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第十五話「フロンのいない生活」

 布製のテントが広場に張られた。俺も手伝ったけど、あまり役に立たなかったが、その分テンツユが頑張ってくれた。

 そして、俺とフロンは迷宮の中で休憩する。

 とりあえず、ガタガタのテーブルの上でポイントの収支計算や、海草や貝、ブルーツなどの食材、その他資材の在庫を書き記していた。

 どうも在庫のチェックというのは定期的にしないと落ち着かない。

 倉庫の魔石と食用キノコの数も確かめる。


「やっぱり人数が増えたら収入が増えるんだな」


 迷宮のポイントが、サンダーたちが来るまで一日23ポイントくらいだったが、いまは95ポイントにまで増えていた。これは思わぬ収益だ。

 俺とフロンふたりで23ポイント、サンダーとトニトロスふたりで72ポイント。

 単純にあのふたりは俺たちより三倍以上のポイントが割り振られている。


 ただ、今日はフロンの様子が違った。


「フロン、サンダーのこと、信用できないのか?」

「はい、正直――」


 だよな。フロンは食事中もどこか警戒している様子だった。

 サンダーも警戒されていることには気付いているだろう。

 そのため、一応テンツユの寝床は水飲み場の前にした。あそこならなにかあったらすぐに気付くだろう。

 部屋の入り口に落とし穴でも仕掛けようかとも思ったが、それはやめた。

 翌朝、寝ぼけた俺が穴に落ちてしまいそうだ。というのも、俺はそれほどサンダーのことを信用していないわけではなかったのだ。

 なんとなく、会社の先輩に似ていたからだ。

 ブラック企業の仕事が嫌で、上司を書類の束で引っぱたいて会社を辞めてしまったが。

 でも、会社を辞めてからも俺のことをなにかと心配してくれて、時々食事に誘ってくれた。とても世話になった恩人だ。

 それに、サンダーのことを疑っていない――というより、疑っても仕方がないと思う理由は別にある。


「ドラゴンと戦うようなやつだぞ? 俺たちに危害を加えるつもりなら、最初から殺すことも脅して無理やりいうことを聞かせるのも可能だろう?」

「それはそうなのですが、彼の名前が少し気になりました」

「名前? ええと、サンドロフだっけ?」


 名前を覚えるのは苦手ではないが、しかしこうも横文字ばかりだと混乱してくる。

 サンドロフか。

 この世界の名前の基準はわからないけれど、おかしいのだろうか?


「私が気になったのは、ミドルネーム、そしてラストネームの方です。サンドロフ・フォン・クロワ。ミドルネームを持つ人間はたいてい貴族や王族です。そして、クロワという名前。クロワドラン王国において、この名前は王位継承権を持つ王族にゆかりのある人物が使うことを許されている名前のはずです」

「え? じゃあ、サンダーは王子様ってことか?」


 そう言われてみればどことなく気品が……ないな。王侯貴族の雰囲気はまるで感じなかった。むしろ海賊と言われた方が納得する。


「いえ、おそらくは王位継承権の低い分家の者でしょう。王子ならクロワではなく、クロワドランと名乗るはずです。しかし、どちらにせよこのような無人島でドラゴンを狩るような生活をする者ではありません――名前が本物なら」

「王族の名を騙ってる可能性があるってことか」


 んー、そんなことをする奴には見えないし、王族を騙る理由もわからない。

 まぁ、サンダーも俺の事情を探ろうとしなかったし、俺もサンダーの事情を探るのはやめておこう。


「考えても仕方ないし、そろそろ寝るか」

「はい、そうしましょう」


 昨日の夜から、俺たちはアイマスクを着用して寝ている。これも魔石と交換して手に入れたものだ。やっぱり明るくて睡眠が浅くなるからな。

 フロンの寝顔を見ながら寝ることができないのは少し残念でもあるけれど。

 南大陸か。

 サンダーの言い方からして、南大陸は東大陸と違って獣人への差別は少ないんだろうな。それに、本当にサンダーが王族の分家だとしたら、多少なりとも金を持っていることになる。ここで恩を売っておけば、多少の無理を通せるかもしれない。


「なぁ……フロン。もしもサンダーが良い奴で――」


 俺は言いかけて、言葉が止まった。

 横からフロンの寝息が聞こえてきた……どうやらもう寝たらしい。


 もしもサンダーが良い奴で、俺の頼みを聞いてくれるなら――


 フロンはサンダーと一緒に南大陸に行くか?


 そう言おうとして、俺は言葉が出なかった。

 たぶん、俺は暫くこの迷宮で過ごすだろう。南大陸に迷宮を作れる場所があるとは限らない。他の大陸に移り住むにしても、魔石などを貯めてお金に換えられるようになってからだ。

 しかし、フロンは違う。

 彼女はここにとどまる理由はなにもないのだから。

 彼女の幸せを思うなら、彼女はサンダーと一緒に南大陸に行くべきだと思う。

 そうだ、俺も魔石が溜まって一生遊んで暮らせるようになったら、それから追いかければいいじゃないか。

 そう思ったのだが――言葉が出なかった。


 フロンのいる生活になれて、彼女のいない生活は俺には想像できなくなっていた。

 


 アイマスクのサイズが合っていないのか、耳の付け根がゴムに引っ張られて少し痛い。それに、昨日はいろいろと考えすぎて少し寝不足だ。

 あまり寝ていないのに、いつもより早めに起きてしまった。

 横を見て、フロンが寝ていることに俺は安堵の息を漏らした。


 ってあれ? なんで俺は安心したんだ?

 俺は自問した。


問:主人公がフロンが寝ていることに安堵した理由をひとつ答えなさい。


ア:まだ起床時刻ではないので、フロンを起こさなくてよかったと安心したから。

イ:フロンがいなくなったらと考えていたので、まだ隣にいることに安心したから。

ウ:サンダーが要注意人物のため、フロンが彼に襲われていないことに安心したから。

エ:フロンがまだ寝ているので、これからいろいろと悪戯をできると安心したから。


 ……って、なんで国語の問題風に自問しているだよ。そして「エ」の選択肢は絶対にない……とは言い切れないけれど……寝起きの尻尾とかモフモフしたいけど。

 うん、たぶん「イ」だよな。フロンを起こすのは忍びない。

 ということで、俺は彼女が起きないようにそっと(掛け布団から僅かに出ているフロンの尻尾を横目で見ながら)ベッドから出て、朝のポイントチェックをした。

 しかし、そのフロンを起こさないように行った行動――それはまったくの無意味だった。

 なぜなら――


「キュキュキュ、キューっ! キュー!」


 テンツユの声が部屋の外から聞こえてきた。

 それは危険を知らせる声だったのだ。


本日はここまでです。

明日は二話更新!

SNSで、ヒロインはフロンじゃなくてテンツユだろって言われましたが、テンツユはキノコなので性別はありません。というか、テンツユは菌の集合体なので個体ですらありません。

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