第二十話「二階層追加」
昼食を兼ねた慰労会のあと、俺たちはサンダーと話した。
「それじゃあ、サンダーとトニトロスはこの島でまだ仕事があるのか?」
てっきり、ドラゴンに負けたらもう帰るのかと思っていたが、仕事があるらしい。
「ああ。薬の素材の採取をしないといけないんだ」
「そもそも、そっちが本当の依頼にゃ」
とのことだ。この島はドラゴンが住んでいて、その魔力が流れ出しているせいか、質のいい薬の素材が取れるらしい。薬の素材については俺もフロンも異分野のことなので意味がない。
「そうだ、テンツユを連れて行ったらどうだ? こいつは優秀だぞ」
「このキノコが?」
「ああ。見本となる素材を見せたら、俺たちが見落とすような場所にある素材まで簡単に見つけてくれる。数を集める必要のある素材なら、絶対に役立つぞ。一度通った場所にある素材も覚えてるし」
サンダーとトニトロスは顔を見合わせた。
「本命の依頼は数が必要だから、助かるにゃ」
「テンツユって言ったな、さっき見つけたこの花なんだが、これを見たことがあるか?」
サンダーはそう言って、丸い薄青色の花をテンツユに見せた。
「キュキュキュ、キューっ!」
テンツユは森の奥の方を指さす。
「なんて言ってるんだ?」
「あちらの方で見たことあると言っているのだと思います」
フロンが言った。彼女はテンツユと一緒に行動していることが多いから、だいぶ意思疎通ができるようになったのだろう。
まぁ、いまのは俺もだいたいわかったが。
「そうか。よし、案内を頼む」
「よろしくにゃ」
サンダーとトニトロスは、テンツユを先頭に森の中に入っていく。
そして、俺たちだが――今日の午後は特別な仕事がある。
「フロン――迷宮の二階層を追加しようかと思う」
本当はレベル10になってからと思ったが、慎重になりすぎる必要はないと思った。サンダーとトニトロスの戦う理由がカッコよかったので、少し憧れたというのが一番の理由だが。
「二階層ですか?」
「ああ。さらに下の階層を作るんだ。たぶん、魔物が新たに生まれると思う。いきなり強敵が現れることはないと思うが、危険がゼロとは思わない。武器を持って行こうとおもう。フロンは得意な武器とかあるか?」
「武器ですか……私は手斧で十分ですが、スキルのある装備でしたら、扇を希望します」
「扇?」
「はい。武器を扱うには専用のスキルを修得しないといけません。ある程度強ければ無理やり武器を使うこともできますが、剣装備のスキルがなければ剣を鞘から抜くことすらできないこともあります。私は扇装備のスキルがありますから」
扇装備……扇が武器になるのだろうか?
まぁ、ゲームではよく見るからあるのだろう。
これは命に係わることだからな。装備は惜しまない。
魔石変換スキルを確認する。
【木扇:3M】
【銅扇:12M】
【鉄扇:20M】
交換できるのはこのあたりか。
ちなみに、高い扇となると、
【白金扇:3000M】
【金剛扇:5000M】
と素材も異なり、強そうになる。
魔石を全部還元したら、32Mになったので、20Mの鉄扇にして、俺は石斧を使うか。
あと、
【ウッドシールド:2M】
があったのでふたつ交換。
あと、服については、
【丈夫な服:4M】
【丈夫なドレス:4M】
を着ることに。
全部で30M使った。
「これはいい布ですね。火にも強そうなので、狐火が燃え移ることはなさそうです」
「そうだな――少し布が延びにくいが、着心地は悪くない」
これでもうファンタジー世界の住民になった感じだ。
ただ、武器が手斧に木の盾って、なんか原始人みたいな装備だな。
まぁ、一階層が歩きキノコで、二階層からいきなり強敵が現れることはないだろう。
危ないと思ったら二階層の入り口付近に落とし穴を大量に作って逃げればいい。
「それにこの鉄扇――使い心地がいいですが、このような高価な物を借りてもよろしかったのですか?」
フロンは鉄扇を広げて尋ねた。
貸したんじゃなくて、あげたつもりなんだけど……まぁ、仕事の備品と思ったら貸与でいいのか。
「ああ、装備に金(魔石)を惜しむつもりはない。命がかかってるからな。重くないか?」
「はい、飛びキノコを倒したとき、レベルが上がったので少し筋力がつきましたから」
「そうか――よし、行くぞ――二階層追加!」
迷宮の奥から地鳴りのような音が聞こえてくる。
なにも知らなかったら、震度二くらいの地震が起こっていると思うだろう。
振動が収まったので、地図を確認する。
これまでは水飲み場の東の部屋に地下に続く階段ができていた。
二階層には早速魔物がいることを示す赤い点が四カ所ある。
魔物確認で調べてみた。
【青スライム――2―D】
【青スライム――2―D】
【スロータートル――2―B】
【スロータートル――2―B】
「スライムか……」
「初心者用の迷宮では定番の魔物ですね。くっつかれると衣服を溶かされるので接近戦は避けたいですが、スライムは魔法等の攻撃に弱いので、私の狐火で対処できます。ただ、落とし穴に落ちることはないでしょうね」
「知能が歩きキノコより高いのか?」
「いえ、知能に大差ありませんが、スライムは垂直な壁くらいなら平気でへばりつきますので、そもそも穴に落ちないのです」
「スロータートルってのはわかるか?」
「亀の魔物ですね。甲羅は硬いですが背後から近付けば大した危険はありません」
「背後から?」
「噛みつかれたら危険ですから。本来は水辺に生息する魔物なので、水の中に足を入れたときに素足を噛まれてしまうケースが多いんです」
「落とし穴は有効だと思うか?」
「さすがに見え見えの穴に落ちるほど知能が低いということはないでしょう。別の罠なら有効かもしれませんが」
別の罠か……罠の追加ができるかどうかはわからないけれど。
とりあえず、スロータートルは場所さえわかったら問題なし。そして、スライムはフロンの狐火で対処可能。
どちらも余裕そうだ――緊張して損したかな?
「ん?」
再度地図を確認したら、追加で赤い点が現れた。スライムがいる部屋の隣の部屋だ。
【2-E:スライムイーター】
また弱そうな名前の魔物が現れた。
次回、ようやく戦闘らしい戦闘です。




