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9 思わぬ難問

順調に、ロン・チェイニーの訓練は続きます。


しかし、思わぬところに、伏兵が。


ロンとグリエロでは解決出来ない難問です。

明け方、ベットから這い出し、伸びをする。

しっかりと身体が動く。全身筋肉痛で動けなくなるのではあるまいかと心配していたが、思いのほか元気だ。キングディアが効いているんだろうか? これが三倍元気の効果か?



まずは家を出て、走り込みを始める。街をグルッと無理のない程度に回って、そのままギルドに向かう。ギルドの中庭で子供達に混じって、グリエロの指導を受けて、筋力を鍛える。昼頃に解散し、酒場へ行って昼食にキングディアの一物の姿焼きを食って腹ごしらえをして、薬草採取の依頼に向かう。薬草を探しながら遭遇するスライムを蹴飛ばし、ゴブリンを殴り飛ばす。夕刻、街に戻りギルドに成果の報告。次の日の依頼を取れるなら取り、晩飯を食いに酒場へ。夜はキラーエイプの玉焼きを食う。帰宅して、突きの練習をする。そして、就寝。


これが、ここからしばらくの間のロン・チェイニーの一日の流れになる。



最初の二、三日は、走る度に反吐を吐き、砂袋抱えて摺り足をする度に反吐を吐いていたが、十日もすれば反吐は吐かなくなった。

街を半周ぐらいは出来るようになったし、砂袋を落とさずなんとか中庭を五往復出来る様にもなった。


そんなある日。いつものように摺り足を五往復やっつけて、砂袋を倉庫に片ずけている時にグリエロがやって来た。


「おう。ロンよ、随分さまになってきたじゃネェか。」


「おかげさまでな。でも、まだまだ動きが固いんだよな。」


「ふ〜む。ところでな、ロンよ。お前さんこの所、ギルドで話題になってるぜ。」


「ん!? そうなのか? どうしてだ?」


「どうしても何も、お前ェ、ここんとこ野山を駆けずり回ってるそうじゃあネェか。そんで、そこかしこで、ゴブリンと殴り合ってるらしいな。」


そうなのだ。このところ森だけでなく、平野を走り、谷間を抜け、山に分け入って薬草を採取している。ゴブリンを殴るのも目的の一つだが、薬草を採取して稼ぎも上げないといけない。薬草と一口にいっても色々ある。解毒作用のあるもの、解熱作用のあるもの、疲労回復に効くものと様々だ。それぞれ発生地が違うので、依頼の内容によって赴く場所が変わる。


そういう訳で、最近のロンはウンドの街近郊の至る所に出没している。


まぁ、そのうちバレるわな。とも思っていたのでグリエロに訳を話し始める。


「ほれ、前にゴブリン殴って倒した話ししたろ。お前が役立たずだった時の話だ。」


「うぉい、その話しが関係あんのかよ!?」


「まぁな。あん時にゴブリンと殴り合ってみて、思ったんだ。人体や生物の構造を、より深く知れば、素手で敵を制する事も出来んじゃないかってな。それで最近、ゴブリンを殴り回って研究してるんだよ。」


「お前さん、変わった奴だと思ってたが、本当におかしな奴だったんだな。...なるほどな筋力と体力がいる訳だな。」


「そういうこった。これからもよろしく頼むぜ。」


「おう。とっくり鍛えてやるぜ。」


しかし、そこでグリエロは急に眉根を寄せる。


「まぁ、それは良いんだけどな。」


「ん? なんだ?」


「なんて言うかな。素手で敵を殴るってのは、ちょいと良く思われない場合があるんだよ。」


「そうなのか?」


「まぁな、素手で殴るってのは野蛮だってんだな。王宮付きの騎士なんかが特に嫌うな。騎士道に反するってな。

人だろうが、魔物だろうが、敬意を持って打ち倒さないといけないんだとさ。」


グリエロは、うんざりした顔で続ける。


「そもそも道具を使う事が出来るからこそ人間は万物の霊長足り得るんだとさ。武器を使って戦わないのは、下等な動物と一緒なんだとよ。

そんでもって、そう言う考えが、だいたいの戦闘職の奴等に一般的に広がってるからな。アイツらも素手で殴るのを嫌う。無様で下品だってな。」


「...それって、魔物でもなんでも殴るのは、まったく受け入れられないって事じゃない?」


「まぁな。」


「まぁなって...。そういや、グリエロは、僕が魔物を殴る事に忌避感はないのか?」


そこが疑問だ。グリエロは、ロンが魔物を殴って回っているのを知った上で、鍛えてくれている。


「いや。ロン、お前さんは立派だと思うぜ。...まぁ、ほとんど俺のせいだが、あのゴブリンだらけの洞窟から、あの黒魔導師の女の子を、自分の身一つで助け出したんだ。誇っていいぜ。」


「そんなもんなのか?」


「そんなもんだ。お前さんもわかると思うが、戦場なんて所は、お上品に澄まして居られる所じゃないんだよ。剣が折れたって戦わないといけない事があんだよ。」


何か思う所があるのかグリエロは憮然とした表情で黙ってしまう。


「まぁ、いまさら他人の目なんて気にしないよ。僕は、ぶん殴り屋をやり続けるさ。なんだか、色々ありがとう、グリエロ。」


「あぁ、気にすんな。鍛えたいってんなら、いつでも来い。...おい。ぶん殴り屋って何だ?」


グリエロが怪訝な顔で、ロンを見る。

ロンはロンで、何故そのような視線を浴びるのか、いまいちピンと来ない。


「え? 僕の新しい職業だよ。白魔術師は辞めたんだ。...まぁ、万年、中の下だったしな。未練は無いよ。」


「いや、白魔術師を辞めるのは、とやかく言わねえよ。ぶん殴り屋って... 恐ろしくダサい名前だな。」


そこで、ロンは驚いた顔をみせる。ダサいって何だ、他に言いようが無いだろう。


「え!? そうか? ぶん殴るのを仕事にすんだから、ぶん殴り屋だろ。」


「...いや。やめとけ。」



ロンもグリエロも、まさか職業名の所で意見の相違があるとは思わなかった。

じゃあ、どう言う名前が良いのかと言うのは考えた所で、お互い答え出ない。

ロンはそもそも「ぶん殴り屋」と言う名前で納得している時点で話しにならない。

グリエロはグリエロで戦士一筋でやってきた不粋な男だ、気の利いた名前など思いつくはずも無い。


ここに来て割とつまらない事で躓いた。


結局、この日は答え出ないまま、解散した。


お読みいただき、ありがとうございます!



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