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63 パイリラスの処遇

さてパイリラスはギルドに受け入れられるのでしょうか?

結論から言うと惨禍の誘惑者パイリラス・ドゥズヤルヤは仲間として迎え入れられる事になった。


理由は簡単で、トムがいたくパイリラスの事を気に入ったからである。



ヴァリアンテがトムの脳天に鉄槌を振り下ろして始まった会議であるが、トムはその事については意に介さずパイリラスを質問責めにする。


「やあ、やあ、パイリラス・ドゥズヤルヤ君だね?どうしてまた人間側に寝返ったんだい?」


トムの質問にパイリラスは腕を組み、少し困った様な表情を浮かべる。


「ウウム。寝返ったと言うか... まさにそうなのだが... 全てはフィリッピーネ様のお側にいるためなのだ。」


そう言ってパイリラスは恍惚の表情を浮かべ身をよじる。


トムを始め周りにいる者がパイリラスの異様な雰囲気に引き攣ると、ロンがパイリラスと出会ったあらましと、その顛末を皆に説明した。


そして、とどめにパイリラスがいかにフィリッピーネが美しい存在で、魔族である自らが矮小な存在であるかと言う事をとうとうと語った。


パイリラスの熱弁に一同はドン引きしたが、ロンの話しには一同は、ゴブリンの集落を見つけた事に感心し、ゴブリン討伐からホブゴブリンを降したロン達を称賛した。

さらにパイリラスとの戦いとその顛末に皆は唸った。


特にロンのゴブリン退治から、ホブゴブリンの始末にパイリラスとの戦いまでのパーティーの采配をグリエロとトムは称賛した。


「ロン、お前さんやるじゃねえか。組んでいるパーティーの特性をよくわかって動かしたな。まあパーティーの面子がなかなか強力だったてのもあるがな。」


「確かにそうだね。しかし、それを差っ引いてもロン君は相変わらず面白いなあ!」


グリエロとトムの盛り上がりとは裏腹にブランシェトとミナは眉根を寄せて得も言われぬ顔をしている。


「チェイニーは良くやりました。...けれどチェイニーの危機にフィリッピーネ様が登場されてからのくだりが... 何と言いますか... まあ、その、パイリラスの恍惚とした表情をみると成る程と納得せざるを得ない訳だけれど... 。」


ため息まじりにうなだれるブランシェトを引き継いでミナが先を続ける。


「パイリラスが私達の仲間... って言うかフィリッピーネさんの従者になるのは、何か、もう何でも良いかも... 色々と心配して損したかも。

最終的な処遇はギルドマスターであるトムに委ねるわ。」


そう言ってミナもため息まじりにうなだれる。

後を引き継ぐトムは喜色満面に身を乗り出す。


「僕もパイリラス君が我々の仲間になる事についてはやぶさかではないよ。貴重な戦力になるだろうしね。

ついてはパイリラス、君には今侵攻して来ている魔族の動向を教えて貰いたい。

ガムザティ原始林に潜んでいるところまでは調べはついたんだけどね。恥ずかしい話、そっから先がよく分からなくてね。手詰まりの状態が続いているんだ。」


トムは頭を掻きながらはにかむ。しかしそれとは対照的にパイリラスは難しい顔をする。


「仲間に入れて貰える事は大変に光栄だ。...受け入れて貰って、この様な事を言うのは心苦しいのだが... 魔族の動向については言え無い事が... 多い。」


そう言ってパイリラスは俯き黙り込む。


会議室に気まずい沈黙が流れるが、しばらくするとパイリラスは意を決した様にポツリ、ポツリと話し始める。


「私は裏切り者だ。これからは人間に組みし、もし魔族が侵攻してくるなら人間を守り戦うだろう。

だが、言えぬ。人間に寝返り魔族を裏切ったが、同胞を売る事はどうしても出来ぬ。

どの様な者が指揮し、どの様な強者がいるかは教えよう。

だがどこに潜伏し、どの様な作戦を立て、何処を進軍するかは言えぬ。

私は奴らからすれば唾棄すべき裏切り者であろうが、私からすれば苦楽を共にした同胞なのだ。

いずれは私ともども死地に向かう者達だが、今は私の口からは言えぬ... すまない。」


そうして俯くパイリラスは膝の上で握っている拳を固く握りしめる。


「合格!」


トムがニコニコと笑いながらそう告げた。

パイリラスはキョトンとする他がない。


「へ!?は?何?」


「パイリラス。君、合格!」


「え、と。合格とは?」


「君を歓迎するよ、パイリラス。その言葉が聞きたかったんだ。君は裏切り者なんかじゃ無い。仲間を思いやれる立派な武人だよ。少々性格は変わっているようだけど。」


「良いのか?魔族について人間側に何も有益な事を言わないのだぞ。」


「それで良いんだよ。寝返ったとか言ってホイホイかつての仲間の情報を漏らす奴なんか信用出来ないだろう?そんな奴は、またいつ寝返ってこちらの情報を漏らすか分からないしね。」


「いや、それはそうかもしれないが、世話になるばかりで申し訳ないと言うか... 私は本当に頭が固いんだ、すまない。」


「いやいや、こちらこそパイリラスを試す様な事をしてすまないね。それに別にパイリラスから情報を引き出さなくても大丈夫なんだよ。

先達ってヒーシ・ウフラアマンを倒した時にうちの魔女が魔族のオドやマナの使い方を解析してね、手詰まりだった状況が一変したんだ。それで今うちのギルドのレンジャーが何人か魔女を引き連れてガムザティ原始林で魔族の動向を探っているから、状況はある程度掴めているんだ。」


そう言ってチロリと舌をだす。それを聞いたパイリラスはあんぐりと口を開けるが、次の瞬間大笑いする。


「アッハッハ!トム殿は策士だな!してやられたよ。でも良いのか?そんなに手の内を私にばらしても。」


「まあ、良いさ。パイリラスを騙した訳だし、これでおあいこにしておくれよ。」


「もちろんだ。と言うかこちらこそお願いするよ。ありがとう。」


そう言ってパイリラスは深々と頭を下げる。


「我が名は惨禍の誘惑者パイリラス・ドゥズヤルヤ。この身を賭して人間を守る事を誓う。」


「その言葉、ギルドマスター、トマス・クルス・メイポーサが受け取った。」


そう言ってトムは立ち上がりくるりと一同を見回す。


「さてさて、これでパイリラスはギルドの一員になった訳だ。今さらだけど異論がある人いる?」


「おいトム、お前さんこの間でそれを言うか?

まあ、お前さんがそう言うなら俺は異論はねえよ。しかしまあ何かあったらトム、お前さんが始末をつけろよ。」


「もう。グリエロの言う通りよ。でもまあ私も異論は無いわ。オトグラフも掌握してるしね。後はミナかしら?ミナちゃんはどう?大丈夫!?」


「大丈夫もなにも、トムももう決めちゃってるでしょ。私もブランシェトと一緒。異論は無いわ。あの人も何も反応しないって事は文句無いって事でしょ。」


「私も異論は無いよ。生きた魔族を色々と弄れるんだ。もう無いと思ってた機会が向こうからやって来るとわね、願ったり叶ったりさ。」


「そうよねヴァリアンテのお姉様。この前の奴はエス・ディの馬鹿が粉々にしちまったからねえ。」


「おいタスリーマ!誰が馬鹿だ!あん時ゃあれしか方法が無かっただろうが!...まあトムが良いってんなら俺も異論は無え。これでこの場にいる上級職の冒険者は全部か!?...っとエルザがいたな!おいエルザ!お前ぇはどうなんだ!」


「え!?私は全然大丈夫です。フィリッピーネさんとパイリラスさんが幸せになってくれたらそれで良いんです。うふふ。」


「うおーい、ロン。エルザが何かおかしな事言い出したぞ。お前ぇ、ちゃんと見張ってろよ。」


「はい。気をつけます。」


こうしてパイリラスは正式に仲間となったのである。


「さて。このまま今日は解散としたいところだが、パイリラスは何処に住んで貰おうか?しばらくロン君の家にでも厄介になるかい?」


トムがそう言うとロンは手をポンと打つ。


「ああ、そうですよね。住む所が必要ですよね。まあ狭い所ですがパイリラスがそれで良いって言うなら別に構わないですけど。」


ロンがパイリラスに向き直りそう告げると、エルザが大慌てで二人の間に割って入ってくる。


「だだだ、駄目ですよ!パイリラスさん女の子なんですよ!チェイニーさんのケダモノ!スケベ!」


「酷い言い草だなぁ。何よからぬ想像を膨らましてんだエルザ。お前の方がよっぽどスケベだぞ。」


「ななな!?よからぬ想像なんて膨らんでません!そうだ。パイリラスさんは私の家に来て下さい。本の倉庫代わりに使ってる部屋が何部屋かあるんでそこで寝れますよ。」


「いや、辞めとけ。あの家は危険だ。」


ロンは即座に却下する。


「危険じゃないですよ!チェイニーさんだって来た事があるじゃないですか。」


「いや、だから危険だって言ってるんだよ。」


そう言うとロンは以前エルザの家で卒倒した記憶が蘇る。お茶と称した何かを飲んだ後の記憶が未だにあやふやである。ますますパイリラスをそこに案内するのは忍びないとロンは考える。


当面の住処をどこにするか考えあぐねてロンは腕を組む。チラリとブランシェトを見ると目が合った。


「もう。チェイニーったら困ったら私を頼るのやめて頂戴よ!」


ブランシェトは腰に手を当て憤るが、ロンに頼られまんざらでも無い様な顔もしている。


「まあ、泊めてあげられない事もないんだけれど。私の家って神聖魔法の結界と加護を付与しているのよね。パイリラス魔族だけれど神聖魔法って大丈夫な口?」


「いえ。死んじゃう口です。」


「やっぱりそうよね。さて、どうしたものかしら。」


ブランシェトが腕を組み思案顔を見せると、フィリッピーネが手を挙げる。


「あの、今私が泊めさせて頂いているお部屋ってすごく広くて、寝台もまだいくつか余っているのですが。パイリラスさんをお泊りさせてあげてはいけないかしら?」


それを聞いて卒倒したのはパイリラスである。


「な!な!何を仰いました!?ごごごご一緒に!?ゴボゴボゴボ... 」


「おいおい、大丈夫かこいつ?泡吹いて卒倒しやがったぜ。」


エス・ディが呆れた顔をして仰けに倒れているパイリラスを覗き見る。

何とも言えない含みのある顔をしてブランシェトはミナに尋ねる。


「泊めて貰う本人がこんなになちゃったけれど、まあフィリッピーネ様の側に置いていたらこの子も大人しくしていると思うんだけれどね。いや、そうでもないかしら?

何よりミナはどう?何と言ってもここはミナの邸宅なんですからね。ミナさえ良ければこの子はここに置いておいてあげたら?」


ミナは難しい顔をして眉間を揉んでいるがブランシェトの問いかけに顔を上げる。


「そうね。フィリッピーネさんがそれで良いと仰るなら私は構わないわよ。しばらくは私の目の届く所に置いておきたいし。」


そう言ってミナはブランシェトからフィリッピーネに向き直る。


「そう言う訳ですので、このパイリラスをフィリッピーネさんにお預け致しますね。また何かご入り用の物や、お困りの事がございましたらお気軽に何なりと仰って下さいね。」


ミナの言葉を受けてフィリッピーネは満面の笑みを浮かべる。


「ミナさん、ありがとう。いつもわがままばかり言ってごめんなさいね。」


「良いんですよ。フィリッピーネさんのお願いなんてわがままとは言えないわ。このギルドにはもっと困った子達がいつも大騒ぎしてますもの。」


そう言ってミナはトムやグリエロ達をチラリと横目で見る。

むくつけき男共はその視線にはまるで気が付かずくだらない馬鹿な話で盛り上がっている。


ミナとフィリッピーネは顔を見合わせて微笑み合う。


パイリラスの処遇も決まり会議に決着もつき、場の雰囲気が弛緩してきたのを受けてブランシェトが手を叩いて耳目を集める。


「はいはい。それじゃ会議はこれで終了します。解散しましょ。あ、そうだ。パイリラスどうしましょうか?まだ気を失ったままよ。グリエロ、フィリッピーネ様のお部屋にパイリラス抱えて行ってあげて差し上げてよ。」


「えぇ!?面倒臭えな。こんなデカくてゴツい女抱えて運びたかねえぜ。」


グリエロの悪態を聞いてブランシェトは頬を膨らませる。そこに割って入って来たのはロンである。


「あ、大丈夫です。パイリラスを起こせると思います。ルドガー先生に気付けのツボを教わっていますので... 使った事は無いですが。」


「おう、丁度いいやな、実験台にしちまえ。そいつは頑丈そうだ、ちょっとやそっとで如何にかなるなんて事もあるめえ。」


そうグリエロに促されたロンは、パイリラスの後ろに周り上体を起こす。ロンはパイリラスの背中を押さえながら「ここだったかな?」と小さく呟くや気付けのツボを圧迫する。


「げっふ!がああああ!」


絶叫のもとパイリラスは目覚めると背中を押さえながらのたうち回る。


「お、すげえなロン。効果覿面じゃねえか。」


「は!?私はどうしていたのだ?仮の宿を決めていて... そっそうだ!フィリッピーネ様と褥を共にすると... 」


そう言ってまた気を失いかけるパイリラス。


「おい、こら。いちいち失神するんじゃねえよ。しっかりしろい!」


そう言ってグリエロはパイリラスの頭を平手で叩く。


「は!ああ、すまない...。」


パイリラスはまだ呆けている様で虚空に謝罪している。グリエロは「駄目だこりゃ」と言い残して会議室を後にした。


その後も会議に集まった冒険者達は次々と退出して行き残ったのは、ロンのパーティーだけになった。


「それじゃ僕らも行こうか。そうだ、すっかり遅くなってしまったけど夕飯にしようか。フィリッピーネもパイリラスも来るか?」


「もちろん!」


「わ、私も行くぞ!」


ロンは「ふむ」と独り言つとエルザに向き直る。


「それじゃあ、僕とエルザとフィリッピーネにパイリラスか。っとランスがまだ帰ってきてないな。」


「とにもかくにも会議室から出ましょう。ランスが帰って来てなくても受付で待ってましょうよ。ランスも帰って来る場所はギルドですもの。」


「そうか。そうだな受付に行ってランスを待とうか。」


そう言って一同は会議室を退出して受付に向かう。


ロン達が受付に着くのと、ランスが帰って来るのは同時であった


「おお、ランス。丁度良かった今から皆んなで飯に行くんだ。ランスも行くだろ。」


「行キマストモ!シカシ、ソノ前ニ、ロン様ニ会イタイト申サレル方々ヲ、オ連レシタノデスガ。」


「ん?僕に会いたい人?誰だろ?」


ロンが疑問に思いランスの後方を見ると、見覚えのある赤ん坊を抱えたリザードマンの夫婦が立っていた。二人ともリザードマン特有の長身で鱗状の艶のある肌をしている。質素ながら立派なローブに身を包んだ品の良さそうな夫婦である。


夫と思しきリザードマンの男性が一歩前に進み出てロンに向かい深々と頭を下げる。


「私の名はハインリヒ・ケプーラと申します。

この度は私達の大事な一人息子をお救い頂き誠にありがとうございました。直にお礼を言いたく思いランス殿に無理を言って連れて来て頂きました。」


そう言ってさらに深くお辞儀すると、その後ろに控えていた夫人と思しきリザードマンの女性も前に進み出て来て頭を下げる。


「ハインリヒの妻のカタリナと申します。私からもお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました。ランス様に伺いました。ロン様のご尽力が無ければ我が子ハネスの救出も無かったとか。ロン様を始めロン様のパーティーの方々にはお礼を言っても言い尽くせません。」


カタリナの言葉にハインリヒも再び深くお辞儀する。ロンは慌てて二人の顔を上げさせる。


「いや、たまたま偶然で、当然の事をしたまでだし、そんなに感謝される事でも無いよ。て言うかランスどんな説明をしたの?」


「イエ、アリノママヲ伝エタマデデス。」


「そうかぁ?」


ロンが訝しむと、まだ幾分かロンより社交性のあるエルザがリザードマン夫妻に話しかける。


「お子さんが無事で良かったですね。でもこう言ったらなんですがリザードマンがこの辺りを旅しているなんて珍しいですよね。どちらまで行かれるところだったんですか?」


エルザの問いにハインリヒがにこやかに答える。


「そうでしょうね。私達は南海地方の原始樹海にある天文都市クヮサンから来たのです。王都の天文部に地磁気の解析結果を届ける道中で息子が拐われたのです。」


「そうだったんですね。」


エルザが頷くと子供をあやしながらカタリナが後を続ける。


「馬車での移動でしたし、野営するにしても街道沿いの開けた所でしたので、よもやゴブリンの取り替え子に遭うとは思いもよりませんでした。」


ハインリヒとカタリナは面目無いといった面持ちで顔を見合わせてうなだれる。

それを見たロンは二人を擁護するかの様に話しだす。


「いや、お二人の判断は間違ってなかったと思います。今回は間が悪かったんです。近くの森でゴブリンの生態系が崩れる事態がありまして、ゴブリン共がいつもと違う異常行動を起こしていたんです。」


それを聞いてカタリナは不安そうに我が子を抱きしめる。


「まあ、そんな事があるんですね。怖いわ、王都まで無事に行けるかしら?」


カタリナの不安を払拭するためにロンはさらに付け加える。


「もう大丈夫です。異常行動していたゴブリン共は掃討しましたし。原因を突き止め排除しましたから。」


そう言ってパイリラスをチラリと一瞥する。パイリラスは気まずそうに肩をすくめる。

エルザはロンに肘鉄を食らわせリザードマン夫婦ににこやかに話しかける。


「そうですよ。私達がゴブリンをやっつけちゃいましたからね、もう安全です!それにウンドから王都までは街道も大きくて人の往来も多くてさらに安全です。心配されなくても大丈夫ですよ。」


「そうだね。ここから王都まで馬車だと十日程かな。ウンドから王都までの街道は王国騎士も巡回警備してるから野営するにしても、まあ大丈夫だろうね。心配ならギルドで護衛を雇っても良いかもね。」


ロンがそう付け加えるとリザードマン夫婦は幾分か安心した様子で強張っていた肩を撫で下ろす。


「お気遣いありがとうございます。今日は宿に泊まり身体を休め、明日またこちらのギルドに伺います。」


ハインリヒはもう一度ロンとエルザにお辞儀をする。

するとカタリナがハインリヒの袖を引っ張る。


「ねえ、あなた。明日から王都までの護衛をロン様に頼んではいかがかしら?」


「なるほど。それは良いね。」


そう言ってハインリヒは優しくカタリナに微笑みかけ、ロンに向き直る。


「お忙しいところ伺いますが、ロン様に護衛をご依頼してもよろしいでしょうか?」


ハインリヒは真剣な面持ちでロンに伺うが、ロンは少々気まずいといった面持ちで苦笑いする。


「いや、そこまで信頼して貰えるのは光栄なんだけれど、僕の階級階位じゃ十日以上の護衛依頼って受けられ無いんだよね。

実は護衛依頼ってちょっとした特殊技能なんだ。自分と依頼人の安全を確保しながら旅したり野営したりするのって専用の装備も必要だしね。」


「そうなのですか。そうとは知らず不躾な事をしてしまいました。」


そう言ってハインリヒは再び頭を下げる。


「あ、いやいや、こちらこそ折角ご依頼のお話しくれたのにお役に立てず申し訳無い。

まあウンドはやたらと優秀な冒険者がいるから安心して下さい。ギルドに依頼を出せばすぐに護衛も見つかりますよ。」


ロンはそう言ってギルドの受付を指差す。

そこでロンは何かを閃いたかの様な表情を見せる。


「そうだ。今から僕ら晩飯を食いに行くんです。ここで会ったのも何かの縁です、一緒に飯を食いませんか?」


「わあ!すごい楽しそう!」


フィリッピーネが、いの一番に食いついてきた。

カタリナもほがらかに笑いながら頷いた。


「それは良いですわね!今私達が宿泊している宿屋の料理ってすごく美味しいんですよ。お礼と言ってはなんですが、是非とも私達にご馳走させて下さい!」



唐突にロン達は夕食をご馳走になる事になった。


そしてケプーラ夫妻のご馳走してくれた料理は本当に立派なご馳走で、ロン達は度肝を抜かれる事になった。そもそもハインリヒ達が泊まっている宿屋は高級な宿屋であるのだ。それもその筈で彼らは王都の天文部に呼ばれるほどの人物である。泊まる宿も粗末な木賃宿などでは無いのだ。


ロン達は勘違いしていたのだが野営していたのも急いでいたためで、お金が無いわけではない。


そう言う訳でフィリッピーネやエルザは別として、ロンは普段食べる事の無い様な豪華な食事にありつく事が出来たのであった。

美味しいご馳走が食べられてよかったですね。


いつもお読みくださり、ありがとうございます。

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