第二十二話「亀の甲羅」
戦闘回が続きますが、前回までのシリアス戦闘のノリで読まないでください
スライムイーターを落とした穴は撤去した。今は普通の床になっている。
俺とフロンはその場で休憩していた。
「ご主人様、申し訳ありません。私がご主人様を守るはずだったのに、逆に守っていただいて」
「いや、俺がもっと強ければな――まぁ、落下地点に落とし穴を作るみたいな卑怯な真似をして勝ったんだから、本当の勝利だなんて言えないけどさ」
「土魔法の中には足下に穴を作るものや、足下から針を突きだす魔法もあるそうですから、特段卑怯と言うほどではないと思います。注意深い魔物相手でしたら、僅かな地面の変化に反応して回避されるでしょう。さすがに迷宮の地面を変形できるのはご主人様しかいないと思いますけど」
最強の必殺技を思いついたつもりでいたが、この世界では普通のことだったらしい。しかも、回避されることもあるのだとか。あのスライムイーターも、もしも蔓が複数あったら落ちることなく自らを支えられただろう。
先ほどの戦いの痛みは大分マシになったが、まだ鈍い痛みは続いているな。
「ご主人様、MPが少し回復したので、失礼します」
フロンの手から出た光が俺の腹を優しく撫でる。
「気功といいまして、怪我を回復させるスキルです。風刃と同じく、レベルアップしたときに覚えた妖狐のスキルです」
「MPは大丈夫なのか?」
「はい。回復魔術よりも回復速度は遅いですが、その分MPの消費は少ないので、まだ余裕はあるようです……たぶん」
「たぶんって、それでMPが足りなくなって倒れたんだから、無茶するなよ。あ、でもマシになったからありがとうな」
俺はフロンに礼を言った。
でも、本当に無茶はしないでほしい。
その後、俺とフロンは暫く、二階層にとどまることにした。
スロータートルはほとんど部屋から動こうとしないし、数も増えないので今は放置だ。
それより、いつスライムやスライムイーターが発生してもいいように注意している。
そして、気付いたことだが、魔物が発生するときは、必ずだれもいないときに発生する。逆に言えば、誰か部屋にいるときは魔物が発生しないということだ。
最初はスライムイーターが現れたらいつでも刈り取れるように、Eの部屋にいたところ、一時間に三匹くらいの感覚でスライムが湧いてきた。フロンはMP切れなので狐火が使えないが、なんてことはない、消えない松明を近づければ溶かして倒すことができた。
どうも魔法に限らず火が苦手のようだ。
それで、スライムが出たらすぐに対処できるように、Dの部屋で待機していたところ、スライムは一匹も現れなくなったのだ。
スライムイーターは現れなかった。
どうも魔物によって現れる時間が異なるらしい。
「ご主人様、どうしましょう? 楽なのはいいですが、このままでは誰かがずっとこの場にいなくてはいけなくなります」
「そうだな……とりあえず、試しなんだけど――」
俺はそう言うと、消えない松明を五本交換しDとEの部屋の間に置いていく。できることなら木の板でも持ってきて封鎖したいところだが、そういうものはない。
「これで、いくらスライムが知能が低いっていっても、Eの部屋に行こうなんて思わないだろ」
「そうですね、これなら大丈夫そうですが……念のために私が注意しましょうか?」
「いや、実は迷宮師のレベルが上がってな。便利な機能が手に入ったんだ」
迷宮管理Ⅱになった時の変化は微妙だったが、迷宮管理Ⅲになったときの変化は大きい。
まず一番の変化は、設置できるものの種類が増えた。
いままでは、【水飲み場:10P、消えない松明:5P、落とし穴:10P】だけだったが、【飛び出す槍:30P、宝箱(G):50P】が追加されたのだ。
飛び出す槍は、物理攻撃ってスライムにはあまり効果が無さそうな気がするのと、少し危なそうなので保留にしているが、宝箱は設置したいと思っている。どういう効果があるのか気になる。
それに加え、魔物管理のメニューに通知機能が追加された。
特定の魔物が現れたとき、レアモンスターが現れたときなどに通知されるというスマホみたいな機能だ。
いまのところ、スライム、スロータートル、歩きキノコ以外の魔物が現れたとき、通知される設定にした。
「帰りに、スロータートルを見ていくか」
「はい」
目的の部屋に行く。
ウミガメくらいの大きさの亀が歩いていた。
これを殺すのか。
迷宮の魔物は、倒せば魔石とドロップアイテムになって死体は残らないので気分は楽だ。これが野生の亀なら、殺すのは躊躇するだろう。
ウサギとカメの童話を聞いてから、俺はカメが好きなのだ。
俺に気付いたのか、スロータートルはこちらに歩いてくるが、その速度は本当に遅い。楽々と裏側に回って、俺は石斧で甲羅をガンガン叩いた。
スロータートルは首をひっこめるが、さらに何度も甲羅を叩くと、死んだのだろう、消えてなくなった。財宝一覧を見ると、魔石(極小)と亀の甲羅が増えている。
「亀の甲羅か――投げたら敵を一網打尽できたらいいんだけどな」
「亀の甲羅は投げるものなのですか?」
「俺の知っている甲羅はな。まぁ、跳ね返って自分にぶつかることもあるから気を付けないといけないんだが……」
あのスロータートルの大きさなら、鎧として着るのもありか?
なんて思ってみたが、そもそもあの形状ってどうやって着るのだろうか? 一度分解しないと着られないと思う。
「ご主人様、もう一匹が近付いてきます」
「あ、もう一匹いたんだったな」
「亀の甲羅を投げるんですか?」
「いや、普通に叩くよ」
「……そうですか」
フロンは少しがっかりした様子だった。いったいなにを期待していたのか? あとで、ちゃんと冗談だって説明しないといけないな。
~あとがき小劇場~
ジョージ「そうだ! 歩きキノコが発生する部屋で甲羅をなげたら無限1UPできそうだな」
フロン 「無限1UP? 1UPってなんでしょうか?」
ジョージ「俺がもうひとり追加されるってことかな」
フロン 「ということはご主人様が無限に……お世話のしがいがありますね!」
ジョージ「あ、冗談だからな。本気にしないでね、フロン」
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次回で第二部終了!




