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90 雷鳴

 ランスの目からはとめどなく涙が溢れ出ていた。ウンドの街より命からがら脱出し、王都に続く石畳の街道をがむしゃらに走っているが故に足の爪は折れ、肉球の皮膚は裂け血が滴っているからと言う訳では無い。


 逃げ出したからである。守ると誓った女性に逆に守られ、あまつさえ優しく笑顔で逃げる様にさとされた。そこで、それでもなお踏みとどまって共に敵に立ち向かい戦えた筈なのに、恐怖に駆られ心をくじかれ遁走した。その場から逃げ出した。


 それが辛かった。悲しかったし、何より恥ずかしかった。エルザを見殺しにしたのだ。自分とエルザ二人がかりで立ち向かっても歯が立たなかった相手である。エルザ一人残しては彼女に勝ち目は無いであろうことは明白だ。すぐにでも引き返しエルザに加勢すればよい。そう思うのだがランスの足は止まることなく、ウンドの街から遠ざかっていく。彼は自分自身を裏切ってしまった。血の滲む足からの痛みはランスの心には届か無い。とめどなく流れる涙は後悔と恥辱にまみれた心から流れ出ていた。


 「ウウ… ダ、ダレカ… 」あえぐ彼の口からは小さくか細い呟きのような声しか出ない。助けを求め様にも街道には誰の往来もない。当然だ、今日ウンドには敵の攻撃があると周辺の村や街には通達があらかじめされている。人々は家にこもり戸にはしっかり戸締りがなされているはずである。それが役に立つかはさておいて。


 だから彼はただ走ることしか出来ない。友を見捨ててただ無様に泣くことしか出来ない。


 そんななかランスの耳がピクリと動く。何か音を聞いた。微かな音だが地面を蹴る音だ。一つでは無い。無数の地面を蹴る音が聞こえたのだ。その音は街道の先から聞こえてくる。ランスは咄嗟にそちらの方に走り出した。そうしてその音が何なのかすぐに理解した。何十頭もの馬の走る音だったのだ。

 その馬達はたくましく立派な体躯をしておりその背にはそれまた立派な鞍を乗せていた。そしてその鞍にまたがるのは全身に見事な鎧を身につけた騎士たちであった。


 それを見とめたランスは慌てて転がるように騎士たちの前に飛び出した。それを見た騎士たちは慌てて手綱を引き馬を止める。馬たちはいななき急停止する。


「なんと! 魔物が飛び出して来おったか! 命知らずめ切り捨ててくれるわ! 」


「オ待チ下サイ! 私ハ敵デハアリマセン。オ願イガアルノデス、助ケテ頂ダキタイノデス。」


 ランスは両手を合わせすがる様にたのみ込む。だが向けられたのは救いの手では無く剣だった。


「なんと面妖な! 人語を話す魔物とは、怪しい奴め! そこに直れ、叩き斬ってくれるわ! 」


 騎士たちの先頭に立ち剣を突きつけてきた男にそう怒声を浴びせられるも、ランスは引くことなくさらに一歩踏み出す。


「エエ、エエ、私ノ生命ハ差シ上ゲマス。デスガ、ドウカ友人ノ生命ハ助ケテクダサイ。人間デス、友人ハ人間ナノデス! 」


「な、何を! 魔物め我輩をたぶらかす気か!不届者めが我が剣の錆にしてくれる! 」


 剣を上段に掲げる騎士の男は拝むランスの言葉に耳を貸すことなくがなりたて剣を振り下ろさんとする。その時後方から澄んだ通る声が聞こえる。


「待て、モントバーン。剣を下げよ。」


 そう言って出てきたのは銀に輝く壮麗な甲冑に身を包んだ騎士であった。その騎士は馬から降りランスに剣を突きつけているモントバーンと呼ばれた男の前に歩み出てくる。


「団長… 」


「コボルトの彼が我々の前に出てきたのは何か理由がありそうだ。話を聞いてみようじゃないか。」


「な、何を仰るのです! この者は魔物ですぞ、それに奇しくも人語を話します。」


「長く生きたコボルトは人語も話すと言う。不思議ではないさ。」


「ですが… 」


「何度も言わせるな。下がっていろ。心配しなくても良い。」


 団長と呼ばれた男はモントバーンを制し下がらせると、くるりとランスに振り向いて兜を脱ぐ。現れたのは赤毛に、眦の切れた目と端正な顔立ちを持った青年であった。彼は兜を脇に抱え、ランスを見つめ少し微笑む。


「君は友人を助けたいと言ったね。しかも人間の友人を。」


「ソウデス。カケガエノ無イ大切ナ友人ナノデス。ソノ友人ガ危機ニ瀕シテイルノデス、ドウカ御力ヲ、オ貸シ下ダサイ。」


「ふむ。助ける為には命を差し出すと言ったね。」


「ハイ。私ハ魔物デス。信用デキ無イ事モ分カリマス。デスガ彼女ハ掛ケガエ無イ大切ナ友人ナノデス。私ノ生命デ良ケレバ幾ラデモ差シ上ゲマス。デスカラ、ドウカ… 」


 そう言ってランスは泣き腫らした目をつぶり頭を深々と下げる。


「そうか、わかった。では君の生命、私が貰い受けよう。」


 そう言って騎士の青年は腰から下げていたサーベルを抜く。その言葉と抜刀されるサーベルの音を聞いてランスはより強く目を閉じる。


「君の名は何という? 」


「ランス、デス。」


「良い名だ。ではそこに跪くがいい。」


 そう言い放たれて観念したランスはその場に跪く。強く目を閉じうなだれるランスの肩にサーベルの切先が触れる。しかし続く言葉は思いもよらないものだった。


「友のために生命を投げ出せる気高き精神を持つ者ランスよ。我、ルーク・シルヴァーン・ランチェスターの名において汝に騎士号を授与する。」


「エ?」そう呟いたのはランスだけでは無かった。周りの騎士たちも一様にランスと同じく固まっている。一瞬の沈黙を破り、一歩前に進み出て来たのは細身の甲冑を身につけた小柄な女性騎士だった。


「ルーク様、いきなりコボルトを騎士にしてしまうのはいかがなものかと… 」


「そうだね。まずは騎士見習いからだね。ランス、君は私の従者となれ。丁度いい。エレオノール副団長、彼の手当てをしてやってくれ。」


 そう言ってルークは有無を言わせぬ笑顔でエレオノールを黙らせると、サーベルを納刀し「これをランスに。」と言いつつそのサーベルをエレオノールに手渡す。そして自ら乗っていた馬に結えていた銀色の槍を手に取りランスに向き直り目線を合わす。そうして自身の眼前に槍を担い構える。


「ランス、君は友のためによく戦った。その傷ついた姿、流した涙が全てを物語っている。そして友のために生命を投げ出す覚悟を見せた。恥じなくていい、誇るのだ。君の生命は名誉と共に私が預かった! そして我がシルバーランスにかけてランスの友を救う事を誓う。」


「ルーク… ルーク・シルヴァーン・ランチェスター… 様。シルバーランスノ、ルーク様… 」ランスはそう独り言ちるや目を大きく見開き驚嘆した顔でルークを見つめ絶句する。


「そうだよランス。我が槍の名を名付けられし勇気ある者よ! 汝の気高さと強さを我が槍に宿らんことを! そして汝と我の敵を打ち破らん!」


 そう言うやルークの周りがピリピリと帯電し始める。うっすらと雷をまとったルークはエレオノールに振り返ると口を開く。


「ウンドの街までは後どれくらいかな? 」


「あと一里ほどですが。まさか… 」


「うん。それくらいの距離ならば馬を使うより走った方が早いな。先に行って暴れて来るよ。」


「暴れてって… ル、ルーク様、あなたは王都騎士団の団長なのですよ!? そんな隊の規律を乱すような… 」


 困惑した顔のエレオノールにルークは爽やかな笑顔を向ける。


「副団長、あとの事は頼んだよ。」


 エレオノールに向かいそう言うやルークはピリピリと帯電する身体を翻すや声高に叫ぶ。


「我が名はルーク・シルヴァーン・ランチェスター! 金のたてがみを持つ雷の精霊グルファクシに帰命する者なり。グルファクシよ我に雷鳴の如く千里を駆ける力を与えたまえ! 」


 ルークがそう告げるやいなや、彼は雷光を引き猛烈な速度で飛び去った。残った者達はあまりの唐突さに口を開けたまま暫く放心していたが、やにわに我に返ったエレオノールに叱咤される。


「皆!呆けている場合ではない! ランスの治癒を行い直ちにウンドへ向かう! 」


 エレオノールの号令に騎士達は慌ただしく動き始める。ランスは奇跡の様な邂逅にただただ驚き打ち震えた。



 魔力の尽きたエルザは全身がわななき立つのもやっとでいたが、さりとてヴィルヘルミナの猛攻に手心が加えられる筈もなく窮地に立たされていた。震える膝を叱咤し逃げ惑い、なけなしの魔力で結界を張るがヴィルヘルミナの魔力に晒されるだけでその結界は大きく揺らぎぐらつく。エルザは喘ぎながらも今にも崩壊しそうな結界を補強するために呪文を詠唱する。


「はぁ、はぁ、はあ… ドルン! ドルン! ドル… ッガハ!」


 エルザはいともあっさりと結界をヴィルへルミナに破壊され、さらには腹部を蹴り上げられる。たまらず地面に膝を突いたエルザは胃からせり上げてきた吐瀉物を辺りに撒き散らしうずくまる。


「ゲホッゲホッゲホ!…ウグエ! 」


 えずくエルザの頭部を踏みつけにするヴィルヘルミナは高らかと嘲笑の嬌声をあげるや、その顔を蹴りあげる。

 たまらず吹き飛ぶエルザは後方の地面に2度3度身体を打ち付けられその場に這いつくばる。魔力の尽きた身体を痛めつけられもはや立ち上がる体力も無い。


 エルザは屈辱に唇を噛み締める。もはや魔法で相手にされていない。黒魔導師であるヴィルヘルミナに蹴り上げられ踏み躙られている。エルザは魔法で戦い、魔法で打ちのめされるのであれば魔法使いとして悔いなく終わりを迎えられたのではなかろうかなと思う。魔力の尽きた身体をまるで虫ケラの様に踏みにじられるのは辛かったが現実とはそう言うものである。最後に一矢報いてやりたいが、もはや指ひとつ動かす事は叶わない。

 

「アァーハッハッハ! 惜しかったねぇ、人間の小娘にしては中々の使い手だったケド相手が悪かったね。」


 そう言ってヴィルヘルミナは悠然と倒れ伏すエルザのもとへやってきて再度頭を踏みつける。エルザの目には涙が滲むがどうする事も出来ない。それを見てヴィルヘルミナは嗜虐的な笑みを一瞬浮かべるがすぐにその口元を不快に歪め口を開く。


「しょうもない人間の小娘だと思っていたが、相剋属性の魔法を束ねて放つどころかエルコニグ様の禁呪まで扱うとは驚いたよ。ただ魔力が練りきれていなかったね。私とあと数年出会うのが遅ければ、もしかしたら結果は違っていたかも知れないがね。」


 そう言うヴィルヘルミナの目には恐怖と安堵の色が浮かんでいた。魔力の絶対量は体内で練り上げてきた時間に比例する。戦士や剣士の様な肉体を武器とする戦闘職が歳をとると衰えるのに対して優れた魔法使いが皆高齢であるのは練り上げてきた魔力が長期にわたる為である。


 齢五百歳を超えるヴィルヘルミナから見ればエルザなど赤子に等しい。そんな小娘からは考えられぬ魔力量を誇り、相剋属性の魔法をさしたる詠唱も無く幾たびも放つだけでなく、挙げ句の果てにはたった一人で禁呪までも発動させた。魔族であってもその身を滅ぼしかねない禁呪を人間の小娘ごときが発動させて、さらには五体満足に無事でいられるなど誰が考えられるだろうか。

 榛荊の魔王エルコニグが数十年という長い年月をかけて編み出した禁呪である。途轍もない魔法である事は魔族なら誰でも知っている。「王殺し」の異名がついている事からもその凄まじさが推し量れようものである。


 ヴィルヘルミナにとっては榛荊のエルコニグの配下である事が自身の身を守ることになった。禁呪構築の術式や理論、属性までも榛荊のエルコニグから教授されていたからだ。エルコニグの配下の魔法使い達は、魔法のさらなる研鑽と熟達のために榛荊の魔王の知る全ての魔法の術理を教え授けられていた。エルコニグにとっては自身の魔法術理を詳らかにしてもなお揺るがぬ絶対的な強さを誇るが故の事ではあるのだが。


 榛荊のエルコニグが放つならいざ知らず、ヴィルヘルミナよりも劣る魔力量しか持たぬエルザの放つ禁呪はどれだけ強力無比であろうと魔法レジスト出来る事は明白なのである。ヴィルヘルミナはそう考えていた。


 ヴィルヘルミナの魔力を自分の身体を生贄に吸収した。それだけでは身体が崩壊するので、多元異世界からの魔力の並列処理で生贄に捧げ崩壊していく自身の身体をエルザ八人分の魔力で再構築させ、あとの三人分の魔力で禁呪を発動させた。回復にエルザ八人分の魔力を使ったのはそれまでの戦いで傷を負い体力と魔力を消費していたからである。人数の割合が逆であったならばヴィルヘルミナを倒せたかもしれないがエルザにはその選択肢は無かった。ただでさえ損壊しているウンドの街への被害が拡大するだけでは無い。何より側にランスがいたからだ。彼も巻き込んでしまうかもしれないと思うとあまりに強力な魔法を使う事が憚られた。


 焦燥と怒りが織り交ぜになっている表情を浮かべ、エルザを踏みつけにしているヴィルヘルミナが口を開く。


 「まあ、お前に次は無いがな。お前は危険だ。今ここで頭を踏み抜いてブチ殺してやる。」


 エルザを踏みにじっている足に力が込められる。エルザはもうここまでかと目をつぶる。


 瞼の奥に浮かんでくるのはロンの顔であった。彼は無事でいるだろうか? ヴィルヘルミナに匹敵する魔力を持つ者の気配がウンドの街のそこかしこからする。ロンのことが心配だ。それにランスは無事に逃げられたであろうか?

 兄の持つ豪槍シルバーランスの名をつけたコボルトの友人は無事にウンドの街から抜け出せただろうか。


 エルザがそう考えた矢先、空気が帯電するのがわかった。彼女が懐かしくよく知る感覚だった。


 そう思った瞬間エルザの頭部を締め付けていた圧力が消える。思わず目を開けたエルザが眼前に見たのは銀色に輝く槍を持った騎士の背中である。エルザを踏みつけにしていたヴィルヘルミナは吹き飛ばされ地面に這いつくばっていた。


 「え… 兄様? なんで? 」


 エルザは我が目を疑った。目の前には王都の守護者と呼ばれる王宮騎士ルーク・シルヴァーン・ランチェスターが立っているのだ。


 エルザ・サリヴァーン・ランチェスターの実兄であるルーク・シルヴァーン・ランチェスターであるが、エルザはあまり口をきいた記憶がない。歳が離れているうえ王宮騎士であり多忙であるからというのもあるが、卓越した槍術の使い手である優秀な兄と違い身体も小さく非力で槍も上手く扱えないエルザは魔法研究に自身の適性を見出し、そちらに没頭してしまった。

 ランチェスター家流槍術を継承する一族の中で、ある意味で魔法に逃げてしまった自分に少なからず負い目を感じているエルザは、兄から向けられる鋭い視線に無言の圧力と居心地の悪さを感じていた。


 自分は兄に嫌われている。そう思っていたからこそ王都を離れウンドにやってきたのだ。


「何故もなにも、エルザが私に助力を求めたのではないか。だから来たのだ。」


 そこでエルザははたと気づく。確かにウンドに魔族が攻め入ると知ってすぐに使い魔を兄に放ったが、いかんせん時間が無かった。さらに王宮騎士団はエルザ個人が嘆願したとてそう簡単に動いてくれる筈もない。

 もちろん今回の事は大事である。ウンドの冒険者ギルドからも出動の申請がなされている筈であるが、王宮騎士団を動かすとなると王国内の議会の稟議など通さなくてはいけない煩雑な起案が多く間に合わないと思われていた。


 だがルーク・シルヴァーン・ランチェスターは目の前にいる。それもたった一人で。彼は騎士団の一兵卒ではない。騎士団最高位の団長である。数ある任務を放っておいて一人でほいほい動けるものではない。だがたった一人でエルザの前に立っている。


「しかし、まあ、なんだ、遅くなってすまなかったな。なかなか隊を動かせ無くて出発が遅くなってしまった。」


 そう言ってエルザを見る目には後悔の色が滲んでいた。


「そ、そうですよね。兄様お忙しいから、来られないと思っていました。」


 ルークはそう言うエルザの手を取って起こしてやると、膝を折りエルザと目線を合わせる。

 その顔にはぎこちないながらも真摯な笑顔をたたえていた。


「大切な妹の窮地に駆けつけない訳がないであろう。」


そう言ってくしゃくしゃとエルザの頭をなぜる。驚いたのはエルザである。


「っえ! 私って大切なんですか!?」


 思ってもいない言葉が兄の口から出てエルザは素っ頓狂な顔で調子の外れたことを言ってしまう。


「当たり前だ。」ルークはポツリとそう言って、顔を赤くするとギクシャクと立ち上がり、それを誤魔化すようにプイと振り返ってしまう。


 振り返ったルーク・シルヴァーン・ランチェスターの目線の先には憤怒の形相でゆらゆらと立ち上がったヴィルヘルミナがいる。


「き、貴様、いきなり現れて随分な事をしてくれたじゃないか… 」


 そう言うヴィルヘルミナの胸には大きな穴が穿たれており、そこから血が滴っている。それはルークの強烈な槍の一撃をまともに食らった事を如実に物語っていた。


「我が最愛の妹をこんな目に合わせたのだ、その一撃では足りないな。我が槍シルバーランスで粉々に砕いでくれよう。」


 そう言ってヴィルヘルミナに槍を突きつけるルークを見てエルザは驚嘆していた。自分が大切な最愛の妹であると言う事実に。エルザはろくに口も聞いてくれない兄から疎まれていると思っていた。使い魔に持たせた文も駄目元で送っていた。ロンやランス、ウンドの仲間たちを救うために考えて考えあぐねた結果、エルザが知る最高の戦力と言えば兄のルーク・シルヴァーン・ランチェスターが率いる王宮騎士団しか思いつかなかったからだ。自分だけなら使い魔を放つ様な事はしなかっただろう。だが大切な仲間のためである。下げれる頭ならとことん下げようと思ったのである。

 だが使い魔を送っても何の返事もなかった。だから兄が来るなどと思いもよらなかった。


 さらに兄から愛されているとも思わなかった。


「エルザ、下がっていなさい。」


「え、でも… 」


「心配しなくて良い。私は負けはしない。このシルバーランスとエルザの大切な友に誓おう。」


「え!? それって… 」


「ランスは我が騎士団が保護したよ。無事でいる安心しなさい。」


 そう言うや、エルザの理解が追いつく間もなく雷光を残して消え去った。


 瞬きの一瞬でルークはヴィルヘルミナに肉薄する。ヴィルヘルミナが放った業火の魔法も槍の一突きで突き破り、慌てて構築したヴィルヘルミナの防壁も一撃で打ち砕いた。

 防壁を貫いたルークの槍は勢いを損なう事なくヴィルヘルミナの左肩を穿つ。たまらず後ずさるヴィルヘルミナを追撃するルークの槍は空を切る。ヴィルヘルミナは自身の放った風の魔法で空高く飛び上がったのだ。


「おのれ、このくそ人間めが!」そう悪態をついてヴィルヘルミナは空中で再度、風の魔法を展開すると今だルークの周りで吹き荒れる風の魔法にそれをぶつける。


 風に風を重ねがけられた魔法は狂った嵐の様な様相を呈し、吹き荒れる風の中に雷を生じさせる。


「吹き荒れる嵐の中で雷に焼き殺されるがいい! カルヒ ダルセイン ルイン!」


 雷の吹き荒れる嵐の渦中にいるルークは慌てる事なく腰を落とし槍を構える。


「雷の精霊グルファクシよ! 我らが友、雷鳴の助力を持って我が怨敵打ち破らん! 」


 そう言うや猛り狂う雷をものともせずルーク自身もまた雷をまとい一直線にヴィルヘルミナに向かって突進する。


金色の光の尾を引いて跳ぶルークもまた雷の様であった。


 紫電一閃その一撃は研ぎ澄まされた刃の如き鋭さをもって血爛レタ証人ヴィルヘルミナ・グストーロフを打ち砕いた。

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