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54 エルザの魔法、戦闘開始。

ゴブリンの集落を見つけた様です

「あそこがゴブリン共の巣だな。」


「ソウデスネ。先程ノ奴等ノ臭イヲ辿ルト此処ニナリマス。此処ノ臭イガ一番強イ。」


木々の陰に身を潜めているロンとランスの視線の先には木々が途切れ、少し開けた小さな窪地がある。

その開けた窪地にゴブリン共が建てたとおぼしき粗末な小屋が二、三建っている。窪地に直接建てられたそれはまさに掘っ建て小屋と言ってもよい。


「小屋に出入りしている奴も含めてざっと二十匹ってとこかな。」


「ソウデスネ。二十二体程ノ、ゴブリンノ臭イヲ感ジマス。」


「すごい優秀な鼻だな。コボルトって凄いんだな。」


ロンが素直に感嘆するとランスは「ソレホドデモ」と非常に誇らしげな顔で謙遜する。


ロンは再びゴブリンの巣を見て少々苦い顔をする。


「窪みに掘っ建て小屋を建ててるだけだからどこからでも侵入出来るが、それだけこちらも包囲される恐れもあるな。流石にゴブリンとはいえ二十体以上の武器を持った奴等をいっぺんに相手するのは骨が折れる...って言うか危険だな。」


「ソノトオリデス。フィリッピーネ様ニ、エルザモイマス。一旦引キマスカ?」


ロンは「いや」と首を振り少し離れた木の影に隠れているエルザを手招きする。それに気がついたエルザはそろそろとロンの下にやって来る。


「エルザここから魔法を放てるか?あそこの集落に魔法を打ち込んで貰いたい。」


それを聞いてエルザは一瞬で青褪める。


「え!?え!わ、私がですか?」


「そうだよ。ここから結構距離があるけれど、あそこまで届く魔法を放てるか?その魔法で、出来る限りのゴブリン共を始末するんだ。」


「え!?え?え!わ、私に出来るかな...。」


不安げな顔をするエルザを心配そうにランスが見つめている。

ロンはエルザのとんでもない魔力量とただごとじゃない魔法の威力を知っているので少々あてにしていたのだが、エルザは実戦で魔法を行使する事にまだ不安と緊張を感じている様だ。


「大丈夫だ、心配するな。エルザは凄い魔力を秘めているじゃないか。それでオークもやっつけた事があるだろう。」


「え、その、そうなんですけど、心の準備と言いますか、精神集中がまだ出来ていないと言いますか、なんと言いますか...」


ゴニョゴニョと小さくそう言ってエルザは下を向いてしまう。あの時は切羽詰まっていた上に無意識のうちに魔法を放っていた。今回も上手く行くとは限らない、もし失敗してロンの思う様な結果にならなかったら... さらにそのせいでゴブリンに集団で襲われでもしたら...

そう考えてしまうと萎縮して思うように身体が動かない。


いつもそうだ。すぐに良く無い消極的な結果を想像してしまう。


エルザがそうしてマゴマゴしていると後ろから優しく肩を抱きしめられる。


「ふぁ!?」


突然の事に驚いて、エルザが振り向くとそこにはフィリッピーネがいた。フィリッピーネはエルザに優しく微笑みかけるとさらにギュッと強く抱きしめる。


「エルザちゃん大丈夫よ、緊張しないで。怖がらずにやってごらん、失敗しても気にしなくて良いのよ。」


「え?え!?...どうして。」


エルザはどうして心につかえて滞っている自分の感情をフィリッピーネが知っているのか驚いて狼狽する。


「わかるわ。エルザちゃん初めて舞台に立つ子達と同じ顔してるもの。不安よね。私も経験した事があるわ。」


「フィリッピーネさんも... でも!...でも、私が失敗して魔物が大勢襲って来たら... 」


「ロンさんも、ランスさんも、なんなら私だっているから大丈夫よ。」


フィリッピーネは胸を張って事もなげにそう言ってみせる。


「誰だって失敗するわ。舞台だって失敗はつきものよ。私なんて毎回舞台で失敗しているわよ!」


さらにフィリッピーネはそう言って悪戯っぽく笑ってみせる。それを聞いてエルザは目を丸くする。


「えぇ!じゃあフィリッピーネさん失敗したらどうしているんですか!?どうやって失敗を取り戻すんですか?」


「即興よ。」


そう言ってフィリッピーネは腕をグッと持ち上げて力こぶを作ってニッコリ笑う。


エルザは答えになっていない様なフィリッピーネの大雑把な答えに何故だか胸のつかえが取れ吹っ切れてしまう。


魔法学会で一瞬は時代の寵児としてもてはやされたが直ぐに異端視され学会を追われ、ほうほうの体で実家であるランチェスター家に戻ってみたものの、ランチェスター家流槍術の最高権威継承者の家系において魔術師である自分は居場所が無く、さらなる居場所を求めて冒険者になってからというものの失敗続きで、他の冒険者からは怒鳴られ怒られて蔑まれて除け者にされていた。

そんなこんなですっかり萎縮してしまっていた。


だがフィリッピーネに強く抱きしめられ、優しく笑いかけられて、最後に放たれた一言にエルザは自分を取り戻す思いがした。


エルザは瞳に決意の意志を光らせフィリッピーネを真っ直ぐ見つめて頷くと、ロンに向き直る。


「チェイニーさん。私やります!あの魔法の凄いやつをお見舞いしてやります!」


魔術杖を強く握りしめて俄然やる気をみなぎらせるエルザに驚くロンだが、エルザが炎、氷、雷、風の属性を一つに凝縮した例の強力な魔法を放とうとしているのを察知して慌てて止める。


「まてまて、いきなりやる気を出し過ぎだ。そんな事したらあの辺り一帯が消し飛んでしまう。ゴブリンだけならまだしも周りにいる動物や植物まで危害を加えるのは良くない。さらに言うとあの小屋の中に居るのはゴブリンだけとは限らない。」


「え!?そうなんですか!」


「アァ!取リ替エ子デスネ。ソレノ臭イ感知スル事ヲ失念シテイマシタ。」


ランスが思い出したかの様に告げ、手抜かりをした自分を恥じる様に舌を出す。ランスは再びフンフンと鼻を動かすが、小屋の中は散らかっているのか雑多な臭いが多すぎて人間の子供が居るのかわからない様だった。

ランスの言葉を聞いてエルザはキョトンとする。


「あの、取り替え子って何ですか?」


「そうか、エルザは知らないのか。ゴブリンや低いながらも知性のある魔物は幼い子供や赤ん坊を拐う事があるんだ。」


それを聞いてエルザはもとよりフィリッピーネも驚きの声をあげる。


「え!?ロンさん、そんな事ってあるんですか?」


「まあ、たまにしか無いからな、よしんば取り替え子が発生しても直ぐに発覚するし冒険者ギルドも迅速に動くから基本的に解決も早い。

僕が冒険者になってから知る限り、取り替え子された子供達が戻って来なかったって話は聞かない。」


それを聞いてフィリッピーネはホッと胸を撫で下ろす。安堵して落ち着いたエルザはそこで疑問が湧いてくる。


「あの、チェイニーさん。ゴブリンの取り替え子ってどうやってわかるんですか?それに何故ゴブリンが子供を拐うんですか?」


「ゴブリンの取り替え子ってすぐわかるんだよ。魔術的に取り替えられるんじゃなくて、その辺の森にいる小動物なんかと取り替えたり、酷い時には木の枝とか石ころなんて時もあるから。

そうだな依頼としては救出と討伐になるな。ゴブリンに限らないけど、多少知性のある弱い魔物って力を得る為に悪い精霊とかに子供を捧げて魔法なんかを授けて貰ったりするんだよ。」


エルザはふんふんと仕切りに頷いて関心している。


「そんな事があるんですね。森にいる悪い精霊ってアヤタラとかですか?

でも、ゴブリンなんかがそんな精霊なんて呼び出せるんですか?」


「いや、ゴブリンにはそんなの呼び出せないよ。て言うか僕でも無理だわ。

森の奥まで行ったら名前も無くて弱い、それこそ叩けば霧散しそうな精霊なんていっぱいいるからね。そういうのって無垢なものを欲しがったりするから、ゴブリンが子供を捧げようとするんだ。」


「なるほど。その精霊のお話し、もう少し詳しく教えて下さい。」


何やら知識欲が湧いてきたエルザがロンのもとににじり寄ってくる。


「まてまて、今はゴブリン討伐が先だよ。それに僕もそんなに詳しい訳じゃ無いからな... そうだ、ヴァリアンテなんかが詳しいんじゃないか。」


ロンは今ここにいないヴァリアンテに精霊の話しを丸投げしてゴブリンの集落の方向に向き直る。


「そういう訳で、あの掘立小屋の中には何がいるかわからないから、エルザには別の魔法で見えているゴブリン共を掃討して欲しい。」


エルザは勢いよく頷いて魔術杖を構える。


「わかりました!ファイアドスタで焼き払います!」


「いやいや、焼き払ったら駄目でしょ。小屋まで焼いちゃったらどうするのさ。

例の強力な魔法にしろ炎の魔法で焼き払うにしろ生態系を壊す様な事はしてはいけないでしょ。もう一度言うけど、この森にはゴブリン以外にもたくさんの動物や植物がいるんだからな、それに今言った通り小屋中に拐われた子供や人が居るかもしれないだろ。」


「あう... そうでした。」


エルザはそう言って小さくなってうなだれる。


「そんなにうなだれ無くてもいいだろ。...そうだな、風属性の魔法なんかどうだ?それならゴブリン一体づつ狙い撃てないか?」


「あ!そうですね、それならウインドラムの魔法を放ちます!指向性のある風の刃を放てますので限定的に範囲を絞って矢の様に飛ばせます!」


「よし。じゃあエルザはウインドラムでゴブリンを攻撃してくれ。討ち漏らしたゴブリンは僕とランスで始末する。」


そう言ってロンはランスを見る。ランスは黙って頷き、腰から下げていた短剣を抜剣し肩に担う。そこに割って入って来たのはフィリッピーネだ。


「私も戦うわ!エルザちゃんに偉そうな事言ったんだもの、手伝わせて。頑張るわ!」


ロンはさすがにフィリッピーネを参戦させるのは拙いと思い止めようとしたが、彼女の目を見て考えを改める。

いつもの朗らかで優しい目とは違う、真剣な決意のこもった眼差しでロンを見つめている。


思えばフィリッピーネの身体能力は高い。なんならロンよりも。

それにミナから聖銀の甲冑と慈悲の短剣ミセリコルデを借り受けている。ロンがしっかり守ってやれば大丈夫だろう。


「そうだな。僕とランスが討ち漏らした奴がいたらフィリッピーネにも戦って貰うよ。」


ロンがそう告げるとフィリッピーネは「任せといて!」と朗らかに笑い、エルザに向き直り大きく頷いてみせる。


エルザもそれに応える様に頷くと大きくゆっくりと息を吸い、魔術杖を掲げてゴブリンの集落の方に向ける。


「風よ」とエルザが小さく呟くと風が逆巻き彼女のローブを大きくたなびかせる。エルザが作り出した渦巻く不可視の風刃は一つや二つではない様だ。


エルザが魔術杖を突き出すと、ヒュッと風切り音を鳴らしてウインドラムが飛んで行く。


すると窪地にたむろしていたゴブリン共がバタバタと倒れて行く。その数はゆうに十体は超えている。驚いたのはその場にいたゴブリンだけでは無い、ロンをはじめランスも驚く。「すご〜い」と無邪気にはしゃぐのはフィリッピーネだけである。


「おお... すごいな。そうかエルザは魔法を複数同時に展開できるんだったな。今のは何個放ったんだ?」


ロンの問いかけに、上手く魔法を発動させる事が出来た事に安堵のため息を吐きつつエルザは応える。


「十一個のウインドラムを放ちました。全て命中させた手応えはあります。」


「よし。残りは十一体だな。それくらいならなんとかなりそうだな。ここからはエルザはフィリッピーネと後方支援を頼む。ランスここで迎え撃つぞ、ここは集落から見たら高台だからゴブリンどもが雪崩れ込んで来る事も無い。こちらに登って来た少数を相手に確実に仕留めていこう。」


「ワカリマシタ。オヤ!?ゴブリン共モ、コチラニ気付イタヨウデス。」


そう言ってランスは身構える。


「そうだな」と言ってロンはこちらに向かって来るゴブリン共を一瞥する。どうやら手に持つ武器は粗末な短剣や棍棒くらいである。弓や投擲武器を持っている者は居ない。


ロンはゴブリン達の注意を引くために一歩前に出て仁王立ちになる。


ロンに気がついたゴブリン共がこちらを指差しギャアギャア喚いている。


「よし。ゴブリン共の注意を引けたな。ランスこの前のコボルトの北の集落のオーク戦みたいに連携出来るかな?」


「モチロンデス。任セテ下サイ。」


「よし」と言ってロンはランスに向かって拳を突き出すと、それを受けてランスも拳を突き出して、ロンの拳とコツンと合わせる。


二人は無言でニヤッと笑うと、迫り来るゴブリン共に向き直り拳を、剣を構える。


「よっしゃ。いっちょやってやるか。」

さて戦闘開始ですね。どうなるんでしょうね。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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