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48 コボルト達の身の振り方

ギルド内にひしめくコボルト達はどうなるのでしょう?

冒険者とは強さが全てである。


基本的に冒険者ギルドに所属している冒険者と名乗る者達は戦闘職の者である。討伐等で冒険者パーティを組む時に成功率や安全性の向上を考慮して、回復や戦闘補助を担う白魔術師や祈祷師など戦闘職と呼べない様な職種の冒険者もパーティに加える事は編成の常道ではあるので一概に言えないのではあるが、冒険者と言えば一般的には強さを求め己を鍛える者の事を言う。


冒険と言えば、日常を離れ前人未到の未知の世界を探究し、この世の不思議を解き明かそうとする事である。

冒険者ギルドの冒険者の日常の仕事は討伐が主である。駆け出しの冒険者のための簡単な採取依頼もあるにはあるが、主要な依頼は凶暴な魔物の討伐や、それら危険な魔物から獲れる稀少素材の採集などであり、たまに盗賊団や賞金首などのお尋ね者の討伐や逮捕などもする。基本的に冒険はしない。


未知への探究をし冒険する者は冒険家である。


冒険者と冒険家は似て非なるものなのである。

そもそも冒険家にはギルドなど無い。


では冒険者や冒険者ギルドとは何なのであるのかと言うと、事は五百年前に話が遡る。


五百年前と言うとまさに魔族と戦争をしていた時代である。


有り体に言えば冒険者ギルドの前身は傭兵ギルドなのである。

数百年続いていたとも言われる、いつ終わるとも分からない魔族との戦争である。人間やドワーフそれにエルフの王国の兵士や騎士団だけではとてもでは無いが人員が足りない。

人間やエルフやドワーフだけでは無く、人狼を始めとする獣人、果ては竜人族であるリザードマンやドラゴニュートに至るまで広く傭兵を募った。

人種どころか種族すらバラバラの血の気の多い無法者達である。戦闘で運用する為には組織として一つにまとめる必要があった。そこで王都で戦術研究家をしていた顧問軍師レルム・ノヴァルムが、傭兵達の管理運用を行っていく相互扶助組織として作ったのが傭兵ギルドだったのである。


ギルドと銘打ちながら発足は王国がしていたが、傭兵達を厳しく統制しつつも怪我をした者や死んだ者の家族については救済措置があるなど組織としての体が整ってからは軍師レルムの手を離れ王政と拮抗する組織となっていく。


長い年月を魔族との闘争に費やし組織としても個々人としても傭兵は大きな力を持つ様になっていったのである。


終いには、一国家の軍事力に匹敵する力を持っていた傭兵ギルドだが魔族との戦争が終結すると存在意義が無くなり、かつ危険な集団とみなされる様になる。そこで戦う相手を魔族から魔物や無法者に変え、名前も冒険者ギルドに変更し傭兵達も冒険者と称する様になった。


冒険者と言う曖昧な呼称で世間を煙に巻く様な形を取ったが、ウンドの街においてはミナルディエを人知れず守るためにも機能していた。


それが冒険者ギルドと冒険者の成り立ちと存在意義なのである。


そして現在、ウンド冒険者ギルドのギルドマスターは上級上位の破格の戦士トマス・クルス・メイポーサである。


彼は単純に強い。魔法も使う事は出来ないし精霊の加護も無い。しかし戦士武芸十七般を極め、あらゆる武器に精通し極限まで鍛え上げられた肉体は物理攻撃だけでなく魔力攻撃をも跳ね返す。

傭兵ギルドの時代からも含めて歴代ギルドマスターの中でも最も強いのではないかと目されている。


戦闘に特化した無茶苦茶な人間ではあるが、普段は穏やかで人好きのする人物なのでギルドの面々だけではなくウンドの人達からも支持を得ている。


であるから強さの面でも人柄の面でも、彼の決定に意を唱える者はあまり居ない。


トムを叱ったり、頭を拳骨でどやしつけたり出来るのはブランシェトやヴァリアンテくらいのものである。


要はこの度のコボルト達の件である。

今、冒険者ギルドの中を所狭しと駆け回っているのはコボルト達である。

ロンを始めグリエロとルドガー、それにトムとその調査隊が救い出したコボルトは北の長とその氏族に西と東の氏族の生き残りが七十匹おり、それにロンが助けたランペルの氏族合わせて八十五匹がギルド内で保護されている。


例の会議の後、エルザとランペルそれにブランシェトも加わりコボルト達に人語を教えているが、元より頭の良い種族であり以前より失敗したとはいえランペルに人語を教わっていた下地もありコボルト達の覚えもとても良かった。

何より良かったのがエルザの教え方であった。長年魔術学院で教鞭を振るうブランシェトが舌を巻く程の優れた指導力を発揮したのである。思わぬところで才能を開花させブランシェトだけでなくエルザ自身も驚いた。


元より片言の人語を話していたランペルと北の長は瞬く間に成長した。まあランペルの場合は思い出したと言った方が的確であるが。


ランペルが人語を思い出した事が更にコボルト達の人語習得を加速させ会議から十日程でちらほらと片言の人語で喋り出す者も出て来た。


特に覚えが良かった北の長はエルザと直ぐに打ち解けた。


「北の長さんってお名前は無いんですか? 」


「個人ノ名前ハアリマセン。我ラハ臭イガ名前デス。」


そう言われてエルザはクンクンと北の長の匂いを嗅ぎ、他のコボルト達の匂いと比べてみるが違いが分からない。みんなお日様の匂いがする。


「う〜ん、私の鼻じゃ違いがわからないですね... 」


そう言ってエルザは腕を組んで首を傾げるが、直ぐに名案が閃いたとばかりに顔をほころばせ手を合わせる。


「そうだ! お名前考えましょう! みんなにも名前をつけたらもっと私達と仲良く出来るわ! 」


そう言ってエルザは、うんうんと半日ほど考えに考えあぐねてようやく名前を捻り出した。


「そうだ。北の長さんは、北の氏族を率いる長だし綺麗な銀色の毛並みを持っているから、名前はランス! 北の長のランスさん! 」


コボルト達の毛並みは一瞥したところ皆一様に薄い茶色の毛に覆われているが、よく見ると氏族毎にうっすらと毛色が違う。

ランペルとその氏族は茶色っぽく、東の氏族は黒っぽい。そして北の氏族は白っぽい。ぽいと言うのもよほど注視しなくてはわからないもので、コボルトと言えば一般的には茶色い毛並みを想像する。

しかし学者肌ゆえかエルザはそう言う細かい所に目が付く様で北の長の毛並みを綺麗な銀色と称した。


それに喜んだのは北の長である。北の氏族の中でも一際大きく立派な体格と毛並みを持つ長は内心自分の毛並みに誇りを持っていたからだ。


「アリガトウゴザイマス。名前ヲ頂ケルトハ、思イモ寄リマセンデシタ。『ランス』トハドウイウ意味ガアルノデスカ? 」


「銀色の槍って言う意味! 私の兄様の持っているシルバーランスと同じ色の毛並みを持っているから、そこから取ったの。」


そう聞いた北の長ランスは手をついて頭を深々と下げる。


「ナント! エルザ様ノ御兄様所縁ノ名前ヲ頂ケルトハ! コノ御恩ハワスレマセン! 」


「そんな、御恩だなんて! パッと思いついただけだよ! そんなにかしこまらないで。」


「イエ、名前ヲ頂ケルダケデモ得ガタキ事ナノニ、コノ様ナ大事ナ御名前ヲ頂キ、エルザ様ニ御恩ヲ感ジ無イナド... 」


「あわわ、だからいいんですって。それにエルザ様だなんて... ただエルザって呼んで下さい。様なんて付いたら緊張してしまいます。」


「ソノ様ナコト! ...イエ、エルザ様ノオ望ミトアラバ... ワ、ワカリマシタ。コレヨリ、エルザ様ヲ、タダ、エルザ、ト呼バセテ頂キマス。」


「エヘ、よろしくお願いします、ランスさん! 」


「イエ、私ノコトモ、タダ、ランス、トオ呼ビクダサイ。」


そう言ってランスは牙を剥き出してニコリと笑う。最初はコレがコボルトの笑顔だと知った時は驚いたが見馴れると可愛らしい。


エルザもニコリと笑い返す。

ここからランスの人語の習得は目を見張るものがあった。率先して自らの氏族だけでなく他の氏族にも積極的に人語を教授していき、大いにエルザの助けとなった。


この後エルザは他のコボルト達の名前も決めようと意気込んだが、ランスの名前を決めるのに半日かかったエルザに他のコボルト達の名前をつけれる筈も無く、散々悩んだ挙句タスリーマを引っ張り出して来て残りの八十人以上のコボルト達の名前を考えさせた。


最初はブーブー文句を垂れていたタスリーマであるが、数人のコボルトに名前を付けるうちに興が乗ってきた様で、エルザが大袈裟に褒め称えた事も手伝って気を良くしたタスリーマはあっという間にコボルト達の名前を付けてしまった。


この事にコボルト達は大いに喜んだ。後にエルザとタスリーマはコボルトの名付け親として一部のコボルト達に聖女として崇められる様になる。



さらに元々コボルトは勤勉な種族であるので、人語をある程度理解するようになるとよく働いた。ギルド内をくまなく掃除し、冒険者達が持ってくる素材の解体、切り分けを手伝いやミナの受付の補助など仕事があればギルドを隅から隅まで走り回った。


最初はギルドがコボルトだらけになっている事に冒険者達は驚いたが、そこにすかさず現れたのがトム・メイポーサである。

これまでの経緯をサラッと解説しオークに住処を追われた可哀相なコボルト達を保護し、いずれ襲って来るだろうオークに備えろと喧伝し闇雲に冒険者達を焚きつけた。


どの様にコボルト達が可哀相でどの様な経緯オークが襲って来るのかいまいち要領を得なかったのだが、しかし冒険者達は単純な者が多いので、コボルト達におおいに同情し、事の複雑さを余り考えずオークの襲撃に対する備えを始めた。


単純で無い冒険者達は、またトム・メイポーサが良からぬ事を画策していると踏んだが、やはりトム・メイポーサの言うことであるから重々備えているに越した事はなかろうと此方は此方で備えを怠る者も居なかった。


コボルト達の登場によりギルド内に生じた非日常は冒険者達に何か不穏な事が起きていると肌で感じさせるに十分なもので、結果的に冒険者達の気を引き締めさせた。


コボルト達が人語を学び始めて二十日も経つとウンドの街中でギルドの中でコボルトが働いていると言う噂がたった。まあ噂では無くそのまま真実であったのだが。


そうなると物見遊山な街の住人達がギルドに見物に訪れる様になった。もうこうなってはコボルト達をギルドに匿っている意味も無く、一般の人間がギルドに出入りするのは揉め事の元になるのでコボルトの存在を公にする事になった。

と言うかヴァリアンテとタスリーマがおつかいに使い出したので広く一般に知られる様になった。

コボルト達も礼儀正しく勤勉であったため、すぐに街の人々に受け入れられた。


トムは「いやぁ、コボルト達は街の人達に直ぐに受け入れて貰えると思っていたよ。」と笑っていたが、ブランシェトは「ヴァリアンテったら、また勝手か事をして! 」と憤っていた。


まあ、そのブランシェトも程なくしてコボルトにおつかいを頼む様になったのだが...

グリエロにその事を突っ込まれたブランシェトは「だって、トムのおかげで仕事が山ほど増えて忙しいったらないんだもの! 」とトムのせいにしていたが、ギルドマスター代行を押し付けられてからトムにアレやコレやと仕事を押し付けられる様になってしまったのであながち間違いでも無く、しょうがない所もあるのだが。


そんなこんなでコボルト達のはウンドの街に受け入れられていく事になった。

なんとかなりましたね。


いつも読んで頂きまことにありがとうございます。

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