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53 ロン・チェイニー、パーティを組んで依頼を受ける。

ロン達は依頼を受けます

聖銀の甲冑。その鎧は淡く碧い光をたたえ邪悪なものを寄せ付けない破邪の力を帯びており、心正しき者にしかその身に纏う事は適わない。


慈悲の短剣ミセリコルデ。細く鋭利な刀身はエルフの秘宝である日緋合金を錬成した決して折れぬ強靭な刃である。その刃のあまりの鋭さにミセリコルデで貫かれた者は苦痛を伴う事無く絶命するという。それ故に慈悲の短剣と呼ばれる。


攻守の短剣マン・ゴーシュ。征服されないと言う名の意味を持つ金剛磁鉱石アダマスで作られた短剣である。鍔から柄頭まで刃の延長が籠手の様に覆っておりその頑強さから小さな盾としても使える事から攻守の短剣と呼ばれている。


聖銀の甲冑、慈悲の短剣ミセリコルデ、攻守の短剣マン・ゴーシュこれらエルフの秘宝である三つの武具は、殭屍王ヴラディスラウスとその配下である不死の軍勢をたった一人で退けた救国の勇者ミナルディエが装備していた物である。


魔族との大戦を見事人類の勝利で収めた後、勇者ミナルディエは姿をくらまし、その後の消息は要として知られない。

殭屍王ヴラディスラウスとの戦いで負った傷を癒すためエルフ国の彼岸に渡ったであるとか、更に救いを求める人々の為に海を渡ったであるとか、太陽神セオストを始めとする神々がその偉業を讃え神の国に招き入れた等と様々な逸話、伝承、伝説があるがどれが真実であるかは誰も知らない闇の中である。


しかし唯一確かな事は勇者ミナルディエと共に彼を守り助けた三種の秘宝は失われてしまったのである。


これらの秘宝を発掘し、世界の宝として人類に返し、更には勇者ミナルディエを祀る墓標を建てる事こそが我が使命であると心に刻み世界を股にかけた大冒険に身を投じるのである...


これは冒険家ロアルド・エンゲルブレクト・グラヴニン・アムンゼェンの言葉である。正確には彼の冒険を生涯追い続け伝記を著したローランド・ハートフォットの著書「地上最後の秘宝」からの引用である。



冒険者ロン・チェイニーは聖銀の鎧を見に纏い颯爽と先を歩くフィリッピーネを見てため息を吐く。

そのため息は昔、まだ冒険者と冒険家の違いを理解していなかった幼い頃から繰り返し読んだ名著と名高い「地上最後の秘宝」の真実を知ってしまったためである。そこに登場する冒険家ロアルドと彼を追い続けた著者ローランドの生涯をかけた探究が割と無駄だったからである。


何故なら彼らが生涯追い続けた秘宝はミナの部屋の納戸に只々しまわれていただけだったのだから。


ついでに言うと「地上最後の秘宝」を繰り返し読み、彼らの探究と挫折に感動で頬を濡らしていたロン自身の涙も割と無駄なものだった。


「不憫だ」と独言るロンに「ドウシタノデス?顔色ガ優マセンガ...」と心配そうに話しかけてくれるのはランスである。


「ん?いや大丈夫だよ、ありがとう。...あそこの二人、盛り上がってるな。」


そう言った視線の先には楽しそうに談笑するエルザとフィリッピーネがいる。ミナの、と言うかミナにまつわる虚実ない混ぜな様々な伝承(その殆どがタスリーマの著書「病める薔薇七部作」せいなのであるが)の熱烈な支持者であるエルザはフィリッピーネの姿にいたく興奮しており、のべつまくなしに窈窕たる不死の王と病める薔薇ミナルディエ・ドラクリアの蘊蓄を語っている。フィリッピーネはエルザの話す内容に驚いたり笑ったりと大変忙しい。


何だかいつの間にか意気投合しているエルザとフィリッピーネを眺めるロンとランス。この不思議な混成パーティは魔鉱石採掘依頼を受けてカラボス山の眠りの洞窟に向かっている。


ロンはフィリッピーネがついてくるというので簡単な薬草などの採取依頼を受けようと思っていた。それならば魔物も出て来る事も少ないし、出て来たところでゴブリンである、今のロンの敵では無い。更に聖銀の鎧に身を包んだフィリッピーネに毛ほども傷をつける事など出来まい。


そう思っていたのだが、ギルドの受付でエルザがひとしきり大騒ぎした後、パーティに無理矢理加わった。それを見ていたランスも何処かへ引っ込んだと思っていたら程なくして革の鎧に身を包み、短剣を担って戻って来た。

エルザが行くのであれば自分もお供したいとの事である。


そうなると薬草採取では報酬を四等分すると割に合わなくなってしまうので、実入りの良い鉱石採掘の依頼に変えたのである。


眠りの洞窟であれば、魔物も出て来る事は少ない。仮に出て来たとしてもゴブリン程度だ。まあこの前はオークが出て来たが。


カラボス山に至るまでの道程で北の森の中程まで進んだ頃。とうとうロン一行の前に魔物が現れる。二体のゴブリンだ。そこでロンはある事に気がつく。


「ん!?二体同時に出現するのか...普通はこの辺りのはぐれゴブリンは単独なんだけどな。」


そう呟きながらロンはエルザとフィリッピーネの前に歩み出て、ゴブリンの前に立ち塞がる。


「コノ辺リノ ゴブリンハ 単体デ出現スルモノナノデスカ?」


ロンの傍らに進み出て来たランスがそう質問する。音も無く自然とロンの隣に立ったランスを見てロンは、流石コボルトの北の氏族の長をやっていただけの事はあるなと感心する。


「うん、そうなんだ。まあ気にする程では無いかもしれないが。」


そう言うロンの言葉にランスは思うところがあるのか「フム」と鼻を鳴らす。


ロンとランスのやり取りの間も、ゴブリン共は下卑た笑いを顔面に貼り付けてじわじわと間合いを詰めてきている。

四対二の数の不利をまるで意に介していない様だ。ロンを除けば後の三人はコボルトに女二人である。ロン以外は戦闘の頭数に入っていない様で、そこは流石ゴブリンの知性の低さを物語っている。


ランスは剣と鎧に身を包み、更に言うと通常のコボルトよりも一回り体躯も大きい。エルザは黒いローブにとんがり帽子の見るからに黒魔導師であるし、線が細いとは言えどもフィリッピーネは聖銀の鎧に身を包んでいる。

皆どう考えても戦闘要員だが知性の低いゴブリン共には女とコボルトは色々な意味で喰い物なのであろう。

ゴブリン二匹がかりでロンを殺し、残りの女と狗を蹂躙するのがゴブリンの考えであろう。

ゆったりした白魔術師のローブを改良した自前の拳法着を見に纏うロンもロンとて元中の下の白魔術師で見た目はあまり強そうには見えない。


ロンの装備している拳法着なる物はローブを腰の辺りでばっさり裁断しただけの簡単なもので名前など無かったのだが、それではいけないとエルザが大仰にも拳法着と命名した。


ゆったりした拳法着の下はグリエロも驚く程の隆起した筋肉が隠れているのだが、ロンは着痩せする様でそんなに体躯が良い様には見えない。


はっきり言って今のロンにはゴブリン二匹程度は最早敵では無い。それに気付かぬゴブリンは哀れである。


そうとも知らずゴブリンはロンに襲いかかる。大きく剣を振りかぶってロンの脳天に打ち下ろすが、剣を振り下ろした先にはロンは居ない。


ロンは左脚を前に半身に構えた状態から、襲いくるゴブリンの剣を半歩左斜め前に踏み込んで躱し、左拳上段突き、右拳中段突き、右脚下段蹴りと瞬きも出来ぬ程の一瞬の間に三連撃をお見舞いする。


その連撃でゴブリンの命は即座に刈り取られる。絶命したゴブリンが地に倒れ伏すより早く、ロンはもう一体のゴブリンの前に躍り出る。もう一体のゴブリンは驚く間も無くカスミを深々と肘で打ち抜かれ頓死する。


二体のゴブリンは下卑た笑いをその顔に貼り付けたまま死んだ事を知る前に絶命した。


ロンの強さに驚いたのはフィリッピーネだけではない。エルザもまた驚嘆する。

フィリッピーネの知るロンの戦う姿といえばランペル達の戦意を喪失させた時のもので、かなり手加減したものであったし、エルザの見たロンの戦う姿は辛くもオークに勝利した時のものである。


今のロンはその時より遥かに強い。


グリエロに武器術を、ルドガーに急所を学び、数多のオークを屠り、さらには魔族をも退け、しまいには人間でありながらその身に火と雷の属性を付与させた。

この短い期間でロンは著しく成長している。そしてそれは冒険者としてもそうだ。


ロンは討ち倒した二匹のゴブリンを前に屈み込み何やら仕切りに頷いている。

「う〜む」と唸り、傍らにいるランスに顔を向け意見を求める。


「なあランス、コボルト的に見てこのゴブリン二匹どう思う?」


そう聞かれたランスはロンの傍らに屈みフンフンと鼻を動かす。


「コノ、ゴブリン共ハ、ハグレ個体デスネ。同族ノ者デハナイデスネ。」


「やっぱりそうか、顔立ちも違うし装備品の作りも違うから変だなとは思ったんだ。」


「エエ、ソレニ臭イモ違イマス。」


それを聞いてロンはため息を吐きながら立ち上がる。そしてぐるりと辺りを見回す。


「なあ、ランス。こいつらたまたま一緒にいたのかな?」


「イエ、ゴブリンハ縄張リ意識ガ強イデスカラ、ハグレ個体ガ一緒ニイル事ハ珍シイデスネ。」


「じゃあ何らかの理由があって共闘してたんだな。」


ロンの問いかけとも自問とも取れる言葉に「フム」とため息を吐きながらランスも立ち上がり辺りを見回す。


「ソウデショウネ。」


「と、言う事は?」


と言うロンの問いかけに対し疑問を投げかけるのはエルザである。


「あ、あの。ゴブリンについての考察は興味深いんですけど、採掘依頼と何か関係があるんですか?」


エルザの問いかけにロンは腕を組んでうなだれる。


「関係無いかも。」


「え!?え〜っと...無いんでしたら依頼を優先した方が良いんじゃないでしょうか?」


「いや、関係無くても重要な事かも。はぐれゴブリンがこうやって一緒にいたという事は、もしかしたらこの森の何処かではぐれ同士の集落を作っているかもしれない。」


それを聞いてエルザはさっと顔色を変える。


「それってすごく危険なんじゃ...!?」


「そう。緊急の討伐依頼になるな。この場合、発見が冒険者で、集落の規模次第なんだけど、そのパーティで討伐出来るのなら事後承認依頼として討伐権が優先的に発生する。」


「あの、それってつまり...」とエルザが不安そうに質問する。


「つまり、てめぇらで討伐しろって事。」


「わ、私達がですか!?」


そう言ってエルザは両手で頬を挟み悲壮な顔をする。


「まあ、そう心配しなくても大丈夫だ。取り敢えず集落を発見しないといけないし、集落の規模を見て少しでも危険を感じたら即座にウンドに帰ってギルドに報告したらいいんだから。

フィリッピーネもいるし無理はしないよ。」


ロンがそう言うやエルザはプウと頬を膨らませる。


「何ですか、フィリッピーネさんがいるからって。私だってか弱い乙女なんですからね!」


またとっ散らかった事を言い出したなとロンは眉間にシワを寄せながらも苦笑する。


「なに言ってんだ。エルザは凄い攻撃魔法を放てるじゃないか、僕の拳よりよっぽど強いぞ。それに上の下の冒険者だろう。級位で言っても僕より遥かに上じゃないか。」


「う、うげ、え...」と奇妙な唸り声を発しエルザは固まる。


固まるエルザを尻目にロンはランスに向き直る。


「ランス、ゴブリンの臭いって辿れるか?」


ロンの問いかけにランスは一つ頷いて地面に手を突きフンフンと鼻を動かす。


「フム、ワカリマス。辿レソウデスネ。」


「よし。ランス、すまないが案内してくれないか?」


「オ安イ御用デス。コッチデス。」


そう言ってランスは先に立って歩き出す。


「ありがとうランス。...おーい、エルザ。ボケッとしてないで行くぞ。」


そう言ってロンは踵を返しランスを追いかける。はたと気がついたエルザは慌ててロンの後を追う。さらにその後をフィリッピーネがニコニコしながら付いていく。


ロンは追いついたエルザにフィリッピーネを見て歩みを早める。そうしてふとエルザと最初に受けた依頼も緊急のゴブリンの討伐依頼だったなと思いだした。

あの時は散々だったなと振り返り苦笑いをする。


ロンは思う、今回はあの時のような失態を冒さない様にしようと。

前回は依頼は失敗こそしなかったが、ロンは素手でゴブリン共と殴り合い身体を満身創痍の状態まで追い詰めてしまっただけで無く、エルザの心をも深く傷つけた。


そしてロンは心に誓う。今度こそゴブリン共を圧倒し、あの時に失った自尊心を取り戻すのだ。過去は変える事は出来ないが、劣後を払拭し誇りを取り戻し前に進む事は出来る。



まあ、その為にもロンはゴブリンの集落がほどほどの大きさである事を願う。あまりに大きな集落になっていると流石に手に負えない。

そこはまあ現実的にものは考えようとするロンなのであった。

さて思わぬ方向に話が進んでいきましたね。

どうなるのでしょう?


いつも有り難うございます

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