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43 冒険者ギルドでの会議

今後の事を話し合います。

「これはまた丁寧に、綺麗に治してもらいましたね。」


そう言ってロンの右手を触り、いたく感心するルドガー。円卓を挟んだロンの向かい側には顔を真っ赤にして憤怒の形相で鎮座ましますブランシェトがいる。

ロンはバツの悪そうな顔をして下を向いている。


「中手骨が折れて皮膚を突き破っていたのに、筋肉の引き攣りも骨の歪みも無い。これはブランシェトさんの白魔法ですね! 素晴らしい。とても素晴らしいですね。」


先程からルドガーはロンの右隣りに座り、ロンの右手をこねくり回している。ロンの左手にすがりついてわあわあ泣いているのはエルザである。


「チェイニーさん、もう大丈夫なんですか!? 右手が潰れて見えてはいけないモノがいっぱい飛び出していましたけれど、もうあのまま死んじゃうのかと思って心配したんですよ! うわぁああん! 」


「エ、エルザもう大丈夫だよ。もう泣き止もうね、そんな大ごとじゃないからね。」


ルドガーがしきりに感心しエルザが大泣きする度にブランシェトの目つきが鋭くなっていく。


「いいな、ロンは。そんなに心配してくれる奴がいてよ。」


そう言ってブランシェトの隣で円卓に突っ伏して、頭から煙を立ち上らせているのはグリエロである。


ロン達がウンドの街に帰って来たのは三日前である。ロンの帰りを今か今かと待っていたブランシェトにエルザは右手の甲から骨を突き出した満身創痍のロンを見て卒倒した。


そこから三日間ブランシェトはギルドの医療室にロンを閉じ込め、自分の仕事そっちのけで治療をした。

グリエロは治療されるどころか会うたびに頭に怒りの雷を落とされた。今日で通算五度目の落雷である。


トムは円卓の上座に座りニコニコしながらこのやり取りを見ている。


トムの隣には魔女のヴァリアンテと黒魔導師のタスリーマが座っている。

ヴァリアンテは頬杖を突き一連のやり取りをシラけた目で見ている。反対にタスリーマはロンとエルザ二人を楽しそうに眺めている。


トムと対面に座っているのはギルドの受付嬢であるミナとレンジャーのハンスである。ハンスは報告書なのか、紙の束を持って話し出すきっかけを探っているようだが場の妙な空気に言葉を発する機会を失っている。


皆が集まるこの場所は、ウンドの冒険者ギルドの会議室だ。この度の事で傷を負った者の回復を待って、今回のオーク討伐とその顛末について話し合う場が設けられた。


そうこうしているうちに扉が開いてアーチャーのエス・ディがランペルと北の長を連れて会議室に入って来る。


「いやぁ、中庭で保護してるコボルト達は何人いるんだ? 百人近くいるんじゃねえか? いやぁコボルトの見分けつかねえしよ、こいつら上方のコボルトだろ? 俺は南方コボルト語しか分かんねえからランペルと北の長を見つけるの苦労したぜ。」


コボルトは大陸の北側の北方山脈に生息する上方コボルトと、大陸の南側の南海地方に生息する南方コボルトに大別される。祖先は同じなのだが、千年ほど前に南海地方にいた一大部族から分かれ、当時まだ未開拓だった北方山脈に新しい餌場を求めて旅立った一族がいた。ランペル達の祖先である。

千年間、南方とは全く違う住環境や動植物を相手にしているうちに言語は大きく変わってしまった。


「ああ、そうか。エス・ディは南海地方の出身だったっけ。そういや俺と始めてパーティを組んだのも原始樹海の魔物討伐依頼だったね。」


「ああ、そうだ。トムのお陰で討伐対象の数百倍は危険なワイバーンと戦う羽目になった依頼だ。」


「アア、ソウデシタカ。エス・ディ サマハ ナンポウコボルトゴヲ オハナシ サレテ イタノデスネ。ドコノ ナマリナノカ ヤット ワカリマシタ。」


「なんだ!? お前は人語がわかるのかよ! 早く言えよ! 」


「スイマセン トテモ ウツクシイ コボルトゴ ノハッセイ デシタノデ キキイッテ シマッテイマシタ。」


「おお、本当かよ!? 照れるぜ!」


この一連のやり取りを聞いていたく感心したのはロンである。


「エス・ディさん凄いですね! コボルト語が話せるんですか!? エルフ語やクズドゥル語を話す冒険者は知ってますけど、コボルト語を話す人は聞いた事が無いですね。」


エス・ディは「よせやい」と照れながらも椅子に座って踏ん反りかえる。


「まあ俺は、元々は何ヶ月も樹海に潜って希少植物や稀覯鉱石の採取を生業にしてた冒険者だからな。コボルト達の持っている質の良い食い物や薬草を俺の仕留めた獲物の肉や鉱石と交換するために、コボルト語は必須だったって訳さ。」


「へえ、そうなんですか! 凄いですね。」


「いや〜、そんな事ねえが、今でも樹海にゃ気心の知れたコボルトが何人もいるぜ。」


そう言ってますます踏ん反りかえるエス・ディだったが、ヴァリアンテに一喝される。


「相変わらずお前達男どもはイチャコラ仲が良ろしいね。いつまでやってんだい!? トム、役者も揃ったんだそろそろ始めな!」


これにはトムも苦笑いである。トムは片手を挙げ皆の注目を集める。


「よし、これからのウンドとウンドの冒険者達の身の振り方って言うのかな? 特に我々が取る行動の指針っていうのを伝えたいと思う。」


トムがそう言うとタスリーマが疑問を呈する。


「方針はもう決まっているの? 皆で考えるのじゃなくて? 」


「そうだ。上級職の冒険者、特に今この会議室に居る我々は今後の対策を早急にしないといけない。」


それを聞いてブランシェトが不安げな顔をする。それを見てトムは大きく頷く。


「そうだ、ブランシェトももう知っていると思うが、峠の森で魔族と遭遇した。そして事もあろうか我々を “ウンドの手の者か” と言った。」


それを聞いてブランシェトは表情を堅くする。


「それって... まさか魔族の目的って... 」


「そうだ、魔族の目的は十中八九、ウンドへの侵攻だと思われる。」


「なるほど、だからオークの軍隊を作り、魔鉱石を採掘し強力な武器をオークに持たせようとしたんだな。」


グリエロはそう言って眉根を寄せ腕を組む。

そこでロンは一つ疑問がわく。


「でも、何故ウンドなんですか? 制圧するなら王都やもっと大きな都市でしょう!? こう言っちゃなんですけど、ウンドって田舎ですよ。別に戦略上重要な地域でもないし、取り立てて特筆するような名産品や場所も無いですよ? 」


「いや、ウンドは王都よりも重要な場所なんだ。」


トムはさらりとそう告げる。

ロンを始めエルザも意味がわからない。こんなのんびりした規模もそう大きくない街が、どうやったら王都よりも重要な場所になるのだろうか?


「ロン、お前さんこの町の冒険者の数がやたら多いの知ってるか? 」


「そういや多いよな。」


「それに上級職の冒険者の数が半数を占めてるのおかしいと思わなかったのか? 」


そう聞いてロンはハタと気がつく。

この会議室にいる冒険者はロンとエルザ以外は全員上級職の冒険者だ。

さらにブランシェト、トム、ヴァリアンテは最高位である上級上位の冒険者だ。

よくよく考えると上級中位の冒険者でも中々いない。上の上の冒険者など一国に一人いるかいないかである。


「この街がとっても変わってるってわかったかい? 」


トムがそう聞くとロンは目を見開いて大きく頷く。


「よく考えると凄い事ですよね。今まで全然気がつかなかった。」


「私もです」とエルザも大きく頷く。


「いや、君達だけじゃ無くてウンドの街の人達も気づいていないだろうな。...まぁ、気づかせない様にしてるんだけどね。」


ロンはトムの含みのある物言いに疑問が生じる。


「気づかせないって、どうしてです? 」


「ミナのためだよ。」


「え? ミナさん!? 」


ロンはトムの言う事の意味するところを理解出来ず、思わずミナを見つめる。

ミナは不思議な笑みをたたえてロンを見返した。


トムは普段は見せない真剣な面持ちで続ける。


「逆に言うと、ミナから人々を守るためにもウンドの街はあるんだ。」


「え!? なんでミナさんからウンドの街の人達を守るんですか? 」


「ウンドの人達だけじゃない。この国の人々だよ。」


ますます訳がわからない。ロンはエルザと顔を見合わせた後ルドガーを見る。ルドガーは気まずそうな、後悔とも羞恥ともとれる苦笑いを浮かべている。


ますます訳がわからない。


そこにガラガラとしゃがれた声でヴァリアンテが割って入って来る。


「なに回りくどく御託を並べているんだい。ロンの坊やにわかるように説明してやんな。」


「いや、この部屋での会話が聞かれない様に十重二十重に結界を張ってはいるんだけど... あの方に聞かれては不味いかと思ってね。」


そう言ってトムはミナを見る。ミナは伏し目がちに首をかしげて「ふむ」と独言るとトムを見る。


「大丈夫だと思うわ。あの人は今は深い眠りについているし、それに少々名前を言ったって怒りはしないわよ。そんな心の狭い人じゃないのよ。私の事をどうこうしようとしない限りわね。」


そう言ってミナはルドガーを見つめて微笑む。ルドガーはそれを察したか小さくなって頭を掻く。


「いやぁ、お恥ずかしい。その節は大変お世話になりました。」


珍しくルドガーが焦っているのを見てロンはさらに首をかしげる。


ミナは慌ててルドガーに向き直る。


「ごめんなさいルドガーさん。別に責めているんじゃないのよ。それにあの時は囚われのお姫みたいでチョットときめいちゃったし。」


そう言うや部屋がぐらりと揺れる。


「きゃ!地震?」エルザがそう小さく呟く。

ロンとエルザ以外の、トムを始め他の事情を知っているとおぼしき面々は顔をこわばらせ緊張した面持ちでミナを見る。


「大丈夫よ。夢うつつに笑っただけだから。あの人やきもち焼きだけどこれくらいで怒ったりしないわ。」


ロンは話しに全くついていけずにポカンとしていると、トムは意を決した様子で話し始める。


「この場にいる者達には改めてこの街の事を、この度の事件に深く関わり功労者でもあるロン君にはこの街の存在する意味を知ってもらおうと思う。」


「あの... 私ここにいても良いんでしょうか? 」


エルザがおずおずと手を挙げてトムに質問する。それに答えたのはブランシェトだ。


「エルザちゃんはいいのよ、上級下位の冒険者だから。ここに居る資格はあるわ。」


「へ!? 私は下の下の黒魔導師なんですけど。」


「私が上級者に推薦したの。規程通りトムとタスリーマとグリエロの上級職三名の冒険者にも承認を得たわ。だから上級職のエルザちゃんはここに居ていいの。」


「え? え!?」と狼狽するエルザを尻目に話し始めるトム。


「エルザ君大丈夫かい? そう言う訳で上級職のエルザ君にもこの街の事を知ってもらう。話しを先に進めるよ。」


そうして、文字通りアワアワと泡を食っているエルザを尻目にトムは話し始めるのであった。


なかなか会議が始まりませんね。

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