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52 初めての依頼。

ロンとフィリッピーネは一緒に依頼を受けます。

ロンとフィリッピーネは揃ってギルドの受付に訪れる。奇妙な取り合わせにミナがキョトンとしているとロンが先程の経緯を伝え、何か採取系の依頼がないか尋ねる。


「そうですね、近場で採取の依頼は...幾つかありますね。それはそうとフィリッピーネ様も行かれるんですか?」


ミナは少し驚いた様な顔で問いかけるが、フィリッピーネの返事は「そうよ」と一言軽いものであった。まるで近所に買い物に行く様な口振りだ。

ミナは一瞬ポカンと呆れた表情を見せるが直ぐに気を取り直し首を振る。


「申し訳ありません、フィリッピーネ様。ギルドの依頼を受けるには冒険者登録をして頂かないといけないんです。」


「登録するわ。冒険者になっちゃう!」


即答するフィリッピーネにミナはおろかロンまでも口を揃えて「えぇ!」と驚嘆する。


「ちょ、ちょっと待って下さい、フィリッピーネ様。冒険者になるんですか!?」


「そうよ。どうやったらなれるの?」


あっけらかんと答えるフィリッピーネに少々呆れるミナだが、そこは長年受付をしてきたミナである。直ぐに気持ちを入れ替え分厚い台帳を受付の後ろの棚から引っ張り出してくる。


「基本的には名前と職業名など基本情報をこの台帳に記入するだけですからすぐに終わるんですけど...まあ冒険者稼業というものは実力主義な所が多いですから後はご本人次第と言ったところですかね...」


「ふんふん、わかったわ!」とこれまたあっけらかんと答えるフィリッピーネ。

ミナはロンに一瞥くれるが等のロンもポカンとしており頼りにならないと即座に気持ちを切り替え、羽ペンとインク壺を取り出す。


「では、登録の為の台帳記述は私がやりますのでフィリッピーネ様は質問に答えて下さいね。」


「わかったわ!」とフィリッピーネは腰に手を当てグンと胸を張る。謎のやる気を見せるフィリッピーネにミナは思わず苦笑いしてしまうが、直ぐに気を取り直し質問を始める。


「お名前はフィリッピーネ・ヴァウシュですよね。性別は女性と...

あ、職業登録は何にされます?基本的には冒険者ギルドで規定されている戦闘職か戦闘補助職について貰う事になってますが。これはパーティを組む時に混乱を防ぐためにあるものなんですが...さすがに舞踏家という職種は無くてですね...」


それを聞いたフィリッピーネは腕を組んで暫し黙考した後ポツリと呟く。


「そうねぇ、じゃあ拳法家にしようかしら。」


それを聞いて驚いたのはロンである。


「ええ!いいのか!?まだ触りしか教えて無いんだけど。」


「いいのよ。冒険しながらロンさんに教えて貰うわ!」


けろりと答えるフィリッピーネに慌てたのはロンである。


「いやいや、そんな適当に決めたらマズイだろ。な、なぁミナ。」


ロンはミナに助け船を求めるが、ミナもミナでもう諦観の念といった面持ちでロンを見つめ返す。


「まあ、そこはやっぱり実力主義の冒険者稼業ですからね。どんな風に登録して貰ってもかまわないですよ、後は結果次第ですからね。合わなきゃ転職したらいいんですし。」


ミナにそう言われると転職経験者のロンは何も言い返せない。

ロンがまごついていると登録台帳とは別の職業台帳を引っ張り出してきて繰りながらミナが訝しい顔をし始める。


「あれ、そう言えばロンさん拳法の職業登録してないですよね!?何だかロンさんの周りでオークだ何だって色々ゴタゴタしてて私もすっかり忘れていたわ。」


「あ、僕も忘れてたな。必要事項を職業台帳に記入するだけで良かったんだっけ?」


「あー。本当は審査があるんだけどね。トムが一時期、自分が面白いと思った新しい戦闘方法をギルドの審査を経ずにギルドマスターの強権を発動させて次々と職業化させたんですよ。

お陰で訳の分からない職業がいっぱい出来て現場は大混乱。ブランシェトさんとヴァリアンテさんが大激怒してね...」


ミナは遠い目をして肩をすくめる。ロンは何か合点がいったようだ。


「あー、どうりで...トムさんに拳法の事を話したら、新しい戦闘職が生まれるかも知れないってやたらと目を輝かせてましたからね。」


「あらら。また悪い癖が出でたんですね。」


そう言ってミナは呆れたように笑顔をみせ職業台帳の新しい頁を開く。


「本当は上級職の冒険者三名以上の承認が無いと新しい職種を作る事は出来ないんだけど、まあ今回は私が強権を発動させるわ。

拳法を使ってオークや魔族を討伐した実績があるから、ロンさんが拳法を職種に登録するって言ったらうちのギルドの上級職達で反対する人はいないでしょうから、こっちで承認者を適当に記入しておくわ。トムさんにブランシェトさんがいいかしら、後は...グリエロでいっか。」


「え!?そんなので良いのか?」


ロンは不安そうに尋ねるがミナは「いいのよ」と事もなげに言ってのける。


「拳法...使用武器は...自身の身体...っと。主に拳足を使用し戦闘するっと...他に記載する特記事項も無いか...こんなものかな。

はい、これでロンさんが拳法の開祖になりました!」


こうしてロンは史上初の徒手で戦う戦闘職の拳法の創始者となり、拳法家の一代宗師になった。


「え...こんなので良いのか...と言うか勝手な事してトムみたいにブランシェト先生とかに怒られたりしないのか?」


ロンは不安を通り越して訝しげに尋ねるがミナはやはり「いいのよ」と事もなげに言う。


「私、このギルドの最古参の一人だからね。結構な発言力があるのよ。」


ロンの不安を意に介さず、ミナはそう言ってのける。まあ最古参も何もウンドの冒険者ギルドが出来たのはミナの為でもあるので発言力もへったくれもないのではあるが。


「じゃあ、コレで各地に伝令を飛ばしておくから二、三花月したらどこの冒険者ギルドでも拳法家で登録出来る様になるわ。」


そう言って職業台帳を脇に除けて、登録台帳をフィリッピーネの前に持って来る。


「さてさて、フィリッピーネ様。これで拳法で冒険者登録が出来る様になりましたよ。」


こうしてあれよあれよと言う間にフィリッピーネが冒険者となる段取りが整ってしまった。


ロンはどうしたものか逡巡しているとフィリッピーネが拳法家で登録すると宣いミナはそれを受付てしまう。


フィリッピーネは拳を高らかと挙げ鬨の声をあげる。意気揚々とギルドから飛び出そうとするフィリッピーネをミナが呼び止める。


「あの、フィリッピーネ様、その格好で行かれるんですか?」


ミナにそう呼び止められてフィリッピーネは自身の姿を返り見る。早朝の自主練習をしていただけのフィリッピーネは薄い練習着しか着ていない。フィリッピーネは「いけね」と呟いてチロリと舌を出す。


「こんな格好で冒険には行けないわよね。ミナさんゴメンなさい、鎧とか防具の貸し出しってやっているのかしら?」


普通は装備を整えて冒険者登録するものなので、それを聞いたロンは絶句するが、ミナはそうでもなかった。


「ふむ。そうですねぇ...ちょっと待ってて下さいませ。」


そう言ってミナはカウンターの奥にある自室に向かう。その後ろ姿にフィリッピーネが慌てて声をかける。


「あ!ごめんなさい、もう一つ。使い勝手の良い短剣みたいな物があったら貸して頂けないかしら。」


それを聞いたロンは青褪めるが、ミナは「はいはい〜」と手を振りながら自室へ引っ込む。

しばらくすると自室から防具一式と短剣を抱えて出て来る。


「私が昔使ってたお古だけど、私とフィリッピーネ様って背格好も変わらないし、この鎧って色々と加護が付いてるから丁度いいわ。」


「まあ!ありがとう!お借りするわね。傷つけ無いで返しますからね。」


「気になさらなくて良いんですよ、私が使ってたお古なんですから。」


そう言ってミナはフィリッピーネに手慣れた感じで防具を装備させていく。


「これで良し。やっぱりぴったり合いましたね!

それからこれが御所望の短剣でございます。」


そう言ってフィリッピーネの腰に短剣を結える。

ミナとフィリッピーネは二人でクスクスと笑い合いながら楽しそうに準備をしている。


ロンは和気あいあいとした二人のやり取りを一歩引いて半ば冷めた目で見ていたが、装備を整えてこちらにやって来たフィリッピーネを見て目を丸くして絶句する。


身に着けているのは碧く輝く聖銀の鎧に、腰から下げているのは慈悲の短剣ミセリコルデである。


「そ、それって...しょ、書物でしか見た事ないけれど、聖銀の鎧に慈悲の短剣じゃないのか!?」


「そうなのよ。こんなお古しか無くてゴメンなさいね。」


ミナは恥ずかしそうに頬に手を当てているが、フィリッピーネはその場で舞う様に二、三跳躍し満面の笑みを浮かべる。


「すごく軽い鎧と短剣ね!それに色もとても綺麗。ミナさんとっても素敵な衣装を貸してくれてありがとう!」


二人で手を取り合ってキャアキャア盛り上がるミナとフィリッピーネに対し、ロンは驚きを隠せず狼狽している。


「ちょ、ちょっと待って。その武具ってエルフの至宝ですよね!?神代武具ですよね!?

て言うか五百年前に失われた伝説の装備ですよね!?」


「え、失くしてないわよ。私の部屋の納戸に大事にしまってあるもの。」


しれっと答えるミナに、ロンは頭痛に目眩を覚える。


「五百年前の戦争の後に行方が分からなくなっていた伝説の武具がこんな近くにあったなんて...」


ロンが歴史的な大発見をしている傍で、あれよあれよと言う間にフィリッピーネの準備が整い、ロンはフィリッピーネと採取依頼に行く準備が整ってしまった。


「よし!これで本当に準備が整ったわね!いよいよ冒険に出発ね!」


「フィリッピーネちょっと待って。気持ちが早るのはわからないでも無いんだけど、まだどの採取依頼を受けるか決めてないよ。」


これには流石のフィリッピーネも顔を赤くして両手で自分の頬を押さえる。


「はぁ〜。ごめんなさい!私ったら凄く嬉しくて、凄く楽しくて...あ〜恥ずかしい!」


身をよじって恥ずかしさに身悶えるフィリッピーネは泣けるほど可愛らしかった。


ロンはおろかミナまでも魅了されていると、そこに現れた者がいる。


「あれ!?チェイニーさん、まだギルド居たんですね。中庭に居なかったからもう依頼受けて行っちゃたと思ってました...」


エルザがコボルトのランスと共に現れロンに話しかけるが、傍らにいるフィリッピーネに気がついて息を飲む。


「え!?フィリッピーネさんすごく素敵!お伽噺の騎士様みたい...」


そう言って頬を紅く染める。

惚けるエルザに我を取り戻したロンが話しかける。


「ランスと一緒という事はエルザはこれから人語講座か?」


「っは!そ、そうでした。コボルトさん達の人語講座に向かう途中だったんです。」


「そうか、順調にいってる?」


「はい!ブランシェトさんやランペルさんも講師として登壇してくれてますし、皆さんすごくやる気があって習得も早くて。そう!ランスなんかもう人語を完璧に習得してるんですよ!」


「へえ!そりゃスゴイな。しかしエルザも忙しくなっちゃったな。講座の後もブランシェトやヴァリアンテと魔術研究してるんだろ?」


「はい!お互いの魔術や魔女術の研究交換会をしてます。白魔術や魔女術の知識で私の超魔弦理論の研究も進んだんですよ!」


「そうか。難しい事はよく分からないけれど、エルザが楽しそうで良かったよ。」


「はい!楽しいです!」


そう言ってエルザは満面の笑みを浮かべる。その幼さの残る顔に屈託のない笑顔を浮かべるエルザにロンは少しドキリとする。それと共にエルザが必要とされる居るべき場所が見つかり笑顔を見せてくれる事に安堵感を覚える。


「そうか、良かったな。」


ロンはそう言って自然とエルザに笑いかける。

笑顔を向けられたエルザも自然と笑顔を返す、少し照れながら。


「あら。ロンさんもそんな笑顔が出来るようになったんですね。」


ロンの顔を見てミナが感心した様に言う。


「そりゃ僕だって笑いますよ。」


「え!?チェイニーさんって笑わなかったんですか?」


「そんな事ないと思うけどな。」


「いえいえ。いい笑顔をする様になりましたよ。これもエルザちゃんとパーティ組むようになったお陰かもしれませんね。」


相変わらずの鈍さを発揮するロンはポカンとしているが、ミナの言葉にエルザは顔を赤くする。そしてそれを誤魔化すように饒舌になるエルザ。


「え、えーっと!あ、そうだチェイニーさん今から依頼ですか?最近はお一人で配達のお仕事されてるんですよね?色んな所に行けて良いですね。今日の依頼は何ですか?今日もお一人で?」


「いや、今日はフィリッピーネと一緒に依頼を受けるんだ。」


「へー。フィリッピーネさんと... っえ!フィリッピーネさんと!?二人で!?」


「はい!私も冒険者になったんです!ロンさんと同じ拳法家なんですよ。」


屈託なくそう告げるフィリッピーネにエルザは目を白黒させて驚く。

そしてやにわにロンとフィリッピーネの間に割って入る。


「あ、あの!私もついて行きます。一緒に依頼を受けます!」


「え!?エルザどうしたんだ突然。人語講座はどうするんだ?」


ロンの心配をよそにエルザはカウンターにかぶりついてミナに訴える。


「あの、私チェイニーさんとパーティ組んでますから。えっと、あの、その、そう!私はロンさんの相棒ですから!一緒に依頼受けます!」


「え!?」



そう言う事になった。

さてパーティにエルザも加わりましたね。


どうなるのでしょう?



いつも読んで頂きありがとうございます。

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