表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/93

6 走り出す、ロン・チェイニー、遠い道のり。

ロン・チェイニーは走り出す。

未来に向かって。

体力が全然ない自分とおさらばするために。


走る前に、生卵を飲むのは良くない事がわかる、お話しです。

夜明け前、むくりとベットから起き出すロン・チェイニー。

昨日購入した生卵をジョッキに割り入れ、一気に飲み干す。中々にエグい。


例の服に着替え、籠手をルックザックに詰め込んで背負う。準備万端、家を出て周りを見回す。まだ空は暗い。ロンはグッと全身を伸ばして走り出す。


ウンドの街はそれほど広い街ではないが、徒歩で街をぐるりと一周するとなると結構な距離になる。

ほんのしばらく走っただけで息が切れてくる。今の体力じゃ街を一周するのは無理だなと思う。

足に鈍い痛みが走り出す。さらに止めどなく汗が流れ出してきた。

せめて街を半周くらいはしたい。だがしかし、その望みも叶いそうにない。その半周の半分もまだ走っていないうちに脇腹に刺すような痛みが襲ってきた。

しばらく我慢して走っていたが、いよいよ耐えられなくなって立ち止まり、膝に手をつく。そして下を向いた途端に、出掛けに飲んだ生卵を地面にブチまける。


「ぅおえ。 ...うぐ ...生卵は ...駄目だ... 。」


自分の吐瀉物を見ながら生卵三つは多かったか、と思う。それ以前に、卵を生で飲んで本当に身体に良いのかという疑念も生じる。


ロンは脇腹を押さえながら上体を起こし、ヨロヨロと走り出す。正直言ってもう家に帰りたいのだが、ギルドに向かう。



ギルドの正面玄関の前でも反吐をはいて、いよいよ満身創痍のロンは青い顔をしながらギルドに入って行く。中庭に着く頃には、顔色は土気色に変わっていた。


「おぉ! おはようさん...って、ロン、お前さん大丈夫か、死人みたいな顔になってるぜ。」


グリエロが驚いた顔でロンを迎える。


「生卵にやられてな...あれホントにきくのか?」


「あぁ、さてはゲロったな。体力もネェのに張り切り過ぎたんだな。走り込むつってもな、最初は程々にしとくもんだぜ、身体が付いてかねえんだよ。...ところで生卵は何個飲んだんだ?」


「三つ...」


「あー、俺の言い方も悪かったな。お前さん体力も無さそうだし、最初のうちは一個でイイよ。」


「おう、ありがとな。...今度から、もう少し早く言ってくれ。」


水を飲んで、少し休憩する。

中庭を見渡してみると、早朝にもかかわらずグリエロの他に十二、三歳くらいの少年、少女が十人くらいいる。

ロンがギルドの冒険者でも無いであろうその少年少女達を不思議そうな顔で眺めていると、グリエロが理由を教えてくれる。


「コイツらは俺の教え子だ。俺は此処で毎朝、この冒険者の卵達に剣術を教えているんだよ。」


「えぇ!? お前そんな事、出来るの!? ゴブリンにやられるような奴に剣術なんて教えれるのか? 」


グリエロはバツの悪そうな顔で答える


「その話し、蒸し返すのやめてくれる? 特に教え子の前では。」


「えー、先生ダサーい」という風な声が子供達からあがる。しかし、悪い雰囲気ではない。みんな仲は良さそうだ。グリエロはそれなりに慕われている感じを漂わせている。


「俺はもう、現役は退いているんだよ。五年前に、肘やら膝やらをやっちまってな。」


そう言って袖を捲って腕を見せる。確かにそこには大きな痛々しい傷痕があった。きっと膝の方もそんな傷がついているのだろう。


「もう長距離も歩けねえし、あまり長い時間、剣も握れねえ。まぁ、そこそこ腕の立つ冒険者だったんでな、ここで教官職に回って、冒険者の指導をやってんだ。この前のゴブリン討伐は緊急の依頼で、しかも他の冒険者達も出払っていたから臨時で駆り出されたんだよ。」


「もう少し活躍できると思ったんだが、五年のブランクは長かったみたいだな」と言って肩をすぼめる。


「あー、なるほどな。しかしギルドは、こんな子供も指導しているんだな。」


「いや、コイツらに剣術を教えてるのは、俺が空いた時間に勝手にやってんだ。」


「何でまた?」


「コイツら、孤児なんだよ。十五歳で孤児院は追い出されるからな。それまでに剣術やら何やら、色々と冒険者のイロハを叩き込んでな、自立できる力を身につけさせたいんだよ。」


「何だお前、良い奴なんだな。」


ロンの言葉に慌ててグリエロは「そんなんじゃねえよ」と手を振る。


「冒険者が増えれば、ギルドも潤うからな。俺の将来のメシのタネってやつよ。」


そう言って、きまりが悪そうにはにかむグリエロは良い奴なんだろう。まぁ、おっさんのはにかむ姿なんざ見たくないがな。とロンは思ったが、ここは空気を読んで口には出すまい。



「お、無駄話してる間に、顔色も良くなったな。ぼちぼち始めるか。」


「あぁ。でもお前、教官職なんだろ? ギルドに所属している冒険者に教えるとなったら、金がかかるんじゃ? 僕は借金あるから、万年金欠だぜ。」


「あ!? そんな事をきにすんじゃネェよ。

ロン、お前はガキンチョ共と一緒だ、ついでだ、ついで。」


やっぱり良い奴だな、グリエロ。




今回も、お読みいただきありがとうございます。


次回も頑張ります。


またお立ち寄り下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ