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75 急襲

事態が急転します

その拮抗を破ったのは分厚い頭巾をかぶった魔族の一人であった。


轟音を響かせ、土煙りを上げながら分厚い石の城壁が倒壊する。


ブランシェトの結界を破り城壁を破壊せしめたのは何者かーーー



ーー正午を過ぎ、フィリッピーネの舞踏公演が終わり避難誘導が始まって二時も経とうかという時にそれは起こった。



側防塔の上からエス・ディとヴァリアンテがウンドの街の眼前まで迫った魔族率いるオークの大隊を睥睨している時の事である。


「っへ!ぞろぞろとお出ましになりやがったな!バロールの野郎がいなけりゃ城壁の上からアーチャー達で矢を射掛けてやるんだがな。」


そう吐き捨てる様に呟くエス・ディに応える様にヴァリアンテがガラガラとしゃがれた声を響かせる。


「だが奴らもブランシェトの張っている結界のお陰でこちらに侵攻出来ないでいるからね。」


そう言ってくるりと顔だけ器用に振り向かせたヴァリアンテは背後にふわりふわりと飛んでいるミナの使い魔にガラガラと話しかける。


「ミナ、オーク共が揃ったよ。そっちの避難状況はどうだい?」


ヴァリアンテの言葉にミナの使い魔はその紅い目をパチクリさせたあと小さな口を開く。

そこから聞こえて来るのはミナの声だ。


「あともう少しで完了するわ。残っているのは商店の店主や従業員達ね、その人達の避難が終われば劇場をブランシェトの結界で封鎖します。」


ミナの声を聞いてヴァリアンテは肩をすくめてため息を吐く。


「はぁ... 客なんか来ないだろうに、まだグズグズしてるのかい?まったくウンドの奴らはこんな時でものんびりとしているね。...わかったよ。まあオーク共もブランシェトの結界があるからこっちには侵攻出来ないでいるからね。まあもうちょっとは時間も稼げるだろう。」


ヴァリアンテの言葉に、使い魔を通して聞こえるミナの声は少し不安な色をみせる。


「でも魔族の中にはエルフの結界を部分的にも破る事ができる者がいるから油断は出来ないわ。」


「ああ、そうさね。だが現状オーク共の動きが止まっているって事は、奴らは結界を破れる訳じゃ無さそうだ。まあ魔族が七人ほど通れる穴を少しの間開ける事が精一杯の様だからね。それにここの結界は魔界の淵に遠隔で張っているのとは違うからね。あのブランシェトが中心になって今ここで張ってる結界なんだ。それを破ってオーク共が大挙して攻めて来る事なんざ出来ないね。」


ヴァリアンテが「あまり心配するんじゃないよ」と付け加えると幾分かミナの声も柔らぐ。


「そうよね。じゃあ避難が終わったら手筈通り、城門の所だけ結界を解いて奴らを誘き寄せましょう。戦闘部隊はもう配置についているからいつでも戦えるわ。」


「しかし、呆れるくらい単純な作戦だね。まあ魔族ってのは往々にして直情径行な所があるからね、こんな策でも上手く嵌るかもね。何より奴らが率いているオークは馬鹿だからね。上位種のオークハイも知能に関してはそう変わらない...」


「おい!ヴァリアンテ!」


エス・ディの絶叫に何事かと振り返るヴァリアンテ。見るとエス・ディは側防塔の窓の縁から半ば身を乗り出して城門の外側に向かい弓を構えている。

ヴァリアンテがエス・ディの矢尻の先を目で追うと真っ黒なローブの頭巾を目深にかぶった何者かが城門の前に立っている。


その姿を見てヴァリアンテは身の毛がよだつ。


「エス・ディ何やってんだい!何故あいつの侵入を許した!ちゃんと見張って無かったのかい!」


ヴァリアンテの怒声にエス・ディの怒声がかぶる。


「見ていた!見ていたがいつの間にかそこにいた!突然現れたんでも無く、俺が見落とした訳でもねえ!あいつは俺の意識の外から現れた!有り得ねえ!ありゃ魔族なのか!?」


ヴァリアンテは城壁の前に佇む何かを凝視したままかぶりを振る。


「違う!オドを感じ無い!あいつは魔族でもなきゃ人間でも無いよ!」


「おい!じゃあなんだってんだ!」


「有り得ない!ありゃ精霊だ!エス・ディあいつを射て!射殺せ!」


ヴァリアンテが言うか言わぬかの刹那にエス・ディは矢を放つ。

矢は唸りを上げ何者かに向け真っ直ぐ飛んで行き頭巾に深々と刺さるかと思いきや、その直前に受け止められる。

その真っ黒なローブに身を包んだ何者かが受け止めたのである。


それを見たエス・ディは目を丸くする。それは矢を受け止められたからでは無い。矢を受け止めたその手に仰天したのだ。


「おい、ヴァリアンテ、ありゃ何だ!?あの毛むくじゃらの腕は?精霊ってのは皆んなあんな手をしてるのか?」


エス・ディが指差すその腕は太くたくましいが目を見張る所はそこでは無かった。その腕はまばゆい白銀の毛で覆われているのだ、あたかも獣の様に。


「そんな訳きゃ無いだろう!ありゃ、あいつは特別だ!」


エス・ディの困惑とヴァリアンテの焦燥をよそに白銀の毛並みを持つ腕は城門の方へと伸ばされる。


「あいつだ!あいつがエルフの結界に穴を開けたんだよ!エス・ディさっさと二の矢を放つんだ!」


ヴァリアンテの絶叫に慌ててエス・ディは弓に矢をつがえるが、毛むくじゃらの腕が横一文字に一閃される方が早かった。


その白銀の毛を持つ腕が虚空を裂く様に腕を振るうのと同時に大きな地響きと共に城壁が揺れる。


その衝撃でエス・ディは体勢を崩し、矢を放ち損ねる。


「な、なんでい今の揺れは!?」


エス・ディが同様しているとヴァリアンテの後ろに控えていた使い魔が口を開く。

聞こえて来たのはブランシェトの慌てた声である。


「そっちで何かあったの!?私の結界が一部裂かれたわ!いったい何が起きて...」


ブランシェトがの問いにヴァリアンテの絶叫がかぶさる。


「どうもこうもないよ!早く結界を修復しな!」


「それが出来ないの!私の結界に大量のマナが流入してる!これは直ぐには中和出来ないわ!」


「ッチ!やっぱりそうかい!」


そう言ってヴァリアンテは外を睨むと再び大声を上げ指をさす。


「エス・ディあいつらを射殺しな!こっちに走って来るあいつ等だ!」


エス・ディはヴァリアンテの指差した方を見て目を丸くする。

そこには異様な形相で全身を真っ赤に染めて湯気を立てながら咆哮するオークの一団が猛烈な勢いでこちらに向かって走って来ていたのだ。


その数はゆうに五十を超えている。


エス・ディはその異形のオークに向かって矢を放つ。次々に放つ矢は過たず異形のオークの眉間に深々と突き立てられるが、その猛烈な走りは止められない。


「おいおい、どうなってやがるんだ!?くたばらねえのか!」


「いいや、もう死んでいる!あれは火のマナが詰まった動く爆弾だ!脚を狙いな!動きを止めるんだ!」


「爆弾だと!?」と叫びながらエス・ディは再び次々と矢を放つ。その矢はオーク爆弾の膝を貫くがオーク爆弾共は膝に矢を突き立てたまま尚もまだ走り続ける。


「おい!止まらねえのかよ!どうなってんだ!」


「矢を突き立てるだけじゃ駄目だ!脚を吹き飛ばしな!」


ヴァリアンテが怒りの形相で叫ぶと、エス・ディもギリと歯ぎしりをする。


「ちっくしょう、並の矢じゃ効かねえか。ここでこいつは使いたか無かったんだがな。」


そう言ってエス・ディがつがえたのは銀色に輝くミスリルの矢である。

そして大きく引き絞られた弓から放たれた矢はオーク爆弾の脚を吹き飛ばす。


脚を失ったオーク爆弾はその場で倒れ踠いている。だが一体の動きを止めるだけではまだ足りない。

オーク爆弾は五十体を超える数がこちらに向かって走って来ているのだ。


エス・ディは次々と矢を放つが、ミスリルは軽いとはいえ一撃でオーク爆弾の膝を撃ち抜くために弓を大きく引き絞っている。そのため攻撃速度が若干落ちている。

だがその間にもオーク爆弾共はその距離を縮めている。


「おい!ヴァリアンテも手伝え!俺だけじゃ手が足らねえ!」


「わかってるよ!こんな所でオドを無駄使いしちまうとはね!」


そう言ってヴァリアンテは側防塔の上から猛烈な勢いで走って来るオーク爆弾共に向かって手をかざす。


「石の精霊リティカよ!どうか力を貸しとくれ!徒らに旅人の足をまろばせ、仇なす賊の目を穿て!」


ヴァリアンテがそう唱和すると地面に転がっている大小の石がふわりと浮き上がり疾風の如くオーク爆弾共に向かって飛んでいく。


その威力は路傍の石とも思えぬ破壊力を持ってオーク爆弾の脚を砕く。


それを見たエス・ディは思わず苦笑いをする。


「流石ヴァリアンテだな。そこいらに転がっている石ころでも武器になっちまう。」


そう言って己も次々と矢を放ちオーク爆弾の脚を砕き動きを止める。


「ッチ... 今の私じゃ小さな精霊しか動かせないね。リティカは石に宿る小さな優しい精霊だ。荒事に力を借りたく無かったんだがね...

こいつはビローグの婆ァの仕業だね。オークとは言え命を弄ぶなんざ胸糞悪いったら無いね!」


そう言いながらゆらゆらと腕をしならせ石を飛ばしオーク爆弾の脚を打ち抜く。


みるみるその数を減らすオーク爆弾だが、勢いは止まらない。城壁との距離もみるみる縮まっていく。


「オイ!こりゃヤベェぜ!手が足りねえ!」


焦りの色を見せるエス・ディだが一体一体と確実に仕止めていく。それでもまだオーク爆弾は二十体はいる。

オーク爆弾はもう眼前に迫って来ている。


「ブランシェトまだ結界は直せないかい!急いどくれ!」


絶叫しながらもヴァリアンテも手を動かし石を飛ばし続ける。

それでもまだオーク爆弾は十体が走り続けている。


ヴァリアンテの後ろに控える使い魔の口からブランシェトの声が聞こえる。


「マナを中和出来たわ!これで結界を張り直せるわ!」


「よくやった!...これでも食らいな!」


ヴァリアンテの操る石がオーク爆弾の膝を吹き飛ばす。


残るオーク爆弾は後一体。もはや城壁に触れるか触れないかの所に迫る。


「させるかよ!」


目にも留まらぬとはこの事であろうか、エス・ディが渾身の力を込めて放った矢は激烈な速度で真っ直ぐオーク爆弾の脚を目がけて飛ぶ。


その矢はそのままオーク爆弾の脚を砕く


そう思った刹那、その矢は中空で止まる。


その矢を白銀の毛をなびかせる腕が掴んでいる。


エス・ディとヴァリアンテが驚愕の表情を浮かべ絶句すると同時にオーク爆弾が結界をすり抜け城壁に激突する。


瞬間。視界が白く染まる。


その後に続く轟音。地面を震わせる揺れ。空高く舞う巨大な石。


ウンドにいる者達は最初それが何かは分からなかった。空から降ってくる巨大な石の塊。もうもうと立ち込める土煙。


だがそれが城壁の一部である事は皆すぐに理解した。


何故なら城壁に大きく裂けているのが見えたからだ。

ウンドの街の城壁がかなりの範囲に渡って倒壊している。それはオーク共が群れをなして侵入してくるには充分過ぎる大きな穴だ。


避難途中のウンドの街の人々はおろか、持ち場についていた冒険者たちも思わぬ事態に忘我でいる。


「避難者と誘導者は足を止めるな!迅速に避難を!冒険者達も気を引き締めろ!呆けている暇はないぞ!戦闘職の者達は臨戦体勢!治癒能力を持つものは怪我人のを助けるんだ!」


そう叫びながら飛び出して来たのはトムである。


爆発の音を聞いて即座に状況を理解し動いたのだ。

居合わせた冒険者達は一瞬呆気に取られたがトムの顔を見て直ぐに気を持ち直すと、即座に動き出す。


「ミナ!南の城門近くの城壁が突破された!死傷者は不明。すぐにでもオーク共が襲来するぞ。東部、西部のに配置された冒険者の中から何組かのパーティを応援に向かわせてくれ!」


トムは後ろに控えるミナの使い魔に話しかける。使い魔は赤い目を瞬きさせるとすぐに口を開きミナからの応答の声をトムに届ける。


「わかったわ。東部にはタスリーマ、西部にはハンスがいって指揮を取ります。二人には使い魔をつけているから直接会話が出来るわ。」


「わかった。ブランシェトはそこにいるかい?」


トムがそう言うと使い魔は少しまなじりを下げてブランシェトの声で話し出す。


「ええいるわ、どうしたの?」


「破壊された結界はまた張れるかい?」


「いいえ。爆発の衝撃で結界の術式がかなり損傷したわ。部分的に修復するのはかなりの時間と魔力を必要とするわね。とてもオークの侵入迄には間に合わないわね。」


ブランシェトの気落ちした声にトムは無言で頷く。


「わかった。ブランシェト気にしないでいい。相手が一枚上手だったってだけだよ。ブランシェトは良くやってる。」


そう言ってトムはニコリと笑うと、気持ちを切り替えるかの様に短く息を吐いてミナに話しかける。


「ミナ、それではブランシェトとエルザにも使い魔を。彼女達は広域に回復魔法と結界術が使えるから遊撃手として動いて貰って!コボルト達には瓦礫の撤去と怪我人の搬送を!」


トムがそう言うとミナの使い魔はコクンと頷いて再び口を開く。


「わかったわ。グリエロとロンとルドガーさんもそっちに向かっています。私も準備が出来次第、戦闘に参加します。」


「わかった。ミナは無茶しないでね。」


トムはそう言うと踵を返し走り出す。

他の冒険者達は既に動き出している。不測の事態が起きたが冒険者達の士気は下がっていないようだ。


トムは先を行く冒険者達の背中を見てニコリと笑う。



「大丈夫よ、無茶はしないわ。」


そう呟くとミナは振り返る。

ウンド大劇場の楽屋にはミナの他フィリッピーネとパイリラスにランペルがいる。


「さて、トムの伝令は聞こえてましたね。ランペルはコボルト達の指揮を取って貰えるかしら?」


「かしこまりました。瓦礫を撤去し怪我人の救助を行います。避難が完了しましたら、戦闘の補助に参ります。よろしいでしょうか?」


ランペルがそう言うとミナは少しばかり難しい顔をする。


「そうして貰えるとすごく助かります。でも皆んな無茶しないでね。」


「大丈夫です。コボルトははしっこいですし、意外と頑丈ですからね。」


そう言ってランペルはニカリと笑う。それを見たミナは困った様な表情を浮かべながら優しく笑う。

そしてもう一つ困った顔をしてフィリッピーネに向き直る。


「あのぅ...フィリッピーネさんもやっぱり戦闘に参加されるんですか?」


ミナがおずおずと伺うとフィリッピーネはもちろんと胸を張る。


「はい!私も頑張ります!皆さんが一生懸命に戦っている中で私だけ避難するなんて出来ません!」


それを聞いて青い顔をするのはパイリラスである。


「フィ、フィリッピーネ様、どうか避難なさって下さい!オーク共は私がやっつけますので、なにもフィリッピーネ様が危険な荒事に自ら飛び込まずとも... 」


パイリラスの心配をよそにフィリッピーネは首を振る。


「大丈夫よ、私もウンドの皆さんの役に立ちたいの。それにパイリラスちゃんが一緒にいてくれたら安心よ。ね、お願い!」


フィリッピーネの言葉にパイリラスは感激して涙ぐむが、首を縦には振らない。


「はふぅ!フィリッピーネ様からその様なお言葉をいただけるとは!ですが魔族は手強く危険な者達です... 」


そこまで言ってパイリラスはフィリッピーネの真剣な眼差しに、続く言葉を出せずに口をつぐんでしまう。

フィリッピーネとパイリラスの姿を見かねてミナはため息を吐きながらも二人に歩み寄る。


「パイリラスあなたの負けね、フィリッピーネさんと行動を共にして一緒に戦ってあげて。」


「な、そんな無責任な事を...」


ミナは首を振ってパイリラスの言葉を制する。


「フィリッピーネさんには私の聖銀の鎧を身につけてもらうわ。これは特別製なの。エルフの破邪の加護と、おまけにブランシェトの多重結界が張ってあるからおいそれと傷をつける事すら出来ないわ。それから慈悲の短剣ミセリコルデと攻守の短剣マン・ゴーシュをお貸しするわね。これでかなり安全になったと思うけど。」


今度は逆にフィリッピーネが恐縮し始める。


「え!?それってこの前お借りしたものよね!?そんなすごいものお借り出来ないわ!それはミナさんがお召しになって!」


「いいのよ。私はどのみち不死の眷属だから、死んじゃう事も無いと思うし。武器にしてももう一つ持っていますから。」


「え!?そうなんですか?」


ミナの言葉にフィリッピーネが不思議そうな顔をする。それもそのはず、ミナは他に武器らしいものを持っていない。


「ここではお見せ出来ないから外に出ましょう。その前にフィリッピーネさんは聖銀の鎧を身につけてくださいね。」


そう言って朗らかに笑い身につけていた聖銀の鎧を脱ぎ始める。



ミナとフィリッピーネの着替えが終わり、ウンド大劇場から出たミナを除く一同は目を丸くする事になる。


「我が名はミナルディエ!帰命する風の精霊シルウェストレより賜わりし名なり。かつてヤールの詩人エイリブル・ゴズルナルソンに謳われし巨人を穿つ渦巻く空の尾よ私の元へ!」


ミナが空に向かいそう叫ぶと一陣の風に乗ってミナの身の丈を超す巨大な戦鎚が空の彼方より飛んで来る。


その思いもよらぬ光景にフィリッピーネにランペルは口を大きく開けて絶句している。


ミナは巨大な戦鎚を軽々持ち上げると懐かしそうに頬を寄せる。


「久しぶり戦鎚グリダヴォル。来てくれてありがとう。また力を貸してね。」


ミナがそう言うとグリダヴォルはまるで生き物であるかの様にウォンと唸りをあげる。


「そ、それは!いや、その方は戦鎚グリダヴォル殿!そうでした、今はミナルディエ様と共に在られるんでしたな!」


そう興奮するのはパイリラスである。


「あら、パイリラスちゃんはこの方?この大きなトンカチさん?を知っているの?」


「ええ、お会いするのは初めてですが戦鎚グリダヴォル殿はいつの時代も英雄と共にあられる方なのです。先の大戦ではミナルディエ様と共に殭屍王ヴラディスラウス・ドラクリア様の不死の軍勢と戦われたのです。」


「まあ!由緒あるトンカチさんなのですね。」


フィリッピーネはそう言うとグリダヴォルに向かい丁寧にお辞儀する。


「フィリッピーネさんって屈託なく色んな事を受け入れますよね。戦鎚グリダヴォルを見て丁寧に挨拶をした人間って初めて見ました。人間って物を物としてしか理解できないから。」


ミナが少し驚いた様にフィリッピーネを見る。

フィリッピーネはいつもの様に屈託なく微笑んでいる。


「ミナ様にフィリッピーネ様そろそろ向かいましょう。オーク共がいよいよ到着した様です。」


パイリラスが城門の方向を見ながらそう告げる。

一同がパイリラスの見つめる方向と同じ方向に目を向けると、確かに南の城門の方角から禍々しい魔力のうねりを感じる。


ミナとフィリッピーネはお互いの目を見つめ頷き合うと城門に向かって走り出した。


それを見届けたパイリラスはくるりと振り返るとランペルに向かい跪き目線を合わせる。


「ランペル殿、我ら魔族はコボルト達に許されぬ事をしました。されど北の長ランス殿に私は受け入れて頂いた。

...今度は私の番です。私がコボルト達も護ります。ですが何卒ランペル殿もお気をつけて!」


そう言って踵を返しパイリラスも二人の後を追う。


ランペルは三人の後ろ姿をしばらく見つめていたあと、自身もコボルト達に指示を出すためくるりと向きを変えて駆け出した。

さてとうとう始まりましたね。


いつもお読み頂きありがとうございます。

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