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51 フィリッピーネとの柔軟修行

酷い目に遭いましたがロンはいつもの様に修行をします。

早朝。ロンは目を覚まして、いつもの様に走り込みをするために服を着替えようと寝間着のズボンを脱いで驚く。両脚のつけ根から太腿の中程まで脚の色が真っ青なのである。何事かと思い一瞬たじろぐが昨日の出来事を思い出して、自分の股間が不気味な紫色に変色している事に納得する。


昨日フィリッピーネに柔軟運動の仕方を教授願ったお陰だという事に思い至ったのである。


「じゃあ、股割りしちゃおっか。」と、ほがらかに微笑みながら、フィリッピーネはさも当然の事の様に言ってのけたが、その後にフィリッピーネが行った行動の苛烈さと言ったらない。股割りの意味もよく分かっていなかったロンが生返事したのも悪いのだが、ロンにしてみても、あんなに可愛くほがらかに言ってのけた事の中身が大の男が絶叫して悶絶する様な悪魔的な行動だとは思いもよらなかったのだ。


ロンは眼を瞑ると昨日の惨劇がまざまざと思い出されるのであった。



ギルドに響き渡る絶叫を聞いて駆けつけたのは、早朝訓練のためにギルドに居たグリエロとモーリンを始めとする教え子たち、そのモーリンの隣にはエルザがいる。さらに四日目の徹夜を敢行していたブランシェト、そのブランシェトに首根っこを引っ掴まれて徹夜で事務作業をしていたトム、最後に眠る事のない受付ミナである。


早朝とあってかギルド内に居たのはこれだけの様だ。皆一斉に中庭に入って来て平たく伸びているロンを見て絶句する。


「チェイニー!? ど、どうしたのです! 」


慌てて駆け寄ったのはブランシェトである。ロンを引き起こそうとするがブランシェトの力ではロンを持ち上げられない。


「グリエロ! ロンを元に戻して! っは! フィリッピーネ様いらしてたんですね。ロンの身に何が起きたんです!? 」


慌ててグリエロを呼びつけるブランシェトとは対照的にフィリッピーネは悠然と微笑んでいる。


そこにグリエロが駆けつけて伸されているロンの肩を持ち、引き上げる。


「おい、ロン。お前さんどうしたんだ?

なんだってこんな所で平たくなってんだ? 」


起こして貰ったロンはフラつきながらも立ち上がり周囲を見回す。

エルザを始め皆が心配そうに見守っている。


「ああ、大騒ぎしてすまない。みんな大丈夫だよ、フィリッピーネに柔軟運動を教わっていたんだ。」


それを聞いた一同は揃って息を飲む。いったいどういう風に柔軟運動をすると絶叫のもと平たく伸されるのだろうと思う。


「あ、あの、フィリッピーネ様が、チェイニーを平たくしたのでしょうか? 」


ブランシェトは些かおかしな質問をフィリッピーネにすると、フィリッピーネはにこやかにサラッと答える。


「はい! ロンさんが身体が柔らかくなりたいと言う事でしたから、ヴァパダル舞踏団秘伝の股割り柔軟を施したんですの!

お陰でロンさん随分と開脚が出来る様になりましたわ! 」


それを聞いて大喜びしたのはトムだけであった。


「アッハッハッハ! ロンくんスゴイじゃないか、かのフィリッピーネ団長にヴァパダル舞踏団の秘伝を授かるなんて!

ねえブランシェト一応ロンくんの脚の具合を診てあげなよ。」


そう促されてブランシェトはロンの脚の具合を診る。


「ま、まあ外傷は無いようだけど、軽く治癒魔法をかけとこうかしら。」


ブランシェトがそう言うやフィリッピーネが慌てて制止する。


「あ! 待ってブランシェト様! ロンさんの股関節の腱を切ったんです。ここから徐々に腱を治しながら身体も徐々に柔軟にしていくんです。治癒なさらないで下さい。綺麗に切りましたから魔法を使わなくともきちんと治りますわ。」


「あ、ああ、そうなんですね。...そうよねフィリッピーネ様が無茶な事されないわよね。ごめんなさい舞踏団の慣例だとは知らなくて。余りにチェイニーの声が大きくて驚いてしまって... もう、チェイニーったらあんまり大きな声を出すんだもの、驚いちゃったわ。」


「いえいえ、チェイニーさん頑張りましたよ。今では皆んな危ないからって股割りしなくなったんです。昔は皆んな股割りしてたんですけどね。

私なんか小さい時に股割りしてあんまり痛くてわあわあ泣いちゃったのよ。わたしだけじゃないわ、皆んな泣いちゃうの。それだけ痛いって事なのね。だけどロンさん泣かなかったわ、とっても偉いわ! 」


そう言ってフィリッピーネは青褪めるロンの頭をエライエライと言って撫ぜる。


それを見て一同も何をどう言っていいか分からず青褪める。



ロンはまだ薄暗い自室で眼を開けると、自分の股間を見る。不気味に紫色をしている。

まだ脚が重く怠い様な気もするが、試しに脚を上げてみる。何度か色々な方向に脚を上げる。なるほど確かに脚の可動域は広がっているような気がする。


しかし可動域は広がったが今日もあの訓練をするかと思うと少々気が引ける。

だが強くなる為にはそうも言ってられないので、身支度を済ませ走り込みをする為に表へ出る。


街の広場へ行くと心配そうな顔をしたエルザが待っていた。


「おはようございます。チェイニーさん、大丈夫ですか? 」


「おはよう。うん、大丈夫みたいだ。心配かけてごめんな。」


「い、いえいえそんな。昨日はちょっとびっくりしてしまいました。」


「いや、僕も驚いたよ。」


そう言ってお互い顔を見合わせて笑う。今日はロンもエルザの準備運動と称する謎の踊りを一緒にする。なるほどエルザ流の不思議な動きの準備運動だが身体の節々を伸ばすちゃんとした運動になっている。

ロンは一通り身体を伸ばして異常が無い事を確認する。


ゆっくり走り始め、しばらくすると身体の重さや怠さも取れてきたので走る速度を上げる。途中まではエルザも付いて来た。僅かながらもエルザの体力も向上している様だ。


街を半周程した所でいつもの調子に戻して本気で走りだす。流石にそうなるとエルザもついてこれないので此処で分かれて走り出す。


走り込みの終着点である踊る子猫亭に行きアルジェントと朝食を食べてギルドへ向かう。


ギルドの中庭に行くともうフィリッピーネが踊っていた。


「おはよう、フィリッピーネ。」


「あら! おはようございます、ロンさん。お身体の具合はどうですか? 」


「いいよ。それに脚の可動域は少し大きくなった様な気がするよ。」


「あら、広くなった様に感じます? 良い事だわ! じゃあ今日も柔軟運動する? 」


フィリッピーネの問いに一瞬躊躇するがロンは頭を振って後ろ向きな自分の思考を払拭する。


「ああ、お願いします。 ...また股割りかな? 」


「いいえ、あの股割りは上手くいったから一回だけよ。あんなの毎日したら身体壊しちゃうわ! 」


フィリッピーネは軽やかに恐ろしい事を言ってのけたが、ロンは内心ホッとする。


「じゃあ今日は何をするんだ? 」


「今日からは身体の内側の筋力を鍛えながら自重で柔軟をしていくわ。」


「自重で柔軟? 」


「そう。きっかけは作ったからね、後は自分の体重を使ってゆっくり身体を伸ばしていくの。自分の重さを使うから過負荷をかける事なく身体の力を抜いて筋肉の緊張をほぐして柔らかくしていけるのよ。」


「そういう柔軟の仕方もあるんだな。」


ロンは腕を組み感心した様に頷く。それを見たフィリッピーネは人差し指を上げ楽しそうに頷く。


「早速やってみましょうか。」


フィリッピーネは脚を伸ばした長座の姿勢でその場に座り、大きく息を吐きながら上体を前に倒していく。

ロンもそれに続く様に長座になり身体を前に倒す。


「ロンさん息を止めないで、ゆっくり息を吐きながら身体の力を抜くの。」


そう言いながらフィリッピーネは前屈していき自身の脚に胸をピタリとつける。

それを見ていたロンは「おお」と感嘆し、ため息を吐きつつ前屈しようとするが脚に胸をつけるどころか、背中を丸めるのが精一杯だった。


「ロンさんもっとゆっくり息を吐きながら身体の力を抜かなきゃ。」


そう言ってフィリッピーネは立ち上がりロンの背後に回ってゆっくりと背中を押し始める。


「ほら、息を吐きながら力を抜いて!」


そう言いながらフィリッピーネはロンの背中に身体をあずけ体重をじわじわと乗せていく。

ロンは息を吐きながらやっぱりキツイ柔軟になったなと吐く息がため息に変わっていくが、ふとある事に気がつく。フィリッピーネがロンの背中に覆いかぶさる様に体重をかけているのだが、胸が当たっているのだ。小振りだが弾力のあるしなやかで引き締まった胸がロンの背中に押しつけられる。

ロンは極力意識しない様に努めたが、フィリッピーネも息を吐きながら自身の力を抜き体重をかけてくるので否が応でもフィリッピーネの身体を感じてしまい緊張してくる。


「こりゃ!ロンさん力を抜くの!硬いぞ〜!」


「いえ、あの、フィリッピーネが乗っかるとだな、その、む、胸が当たると言うか... 」


ドギマギと答えるロンに一瞬キョトンとしたフィリッピーネだが次の瞬間には大笑いする。


「あっはっは〜! ロンさん何言ってるのよ、こんなオバちゃんのちっちゃい胸なんて当たったって気にしなくていいのよ!」


「お、オバちゃんって...フィリッピーネって僕とそんなに歳は変わらないだろ。」


フィリッピーネは再びキョトンとした顔をした後、ニカっと笑いロンの頭を平手でペシペシと叩きだす。


「いやぁね、私は二十八歳よ!ロンさんよりもずっと年上なんだから。ロンさんまだ二十歳そこそこでしょ?」


「十九です...」


「ほらぁ!ロンさんから見たら私なんてもうオバちゃんでしょう!?」


「二十八でオバちゃんは無いだろう。と言うか結構年上だったんだな。あまり年齢は変わらないと思っていたよ。」


そう言ってロンは自分の周りにいる女性陣の顔を思い浮かべる。


エルザは魔術学院を卒業してまだ一年しか経っていないと言っていたので十六歳か。と言うか十六歳にして数々の魔術的発見をして何本も魔術論文を発表している。改めて考えるととんでもない才女であるが、日頃のとっ散らかった言動が全てを台無しにしている。

ブランシェトは確か自分の百倍は長く生きているので千九百歳を超える歳になる筈だ。最近は怒り過ぎて小皺が増えてきている様な気もするが、はっきり言ってブランシェトはエルザと年頃の変わらない見た目で、少女の様に見える時もある若々しい姿をしている。長命のエルフであるから当然と言えば当然なのかも知れないが。

ミナこと不死の王妃ミナルディエ・ドラクリアは五百歳を超える殭屍王の眷属だ。二十歳頃に不死になったそうなのでその頃から見た目は変わっていない様だ。それにしてもその若さで上級上位の戦士だったのだから、とんでもない才能の持ち主だったのだろう。五百年経った今は見る影も無いが。この前もギルドの中庭でつっ転んでいた。

黒魔導師のタスリーマは年齢不詳だ、スラリと背も高く、長く豊かな髪から覗く凛とした相貌から二十代の半ばくらいかと思っていたが五十年前に書物を出版しているらしいのでどう少なく見積もっても六十代半ばから七十代と言う事になるだろうが、怖くて年齢など聞けない。

もっと怖いのがヴァリアンテである。件のタスリーマにお姉様と呼ばれている魔女は見た目の年齢こそタスリーマと変わらないように見えるが、実年齢は皆目検討がつかない。分厚く黒いローブに身を包んでいるのでどの様な体躯をしているのか分からないが、暗く美しい妖艶な顔立ちとは裏腹にガラガラとしゃがれた声で話し、バキバキと骨を鳴らしながら立ち上がる様を見るとタスリーマ以上に結構な歳なのではないかと思うのだがやはり恐ろしくて歳など聞けない。


ロンの周りの女性陣の状況がこの様な有り様なので、ロンは女性の年齢を見た目で判断出来なくなるほど感覚が麻痺してしまっている。まあ、その事を差し引いてもフィリッピーネは若々しいのではあるが。


そんな事をぼんやり考えて意識をあらぬ所に飛ばしていたが、ふと気がつけばまだロンの背中にはフィリッピーネの胸が乗っかっている。


「あ、いや、だから年齢の問題じゃなくて...」


「ほら!ロンさん随分と前屈できる様になって来たじゃない!」


はたと気がつくとロンはフィリッピーネ程ではないにしろしっかり前屈が出来ている。多少背中は丸まっているが、前屈し頭を膝に付けられている。


「え!?あれ?本当だ、いつの間に...」


「すごい、すごい。じゃあ今度は開脚して前屈してみましょうか。」


そう言ってフィリッピーネはロンの背中から降りてロンの正面に回り、開脚して前屈するとペタンと胸を地面につけてしまう。


ロンはフィリッピーネに倣って上体を起こし開脚すると昨日よりも随分と脚が開く様になっている事に気がつき股割りの効果に驚く。そこから前屈していくのだが先程の長座からの前屈のお陰か開脚しての前屈は思いのほか上体が前に倒れる。フィリッピーネの様に地面にぺたりと上体を倒す事は出来ないが、両肘を地面につく事は出来た。


それを見たフィリッピーネはニコリと微笑む。


「すごい、すごい!やれば出来るじゃない!」


「いや、フィリッピーネのおかげだよ、ありがとう。股割りされた時はどうなる事かと思ったけど。」


フィリッピーネは満足気に頷き、しなやかな動作で立ち上がる。


「ロンさんの身体はまだまだ柔軟になるはずよ。他にも股関節の柔軟の仕方は色々あるから順次教えていくわね。

後は継続することね。毎日柔軟運動をする事。わかった?」


ロンは「わかった」と真剣な眼差しで頷く。


「よし!そしたら一緒に踊りましょうか。」


そう言ってフィリッピーネはクルリと一回転する。ロンは訝しい顔をして硬直する。


「え!?どう言う事?僕は舞踏なんか踊った事ないよ。と言うか踊らないといけないのか?」


「内側の筋肉を鍛えるためよ!しなやかで柔軟な筋肉を身につけるには踊る事が一番良いの!」


「そ、そうなのか!?」


「そうよ。身体を捻ったり、伸ばしたり。踊りながら柔軟性を身につけるの!」


そう言ってフィリッピーネはふわりと飛び跳ねると「ついて来て!」と言って踊りだす。

ロンはつられてフィリッピーネと踊りだす。


それは文字通り飛んだり跳ねたりといったものだった。フィリッピーネはいとも簡単そうに身体を捻って跳躍したり、片脚を高く上げながら回転したり優雅に美しく踊る。


ロンは必死に真似しようとするが、どうにも足下がおぼつかない。脚を上げてはフラフラ、回転してはフラフラとまるで酔っ払いだ。


フィリッピーネはそんな様子のロンを見て踊りながらも細かく指導していく。


「ロンさんもっとお腹を引き上げて背筋を伸ばして!身体の中心に軸を感じるの。そう!」


ロンは真っ赤になって息も絶え絶えにフィリッピーネについて行こうとする。舞踏というものがこんなにも過酷だとは思いも寄らなかった。

オークとの戦いの方が幾分かマシである。


「ほら、ロンさん息を止めないで。呼吸して!身体に律動を感じて!」


ロンは汗だくになりながらフィリッピーネについて行く、おおよそ舞踏とは言えないものだがなんとか踊りきり、地面に汗を滴らせながら大の字になって倒れる。


フィリッピーネも大粒の汗を身体中に浮かべているがロンの見苦しさとは対極的に大変に爽やかで美しい。


キラキラと輝くフィリッピーネは静かに呼吸を整えて、汗でギトギトになって倒れ伏すロン傍らに立つ。


「ロンさん凄いわ!初めてなのに最後までついてこれたわね。舞踏の素質あるかもよ。」


ロンは吐く息も荒く片手を挙げて応える。


「いえ、とても、踊りと、言えるような、ものでも、無かったです、ゼヒ、ゼハ。」


「まだまだこれからよ。もっと柔軟性を培って、内側の筋肉を鍛えて身体の軸が出来たら更に自由に動ける様になるわよ。」


「そんなもんですかね」と言いながらロンはむくりと起き上がる。まだ肩で息をしているが動けるまでは回復したようだ。

それを見たフィリッピーネは少し驚いた顔をするが、すぐにニコリと微笑む。


「あら、もう動けるのね。流石!じゃあ今度はロンさんの拳法も見せてよ。」


思いもよらない言葉をフィリッピーネから聞いてロンはキョトンとする。


「え!?見てもそんなに面白いものじゃ無いと思うよ。踊りなんかより地味だし。」


「いいのよ。舞踏の柔軟性が必要な戦い方ってどんなものが興味があるのよね。」


「そうなのか」とロンは独言ながら左脚を前に身体を半身に開いて腰を落とし構える。


ロンは目の前の虚空に先日戦った魔族のヒーシを思い浮かべる。じりじりと想像のヒーシににじり寄りロンは己の攻撃の間合いに入る。


そこからロンは想像のヒーシ顔面に向けて、腰を回転させ左拳、右拳と連撃を放ち、次いで急所であるスイゲツに連撃の勢いを乗せて右脚で蹴りを打ち込む。

打ち込んだ蹴り脚を下ろすやその脚を軸に上体を回転させ想像ヒーシの側頭部の急所であるカスミに肘をねじ込み、やはりその勢いを使い身体を返し左膝を再びスイゲツに打ち込む。


流れる様な五連撃。今の相手は物言わぬ想像の敵だが、ロンはこの動作を何百何千と繰り返し身体に覚え込ませ自らの動きとし、先達てグリエロやルドガーとオークの大群を退けた。


フィリッピーネは目の前で繰り出された闘争のための無駄のない動きを見て感嘆し、美しいとまで思った。そして俄然興味を持つ。


「ロンさん凄い!楽しそう、私もやってみたい!その手とか脚の動かし方私にも教えて!」


唐突なフィリッピーネの申し出にロンは目を瞬かせる。


「え!?教えるの?別にかまわないけど、楽しいの?」


「ええ!新しい動きを知るのは楽しいわ!そんな動き初めてみたもの。とっても興味があるわ!」


ロンはキョトンとしながらもフィリッピーネに自身の拳法を教授する。


「うん。突きの威力を増すためには脚を一歩引いて半身になって、腰の回転を使って肩、肘、拳の順番に手を出していくんだ。蹴りも同じ、腰の回転を膝、足首に伝えていくんだ。」


一通り動き方を教えるとフィリッピーネは早くも動きのコツを掴んだようで、鋭く突きや蹴りを放ちだす。やはり柔軟性があるためかロンより突き蹴りの伸びが良い。それを見てロンが驚いたのも無理からぬ事だ。


「ふむふむ、なるほど。これは面白いし奥が深いわね...」


フィリッピーネは一人で頷き何か納得した様で、ロンに向き直り質問する。


「それで、ロンさんが柔軟性が欲しいと思った攻撃の仕方ってどんなのなの?ちょっと見せてくれないかしら?」


「え?ああ、いいよ。それは上段に対しての蹴りなんだ。」


そう言ってロンは腰を回転させ脚を大きく振り上げ自分の頭の高さまで脚を蹴り上げようとする。

が、やはり重心を崩し仰けに転けてしまう。


「イテテ。やっぱり無理だったか。まあ上手くいくと相手の頭部に蹴りをねじ込む事が出来るんだ。」


「なるほど。成功率は?」


「...まだ一回しか成功して無い...」


そう言って肩をすくめるロン。

それを黙って聞いていたフィリッピーネはやおらロンの目の前に立ち、黙って左脚を軸にゆっくりと右脚を回し上げていく。そして立ったまま脚を真っ直ぐに開脚し、爪先をロンのこめかみにチョンと付ける。


ロンの背中に一筋冷たい汗が流れる。

自分がやろうとした攻撃方法だが、自分がやられてみて初めて解った。この攻撃は死角から飛んで来る。もしフィリッピーネが先程の蹴りでロンのこめかみ、すなわちカスミを打ち抜いていたらと思うと戦慄が走る。ゆっくりとした動きだったが爪先がこめかみに付くまで何をされているかわからなかった。


「どう?こんな感じ?」


フィリッピーネはロンの驚愕を知ってか知らずか、ニコリと笑って聞いてくる。

忘我のロンであったがチョンチョンと爪先で頭を突かれ我に返る。


「え?あ!はい、そうです。そんな感じです。そうやって脚を自由に動かせられたら蹴り技の種類も増えるかなと。」


ロンがそう答えるとフィリッピーネは腕を組んで「ふむふむ、なるほど」とブツブツ独言る。


しばらく俯いたり首をかしげたりしていたフィリッピーネは和かに顔をあげて口を開く。


「ロンさんこれからどうするの?お仕事?何か冒険者的な依頼を受けたりするの?」


「ええ、まあ。いつもは昼過ぎから訓練も兼ねた依頼を受けてます。」


「じゃあ、魔物と戦ったりするんだ。」


「そういう事もあるね。」


それを聞いてフィリッピーネは手を打ち鳴らしながら飛び跳ねる。


「よし!じゃあ私も一緒に行くわ!」


「え!?」



そういう事になった。

フィリッピーネと一緒に依頼を受けるんでしょうか?


どうなるんでしょうね。


いつもお読み頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 10倍なら190歳かな?と思ったが500年前ミナと一緒にいたという話があったし100倍差の間違いやな
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