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79 窮地

続々とオークハイは押し寄せてきます

ロン・チェイニーは迫り来るオークハイの猛攻を躱し背後に回り込むと、その頭を抱えあらぬ方向へと捻じ曲げる。

頚椎を捻り折られたオークハイは一瞬ビクリと痙攣しその場に崩れ落ちると、即座にフェンに首を断ち切られ絶命する。


とどめを刺したフェンだが、その顔は驚きの表情をみせている。


「おい、ロン何だよ今のは!?」


フェンが驚くのも無理はない。一瞬でオークハイの首がへし折られたのだ。


骨格とは構造的なものである。建築物に近い。ある決まった法則に従って組み上げられている。建物が支柱や根幹となる梁を外せば倒壊する様に、人体もある方向に一定の力が加われば簡単に骨を外し破壊する事が出来る。


これは秘伝であるルドガーの殺手術の奥義である。おいそれと学べるものでは無いうえに、そう簡単に修得できるものでも無い。


しかしロンは日頃からルドガーに急所とツボを学び人体に走る経絡に深い理解があったために短い期間に殺手術の基礎を学び取る事が出来たのである。


フェンの驚きをあまり気にする風でも無くロンはしれっとした顔をしている。


「いや、意外と簡単なんだよ。」


いや、断じて簡単では無い。日々の走り込み、摺り足、武器術訓練、柔軟運動、果ては異様な食事内容に至るまで一つの事を黙々とやり続ける事の出来る、グリエロをはじめ周りから修行僧の様だと言われるロンならではの事なのである。


釈然としない顔をするフェンを尻目にロンは襲いかかって来るオークハイに向き合い、素早く一歩踏み出す。


ロンは軽く開いた手を内側に横に向けオークハイの目を打ち払う。兜の隙間から柔らかくしならせた指を目に打ちつけられたオークハイは数瞬視界を奪われる。

だが戦場においては命を奪われるに十分な時間である。


オークハイの視界が戻る頃には、その首筋にフェンの剣が刺し込まれている。


この様に、ロンだけでは攻撃が通らない、フェンだけではとどめを刺せない処をうまく連携して、オークハイを倒している。


しかし順調にオークハイの攻勢を押し留めているのはロンの周りをぐるりと見回すと、単身でオークハイを撃破しているトム・メイポーサに支援に駆けつけたグリエロのいるトゥッリのパーティ、そしてロンのいるフィッツの混成パーティくらいのものである。


しかしロンの周りもじわじわとオークハイに囲まれつつある。いかんせん数が多く、次から次へと魔物共は城壁の割れ目から押し寄せ雪崩れ込んで来ている。


この状況を鋭く察知したフィッツは戦線に戻って来たモルガーナ姉妹を振り向く事なく大声を発する。


「モルガーナ! 二人とも少し退がれ、ラネズは結界を、ファータ魔力を練れ!だが無茶はするな、すぐに退ける準備もしておけ!」


そう叫び、迫り来るオークハイを相手取りながらフィッツは舌打ちをする。


周りの戦況を見ても明らかに劣勢だ。一人、二人と徐々に戦線を離脱している。大半は素早く後方に退げられ、コボルト達に運び出されており一命を取り留めている様ではあるが、戦える者がいなくなれば助かった者達もいずれはオーク共に蹂躙され落命する運命を辿ることになる。


ここで踏み止まらなくてはならないが、多勢に無勢である。フィッツはロンとフェンの二人に意識を向ける。


二人とも初めての連携だが中々に上手くやっている様だ。特にロンの周りの状況を冷静に見る目は若いながらも良いモノを持っている。それでいて一歩引いて全体を眺め、直情径行な性質のフェンとも上手く足並みを合わせてオークハイを撃破している。


しかし、やはり半人前だ。個々でのオークハイの撃破はまだ出来ない。二人がかりでようやくと言ったところである。各個撃破出来る程の攻撃の貫通力はロンにもフェンにもまだ無い。


千を超える一個大隊のオークの軍勢。こちらは圧倒的に手数が少ない。


フィッツの危惧していた通りに、ロンとフェンの周りを囲むようにじわじわとオークハイが攻めて来ている。


ロンがオークハイの背後に回り込み、膝の裏に踵を捻り込む様にして打ち抜く。

オークハイは堪らず膝を地面に付けて体勢を崩すとフェンがすかさずトドメを刺そうと踏み込むが、横合いから別のオークハイがフェンに斬りかかって来てフェンの攻撃の手を止める。


ロンに膝裏を打ち抜かれたオークハイはその間に立ち上がり、振り向きざまにロンに反撃の斧を撃ち込む。

オークハイの斧による攻撃をものともぜず躱したロンであるがフェンと分断され各個でオークハイと相対せねばならなくなる。


ロンはオークハイによる斧の連撃を紙一重で躱し隙を伺う。果たしてその隙はすぐに見つかるが、ロンの眼前にさらけ出されている急所は鎧に守られている。


ロンは試しに鎧に身を守られているオークハイのスイゲツに拳を打ち込むが、鈍い音をたてるだけでオークハイに攻撃は通らない。


「やっぱりね」と呟きながらロンはすかさずオークハイの背後に回り込み頚椎の破壊を目論むが組み着こうとした途端、当のそのロンの背後に別のオークハイが現れて攻撃を仕掛ける。


ロンは慌てて横っ飛びに飛んで背後から迫るオークハイからの攻撃から逃れる。


「やっぱり組み打ちは駄目か。」


そう独言てロンは眼前の二体のオークハイに向かい構え直す。


拳足による瞬間的な突き蹴りと違い、相手の身体に組み付いて骨を断ち切るなど関節へ働きかける攻撃は隙が大きい。

一動作で繰り出せる突きや蹴りと比べ、「組む」「捻る」「折る」と複雑な三動作が必要な組み打ちは、一対一の闘争の中では脅威の技となり得るが、敵味方入り乱れる戦場では複数人での連携の中で無いと隙が多いためおいそれと使う事が出来ない。


今この場ではロンはフェンの支援が無ければこの技を使う事が出来ない。


二体のオークハイによる連携攻撃をロンは最小限の動きで見事に躱す。

ロンにとっては連携を取ったオークハイの攻撃もグリエロとトムの苛烈な攻撃と比べると力任せの乱暴なものにしか見えない。


しかし、ロンはオークハイの攻撃は当たらないのではあるが、反撃に出たとしても攻撃は当たりこそすれ鎧に阻まれ通る事は無い。


ロンは攻撃を躱しつつ何度もオークハイを蹴りつけるが一向に効いている気配が無い。


「僕の攻撃は効かないな。何が足りないのか?刃の様な鋭さか、鈍器の様な硬さか!?」


ロンはぶつくさと独言ながら攻撃を躱しては反撃を試みる。このまま相手をするオークハイが一体、二体と増えて来るといずれは自分の手に負えなくなってくるだろう。今の自分は何体の敵を同時に相手取る事が出来るだろう?


そう思いながらロンはフェンの様子を伺うと、フェンはフェンで二体のオークハイを相手に防戦一方となっている。


フェンが相対しているオークハイは先程割って入ってきた剣を持つ者と、新たに参戦して来たオークハイは大きな戦鎚を持つ個体だ。


オークハイ二体の連携による猛攻はフェンに反撃する隙を与え無い。上手く剣撃を躱したフェンだったが、身体を捌いた先にはもう一体のオークハイの戦鎚が待ち構えていた。

上手く剣撃を躱したつもりで誘導されていたのだ。


戦鎚の振り下ろしを躱しきれないと悟ったフェンは咄嗟にバックラーを構えて身を守ろうとする。だが大きな戦鎚のに対して前腕を覆う程の大きさしかない小さな盾では、その衝撃を全て吸収する事が出来ない。


フェンの速攻が身上の軽装がこの場合には仇となった。


戦鎚に打ち据えられたフェンはバックラーで防御したとはいえ後方に大きく吹っ飛ばされる。


勢いよく飛ばされたフェンは上手く着地出来ずに仰けに倒れ尻もちをつく。


そのフェンにトドメを刺さんとオークハイが迫るが、事の顛末を見ていたロンは自身に襲いかかるオークハイ達を尻目に即座に踵を返しフェンとオークハイの間に割って入る。


ロンは戦鎚を上段に構えるオークハイの胴に蹴りを入れ込み上体を退け反らせ攻撃の手を止めさせるや、尻もちをつくフェンの首根っこを引っ掴んでその場を離れる。


「フェン大丈夫か!?」


「ロンすまねえ、助かったぜ!」


「盾で防御したフェンも吹っ飛ぶんだな。攻撃の威力は鋭さでも硬さでも無いな...... 重さかな?」


「ん!? 何のこった?」


ロンの呟きに不思議な顔をするフェンであったが、眼前にロンがそのまま引き連れて来た形になるオークハイを合わせた四体の敵が迫って来るのを認め顔を引き攣らせる。


「あ、やべ。」ロンがポツリと呟くや背後から二人の脇をすり抜け複数の火球が迫るオークハイに向かって飛んで行く。


火球は迫り来るオークハイ達に当たるや爆発し、オークハイ達を吹き飛ばす。


「あんた達、ボサッとしてるんじゃないわよ!」


そう怒声を飛ばすのはファータである。

驚き振り返るロンは言葉も出ないといった感じだが、ファータの怒声を上回る大声を発したのはフェンであった。


「ファータ、てめえしっかり魔力を練ってろよ!今のは中級中位の炎魔法だろ、俺たちゃ俺達でなんとかするから無駄弾撃つんじゃ無え!」


「何を偉そうに!今のはかなり危なかったわよ!」


「いや、ファータはやっぱり凄い黒魔導師だな。今咄嗟に出したのは簡易詠唱だろ?詠唱出来る魔法の幅が広いよね。ところで体重を重く出来る魔法ってあるかな?」


喧嘩腰に言い合う二人の間に、調子外れな物言いのロンが割り込んで来る。文字通り調子の狂ったファータは顔をしかめながらも首を横に振る。


「何なのよアンタ。相変わらず空気読めないわね。何それ重力魔法の事? そんなの出来る訳無いじゃない。それ上級上位の高等魔法よ。」


ファータは腰に手を当ててため息を吐く。するとフェンが先程の大声を上回る怒声を飛ばす。


「ファータ退がれ! オークハイの野郎どもが復活しやがった!」


そう怒鳴るフェンの目線の先には先程ファータの火球で吹き飛ばされたオークハイ達が黒煙をたてながら立ち上がり、怒りの形相でこちらを睨んでいるのが見える。


ある程度の損傷は与えた様だが、やはり魔法の大半は魔鋼の鎧によって耐火され通らなかった様だ。


「厄介な鎧だな。あんなに凄い魔法もほとんど通らないなんてな。」


ロンがため息混じりにそう言うと、そのロンを見てフェンが嘆息する。


「お前、本当に呑気な奴だな。この状況は結構な窮地だぜ。」


フェンがそう言いながらブロードソードとバックラーを構えると、続いてロンも拳を軽く握り顎先まで上げ腰を軽く落として構えを取る。


「まあ、こっちにはルドガー先生とフィッツがいるんだ僕達が頑張れば何とかなるだろ。」


「っへ!言うじゃねえか。よっしゃ一丁俺達でやってやるか!」


そう言って二人は眼前に迫る四体のオークハイと相対する。


先に動いたのはロンであった。素早く駆け出し先頭にいる剣を持つオークハイの手前で大きく一歩を踏み出しスイゲツを鎧の上から蹴り込む。

身体の芯を打ち抜かれたオークハイは大きく仰け反り体勢を崩す。やはり鎧に阻まれ攻撃は通らないがロンは構わず身を翻しもう一体のオークハイの顔面に蹴りを回し入れる。

思いもよらぬ上段への攻撃にオークハイは足を滑らせ仰けに倒れる。


オークハイが倒れるのを一瞥するやロンは素早く一歩後退する。入れ違いに飛び出したのはフェンだった。

突然のロンの攻勢に動揺を見せたオークハイはフェンのバックラーによる体当たりを真正面から不意に受け吹っ飛ばされる。


残るは戦鎚を持つオークハイである。

戦鎚のオークハイは怒りに吠えながら戦鎚を振りかぶる。


そこにロンは力一杯地面を蹴り、肩腰をグンと回転させ自身の持てる最速の突きを放つ。


その突きは戦鎚が振り下ろされるより早く、オークハイの胴体を打ち抜く。


鈍い音をたてロンの突きはオークハイの鎧われたスイゲツに刺さる。戦鎚のオークハイは兜の下で顔を苦痛に歪め二、三歩後退する。


さらに追撃しようとフェンが一歩踏み込むがロンに最初に蹴り飛ばされたオークハイが体勢を立て直し、フェンの攻撃に横槍を入れる。


オークハイの剣はフェンの濶剣を弾く。フェンは短く舌打ちし割って入って来た剣のオークハイと二、三合剣を撃ち合う。


そうこうするうちに、先程フェンに体当たりされ吹っ飛んだオークハイが戦線に復帰して来る。フェンに攻撃を仕掛けようとする所をロンに阻まれるが、再びロンとフェンは防戦にまわる事になる。


後の二体のオークハイも復帰して参戦して来たからである。


「最速の突きを放っても攻撃は余り重くならないな。て言うかやっぱり二人じゃ厳しいな。もうちょっと人手がいるかも。」


「おおい、弱音を吐くの早えな! まあロンの言う事ももっともだ。四対二はキツイな! っと! 危ねえ!」


フェンはぼやきながらもオークハイの戦鎚を辛くも躱し、その場から大きく飛び退く。

だがオークハイ達はフェンに休む暇を与えない。ロンと相対していたオークハイの一体はフェンの劣勢を目敏く察知し、ロンから標的をフェンに切り替える。


フェンは二対一の状況から突然に三対一の更なる劣勢に追い込まれる。


「あ、オイ!お前の相手は僕だろ!」


ロンはそう言ってフェンを相手取るオークハイに加勢しようとする一体を追いかけようとするが、もう一体のオークハイに行手を阻まれる。


「オイ!邪魔だ!」


そう言って立ちはだかるオークハイに蹴りを放つが、焦った攻撃は易々と受け止められる。


ロンはルドガーとフィッツの様子を伺うが、こちらからはルドガーは遠く、フィッツも複数のオークハイを相手取っており、こちらに手は回せ無い様だ。


フェンは三体のオークハイに追い詰めらる。戦鎚を持つオークハイが下卑た笑い顔を浮かべフェンにトドメを刺そうと手に持つ得物を振りかぶろうとした刹那。


その下卑た顔が粉々に吹き飛ぶ。


フェンもオークハイ達も一瞬何が起こったか解らなかった。


頭を失ったオークハイはそのまま仰けに倒れる。その倒れた先の地面にはには戦斧フランキスカが深々と刺さっている。


呆気に取られるフェンの側を猛烈な速度で人影が駆け抜けるや、もう一体のオークハイは脳天から身体を両断される。


オークハイを両断したのもフランキスカであった。


そのフランキスカを持つ者はもちろん惨禍の誘惑者パイリラス・ドゥズヤルヤである。


フェンは驚愕の表情を浮かべていたが、それ以上に驚いたのはオークハイだろう。額から捩じくれた角を生やす魔族に一瞬にして仲間を二体も葬り去られたのであるから。

魔族は味方では無かったのかと疑問に硬直するオークハイは、目の前にいる魔族が裏切り者のパイリラスであると気付く前に頭から全身をひしゃげさせて絶命する。


オークハイを潰したのは戦鎚グリダヴォルである。


その巨大な戦鎚を軽々と肩に担うのはミナであった。


唐突な援軍にオークハイどころかフェンやファータも唖然としていると、ロンと相対していたオークハイがぷっつりと糸が切れたかの様にその場に崩れ落ちる。

崩れ落ちたオークハイの背後に立っていたのはフィリッピーネである。慈悲の短剣ミセリコルデで心臓を一突きにされたのだ。


これにはロンも驚きの色を隠せなかった。


「フィリッピーネも此処に来たの!? 」


ロンの心配も余所にフィリッピーネはあっけらかんと応える。


「良かった間に合って。ロンさん達、危ないところだったわね! でも驚いちゃった。この短剣凄いのね、鋼のように硬いパイリラスちゃんの皮膚を簡単に裂いちゃうからまさかと思ったけれど、あんなに分厚い鎧も簡単に貫いちゃうのね。」


オークハイの身につけている鎧は分厚いだけでなく魔力を帯びた魔鋼で出来ているので並大抵の武器では傷をつけるのも難しいのだが、フィリッピーネが持つ慈悲の短剣ミセリコルデはエルフの秘宝である日緋合金を錬成した決して折れぬ強靭な刃である。魔鋼の鎧など貫けぬ筈が無い。


ひとしきり感心するフィリッピーネを眺め微笑むミナを見て頓狂な声をあげるのはフェンである。


「え!? お前、ギルドの受付のミナだよな? 何だそのどデカい戦鎚は!? て言うか誰だこのフランキスカを持った異様に強い姐さんは?」


狼狽するフェンの肩をバシンと叩いて闊達に笑うのはパイリラスである。


「我が名はパイリラス・ドゥズヤルヤ。惨禍の誘惑者パイリラス・ドゥズヤルヤだ! よろしくな。うむ、おぬしの名は何と言う?」


「あ、ああ、俺はフェンだ。フェン・ズワート。助けて貰って礼を言うよ、ありがとう。」


「おっと、礼を言うのはまだ早いぞ、豚どもはまだ唸る程いるからな。そいつらを始末してからだ。」


パイリラスがそう言って手でフェンの続く言葉を制する。

そこにロンがやって来る。


「やあ、助かったよパイリラス。それにミナも来てくれたんだな。て言うかフィリッピーネも来てるんだけど…… あの装備ってミナの例の装備だよね。」


ロンの言葉に気まずい顔をするのはミナにパイリラスである。


「いや、止めたんじゃが、どうしてもと言うのでな…… いや、フィリッピーネ様は私が身を挺して守るので安心するのだ。」


何ともむず痒いといった面持ちでパイリラスがそう言うと、これまた微妙な面持ちでミナが「そう言う事なのよ」と付け足す。

 

ロンを始めとしてフェンにモルガーナ姉妹がキョトンとしていると、グリエロがトゥッリとミステルを引き連れて後退して来る。


「おら! ひとっ所に固まってんじゃねえ! こっちゃあトゥッリがへたばっちまった。パーティの編成のし直しだ。先ずはルドガーとフィッツん所のオークハイ共を一掃するぞ。ミナ、パイリラスは俺について来い。ラネズはトゥッリの回復を、ファータ、ミステルは魔力を練っておけ! 行くぞ!」


そう言ってグリエロはミナとパイリラスと共に矢の様に飛び出して行く。

ファータとミステルは各々魔力を練り始める。残されたロンとフェンはお互い顔を見合わせる。


「僕達も応援に行くべきかな?」


ロンが逡巡しているとラネズに呼び止められる。


「フェンとロン! アンタ達もこっちにおいで。回復してあげる。」


その言葉を聞いてロンとフェンはおずおずとラネズのもとにやって来る。

ラネズはロン達の頭上に魔術杖を掲げる。


ロンは回復魔法を施されながらグリエロ達を目で追いかける。


攻撃の口火を切ったのはパイリラスであった。猛烈な勢いで飛んでいくフランキスカはオークハイ達を次々と薙ぎ倒していく。そこにさらに追撃を加えたのはミナである。


ミナはグリダヴォルを振りかぶり大きく跳躍し、オークハイ達の直中に飛び込むや地面もろともオークハイ達を粉々に吹き飛ばす。


パイリラスは両手に持つ戦斧フランキスカを、ミナは戦鎚グリダヴォルを手に嵐の様に立ち回る。その嵐に巻き込まれた哀れなオークハイ達は身体を粉微塵に粉砕され命を溢して逝く。


グリエロはフィッツの加勢に加わり連携してみる間にオークハイ達を屠っていく。その連携技は即席でありながらも見事に統率されており、決して悪くないロンとフェンの連携が児戯に見えてしまう程に洗練されたいた。


「なあ、ロンよグリエロの連携見てみろよ。何か俺とお前の連携はそこそこ出来てるもんだと思っていたが、あの動きを見ると恥ずかしくなるな。」


「まあ、そう言うなよ。グリエロはあれでも元上級職の戦士だったみたいだしな。」


「なるほどな。するって言うと何か? 受付のミナもそうなのか?」


げっそりした顔でそう言うフェンにロンはさもありなんと相槌を打つ。


「まあ、そうらしいね。昔は上級上位の戦士だったんだって。」


ロンはそう言いながら、まあ五百年前のことだけれどもねと心中で呟きながら嵐の渦中を眺める。一騎当千とでも言おうか、ミナとパイリラスの二人が加わるだけで戦況がガラリと変わった。



周りの魔物をあらかた片付けたグリエロ達が後退して来る。


「おし、パーティの編成だ。まずは俺とミナ、それにロンとフェンだ。フィッツすまんがフェンを借りるぜ。フィッツんとこにゃ前衛にパイリラスとフィリッピーネにトゥッリだ。後方でファータとミステル、お前達は共同で広域中級上位魔法を展開しろ、各々の負担を減らせ。ラネズは一人ですまねえが回復役だ。それとルドガー爺さんすまねえがこの魔法使い達の護衛に回ってくれ。」


グリエロの言葉にそれぞれが頷くと、それぞれの新たに編成されたパーティに別れ散開する。


「おっしゃ! テメエら気合い入れろオークのクソ豚共は直ぐに湧いて出て来やがるぜ!」


そう言ってグリエロは剣を構えて迫り来るオークにオークハイ達を迎え撃たんとする。


ロンも軽く深呼吸をして息を整えると二、三小さく跳躍し拳を軽く握り腰を落とす。


「さて、仕切り直しだ。重い突きをどうやって放とうか。殴る相手には事欠かないし、一つ頑張ってみるかな。」



そうポツリと独言たロンは、ひしめくオークの軍勢を前にしているとは思えぬ程肩の力の抜抜き、油断なく慎重に構えを取る。

いつもお読みいただきありがとうございます。


さてこのまま攻勢に転じる事が出来るのでしょうか。

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