表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/92

第二話「海での目覚め」

 目を覚ましたとき、俺がいたのは――どこだろう?

 海岸だろうか?

 高校を卒業してから海を見る機会なんて一度もなかったから懐かしい気持ちにもなる。

 振り返ると森があった。

 ここが異世界? 電車で都心から一時間、バスで二時間、さらに徒歩三十分で辿りつくような人が滅多にこない海岸だったとしてもおかしくない光景に、さっきまで見ていたのはなにかの夢だったのではないかと錯覚させる。

 スローライフを過ごすには快適な環境なのだが、異世界というのなら、異世界である証拠を見せてほしいところだが、ここでいきなりドラゴンに襲われでもしたらゲームオーバーだ。

 ゲームのように死んだら教会で復活すればいいのだけれども、そもそも俺は教会どころかセーブポイントにも辿り着いていないのだ。

 一応、さっきまでのことがすべて夢で、俺が奇跡的にこの海岸に辿り着いた――という可能性があるので、海岸に流れ着いていた木の棒を使い、SOSと書いておく。

 そして、俺は海岸沿いに歩くことにした。

 漫画だったら、海岸沿いに歩いていって、再びSOSの文字を見つけた俺が、


「無人島かよっ!」


 と叫ぶシーンなのだろうが、現実は厳しい。そもそも海岸沿いに進めないのだ。途中で崖になっていて、海を泳いでいこうにも崖の下の海は波が荒い。泳ぎは苦手ではないが、リスクのほうが高すぎる。

 俺は諦めて引き返し、反対側を見たが、結局のところ同じような崖に辿り着いた。

 結局、どこからか森に入っていくしかなさそうなのである。

 助けを待とうにも、そろそろ喉が渇いてきた。

 このままでは、明日はなんとかなるかもしれないが、明後日には脱水症状になる。

 それまでに飲み水の確保、それと食料、拠点の確保くらいはしておきたい。

 これが本当に異世界だったとして、最初に考えないといけないのが現在位置の確認、次に考えないといけないのが水の確保、食料、拠点の確保だとするのなら、これはもう異世界ファンタジーではなく、ただの無人島サバイバルだ。

 幸い、太陽はまだ高いところにあるので、俺は森の中に入っていった。

 森の中はところどころ藪が広がっていて、素手で通り抜けるのは不可能と思える場所が続く。

 獣道すらない森の中、それでも通れる場所を探していく。

 この時の俺の心の中は、「ド〇クエはド〇クエでも、どうせならビ〇ダーズの方ならよかったのに」という気持ち――つまり不満に溢れていた。

 まぁ、魔物といきなりエンカウントするよりかはマシなんだけど。なにしろこっちは銅の剣やこんぼうどころか檜の棒すら装備していないのだから。


「あれ?」


 思わず立ち止まった。

 歩ける場所を辿っていったその先にあったのは、広場のような場所と、間口の広い洞窟だった。

まるで導かれるように辿り着いたその場所――俺はその入口に立った。

 中は暗く、奥の方は見えない。


「わぁぁぁぁぁっ!」


 大きな声を上げてみた。反響音から、かなり奥まで続いているのがわかった――その時だった。

 洞窟の奥から蝙蝠が一斉に飛び出してきて、俺の真上を通過――そのまま空の彼方に消えていった。

 真っ暗なこともさることながら、蝙蝠の巣ともなると中に入る気はさらさらなくなった。ここで踵を返して他の道なき道を探すべきなのだろうが、何故か俺の足は一歩だけ前に進んだ。

 その時だった。


【迷宮候補地を発見しました。この場所に迷宮の基礎を作りますか?】


 なんだこれっ!?

 いきなり頭に響く声――俺はどうしたらいいかわからないが、状況が変わるのなら――と頷いた。せめて飲み水だけでもあれば――そんな願いを込めて。

 その時だった。

 洞窟の入口が変形した。

 あくまで自然な洞窟の入り口に見えたその場所が、まるで地下鉄の入り口のような感じに変形し、しかも地下に続く坂道は階段になったのだ。

 しかも、壁や天井は不思議な光を放っている。


「…………(ゴクリ)」


 俺は生唾を飲み込んだ。

 どうやら、これが迷宮らしい。

 俺は階段を下りていく。

 かなり深かった洞窟だ。きっとこの迷宮もかなり深いに違いない――そう思って階段を下りていき、曲がり角に差し掛かる。

 こういう場所から魔物が飛び出してくることがあるんだよな――なんて思いながら慎重に進む。

 曲がった先は行き止まりであり、そこにあるのは水飲み場だけだった。

 ライオンの口のような場所から水が湧き出て、下の排水溝(?)の中に流れていく。

 水からは匂いはしない。

 軽く指先を入れてみた――冷たい水だ。

 両手で水を掬い、少し舐めたあと、俺はそのまま水を飲み干し、今度は口で直接水を飲んだ。生水を飲んではいけないなんてサバイバルの基礎があるが、そんなことは完全に無視だ。

 水を腹いっぱい飲んだ俺は大きく息をついて、改めて現在の状況を確認した。

 これが迷宮――迷う要素がまったくないんだけど。

 階段一本道。

 迷ったとすれば、水を飲むべきか飲まざるべきか。それだけだった。

 もう少し水を口に含む。


「まったく、困ったことをしてくれた」

「――ごほっ!」


 突然聞こえてきた声に俺はびっくりし、含んでいた水が変なところに入って思わずむせてしまった。


「ごほ……え?」


 振り返ると、階段の上に白い扇情的な服を着た、中学生くらいのツインテールの女の子がいた。

 浜辺からこの迷宮まで、比較的穏やかな道を進んできたが、それでもそんな服装で歩けるような場所じゃなかったのに……それに、この声、どこかで聞いたような気がする。


「妾は女神トレールール――そう言えばわかるか?」


 そうだ! あの時、マトリョーシカから聞こえてきた声が、この人の声だった。

 って、女神様っ!?


「本物の女神様なのですか?」

「そういうのはいい。面倒だ。それにしても、妾としたことが、間違えて迷宮師を授けてしまうとは……またコショマーレに叱られてしまう。本当に面倒だ」


 コショマーレって誰だ?

 別の神様の名前なのだろうか?


「あの、女神様?」

「そう! 妾は女神なの。にも拘らず、こんな想定外なことをしてくれて――まぁ、過ぎたことは仕方のないことと諦めるから、これを読んでせいぜい瘴気の浄化に励んでくれ」


 女神トレールール様はそう言うと、俺に一冊の本と、ひとつのホイッスルを渡した。


「その本には迷宮師の基礎が書かれておる。ホイッスルは、面倒だが、それを迷宮内で鳴らしたとき、妾が一度だけ助けてやろう。言っておくが、迷宮の外で鳴らしてもむだだぞ。女神が顕現できるのは迷宮の中を含め限られた場所だからな。それではな」

「え、もっと聞きたいことが――」


 女神トレールール様はそう言うと、俺が声をかけようとしたのを無視して消えてしまった。なんて神様だ――いや、神様は本来、こういうお方なのかもしれないな。


 俺はそう思い、本を捲った。


【ステータスオープンと唱えればステータスが見られる。管理メニューオープンと唱えればメニューが見られる】


 日本語でそう書いていた。

 それだけ書いていた。

 それ以外は書かれていない――残りは全部白紙だった。

 不親切過ぎるっ!

 思わずホイッスルを吹いて女神様を呼び寄せたくなったが、一度しか助けてくれないって言っていたし、それは思いとどまった。


「ステータスオープン」


 そう言った。

……………………………………………………

名前:ジョージ

種族:ヒューム

職業:迷宮師(神)Lv1

HP:20/20

MP:15/15

物攻:13

物防:12

魔攻:21

魔防:24

速度:10

幸運:10

装備:ジャージ スニーカー

スキル:迷宮管理Ⅰ

取得済み称号:なし

天恵:職業【迷宮師(神)】解放

……………………………………………………

 おぉ、凄い。なんか頭に文字が浮かぶ。

 本当にゲームみたいだ。ただ、このステータスが低いのか高いのかはまったくわからない。あと、俺の名前、間違えている。

 俺の名前は、桜木城治さくらぎじょうじだ。

 ジョウジであって、ジョージではないのだ。外国の人からは絶対に間違えられるイントネーションの問題だけれど、やはり気になる。

 ステータス画面は、消えろと念じたら勝手に消えてくれる。便利だ。


「管理メニューオープン」


 今度も別の文字が浮かんだ。

……………………………………………………

現在所持ポイント:90P

▶迷宮状況確認

▶迷宮拡張

▶迷宮管理

……………………………………………………


 どうやら、さっきのステータスと違い、確認できるらしい。

 迷宮状況確認を選択。


……………………………………………………

▶地図確認

▶収入確認

▶魔物確認

▶財宝確認

……………………………………………………


 地図の確認の必要はなかった。一応確認してみたけれど、階段と水飲み場、迷宮の前の広場が表示されるだけだったからだ。

 収入確認すると、【9P/日】とあった。どうやら、一日あたり9ポイントの収入があるらしい。これがゲームだとするのなら、このポイントで迷宮の管理を行うことができるのだろう。臨時収入のポイントがあるかどうかはわからない。

 魔物確認、財宝確認をしても、【現在迷宮内に魔物はいません】【現在迷宮内に財宝はありません】と表示されるだけだった。

 次に、迷宮拡張を確認。


【一階層追加:必要ポイント100P】


 と赤文字で表示されていた。いまは90ポイントしかないからな。

 最後に、迷宮管理だ。

 魔物召喚、財宝設置は赤文字で表示されていた。ポイントが足りないのか、それとも一階層を追加する必要があるのかはわからない。

 設備設置の項目だけがあり、


【水飲み場:10P、消えない松明5P、落とし穴10P】と表示されている。


 設置できる場所は、階段ではなく迷宮の入り口とその周辺だった。

 試しに、迷宮の入り口に消えない松明を設置してみる。

 俺はメニューを閉じると、階段を上がった。

 洞窟の入り口に松明が取り付けられていた。

 外してみようとするけれど、台座は固定されているが、しかし取り外しは自由のようだ。

 とりあえず、これで飲み水と火、そして雨風を防げる拠点。

 サバイバルにおいて重要な三つを確保できた。これは大きな前進だともいえる。

 でも――


「せめて、地図確認でもっと広範囲に検索できたらなぁ」


 そうしたら、近くに町があるのかくらいわかるのに。

 あと、さっきは気付いていてあえて無視していたけれど、【迷宮師(神)】の神っていったいなんなの? なんか、こっちの世界に来るときにも、(神専用)とか聞こえた気がするんだけど、本当になんなの?

 そんな俺の疑問に、女神トレールール様を含め、誰も答えてくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
↑一日一回投票お願いします↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ