76 冒険者達の戦い方
とうとう戦闘が始まります。
城壁の倒壊場所付近はトムの指揮の下、南部担当の冒険者の再配置と怪我人の搬送があらかた済み、東部、西部から応援の冒険者パーティが続々と駆けつけているところであった。
ウンドの街を東西南北の四つの区画に分け、戦闘要員として中級上位以上の者を根幹とする冒険者パーティを南の区域を中心にそれぞれ配置している。
南の区域を中心にするのは住民避難が済み、戦闘準備が完了して後ブランシェトが城門周辺の結界を解いてオーク共を誘き出す作戦が立てられていたからである。
しかし城門周辺の結界が破られただけで無く、城壁を大きく倒壊させられる事態に陥り、冒険者の中に少なくない怪我人が出ており、何名かは戦列を離れる事になった。
避難中の街の住人は幸いにも皆無事にいた。怪我人と言ってもかすり傷を負ったくらいである。
倒壊した城門の破片が建物を破壊し、その破壊された建物の瓦礫に埋まった者も少なからずいたが東西南北の四方に配置された冒険者パーティの他に、中級中位の魔導師を中心とした冒険者パーティを救援、救護を主として行う遊撃部隊として街の中央に配置していたために救助は迅速に行われた。
何とも幸運な事であるが冒険者の中に怪我人が出る中、街の住人達は瓦礫に埋もれる者もいたが不思議と怪我人は一人もいなかった。
さらにはコボルト達が瓦礫に埋まった者達を鋭い嗅覚で見つけて掘り起こし搬送まで手伝ったので救援はみるみる間に進んでいったのである。
城壁の倒壊という不測の事態が起こったが大きな混乱が生じる事なく迅速に戦列が整ってゆく。
これはトムの作戦と人員配置の采配が大きい。
「タスリーマ、ハンス、そちらの区画からどのパーティをこっちに寄越した?そちらの状況は?」
トムが使い魔に向かって指示を飛ばすと、赤い目をスッと細めた使い魔はタスリーマの声で話し出す。
「そっちに向かったのはウーヌ、ドゥガ、トゥッリの三つのパーティよ。こっちはもう戦線は立て直してるわ。いつでも来いって感じね。」
タスリーマの声がそう言うと、続いてハンスの声が聞こえる。
「西部からはエリリ、デュアパルト、ラトリアのパーティが向かいます。こちらに待機しているパーティは五つ、総勢二十二名です。戦闘準備は完了しています。」
トムはそれぞれの報告を聞いて一言短く「わかった」と言葉を発した後、後ろに待機している冒険者達に向き直る。
各々武器を構える者、呪文の詠唱準備をする者と戦う準備は出来ている様だ。
周りを見渡すと、崩れた城壁の破片やそれに押しつぶされた建物、そこ此処での救助活動などまだ現場としては少々混乱している。
そうこうしているうちに地響きが聞こえて来る。
オークの軍勢が押し寄せて来ているのだ。
トムは足元の揺れに敵の接近を感じニヤリと不敵に笑う。
「来るぞ!剣を担え!弓を引き魔杖を構えろ!」
トムは戦列の前に飛び出し剣を高く掲げると鬨を合わせるように冒険者達が喊声をあげる。
その声が響くと共に城壁の切れ目からオークの軍勢が堰を切ったように溢れ出し突撃して来る。
「引き付けろ!」
トムの号令。
「グォオオォォ!!」オークの大群が怒号を発しながら雪崩れ込んで来る。
「引き付けろ!」
トムの号令に冒険者達は武器を握り締め腰を落としグッと構える。
眼前に大量のオーク共が迫ったその時。
「放て!」大音声のトムの声と共に、武器を構える冒険者達の背後から、その隙間をぬって無数の矢が飛び出して来る。
背後に控えていたアーチャー達によって放たれた無数の矢は、押し寄せるオークの最前列の一団を次々となぎ倒す。
一瞬オーク共の動きが止まると、そこを見逃さずトムは号令を掛ける。
「放て!」そう言ってトムが掲げていた剣を振り下ろすと広範囲に渡ってオークの頭上に雷や炎の魔法が降り注ぐ。
オーク共が焼け焦げる臭いが辺りに立ち込める。
押し寄せるオークの一団が矢になぎ倒され炎と雷によって灰塵と化すと、そこはぽっかりと拓けた場所になる。
「突撃!」トムの絶叫と共に冒険者達はその拓けた場所に、オーク共のただ中に突撃する。
その先陣を切ったのはトムであった。
まさに風の如くオークの軍勢のただ中に飛び込み、瞬く間に斬り伏せていく。
一歩、踏み込みざまに左から横薙ぎに一閃。トムの左右にいたオークの首が飛ぶ。さらに一歩踏み込んで、眼前に迫るオークの胴をすれ違いざまに袈裟斬りに断つ。
トムが戦場を駆け抜けると見る間にオークの死骸の山が築かれていく。
オークの一団の直中に飛び込み、取り囲まれるもトムはどこ吹く風といった顔で、振り下ろされる数多の武器を身を捻り腰を屈めて躱す。さらにトムは屈んだ勢いでくるりと身を翻すと取り囲んでいたオーク共の脚を横薙ぎに次々と断ち切っていく。
足を失い身を崩し倒れ伏すオーク共は続く冒険者達にとどめを刺されていく。
ただ冒険者達もトムのおこぼれに群がる訳では無い。一方では、槍術士が上段に突きを放ちオークを牽制するや、その槍の下を素早く潜り抜け続く剣士がオークのガラ空きになった胴を断つ。片や魔術師達も負けてはおらず、雷の範囲魔法でオーク共を痺れさせ足止めし、硬直し隙だらけになったところを剣士や槍術士がとどめを刺すといったように息の合ったパーティが次々とオークを屠っていく。
見事な連携技でオークを倒していくパーティもあれば各々が独力でオークを倒す猛者達のいるパーティもある。両手斧でオークを頭から一刀両断にする者もいれば大剣を横薙ぎに一閃して次々にオークを両断していく者もいる。そうかと思えば強力な火力で一瞬でオークを灰にする炎の魔術師もいる。だが一人一人がバラバラに動いている訳ではなくお互いの背中を守るようにしてやはり見事な連携を取って戦っている。
そんな中で猛烈な勢いでオーク共を屠っているパーティがあった。
二人の剣士に白魔術師と黒魔導師の四人パーティーである。
金髪長身の剣士フェン・ズワートと寡黙な壮年の剣士フィッツ・シモンズに白と黒の魔法使いのモルガーナ姉妹である。
特に豚潰しの剣ことオークベインを振るい苛烈に戦うフィッツは目を見開き酷薄に笑い、さながら悪鬼の如くでどちらが魔物かわからない様相を呈していた。
真っ直ぐオークのもとへ行き、真っ直ぐ脳天にオークベインを叩き下ろす。
オークを真っ二つにすると次のオークに、といった具合でフィッツは鬼の形相で剣を振い続けている。
その目は真っ直ぐ目の前にいるオークしか見ていない。フィッツは真っ直ぐ一歩踏み込んでオークに豚潰しを振り下ろす。
剣を振り下ろした瞬間に出来た隙を突いて背後から別のオークが迫るが、さらにそのオークの背後からフェンが駆けつけフィッツを狙う魔物の心臓を一突きにする。
即座に絶命しその場に崩れ落ちるオークを尻目にフェンが目に怒りの色をにじませフィッツを睨む。
「おい、フィッツ! 今のは危なかったぞ! 考え無しに前に出るんじゃねーよ! 陣形がガタガタだろーが! おい! 聞いてんのかよ!」
フェンの怒号も聞こえているのか、フィッツはまるで意に介する様子もなく次なるオークに向かい剣を振り下ろすが躱され反撃を受ける。
オークの手斧で額を真一文字に叩き切られ鮮血がほとばしるがフィッツは気にする様子も無く、手斧を振り抜き隙を見せ死に体になったオークに無造作にオークベインを振り下ろす。
オークは袈裟斬りに肩口から反対の腰まで切り裂かれ絶命する。
豚潰しの剣ことオークベインはオーク系の魔物と戦うための剣である。
紅鉛鉱鋼と不銹鋼に黒鉛で鋳鉄された鋼にさらにミスリル銀を焼鈍させ強靭化させた刃を使った剣をオークベインと言う。様々な貴重な金属素材と複雑な工程を経て作られた刃は人間には感じる事の出来ない微細な振動を放っておりオーク系の魔物の邪悪な魔力と共鳴する。その共鳴はオークの忌避する振動であり、それによりオークは弱体化する。オークベインを持つ者はオークの攻撃を鈍らせ、さらにオークへの攻撃の威力を増大させる。フィッツがオークに額を切りつけられた時に致命傷にならなかったのはこのためである。
額から滴る血にまるで興味が無いかの如く次の獲物に向かおうとするフィッツに白魔術師のラネズ・モルガーナが慌てて回復魔法をかける。
「おっさん、ちょっと先走り過ぎ。フェンあのおっさんの暴走を止めて。」
フィッツに何とか回復魔法をかけてラネズは肩で息をする。
後から追いついた黒魔導師のファータ・モルガーナがため息をついてフィッツを眺め口を開く。
「いつもの冷静さのかけらも無いな。いったん引いて頭を冷やした方が良いんじゃない? フェン、まだまだ先は長いんだ後には上位種のオークハイも控えてんだろ!? おっさん止めてきてよ。ペト・ウーレー!」
そう言って姉妹で二人してフェンにフィッツの制止をなすりつけると、ファータは簡易詠唱で炎の魔法を練り上げフィッツの周りのオークをなぎ払う。
「お前らいつも二人して面倒臭い事を俺に押し付けるよな。」
そう言ってフェンは豚潰しの剣を振るうフィッツのもとに駆けつける。
フィッツは相変わらず鬼の形相でオーク共を斬り伏せている。フェンはフィッツの隣に並び剣を構える。
「おい、フィッツ! 聞こえてんだろうーが! 一人で突っ走ってるんじゃねーよ! 俺たちに気を揉ませんなよ、くたばりたいのか!?」
フェンの物言いにフィッツは目だけをギロリと向けて口を開く。
「くたばる!? ああ、構いはしない。オークを殺せるならな! フェン、邪魔をするな。邪魔をするならお前も...... 」
そこまで言ってフィッツは拳を受けて吹っ飛ぶ。
フェン・ズワートに横面を張り飛ばされたのだ。
仁王立ちにフィッツを睥睨するフィッツが拳を震わせながら声を荒げる。
「邪魔してねーわ! 助けるっつってんだろ! だからお前の気持ち汲んで最前線まで出張って来てんだろーが!」
そう言ってフェンは地面に膝を突いているフィッツに手を差し伸べる。その言動にフィッツははたと顔を上げフェンの顔を見上げる。
「一人で勝手にくたばろうとしてんじゃねーよ。俺達がいるだろうがよ。」
目が合うなりそう言うフェンの手をフィッツはしっかと握る。
フェンは握られた手を強く握り返しフィッツを引き上げる。
立ち上がったフィッツ・シモンズの顔は憑物の落ちた様な顔をしている。
「すまんな、フェン。俺とした事が...... 冷静さを欠いていた。」
「っへ!わかってるよ。フィッツは豚共の事になるとカッカ来るってのはよ。」
「いや、頭が冷えたよ。お前のカッカしてる顔を見たらな。」
フィッツはそう言って自嘲気味に笑うと、フェンも悪戯っぽくニヤリと笑い返す。
「おう、カッカすんのは俺の役目だよ。」
そう言ってお互い拳をぶつけ合う。それを側でシラけた顔をして眺めているのはモルガーナ姉妹である。
「うちのに限らず何でウンドの男達はすぐにああやってイチャつくんだろうね。」
「そうよ。おっさん共がイチャついてる間に周りのオークのをやっつけてんの私だからね、ペト・ウーレー!」
そう言ってファータは周りのオーク共を炎で焼き払う。
そうこう言っているうちに他の冒険者から怒号が響いてくる。
「第二陣が来るぞ! 次はさらに数が多い! 上位種も散見される! 気を引き締めろー!」
「「おう!」」「「おお!」」その言葉にそこかしこから雄叫びの様な返事が返ってくる。
その声を聞いてフィッツをはじめモルガーナ姉妹も顔に緊張が走る。上位種が見られると言う事はオークハイが攻めて来ると言う事である。
オークハイは滅多に出ない上位種の魔物なのでフィッツもモルガーナ姉妹も実際に遭遇した事は無く、ただ強いとしか伝え聞いていないが、唯でさえ厄介なオークの上位種である。真っ当な冒険者なら警戒もしよう。
そこに賑やかな者達が現れる。
「おい、グリエロこっちみたいだ! 早くしないと。何だか悠長に踊ってたもんだから出遅れてしまったみたいだぞ!? 何だか皆んな勢揃いしてるんじゃないか?」
「まあ待ちな! ロン、お前さん焦り過ぎだ。オーク共は何処にも逃げやしねえ。どんどん来らあな。それよかルドガー爺さんの事を考えてやれ!」
「いえいえ、どういたしまして。グリエロさん、すまないね。私みたいな盲いた老人なんて放って行ってくれたら良いですよ。」
「いいや、そうはいかねえ。俺一人にロンのお守りを押し付けんじゃねえよ! 爺さんにもしっかり面倒見てもらうぜ!」
「おい、グリエロ! お守りってなんだよ!? 」
「いやはや、魂胆を見抜かれましたか。しょうがないですね、私もロンさんのお守りを致しましょう。」
「ええ!? ルドガー先生まで!?」
そう言ってがやがやと登場したのは、ロンとグリエロにルドガーである。
脳天気な雰囲気で現れた一団に周りの冒険者達もポカンとする。
同じく呆けるフィッツやフェンを目ざとく見つけたグリエロは、フィッツの泥と血にまみれた姿を見て苦笑い一つしてフンと鼻息を漏らす。
「おいフィッツ、お前さん無茶してるようだな。俺達みたいなおっさんが鼻息荒く意気込んでも格好つかんぜ、ええおい。」
そう言ってグリエロは意地悪そうな悪戯っぽい顔をして笑う。それを受けてフィッツは自嘲気味に笑うとため息を吐く。
「まったくだ。今フィッツに同じ様な事を言われていたところだ。」
そう言ってフィッツはニヤリとフェンに笑いかけると、当のフィッツは少し気まずそうに目を背ける。
グリエロが鞘から剣を抜き肩に担うとフィッツに状況の確認をする。
「おう、今オーク共は引いてんのか? 第二陣は直ぐに来るのか?」
「ああ。こうしてる間にも第二陣が襲来しそうだ。次はオークハイも加わるようだな。」
そう言ってフィッツは苦虫を噛み潰したような顔をするがグリエロはどこ吹く風といった涼しい顔をしている。
「よっしゃ、もうオークハイ共が来やがるんだな。お前さんはともかく、後の奴らには荷が重そうだな。まあ、こっちも俺と爺さんとお守りの必要な凡骨だ。頼り無えことこの上ねえやな。どうだ、いっちょ手を組まねえか?」
グリエロがそう言うとフェンが息巻く。
「おい!荷が重いってどう言う事だよ!」
「そのままの意味だ。お前さんもだが、こちらのロンも一人では何匹ものオークハイの相手をするのはちょいと骨だ。ここは共闘すんのが一番って寸法だ。」
グリエロがそう言ってロンを指差すと釣られてフェンもロンを見るが、その後ろに控えるルドガーを見てさらに怪訝な顔をする。
「おい、ちょっと待て。そこの爺さん、按摩屋の爺さんじゃねえか!目の見えない爺さん連れて来てどうすんだよ!ロンより足でまといじゃないかよ!」
フェンがそう叫ぶとロンが微妙な顔をするが、フェンを制したのはフィッツである。
「フェン。ルドガーさんは恐らくこの中で一番強い。」
「はぁ!? どう言う事だよ!」
「ルドガーさんは伝説の暗殺者、死の道だよ。お前も子供の頃、寝物語に聞いた事があるだろう。」
フィッツの言葉にフェンだけで無く、モルガーナ姉妹も目を見開いて絶句する。当のルドガーはむず痒そうな顔をして掌をヒラヒラさせる。
「いえいえ、よる年波には勝てませんよ。もう今じゃフィッツさんにも敵わないかもしれませんねぇ。」
そう言ってルドガーは自分の頭をつるりとなぜる。それを聞いてフィッツは苦笑いをする。
「ご冗談を。俺なんかまだまだ足下にも及びませんよ。十年前の模擬訓練、あれは本当に凄かった...... 俺は死にかけた挙句に十日ほど寝込みましたからね。」
そう言ってフィッツは遠い目をする。
フェンにモルガーナ姉妹はまだ頭が追いついていない様で固まったままだ。
「はいはい。昔話はここまでです。オーク共が到着した様ですよ。嫌な臭いが漂ってきたね。」
そう言ってルドガーは身を低くし、仕込み杖をジリリと構えて城壁の亀裂を睨む。
「おう、フィッツ。お前さんが頭だ、合わせるぜ。」
グリエロがそう言うとフェンが意外そうな顔をする。
「おい、いいのかよ。グリエロさんあんた元上級中位の戦士だろ? それに死の道ルドガーさんもいるじゃないか...... 」
「いや、そうは言ってもこっちは即席パーティだ。お前さん達ゃ組んでもう長いだろ。こっからは連携戦闘が必須だ。そっちのやり方に合わせるぜ。フィッツいいな!」
「ああ、心得た。うちは剣士二人に白黒の魔法使いの変則型パーティだ。見てわかる通り俺とフィッツは濶剣ブロードソードに小盾バックラーの速攻が身上の装備だ。モルガーナも簡易詠唱使いで魔法の発動が早い。合わせられるか?」
フィッツの説明に「おう」と短く答えるグリエロ。ルドガーは静かに頷く。ロンはわかった様なわからない様な微妙な表情を浮かべている。
そんなロンを見てグリエロは一つため息を吐くと口を開く。
「おい、ロン。お前さんにゃ濶剣と小盾の使い方は教えてあんな。バックラーは時として武器にもなる小盾だ、俺に小盾で散々ぶっ叩かれたから覚えてるな!?」
「ああ、まあ」嫌な思い出が頭をよぎるロン。濶剣と小盾の攻撃はグリエロに嫌と言うほど味合わされた。多分フィッツとフェンの動きに合わせられるだろう。
グリエロは続いてモルガーナ姉妹に向けて口を開く。
「ここにいるロンの事は気にせず魔法はぶっぱなしゃいい。こいつは属性持ちのけったいな身体してんだ。魔法耐性が異常に高い、特に耐火能力に長けてるみてえだな。」
しれっと無茶な事を言うグリエロにロンは目を見開く。
「おい! グリエロ無茶苦茶な事を言うなよ。味方の魔法をくらうなんてゴメンだぞ!」
ロンの抗議も聞いてか聞かずか、モルガーナ姉妹は軽く頷く。
「わかったわ。ロンの事は気にしないで魔法を放つわね。グリエロは魔法の射線上にいないでよ。そこのお爺ちゃんは大丈夫?」
黒魔導師のファータ・モルガーナの言葉にルドガーはニッコリ微笑んで静かに頷く。
「大丈夫ですよ。その声はファータさんですね。あなたはのびのび戦って下さい。私は邪魔しませんよ。」
ルドガーがそう言うと白魔術師のラネズ・モルガーナがコクンと頷く。
「私も大丈夫。あなた達がファータに灰にされるよりも先に回復してあげる。私の詠唱はファータより早い。」
「あの...... 僕はファータさんの魔法を浴びる前提なんですか?」
ロンは恐る恐る聞くが、答えを聞く前に言葉を遮られる。
「おら! てめえら無駄口叩いてる暇はねえぞ! 構えろ! 来るぞ!」
グリエロの怒号が飛ぶ。
皆一斉に城壁の割れ目に意識を向ける。
そこにはオークの軍勢が見えた。この第二波にはさらにオークハイの姿も見える。
それはオークに混じって一匹や二匹いるという数では無かった。
城壁の割れ目に現れた魔物の数は十や二十では無い。ざっと百を超えるオーク共の半数は上位種のオークハイである。
ここからはきつい戦いになりそうだ。
武器を握る冒険者達の手に力が入る。
翻ってロン・チェイニーは握りしめていた拳を僅かに緩める。
そうやってロンは相対する敵に突きを繰り出す拳を作る。
さあ戦う準備が出来た。
眼前にはオーク共が迫る。
とうとう始まりました戦闘の行方はどうなるのでしょう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
どうぞこれからもお付き合いください。




