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81 魔気襲来

城壁を破壊した者が現れます。

「あぁっはぁっはっはっはっはぁあー!」


瓦礫が降り注ぎ、土煙り舞う直中に響く嬌声。


視界が晴れぬ中、冒険者達は異常事態が発生した事を直感的に理解していた。

再び城壁が破壊されたのだ。降り頻る瓦礫を見てそれを確認し、地面を揺らす大量の足音に、さらに破壊された城壁の割れ目からオーク共が雪崩れ込んできている事を把握する。


だが、この禍々しくも肌の粟立つ様な異様な艶笑は何者から発せられているか誰にも解らなかった。


その時、土煙りを割って肩で風切り、狼狽する冒険者達の前に現れた者がいた。


「あぁっはっはっはっはぁー!グズグズしてるんじゃないよ豚共が!城壁を破るのにどんだけ時間をかけてんだい!ちんたらやってると纏めて爆弾にしちまうよ!ぎゃあっはっはっはー! 」


金切り声をあげオーク共を恫喝している者は漆黒のローブに身を包んだ金髪碧眼の女であった。冷徹なまでに整った顔を加虐的に歪め、オークどころかオークハイまでも侮蔑的な眼差しで嘲笑している様は一種異様な光景として冒険者達の目に映る。


その女は手近にいたオークハイの首根っこを引っ掴み、高らかと持ち上げる。その細身のどこにその様な力があるのだろうか、己の倍ほどの体躯を誇るオークハイを軽々持ち上げたかと思うと、その首を握りへし折る。


首を圧壊され頓死したオークハイは、その場で爆散する。

周囲にいる冒険者どころかオークやオークハイ達もその場で凍りつく。

その戦慄に引き攣る顔々を睥睨し、女は身悶えするように愉悦の笑みを浮かべる。


「ぎゃはは! 豚共! こうなりたく無ければ死ぬ気で戦いな!進め! 喰らえ! 破壊し蹂躙しろ! 」


嘲笑の眼差しでオークに強権をもってウンドの街を人を侵害せよと言ってのけた異様な女に、オークやオークハイ達は見る間に顔を恐怖に引き攣らせ相対している冒険者達に向き直る。


その慄く顔は正に血眼であり、武器を握りなおし駆け出し再び侵攻を始めたその様は正に死に物狂いといった体であった。


その異様な狂気の興奮は瞬く間にオーク共に伝播し足を勇み逸らせる。さらに状況を暗転させるのは城壁の二度目の破壊である。

広がった割れ目はより多くの魔物の侵攻を許す事になったのだ。


不意の爆風に吹き飛ばされ散り散りに陣形を崩された冒険者達は、ウンドの街中に雪崩れ込むオーク共を押しとどめる事が出来なかった。


恐怖と狂気に駆られたオークハイ達は瞬く間に町中に広がって行く。


戦慄するオーク共を見て驚愕し、恐れ慄いたのは避難中のウンドの住人である。


もうその大半は避難しウンドの街には居ないのであるが、困窮者や傷病者などの弱者を守るための修道院や施療院、店仕舞いをしていた商店主や店員などの人々が一部、最後まで自分達の仕事を全うする為残っていた。


さらには間の悪いことに残っていたウンドの住人の避難誘導に冒険者ギルドの孤児達が当たっていた。


迫り来るオーク共にウンドの住人も避難誘導をしていた孤児達も慌てふためく。


「ウゴォ!」「グルォオ!」


オーク共の咆哮が響き渡るや、人々は恐慌状態に陥る。


「うわぁ! オークが攻めてきたぞ!」


「さっきの爆発はオークの仕業だったんだ!」


「うわあああ! 逃げろ!」「逃げろってどこに!?」


硬直するもの、腰を抜かすもの、あらぬ方向に逃げようとする者など現場は混乱の途を極めんとしていたが、それを押し留めたのはウンド冒険者ギルドの孤児、いや小さな冒険者達であった。


「慌てないで! すぐに冒険者達が来てくれるわ! 落ち着いて私たちに付いて来て下さい!」


そう言ってのけたのはモリーンであった。

彼女は震える手にグッと力を込め、顔を上げ自らを奮い立たせんとするかの様に気丈に胸を張った。


「行きますよ! 皆さんはぐれないで下さいね。こっちです!」


そう言ってモリーンは手を上げ住民を誘導する。

モリーンの先導でウンドの人達は混沌とする戦火の街中を足早に駆ける。そこかしこでオークの咆哮や物の壊れる音が聴こえ、ともすれば瓦礫で道が塞がれ通れなくなっている所もあるのだがモリーンはその都度道を変え止まる事なく進み続けた。


何かあれば迷いなく進路を変え、止まる事なく進み続ける事ができるのはモリーン達がこの日までに街を隅から隅まで歩き回り街の作りを理解し、様々な角度から避難経路の検討をしたかえあである。

ここが通れなくなればこちら、あそこに敵影が見えるのならばそちらに経路を変える。と言った様に小さな冒険者達は連日連夜その小さな膝を突き合わせて経路の検討をしていたのだ。


モリーンは魔術杖を胸元に抱え、混乱する街の中を住人を引き連れて駆ける。


「お嬢ちゃん、冒険者ギルドにいる孤児の子だね。ありがとうね、助かったよ。街がこの有様じゃ、私達だけだったら逃げ切れなかったよ。」


そう言うのは施療院で病人の世話をしている年配の女性だ。


「ううん、気にしないで。私も冒険者の端くれだもの、皆さんを守る事ぐらい出来なきゃ!」


そう言ってモリーンは年配の女性にニッコリと笑いかける。つられてその女性も笑顔を見せるが行き先である路上をみて顔を曇らせる。


モリーン達が進もうとしていた路地は、飛んで来た城壁の一部とその城壁の大きな破片が破壊した建物で埋まっていた。


モリーンは頭を巡らせ次の進行路を思い描き踵を返すが、今進んできた路地の向こうから邪悪なオーク共の咆える声が聞こえてきた。


モリーンについて来ていた避難者達は一気に青褪めモリーンを縋る様な目で見つめる。


モリーンは一瞬、逡巡するがすぐに気を取り直し杖を構える。


「モリーン! 戦う気!? 無茶しちゃ駄目よ! 」


そうモリーンをたしなめる声が何処からともなく聞こえてくる。

モリーンは驚いて頭を巡らし辺りを一瞥するが姿は見えない。


「こっち! 上よ。屋根の上!」


その声にモリーンは頭上を見上げると、屋根の上には弓を担いだ少女がいた。ポレットだ。


「んもう! グリエロ先生には交戦は厳禁って言われてるでしょ! 」


ポレットは腰に手を当ててモリーンをたしなめる。モリーンはモリーンでバツの悪そうな顔でポレットを見上げる。


「でも、思わぬ所が行き止まりになってるし、ほら! 聞こえるでしょ! オークが近くまで来てる! 」


そう言ってモリーンは路地の向こうを指さすが、ポレットは短く息を吐いて頭を振る。


「だからってモリーン一人じゃ、オークに太刀打ち出来ないでしょ! 」


ポレットはそう言って建物の壁を指さす。


「そこ、そこの壁は板張りでしょ。モリーンの爆破魔法だったら破れるでしょ? そこから建物の中を通って屋上まで上がって来て。一緒に避難しましょ! 」


「え!? 人の家を壊しちゃっていいのかな? 」


ポレットの言葉を聞いてモリーンは逡巡するが、またもポレットは頭を左右に振る。


「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ! それに家なんてそこかしこで壊れてるわ。いまさらモリーンが壊したって誰も怒らないわよ。」


「う、まあ、そうか...... わかった、ここ壊してすぐそっちに行くね。」


そう言ってモリーンは爆破魔法の呪文を詠唱し、壁を破壊する。


モリーンと一緒に避難していた同行者達は目を丸くして驚き固まってしまうが、モリーンが促すと皆我に帰ってぞろぞろと動き出す。


モリーン達は建物の中に入り、階段で二階に上がる。そこから屋根裏部屋に上がるための梯子を見つけ屋根裏へ。


モリーンを始め同行者も屋根裏に登ったのを確認すると再びモリーンは爆破魔法で登って来た梯子を破壊する。


追手のオーク共が万が一この建物の中に侵入した場合、上階に登って来れない様にするためだ。


屋根裏から天窓を抜けてモリーンはポレットと合流する。


モリーンの姿を確認したポレットはホッと胸を撫で下ろし、駆け寄って来るモリーンを抱きしめる。


「良かったモリーンが無事で。ここの屋根伝いに進めば向こうの通りに出られるわ。そこならオークはまだ侵入してないわ。」


「わかった。ありがとうポレット。」


そう言って今度はモリーンがポレットを抱きしめる。


「「行きましょう!」」


二人は互いに頷き合って、同時に言葉を発する。


モリーンとポレットを筆頭に皆は屋根の上を慎重に進み出した。



一方、ロン達前線で戦っていた者達は城壁が爆破された時に生じた爆風に吹き飛ばされ散り散りになっていた。


ロンは地面に突っ伏している身体に、のしかかる重みを感じ目を覚ます。

爆風で吹き飛び暫くの間気を失っていた様だ。

この敵味方入り乱れる戦場で気を失うなど死に直結するものである。しかし幸か不幸か爆発に巻き込まれ頓死したオークが、吹き飛ばされ気を失ったロンの上に折り重なり彼を隠し救ったのだ。


死骸の山の中から這い出てきたロンは辺りを見回すが、屍の累々と折り重なる戦場はそれでもなお戦い続ける冒険者達と魔物共が混戦しており、爆発により上がった火の手と巻き上げられた砂塵とで混沌としている。


「グリエロ、フェン、ミナ…… 皆んなとはぐれてしまったな。無事だといいけれど。」


一つため息を吐いてロンは自分の手を見つめる。少し震えている。

まったく今の状況が掴めない。仲間は無事だろうか? 良からぬ思考が頭を駆け巡る。

皆の安否が心配でもあるし、この混沌の只中に独りである事も心細い。


このところ一人で戦う事の無かったためか、この状況は些か心許無く感じてしまう。


ロンはギュッと目を瞑り頭の中を奔る負の感情を振り払うかの如く頭を振る。


ゆっくり眼を開けると自分の掌が見える。まだ小さく震えている。だがロンはこの震えを止める術を知っている。


ロンは震える手を握り締め拳を作る。グッと硬く握った拳は震えを止める。


ここで途方に暮れて震えている場合ではない。フィリッピーネも心配だし、住民の非難誘導をしている孤児達もどうしているのか、さらにルドガー先生の姿も見当たらない。何よりこの混乱の最中エルザはどうしているだろう。どこかで失神してはいないだろうか。


ロンは顔を上げ駆け出す。まだまだ力の及ばないところの多い身上ではあるが少しでも皆の力にならねば。自分に出来る事はまだまだあるはずだ。


ロンの拳足はこの戦を生き抜き勝ち残るために必要なものの筈だ。



ウンド冒険者ギルドの上級職の面々は己が力を発揮する自らがあるべき場所に立っていた。


城壁が破壊され雪崩れ込んできたのはオークやオークハイだけでは無い。


その魔物達を率いる禍々しい者達である。魔王エルコニグ率いる魔族達だ。



オークハイを爆弾に変え城壁を二度に渡り破壊してのけた金髪碧眼の女もその一味の一人である。


山の魔女ビローグ。


上級上位の魔女ヴァリアンテの宿敵である。


「ぎゃあっはっはっはっは! どんどん攻め込みな豚共! 人間共を殺し尽くすんだよ! そうしたらあの女が出てくるはずさ、屑のような人間共を愛してやまないあのいけすかない女がね… 」


そう言って美しく冷徹に整った顔を歪めるビローグ。しかし余裕の笑みを浮かべてるその顔が険しくなる。


ビローグの背後の影がゆらゆらと揺めき盛り上がり人の輪郭を取る。


「ビローグ。お前は相変わらず命を粗末にする不愉快極まりない糞婆ァだね。」


眼光険しくビローグが振り返るとそこには、ビローグと同じく漆黒のローブを纏う魔女が立っていた。


「ヴァリアンテェェェ! テメエェェ! 会いたかったぜぇぇぇぁああ! 」


ビローグが目を見開き絶叫するのをヴァリアンテは冷たく睥睨している。


「ふん、相変わらず五月蠅い婆ぁだね。」


「うるせえ!今度こそぶち殺してやる!」


そう言ってビローグは禍々しい気を放ちマナを練り上げていく。


「っは! ちったあマナの扱いもマシになってる様だね。だが相変わらずマナを恐怖と憎悪で支配しているね。命を粗末に扱うお前は魔女の風上にも置けない。 ……覚悟しな。」


そう静かに冷たく言い放ったヴァリアンテもまたマナを練り上げてゆく。


恐ろしいまでの力を持った魔女達の戦いが始まろうとしている。

とうとう魔王の尖兵たる魔女との戦いが始まります。

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