サンダーとトニトロスは、俺たちの思いを尊重し、四人で鳥肉を突き合わせて再会を約束しあった。

 サンダーは今度こそドラゴンを倒すと息巻いていたので、絶対にまた島にやってくるだろう。


「申し訳ありません、ご主人様――私の我儘で……」

「いや、俺もフロンと一緒にいるのが一番だからな。それに、作りかけの迷宮を放置するのも後味悪かったし」

「理由は、お聞きにならないのですか?」

「フロンが話したくなったら話してくれたらいいさ」


 もうサンダーとトニトロスのふたりの姿ははっきりと見えない。かろうじて、遠くに小船があるとわかるくらいだ。

 あのふたりのおかげで、俺はいろいろと考えることができた。

 ただ、怠惰に暮らすスローライフではなく、いまを精一杯生きるスローライフを過ごしてやる! 本当にそれがスローライフと呼べるのかは別にして。

~あとがき小劇場(サンダーとトニトロス、船の上で)~

「それにしても、意外だったにゃ。てっきりふたりは来ると思ったのににゃ」

「そうか? 俺はあいつらは島に残ると思ってたぞ。なにしろ面白そうだ」

「そんにゃふうに考えるのはサンダーだけにゃ。島の秘密を少しでも知れば、普通の人間は住みたいとは思わにゃいにゃ」

「あっ!?」

「まさか――伝えるのを忘れたのかにゃ?」

「……ま、あいつらなら大丈夫だろ。怠惰の女神であるトレールール様に愛されたあいつらなら」

「――にゃんでトレールール様が出てくるのにゃ」

「あいつらに貰ったキノコでも焼いて食おうぜ!」

「待つニャ! 船の上で火を熾すときは最新の注意を――あれ?」

「こいつは……雪か?」

「こんな季節に……しかも海の上で雪……また一波乱来そうにゃ」

~~~~~~~~~~~~~

ということで、第二部終了です。

いかがでしたでしょうか?


~次章予告~

あとがき小劇場に登場した「雪」が新たな事件の火種だった。

追加されたのに活用されてない「アビリティ」システムの秘密が明らかになったり?

第三部「空から舞い散る雪結晶」をお楽しみください!

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