84 看板娘の奔走
一方その頃というお話です
デボラは避難するウンドの住人とは反対の方向に駆けていた。彼女は冒険者ギルドの程近くにある酒場「踊る子猫亭」の自称看板娘である。
踊る子猫亭はこの度の避難先であるウンド大劇場にも近い所であるので普通に考えれば、もうとっくに避難を済ませているはずである。なのに何故ウンドの街中を駆けているのか。
デボラはキョロキョロと辺りを見回し大きな声で叫ぶ。
「アルジェント! どこにいるの!? アルジェントー! 」
彼女が呼んでいるのは、踊る仔猫亭の裏手で飼っている狼のアルジェントである。彼女いわくアルジェントは赤ん坊の頃から大事に育てているフェンリスウルフなのだと言うのだが、大きさ的にも大型犬程で人間の身の丈を越すフェンリスウルフとはかなり大きさが違う。
ウンドの住人はおろか冒険者であってもおいそれと出会う事の出来ない珍しくも獰猛な、狼の王とも言われる魔物であるので実物を見た者はデボラの周りには居ない。したがって彼女の主張を信じている者はウンドの住人の中にはあまりおらず、素直に信じている者はデボラの周りにはロンとコボルト達くらいである。
ロンは単純な人間なので置いておくとして、コボルト達は「ワンワン」「ウーウー」などとアルジェントと何やら意思の疎通が出来る様で、「気難しいフェンリスウルフの中では気さくでとっつきやすい」と言うのがコボルト達の弁なのである。
今、この戦闘の混乱の最中そのフェンリスウルフのアルジェントが居なくなってしまったのだ。
デボラとアルジェントはいつもより早い踊る子猫亭閉店の後始末を終えてウンド大劇場へと向かっている途中、二回目の爆発音が聞こえてきた。
その音は山の魔女ビローグが城壁を再び破壊した時の音である。その瞬間アルジェントは跳ねたように振り返り爆発音の聞こえた方向に向かい唸り声を上げ始めた。いつもは吼える事の無いアルジェントの低く地響きの様な威嚇を伴った唸り声を初めて聴いたデボラは言い知れぬ不安と恐怖を抱いたが、それでもアルジェントをなだめようとその背を撫ぜた。
優しく背を撫ぜられたアルジェントは振り返りデボラと目を合わせると、心配そうなデボラの横顔をペロリと舐め踵を返して風の様に走り去ってしまった。
驚いたのはデボラである。今から避難しようとしていた矢先にアルジェントは反対方向の街の中心に向かって走り去ってしまったのだ。
デボラは一人で避難する訳にもいかず、不安に駆られながらも轟音と土煙舞う戦さ場の最中に向かって走り出したのである。
二度目の爆発の後には大量のオークにオークハイ達がウンドに雪崩込んで来ている。街の中心に向かえば戦火は激しくなるのは明白である。それでもデボラはアルジェントを暴力渦巻く戦乱の中から探し出し助け上げなくてはならないと思って疑わなかった。何故ならアルジェントは彼女にとって残されたたった一人の家族なのだから。その思いを胸に一心に抱いて彼女は戦場を駆ける。
しかし広いウンドの街中、デボラが一匹のアルジェントを見つけるよりも無数にいるオーク共がデボラを見つける方が早かった。
数十の黄色く澱んだ下卑た目がデボラを見るやギャアギャアと嬌声を上げる。獲物を見つけたと言わんばかりの雄叫びを受けてオーク共がデボラに殺到せんと身構える。
数十の敵意や害意に晒されたデボラは恐怖のあまり声も上げられずその場に居竦まる。
「デボラさん! こっち!」
恐怖で固まるデボラに大声で呼びかけたのはエステルだった。ウンド冒険者ギルドの見習い白魔術師である。孤児であった彼女はグリエロに冒険者としての基礎を、ブランシェトさらにはエルザに白魔術を学ぶ小さな冒険者である。
エステルはウンドの住人を数人引き連れ避難誘導をしている最中であった。オーク共を避け路地から路地へ抜ける最中に避難している人々と真逆に走り去るデボラを見つけたのだ。
少し危険を感じながらもエステルはウンドの住人達と相談して一緒にデボラを追った。デボラを保護するためである。彼女を一人危険極まりない戦場に居させる訳にはいかない。
だがエステル達がデボラに追い付く前に、デボラはオーク共に見つかってしまった。オーク共に取り囲まれんとするデボラを見てエステルは咄嗟に叫んでしまった。「デボラさん! こっち!」そう大きな声で叫ぶとオークの注目はデボラからエステルに移る。
より小さくか弱そうなエステルを見てオーク共は下卑た笑顔に舌舐めずりをする。獲物がデボラからエステルに変わった事がその目で分かった。数十のオークの黄色く濁った視線に晒されてエステルは一瞬たじろぐが、自身に負けじと気丈にもオーク共を睨み返す。
「あなた達の相手はこの私よ! デボラさんには手を出させないわ! こっちよ! かかってらっしゃい! 」
そう言って彼女は魔術仗を両手に持ち高らかと掲げる。
「シラ グゥル ラム 輝く魔法の壁よ! ドゥーアス ダル 闇を止めよ! 」
エステルは結界の呪文を詠唱すると魔術仗を地面に突き立て魔力を解放する。エステルは杖を握りしめたままウンドの住人達を振り返り、焦燥する彼等を一瞥するや決意を目に宿らせて口を開く。
「私達とオークの間に結界を張りました。少しの間ならオーク達を引き止める事が出来ます! 今のうちに逃げて下さい! デボラさんも今ならオークも動けないわ! みんなと逃げて! 」
それを聞いてデボラは慌ててエステルのもとに駆け寄る。その間は動きを封じられているオーク共は身体を自由に動かす事が出来なく、目の前をデボラが走り去るのを忌々しそうに睨む事しか出来ないでいた。
「あなた冒険者ギルドのエステルちゃんね。ありがとうお陰で助かったわ! さあ、エステルちゃんも今のうちに逃げましょう! 」
そう言うデボラにエステルは首を横に振る。
「駄目、結界を維持しておかなきゃ、私がここを離れるとたちまち結界が解けてしまうわ...... デボラさんは皆んなと逃げて。」
「っえ!? でも、オークを止めておけるのは少しの間だけなのよね? 結界が解けちゃったらエステルちゃんどうするの? 」
驚くデボラにエステルはにっこりと微笑むと決意のこもった目で再びデボラを見つめる。
「大丈夫! だって私は冒険者だものこれくらいの事乗り越えられなくっちゃ、お父さんとお母さんに顔向け出来ないわ! 」
それを聞いてデボラは自身の思考に暫し固まる。冒険者ギルドの子供達は孤児ではなかったかと。ここで父母の名を出すという事はどういう事なのだろうか? よもや天国にいる父母のもとに行こうと言う意味なのだろうかと思考が飛躍する。
「エ、エステルちゃん、あなたのご両親って...... 」
「今の私のお母さんはブランシェト先生、お父さんはグリエロ!とっても強い冒険者よ! だから私絶対に負けないわ! ......だから早く行って。私、大丈夫だから...... デボラさん早く皆んなと逃げて。」
エステルはそう言って口を真一文字にきつく結んでしまった。本当は恐怖で今にも泣き出しそうなのだ。これ以上喋ると涙が溢れてしまいそうだった。
その表情を見てデボラはエステルの気持ちを察してしまった。そんな事をこんな泣きそうな顔で言われたら自分達だけ逃げてしまう訳にもいかない。しかしここままここに居ても結局は避難中のウンドの住人もろとも全滅は避けられない。エステルの気持ちを汲んで逃げるのが得策なのか、何も出来ないまでもこの場にエステルと残るのが正解なのかデボラは心が張り裂けそうになってしまった。
「おおい! デボラ、早く逃げるぞ! 」
悩むデボラに男の野太い声が投げかけられる。ここまで付いてきたウンドの避難民の一人から発せられた言葉だ。エステルが時間を稼いでいる間に逃げ仰せようとする事は先ほど投げ掛けられた言葉でわかる。酷い選択だが。
だが誰がそれを咎められよう。今まさにオークという暴力の権化が眼前に迫っているのだ、逃げ出してしまうのも無理からぬ事である。
「さあ、デボラさん早く逃げて。皆んな待ってるわ! 」
そう言うエステルの言葉に押されてデボラは避難者達の方に駆け出した。逃げるのは憚られるが、エステルが命を掛けてまで作り出してくれた絶好の好機を逃す訳にもいかない。彼女の思いを無駄には出来ないからだ。
デボラは踵を返し無言で走り出す。それを見届けたエステルは今その場に釘付けになっているオーク共に向き直り再び高らかに呪文を詠唱する。
「ラム ドルン ドルン ドルン! 壁よ硬く硬く硬く! 」
エステルはさらに強く魔術仗を握りしめ結界に魔力を送り込む。自由に身体の動かすことの出来ないオーク共は不快感に醜い顔をさらに醜く歪める。
オーク共は力任せに身体を動かそうともがく。十数体のオークを足止めしているエステルの結界は見事なものである。その結界を張っている者が年端も行かない子供だと言うのであるから、白魔法を教えていたブランシェトやエルザがいかに優れた白魔術師であるのかはエステルの今の姿を見るに明らかだ。
だがもう、そう長くは保たないだろう。複数の相手を止めておく結界魔法というものは高度な術式が必要と言うだけで無く魔力の消費も激しい。エステルの魔力量はエルザの魔力保存の法則を学ぶことにより大きく飛躍し、同世代の子供達と比べると天地の差があるのではあるが、そこはまだ子供である。第一戦で活躍する冒険者達には到底及ばない。
次第にエステルの呼吸が荒くなっていき、オーク共のもがく動きが大きくなっている事からもう間も無くエステルの魔力が尽き、結界が破られる事を伺わせた。
結界の力が急速に弱まっている事に気がついたオークの一体が、己の力で強引に結界を引きちぎった。
結界を破られたエステルは目に恐怖の色を浮かべ立ちすくむ。今ここで動こうものなら自身の展開している結界はたちまち解け他のオーク共にも自由を与えてしまう。そうすれば自分はたちまち殺され、せっかく逃したウンドの住人達もまた追われるだろう。
「ドルン ドルン ドルン...... 」
恐怖に慄きながらもエステルは結界を維持するために魔術仗に残り少ない魔力を送り込む。結界を破った先程のオークも再び結界の魔力に絡め取られるが今度はもうその動きを止めるだけの力は発揮出来なかった。
オークはその身に結界を絡ませてながらも、その身体をゆっくりと引き摺るようにじわじわとエステルににじり寄って来ると手に持つ棍棒を振り上げる。
魔力の枯渇と恐怖でエステルはその場を動けない。高らかと持ち上げられた棍棒はエステルに向けて真っ直ぐに振り下ろされる。
「エステルちゃん! 」
そう叫びながら飛び出して来たのはデボラである。デボラはエステルを抱えて横っ飛びに飛び退る。
オークの振り下ろした棍棒は空を切り、間一髪エステルは自身に向けられた攻撃をかわすことができた。それもこれも窮地に飛び込んで来てくれたデボラのおかげである。
デボラとエステルは飛び退った勢いで地面をゴロゴロと三回転、四回転と転がるとそのまま地面に突っ伏すような形で止まる。一拍置いてデボラに抱きしめられているエステルがガバっと上半身を起こす。その目には驚きの色がありありと浮かんでいた。
「デ、デボラさん!? どうしてここに? 」
続いてデボラも上半身を起こすと気まずそうに眉尻を下げて微笑する。
「エステルちゃんを一人置いて行けないよ。ご、ごめんね、せっかく逃してくれたのに...... 」
「デボラさん、ごめんなさい私なんかのために。......ありがとうございます。」
そう言うやエステルは目に恐怖を浮かべデボラの胸元にすがりつく。結界の呪縛から解放されたオーク共が縛を解かれた歓喜と、自分達を縛ていた者に向けての憤怒をないまぜにした表情でこちらにジワジワと向かって来ているのを目の当たりにしたからだ。
エステルは自分がオークにとって倦むべき敵である事を悟り恐怖で硬直しデボラの胸で小さくなってしまっている。
デボラは自分の胸元で恐怖し小さく縮こまるエステルを抱きしめ眼前に迫るオークを睨みつける。
「エステルちゃん大丈夫よ。怖くないわ。私が側にいてあげる。」
そう言ってさらに強くエステルを抱きしめ、オーク共を鋭く見据える。
「あんた達なんか怖くないわ! あんた達なんて...... 」
強い口調で己を鼓舞するかのように凄んだデボラであったが、眼前まで迫ったオーク共が一斉に武器を振り上げるのを見て思わず目をつぶってしまう。
もうここまでかと観念したデボラの口をついてでた言葉は愛する者の名前だった。
「アルジェントー!」
その刹那、一陣の風が吹き荒んだ。
ビュンと鳴る風の音に思わず目を開けたデボラの眼前にいるのはデボラはおろか巨躯を誇るオークの身の丈をも大きく上回る大きな狼であった。
その大きな狼はバリバリと石の砕ける様な音を立てて何かを咀嚼している様だった。その異様な音に目を開けたエステルは目の前にいる巨大な狼に驚くと同時に、自分達に向けて武器を振り下ろそうとしていたオークがいない事に気がつく。さらには自分達を取り囲む様に迫って来ていたオーク共が泡を食って腰を抜かしている事にも気がつく。
最初に口を開いたのはデボラだった。その声は歓喜に満ちていた。
「アルジェント! 来てくれたのね! 」
そう言ってデボラはすっくと立ち上がり狼の巨躯を抱きしめる。一瞬ポカンとしていたエステルだったがすぐに我にかえり驚きの声を上げる。
「アルジェント!? って、アルジェント? デボラさんが酒場の裏で飼っているあのアルジェント!? 」
「そうよ! アルジェント! 私の大事な家族。」
そう言ってデボラはアルジェントを強く抱きしめると、アルジェントも自分の頭を優しくデボラに擦り付ける。
「ほ、ほんとにアルジェントってフェンリスウルフだったんだ...... 」
驚愕しているエステルを尻目に、デボラは頭を撫ぜられて嬉しそうに口を開いたアルジェントを見て大声を上げる。
「あー! アルジェントあなたオークを食べたのね! 駄目じゃないあんなモノ食べたりしちゃ! 」
そう言ってデボラはアルジェントの口を無理矢理ねじ開け鋭く尖った牙の並ぶ口内に上半身を突っ込んでねじくれた嘗て魔鋼の武具だった塊を引っ張り出した。
「んもう! こんなモノ食べてお腹壊しちゃったらどうするのよ。もう食べちゃ駄目よ。」
デボラはアルジェントをたしなめながら牙の間に挟まっている魔鋼の武具の破片を引っ張り出しては投げ捨てる。
巨大なフェンリスウルフは「クウン」と小さく唸りながらされるがままにその大きな口を開けている。エステルがその光景にポカンとしていると、我にかえったオーク共が武器を手に再び立ち上がり喚き始めた。
だがそこまでだった。オーク共は武器を振り上げる間も無くフェンリスウルフの鋭い牙と鋭利な爪によって瞬く間に引き裂かれた。
後に残ったのは肉塊とも言えぬ残骸だけである。
数多の骸のただ中に立つアルジェントの風格はまさに狼の王と言われる魔狼フェンリスウルフそのものであった。
「ありがとうアルジェント、私達を助けてくれて。......でも勝手にいなくなっちゃダメじゃない! 心配したんだから! 」
そう言ってデボラは大きなアルジェントの口を両手で掴んで左右に伸ばす。アルジェントはされるがままに左右の口角を伸ばされているが、それを側で見ているエステルは状況を飲み込むのに非常に苦労し混乱気味だった。
自分達が助かったのはわかるのだが、助けてくれた相手が日頃からよく知る「踊る子猫亭」の裏でデボラが飼っている犬だったからである。いや犬ではなく狼で、さらにはその狼は人の身の丈を優に越す大きな魔狼であったのだ。その辺りでもはや思考が追いつかない。
デボラがアルジェントとじゃれあい、エステルが狼狽しているとコボルトの一団が駆け込んで来た。
「おお、アルジェント殿こちらに居りましたか。ああ、デボラ様もご一緒だったのですね。」
そう言って近づいて来たのはランペルであった。デボラもランペルを見とめてランペルが引き連れて来たコボルト達に向き直る。
「ああランペルさん。いつもアルジェントがお世話になっています! どうしてこんな危ない所にいるんです? 」
デボラが能天気にそうランペルに問いかけると、ランペルは頭を掻き掻き申し訳なさそうに口を開く。
「我々コボルトはオーク共と戦う冒険者様達の後方支援をしているのですが先程、城壁が大きく破壊されオーク共が雪崩れ込んで来たのです。それを確認し、とても我々だけでは太刀打ち出来ぬと判断してアルジェント殿に助けを求めたのです。」
「まあ、そうだったの、私気がつかなくて。急にアルジェントが走り去ってしまった様に見えたから…… 」
そう言って頬に手を当て首を傾げるデボラにランペルは慌てて手を振り弁明する。
「いえ、我らの遠吠えは三里四方に響き渡りますが、人間には聴き取れぬ波長ですので気がつかなかったのは当然です。私こそ配慮が足りませんでした。デボラ様にご心配をかける事になっていたとは。大変申し訳ない。」
深々と頭を下げるランペルにデボラは慌てて駆け寄る。
「いいえ! アルジェントが皆さんのお役に立っているのでしたらかまいませんわ! 私の方こそアルジェントのお母さんなのにアルジェントの事が分かってなかったわ…… ごめんね。」
そう言ってデボラはアルジェントを見上げると、アルジェントは低く「ウワン」と鳴いた。
「アルジェント殿も、デボラ様に心配をかけて申し訳ないと言っておいでです。」
ランペルがデボラとアルジェントを交互に見ながらそう言うと、デボラは顔をほころばせアルジェントを優しくなぜる。
「良いのよアルジェント。この騒動が収まったら私もランペルさんにアルジェントの言葉を習おうかしら。」
そう言ってイタズラっぽくランペルに笑いかけるとさらに口を開く。
「ランペルさん達がアルジェントを呼びに来たという事は、まだアルジェントの力が必要なのね。」
冗談を言っていた顔から一転したデボラの真剣な眼差しを受けたランペルは小さく頷く。
「その通りです。まだまだこの戦場には助けを求める者がいます。アルジェント殿のお力をお借りする事が出来ますか? 」
「もちろん! アルジェント、あなたの力でウンドのみんなを助けてあげて。」
デボラが見上げるとアルジェントは頭を下げて鼻先でデボラを押して「ウワン」と唸る。
「デボラ様。アルジェント殿はデボラ様に早く安全な所に避難する様に仰っています。」
「そうよね。私がいると足手まといになるわね。わかったわ。エステルちゃん! 行きましょう! 」
そう言ってデボラは勢いよくエステルに向き直ると、事の成り行きに少々ついていけず呆け気味だったエステルは小さく飛び上がる。
「は、はい!もちろんです! 安全な避難経路にご案内します。」
「よろしくね、エステルちゃん。」
エステルにそう言ってデボラはランペルとアルジェントに向き直る。
「じゃあ頑張ってアルジェント。ランペルさんアルジェントの事よろしくお願いします。」
そう言ってデボラは深く頭を下げると、ランペルもまた同じく頭を下げる。
「もちろんです。我々コボルトが必ずアルジェント殿を御守り致します。」
アルジェントとランペルは、デボラとエステルが路地に駆け込みその姿が見えなくなるまで見送ると、突然ハッとした様に空を見上げお互いキョロキョロと器用に耳を動かし目を合わせる。
「アルジェント殿、我らの友が苦戦しているようですな。お助けに上がらねば! 」
ランペルがそう言うやアルジェントは「アオーン!」と遠吠えをする。それを合図にランペルを始めとしたコボルト達は器用に素早くアルジェントの背中に駆け上がる。
「我らが友、ロン・チェイニー様のもとへお助けに参りましょう! 」
ランペルが叫ぶや否やアルジェントは矢のような速さで駆け出した。
いつもお読みいただきありがとうございます。




