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37 戦闘開始

とうとうオークの侵攻が始まります。


ロン達はどの様に迎え撃つのでしょう。

「グガァ!」 「ギャギィ!」


怒りとも驚きとも取れる絶叫が森の奥から聞こえてくる。このオーク共の断末魔でコボルト達との宴会に終わりが告げられる。


ロンは声のする方向に振り向くと集落の隅、ちょうど森との境目にオークの首が二つ転がっているのを見つける。


それを見てロンは軽い目眩に襲われる。集落に侵入しようとしたオークに対しルドガーの罠が発動したのだ。

憎いオークではあるが、生首がゴロリと転がるのを目の当たりにすると、改めてルドガーの罠は恐ろしく凶悪な物と実感し、戦慄が走る。


「グガァ! グガァ!」と再びオークの怒号が聞こえる。

夥しい数の足音が聞こえてくる。オーク共は集落を取り囲む様に散開し始めた様だ。


それと同時に何かが地面に落ちる音や何者かが地面に崩れ落ちる音がそこかしこから聞こえ始める。


罠にかかったオークが次々と命を落としているようだ。


「はい! ではコボルトの皆さん手筈通りに動いて下さい! 」


ルドガーの叫び声が聞こえてくる。それに伴いランペルと北の長が「ワンワン」とコボルト達に指示を出していく。


ランペルが子供や老人、怪我や病気を抱える者達を率いて、オークが侵攻してきた方向と反対の西側の森の中に入って行く。戦場となる集落から離れ、森の中に避難するのだ。ランペル達が向かう先には小さな谷があり、コボルト達がそこに身を潜めると発見されにくくなるそうだ。


「コノモノタチヲ ヒナンサセ スグニ モドリマス!」


ランペルはそう告げると足早に森の中に消えて行く。


「よっしゃ! 動けるコボルト達は南北に展開しろ! 防護柵の間から体を出してオーク供の注意を引け!

オーク供に気付かれたら直ぐに引っ込めよ!

交戦するな! オークが向かって来たら逃げろ! ルドガーの罠がオークを始末する! 」


グリエロが剣を抜きコボルト達に指示を出して、北の長がそれを通訳する。


コボルト達は「ワンワン」と言いながら素早く集落中に展開して行く。


コボルトの第一陣が森の中に入って行く。

しばらくすると皆一斉に戻って来る。


それと同時にオークの叫び声とドサドサと倒れる音が聞こえてくる。


「よっしゃ! 第二陣! 少し引いた所から顔を出せ! 同じ所から出すなよ! 」


グリエロの指示が飛び、北の長の咆哮が聞こえる。


まだ出番の無いロンは細長く包帯状に切った布を拳に硬く巻き付けていく。

こうすれば指先も自由に動くし、拳を握りしめた時に拳が固定され硬くなり、怪我も減る。


「ふぅ」とため息を吐くロンの元にルドガーが杖をつきつきやって来て肩を揉む。


「緊張しているね。肩がガチガチだ。私もグリエロさんも居るんだ安心してのびのびやんなさい。」


そう言ってルドガーは包帯と添え木をロンに見せて笑う。


「少々骨が外れたり、折れたりなさっても私が治してあげますからね。」


「骨折しても戦わないといけないんですね。」


「あったりめえよ! お前さんがおっ始めた戦だ、キリキリ働いて貰うぜ! 」


そこにグリエロがやって来てロンの背中をバンバン叩く。


「とんでもない人達を助っ人に頼んじゃったな。」


そう言ってロンは笑う。

いくらかは緊張が解れたようだ。



しばらくコボルト達はあちこち出たり入ったりしていたが、オーク共の絶叫が聞こえなくなってくる。


「さすがのオークもこの集落の周りは罠だらけで入って来れない事に気がついた様ですな。」


そう言ってルドガーはコボルト達を集落の広場に集める。


「もうそろそろ、オーク共も慎重に罠の場所を探して、侵入出来る所がないか探り出すでしょう。」


ルドガーがそう言うや、集落の北側でどさりと何かが倒れる音がする。


「またオークがやられましたね。これで二十五体目ですね。」


ルドガーはニヤリと笑いそう呟く。ロンは倒されたオークの数を数えていたのかと少し引き気味に驚く。


「もうしばらくするとオークがこの中に入って来ます。逃げ足の早いコボルト達は、第一陣と同じ谷に避難して下さい。」


そう言うや、件の第一陣を避難させていたランペルが帰って来る。


「その足音はランペルさんですか。いい所で帰って来てくれました。

避難第二陣です。先導お願いします。」


「カシコマリマシタ。スグニ モドッテキマス。」


「ご無理なさらず、危ないと思ったら隠れていて下さい。」


ルドガーはそう言って再びランペルと一行を送り出す。

残ったコボルトは十二体、各々が手には短剣を握っている。彼らは北の集落の中でも武器の扱いに長けた者達だという。


北の長が「ワンワン」と檄を飛ばすと武器を持ったコボルト達は静かに剣を担う。

そこにグリエロがやって来てさらに付け加える。


「前衛は俺とロンが受け持つ、俺達が討ち漏らしたオーク共の始末は頼んだぜ。

まあ、そんな事ぁ無えだろうがな。」


そう言ってグリエロは剣を構えニヤリと笑う。

そう言うや、また森の中からオークの倒れる音が聞こえる。


「また二体ほど罠に掛かった様ですね。

ふむ、オークにしては慎重な者共ですね。もっと怒りに任せて突進して来るかと思いましたが。罠だけで五十は倒せると思ったんですけどねえ... オークの割には優秀な指揮官がいる様ですな。」


ルドガーがそう言うや、森の各所でまたドサリ、ドサリとオークの倒れる音が聞こえる。


「北側で一匹、東側で二匹罠に掛かったようだね。しかし、いよいよ集落の入り口に近づいて来ましたよ。」


ロンは南東に位置する集落の入り口を見つめ、拳を握りしめ構えを取る。


しばらく沈黙の時が流れる。風に揺れる木々のざわめきの合間に、何か探る様なオークのものと思われる足音が微かに聞こえてくる。


ガサリと葉を踏む音が聞こえる。

集落の入り口に一同の視線が集まる。はたしてその視線の先にはオークがいた。とうとう集落の中に入って来た。

オークはロン達を見つけるや、仲間を呼ぼうと口を開くが、間髪入れずグリエロがオークの喉を切り裂く。


喉を切り裂かれたオークはヒューヒューと声にならぬ声を出して膝をつく。


「おいロン、お前さんボサッとしてるんじゃねぇぞ、オークが仲間を呼ぶ前に倒すんだ。

そうすりゃ一体づつ相手するだけでいい。時間はかかるが、こっちの被害は少ない。」


そう言ってグリエロはオークを袈裟斬りに斬りつけてトドメをさす。


オークはそのまま仰けに倒れて絶命するが、その拍子に手に握っていた小さな丸い玉の様な物を落とす。


ロンがそれを見つけて拾い上げた途端にキィンと金属の擦れる様な音を立てて明滅する。


すかさずグリエロがその玉をロンから奪い地面に叩きつけ剣で砕く。


「通知水晶だと!? 何でオークがマジックアイテムなんぞ持ってやがんだ! 」


グリエロがそう言うやいなや森の中がやにわに騒がしくなる。

そこかしこでオークも怒号が聞こえ、慌ただしく地面を踏みしめる音が聞こえだす。


「グリエロすまない! 余計な事をした! 」


ロンは辺りを見回しながらその顔に悔恨の情を浮かべる。


「いや、お前さんのせいじゃねえ。こいつは持ち主の手を離れると起動するマジックアイテムだ。

ぬかったぜ、信じられねえがオークの中に魔術師がいやがる。」


そう吐き捨てるように言い放つグリエロにルドガーが疑問を呈する。


「魔術師いってもマジックアイテムを生成出来るといったら、かなり高度な技術が必要ですよ、オークの魔力でそんな物作れるんですかね? 」


「わからねえ。だが一つわかるのは、オーク共がここになだれ込んで来る事だ!

油断するな! このオーク共は何するかわからねえ! 」


「なだれ込む言っても入り口は狭いんです、一度に攻めてくる数はせいぜい二体です。

ロンさんにグリエロさんが落ち着いて対処すれば恐るに足りません! 」


ルドガーはそう言って両手を広げ、コボルト達を後衛に下げる。


コボルト達が後退すると一体のオークが集落の中に侵入して来る。


オークはロン達一行を見つけるや、醜い顔をさらに醜悪に歪めて「ギャアギャア」と吠えるが、手に持った武器を構える間も無くグリエロに両断される。


絶命したオークが地に伏すや次のオークが侵入して来る。

それにいち早く反応したのはロンだった。滑り込む様にオークの前に進み出たと思うや、勢い良く身体を捻り蹴りを放つ。


オークのどてっ腹に蹴り足がめり込み、その大きな躰をくの字に曲げる。


よもや脚を武器に使ってくる人間がいるとは予想もつかず、オークの意識の外から放たれた蹴りは無防備の腹に深々と突き刺さった。


ロンが攻撃した部位はスイゲツと言う急所で、人体の中心を縦に走る正中線上の腹の上方にあり急所としては珍しく大きく、点では無く面で捉える事が出来る。

この急所には拳による突きでも、頭足による蹴りでも捉え入れる事が出来、ここを強く圧迫されると強い痛みを伴いさらに呼吸困難を起こす。


オークは今まで味わった事の無い疼痛に加え息も出来ず、苦悶の表情を浮かべ前屈みになる。

ロンの眼前、ちょうど良い位置にオークの頭が下がって来たのでこめかみに有る急所カスミに肘を打ちつける。


オークはそのまま白眼を剥いて昏倒する。そこにすかさずルドガーがコボルトを引き連れやって来てオークに短剣を突き立てながら説明する。


「肋骨のこの骨の間に刃を突き刺し捻るんです。そうすると肺に空気が入り、声もあげる事が出来ずに絶命します。」


ロンは何やら物騒な事をコボルトに教えているルドガーを尻目に次に迫り来るオークに向き直る。二匹のオークが侵入して来ているが、グリエロが間髪入れず指示を出す。


「ロン、お前さんは向かって右側を始末しな! 左は任せとけ! 」


そう言うやグリエロは姿勢を低くしオーク

の前に躍り出ると、攻撃せんと踏み込んだ脚を両断する。足を失ったオークは絶叫しながら前のめりに地面に倒れ伏すと、そこにすかさずコボルト達がやって来て、無防備になった背中に短剣を突き立てとどめを刺す。


グリエロはそれを目の端で確認すると、続々と侵入して来ようとしているオーク共に向かって走り出す。


ロンは大きく戦斧を振り上げたオークの向かって右側面に素早く周り込み、顔面に腰の回転を活かした突きの連打を叩き込む。

思わず仰け反ったオークの無防備な腹にすかさず拳を叩き込む。すると今度は躰を前屈みに折り曲げる。そこを素早く拳で顎を打ち抜く。するとオークはそのまま前のめりに倒れ伏す、脳震盪を起こした様だ。


頭部や顎部に衝撃を受けると脳が揺さぶられ一時的に身体の機能が奪われる、致命傷にならない場合も多いが戦場では一瞬でも意識を失うという事は死を意味する。


倒れたオークの下に素早くコボルトが集まり短剣でとどめを刺す。

ロンやグリエロがオークを攻撃し、倒さないまでも一瞬でも意識を奪うと、すかさずコボルト達がとどめを刺し手くれる。


即席のパーティとはいえなかなか連携が取れているなと、ロンは感心してコボルト達を見つめる。

その時オークにとどめを刺していたコボルトの一匹がロンに向かって「わわん! 」と叫ぶ。


コボルトの必死の形相を見たロンはすぐさま何事か理解し振り返ると、オークが今まさにロンの脳天に棍棒を振り下ろさんとする所であった。


ロンは焦る事無く冷静にオークの振り下ろす棍棒を躱すと、棍棒を振り下ろした腕の上腕にある急所ワンクンを、人差し指の第二関節を立てた状態の拳で突く。


オークは短く「ッギャ」っと呻いて棍棒を落とす。棍棒を落とすやいなや四匹のコボルトに取り囲まれ四方から短剣で斬りつけられる。


このオークはコボルト達に任せて大丈夫だろう。ロンは新たに侵入して来たオークと相対する。


忿怒の形相で襲いかかってくるオークの剣をロンは紙一重で躱す。

紙一重といってもギリギリところを際どく躱す訳ではなく、動きを見切って必要最小限の動きで躱すのだ。


これには躱したロン自体が驚く。

オークの動きがまるで止まって見えたのだ。それに大振りで雑な動きは攻撃の軌道を読みやすい。

オークの攻撃は力任せでこんなにも拙いものなのかと驚く。


この数花月の間、元上級戦士グリエロが様々な武器で、命の危険を孕んだ洒落になら無い猛攻をロンに放ち続けていた。

それを死の瀬戸際ギリギリで何とか躱し続けてきたロンの目にはオークの剣技など児戯に等しく見える。


それに先程からオークに対する攻撃は全て急所に見事に当て込んでいる。


今のロンは、こと一対一の勝負に関してはオーククラスの魔物に遅れを取る事は無いだろう。


件のオークはさらに剣を振りかぶりロンを攻撃してくるが、その攻撃を的確に躱し反撃する。


攻撃の隙を突いてロンはオークの懐に滑り込み、顔面に突きの連撃を放つ。オークはロンの猛攻に顔を仰け反らせヨロヨロと後退し、無防備に腹をさらけ出す。

ロンはその腹に蹴りをねじ込み、今度は腹を押さえて前屈みになったオークの顎を蹴り上げる。


顎を粉砕されたオークは白眼を剥いて昏倒する。

それを見たロンは自分がやった事ではあるが、その光景が信じられずに驚嘆する。


「すごい... 僕は強くなってた。オークの攻撃が見える。 ... このまま僕とグリエロだけで、残りのオーク共もやっつけしまえるんじゃないか?? 」


ロンはそう独り言ちるが、その途端にコボルトに体当たりをされて、尻餅をつく。

そしてその尻餅をついたロンの頭のすぐ上をオークに戦斧が通過する。


「あ、危なかった... ありがとう。」


ロンは顔を引攣らせてコボルトに礼を言う。

「ワワン」と心配そうに吠えるコボルトの言葉は分からなかったが、呆れているのはわかった。


一対一でオークに遅れを取る事はなさそうだが、ただまだまだ油断は禁物な様だ。


いつも読んでいただきありがとうございます。


とうとう戦闘が始まりました。どうなるのでしょうね。

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