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【短編】

いつもキレイに使っていただいて、ありがとうございます

 道を歩いていると急に便意に襲われて、僕は近くのコンビニに駆け込んだ。


 何とか事なきを経て、ほっと安心した僕は、目の前の張り紙に何気なく注目した。

”いつもキレイに使っていただいて、ありがとうございます”

 その文言に少々の疑問を持った。

(ここのコンビニのトイレは初めて利用するわけだから、いつもキレイに使っていると言われてもなぁ)

 まあ、捉えようによっては”一度も使ったことがない”というのは、一度も汚す機会が無かったわけで、その意ではキレイに使っていると言えるかもしれない。

 しかし、”使ってもいないものを使っている”とされることの違和感は拭えない。しかも、”いつも”と前頭に付けられている。数回利用した程度の人であろうと”いつも”使っているとは言えないだろう。

(ひょっとして、これは特定の誰かに向けられたメッセージではないのか?)

 僕は、そう解釈する方が納得がいくように思えた。だって、どう考えても僕へ向けられたメッセージであるとは思えない。そして、多くの人間にとってもそうだろう。コンビニのトイレを数回以上利用する人間というのは限られる。店員か常連客、または近所のトイレ無しボロアポートの住人、とか……

(僕に宛てられたものではないメッセージを、勝手に僕宛てではないかと勘ぐってしまった。もしも僕と同等の立場の人が、このメッセージを誤って自分に向けられたものと勘違いしてしまって、他人に向けられたはずの感謝の意を勝手に受け取って喜んでしまったとしたら……)

 僕は、ゾッとした。そんなに(おぞ)ましいことはない。人間が無自覚に他人が得るべき(えつ)を享受してしまう……。それは、僕にとっては背中がむず痒くなる悪徳であった。

(これに気づいてしまった以上、僕はこれを何とかしなければならないだろう)

 僕は、ズボンを上げると、入り口の引き戸の傍にぶら下がっている”清掃点検カード”なるものの横に、ボールペンがあるのを見つけた。

 僕は、それを手に取ると、張り紙の上の方の余白部分に文言を付け足した。


”斎藤さん、いつもキレイに使っていただいて、ありがとうございます”


 斎藤さんというのは、”清掃点検カード”に最も多くの名前が書きこまれている人物だ。この店の店員で、多くのシフトに入っていることが推察される。斎藤さんであれば、いつもこのトイレの清掃を行っているので、最も”いつもキレイに使っていただいる”人物だと言えるだろう。

 僕は満足してトイレから出ることが出来た。






いつもキレイに使っていただいて、ありがとうございます -終-

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