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7 筋力と精力をつける

ロン・チェイニーは、さらなる強さを身につけるために、身体作りを始める。



ギルドの中庭。庭と言っても花壇があったり、噴水があったりするわけでは無い。

何も無い、ただの四角い広場になっている。


此処が殺風景なのには理由がある。冒険者の模擬戦や訓練をしたり、討伐された魔物が大型の個体であった場合などにこの場所で解体するからだ。


今は、ロンとグリエロと子供達しかいない。


午前中、冒険者達は依頼の遂行や狩猟、探索などに出掛けているのでこの中庭は空いている。


この空いた時間を使ってグリエロは子供達に剣術などの冒険者に必要な基本技術を教えている。


「よーし、お前らは、先ずは剣の素振りからだ!...ロンは、基礎的な筋力と体力作りだな。」


「おう、よろしくお願いします。」


「よし、じゃあこの砂の詰まった革の袋を持ち上げろ。」


そう言ってロンの足元に転がっている砂がパンパンに詰まって真ん丸に膨らんだ革の袋を指差す。


ロンは持ち上げようとするが、ビクともしない。


「何だ、そのへっぴり腰は!? もっと腰を落として、自分の腹に引き寄せて持つんだよ。腕を伸ばしてちゃ重いものは持てないんだよ、力が入らないだろ?

グッと自分の方に引き寄せるんだ。そん時、脇を締めてな。肘を絞るような感じだ。」


「こうか。おぉ、なるほどな。こうすりゃ持ちやすいな。」


「そうそう、いいじゃねぇか。そんでなロン、もっと腰を落とすんだ。...違うよ、ケツを突き出すんじゃなくて、脚を開いて、まっすぐ腰を落とすんだ。そうだ。」


「おい、これ結構きついな!」


「そんでな、そのまま摺り足で向こうの端まで行って、また戻って来い。」


「おう」と一声返事して、ロンはじわじわと前に進み出す。三歩進んだだけで、太腿がキリキリ痛くなってくる。


十歩も進まないうちに汗が吹き出してきた。これはキツイ。


「お〜い! ロン! 腰あげんじゃねえ! もっと落とせ〜! そ〜だ! いいぞ!」


ロンは歯を食いしばって、じわじわと進む。

体中が痛い。ポタポタと汗を滴らせながら、中庭の端まで進む。壁際まできて、とうとう力尽きて、砂袋を落とし壁に手をつく。


汗だくで、息を切らせ、荒く上下する背中に怒声を浴びる。


「お〜い! 何やってんだ! 早く戻って来い!」


ロンは振り向いて、砂袋を持ち上げ、腰を落とし、じわじわと進み出す。


「お〜い! 息止めるな! 呼吸しろ!」


そこにまたグリエロの怒声が飛ぶ。


途中、二回ほど砂袋を落としたが、何とか元の場所に戻ってくる。


ロンは抱えていた砂袋をとり落し、その場にへたり込む。


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、ぅえ。...これキツイな。戦士とか剣士ってのは、皆こんな事やってるのか。」


「いや、やってネェよ。」


「はぁ!? 何だそれ!?」


「いや、これはドワーフの鍛え方だ。あいつら重戦士は、めちゃくちゃデカイ戦斧とかブン回してんだろ。手っ取り早く筋力と体力をつけたいなら、この方法が一番だ。」


「へぇ、なるほどな。でも剣士だって筋力は必要だろ?」


「まあな。でも剣っていうのは、鉄の塊みたいな戦斧を振り回すのとはまた少し違うんだよ。

剣技ってのは力学なんだよ。力の流れって言うのかな、力の制御と均衡をだな...

まぁ、なんだ、梃子の原理ってあんだろ、あんなのだ。」


「最後のトコでいきなり雑になったな。」


「まぁ、聞くより先ず、この剣持ってみろ。」


そう言って、グリエロは腰に帯びていた片手剣をロンに渡す。


「思っていたより軽いもんなんだな。」


「剣ってのは、重心が刃と柄の間にあるからな。良い剣ってのは、重さをあんまり感じないんだよ。だからな、切っ尖のほう持ってみな、重さの感じがガラッと変わるだろ。」


ロンは恐る恐る両手で剣の切っ先を持ってみる。


「おぉ、重いな。両手で持っても、結構な重量を感じるな。

なるほど、こりゃ良い剣って訳だな。」


ロンは片眉を引き上げ、おどけた顔で恭しくグリエロに剣を返す。


「うむ、苦しゅうない」と言って剣を受け取るグリエロ。


お互い距離感を取り損なって微妙な空気を作ってしまう。しばらくの沈黙の後に、微妙な空気を払拭するかの様にグリエロが剣を振り出す。


「でな、剣を振る時には、重心の移動がある訳だ。こう剣を振るだろ。」


そう言って、右手に持った剣を右肩から左腰に向かって袈裟懸けに振り下ろす。


「この時にな、肩から肘、肘から手首、って言う順に、支点が移動するんだな。此処で力が滞らないで流れると、強い力が生まれるんだ。」


「なるほど。力の移動なんだな。肩、肘、手首か。」


そう言って、ロンは真っ直ぐ拳を突き出す。


「ふむ。速さと威力が増したかな?」


そう独り言ちる、ロン。


「なんだ? 何やってんだ?」


「ん? いや、チョット思う所があってな。

まぁ、やっぱり筋力をつけなきゃな、と思った訳だよ。」


そう言って砂袋を持ち上げるロン。


「あと、何往復すればいい?」


「ん、ああ。今日は五往復ってとこだな。」


「うし」と言って、再び摺り足を始める。



結局、摺り足が終わる頃には昼になっていた。子供達は訓練を終えて帰ってしまっている。

中庭にはロンとグリエロの二人だけだ。当のロンは端で大の字になって、倒れている。汗にまみれ、息も荒く、視線も定まら無い。


「ん、チョットやりすぎたか? ...おい、ロン、生きてっか!?」


顎をさすりながら問いかけるグリエロに、へたばったまま片手を挙げて答えるロン。


しばらくして、のそりと起き上がる。


「また...明日も...来るわ。よろしくな。今日は...ありがとうな。」


「おう。お前、根性あるな。」


力なく、片手を挙げて返事をし、フラフラと中庭を後にする。

千鳥足でギルドの受付に向かい、なんとか薬草採取の依頼を受ける。どうにかして今日の稼ぎを作らねばならない。


ギルドを出た後はフラフラと千鳥足で、踊る子猫亭に向かう。


昼過ぎは酒場も閑散としている。


「あら! ロン、いらっしゃい! どうしたの、フラフラじゃない。」


「うん、クタクタで腹も減ってんだ。何か精のつくものない? 睾丸以外で。」


「あるわよ! 任せて!」


そう言ってデボラは勢いよく厨房に駆け込む。ロンはまた失敗したかなと、漠然とした不安を抱く。


しばらくして、デボラが持ってきたグロテスクな物体を見て漠然とした不安が確かな不安に変わる。


「何コレ?」


「キングディアの生殖器よ!」


無言でうなだれるロン。


「どうしたの? ビッグブルの三倍の効果があるのよ!」


「なに基準で、三倍あるんだよ。この酒場は、こんなのしかないのか?」


「これ、ホントに元気になるのよ! 三倍元気になるけど、他のお肉の値段の三分の一以下で、お手頃なのよ。ロンいっつもお金ないでしょう? これ食べて、頑張って稼いで来なさい!」


「おぉ。それなりに、僕の事を考えてくれてたんだ。...ちょっとズレてるけど。ありがとう。

これ食って、いっちょ稼いでくるわ。」


「その意気よ! 頑張って!」


ロンは味はこの際脇に置いておこうと思う。安価で効果のあるものであれば今の自分には貴重な栄養源だと思い直し、意を決して食べてみる。



コレがまた美味かったりする。



お読みいただきありがとうございます!


次回は、またゴブリンに戦いを挑みます。


ロンは強くなるのでしょうか。

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