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33 ロン助けを求める

ロンはコボルトを救出するために、ある人の元に訪れます。

早朝、ロンはルドガーの施術所の扉を叩く。


しばらくすると、中から寝ぼけ眼のルドガー老が出て来る。


「なんだい? まだ夜が明けて間が無いくらいじゃないのかね。

フン。この匂いはロンさんかね? 」


ロンはこの人は足音だけじゃなく匂いでも人を識別出来るのかと驚く。改めて底の知れない老人だなと感じる。


「すいません、朝早くに押しかけてしまって。

あの、相談したい事があるんです。」


「はいはい、コボルト達の事でございましょ。ブランシェト様から聴きおよんでおりますよ。」


ロンはそれを聞いて目をパチクリさせる。


「え!? ブランシェト先生が... 」


「そうですよ。“チェイニーが無茶な事を頼みに来るからきっぱり断って下さい。” って仰っていましたよ。」


そう言ってルドガーは、ほほほと笑う。

ロンはバツの悪そうな顔をして頭を掻く。


「先生は心配症だからな。なにもオークと正面切って戦おうって訳じゃ無いんだけれど... 」


それを聞いてルドガーは笑いを噛んで含む様な不思議な表情を浮かべてロンの肩を叩く。


「まあ、ロンさんは色々と危なっかしいからね。

それに、ブランシェト様が心配いているのはあなただけじゃ無くて、私の事もなんですよ。」


そう言ってルドガーはロンを施術所の中に迎え入れる。


二人は部屋の中に入り腰を下ろす。

ロンとルドガーは膝を突き合わせて向かい合う。


「私も、もう現役を引退して三十年、齢にして七十を越える盲いた老人ですよ。そんな盲目の老人を捕まえて、危ない橋を渡らそうとするんですからブランシェト様も心配するってものです。」


ロンは「う...」と短く呻き後退る。


「それは、そうなんですが。オークの巣食う場所から密かにコボルトを救うには、隠密行動の技術がいるんです。

僕が知る中で最も優れた技術を持つのはルドガー先生だけなんです。」


「ロンさんが知るったって、私の現役時代の事なんて知らないでしょう? 」


ルドガーは困った顔をしてロンを諭そうとするが、ロンは至って真面目に言葉を返す。


「僕が子供の頃に読んだ本では、死神ルドガーは、不死の王ヴラディスラウスに囚われた、病める薔薇ミナルディエを救い出したってお話しが書いてありましたけど。」


それを聞いてルドガーはやれやれとため息をつく。


「ロンさん、それは子供向けのお伽話でしょう? それにその話は間違っているんです。

逆なんですよ、私がミナルディエ夫人に助けられたんです。

私が駆け出しの頃やってしまいました、最初で最後の失敗です。

まぁ、もう五十年以上も昔の話しですがね。」


そう言ってルドガーは苦く笑う。


「それじゃあ、それ以外は本当の話し何ですか?

あまりにも鮮やかに殺されたので、三日三晩死んでる事に気が付かなかった暴虐の王様や、難攻不落の要塞をたった一人で陥落させたとか。」


「そんなものには尾ひれが付いて広まるもんです。死んでいる事に気が付かなかったのはせいぜい一日ですし、一人じゃなくて三人です。」


「やっぱり大体は本当なんじゃないですか。

先生なんとかお力をお借り出来ないでしょうか?

僕一人では到底無理なんです。」


ロンの頓珍漢な頼みに首を横に振るルドガー。


「それに、救うって言ってもコボルトでしょう? 魔物ですよ。どうして命をかけてそんな事をするんです? 何か理由があるんですか!? 」


それを聞いたロンは暫し黙考する。


「いえ、理由は無いです。

... いや、理由は、コボルト達が困っているからです。それに、オークの無法を黙って見過ごせません。」


それを聞いてルドガーは嬉しそうに大笑いをする。


「はっはっは! やっぱりね。ロンさんの事だそんな事だろうと思っていましたよ。

それに、私が断ったって一人で行っちまうんでしょう? 」


「うぐ... まあ、最悪は一人でも行かなきゃなと思ってますけれど... 。」


ロンがそう言うと、ルドガーはニンマリ笑って自身の白い髭をさする。


「まあ、なんです。愚かな向こう見ずな、かわいい教え子が死地に向かおうとしているんです、一つ力を貸してあげましょうかね。」


「え!? 良いんですか? ブランシェト先生に止められたんでは... 。」


てっきり断られてしまうものと思っていたロンは驚いてルドガーの顔を見る。

ルドガーはそんなロンの困惑などどこ吹く風といった顔である。


「しょうがないので、帰って来たら皆んなで一緒にブランシェト様に叱られましょう。」


そう言ってルドガーは腕を組んで、ヒヒヒと悪戯っぽく笑う。

ロンは嬉しさのあまり一瞬破顔するが、事は一刻を争う事を思い出して再び慌てだす。


「先生、そうと決まれば早速出発しましょう! こうしているうちにも、コボルト達の犠牲は増えていきます! 」


ロンはそう言ってやにわに立ち上がり踵を返して出て行こうとするが、ルドガーに、内くるぶしのやや上の辺りの急所をグッと圧痛されて、もんどりうって転がる。


「これはね、ダイインの急所だ。ここを強く突かれると立っていられないだろう?

優しく押してやるとサンインのツボだ、冷感症に効くんだよ。」


足の疼痛にのた打ちながらロンはルドガーを見据える。


「先生なにするんですか!? こんな所で悠長にしていられないんですよ!」


ロンの焦燥を見てため息をつくルドガー。


「ロンさん、あなた何の用意も無く、どうやってコボルト達を救いに行くんです?

コボルトの数は? そのコボルトは何処に居るんです? さらに救い出したコボルトをどういった道程で移動させるんです? 」


冷静にひどく真っ当な事を問い質され黙り込んでしまうロン。

改めてため息をつくルドガー。


「ふう、そんな事だと思いましたよ。

まぁ、もう少しお待ちなさい、戦術のプロが来ますから。」


そう言うや、扉を叩く音が聞こえる。

ルドガーの「どうぞ」と言う応えに扉を開けて入って来たのはグリエロだ。


ロンは思わぬ人物がやって来たのに驚き目を丸くする。


「おう、何だその素っ頓狂な顔は!?

ロンよ、お前さんまたおかしな事に首を突っ込んでんだな。

まあ、 事のあらましはミナから聞いたぜ。」


「え!? ミナさんに? なんでまた?」


ロンは事の成り行きが理解出来ない。


「ミナがトムに伝令出したろ?

そんでロンがコボルトを救いに飛び出して行きそうだって言ったらよ、トムの野郎、俺をお前さんのお守りに付けやがった。」


「はい!? お守り? って、ええ!?」


話の流れに追いついて来れないロンを置き去りにしてグリエロはルドガーと相対する。


「おう、爺さん早速だが本題に入れせて貰うぜ。

案内役にコボルトの長も連れて行くが、ひとまず救出のための策を練らにゃならん。

ここに呼んでいいか?」


「そりゃ、かまいませんよ。」


「そうかい、そりゃ話しが早い、ありがとよ。

おーい! ランペル! 入って来てくれ! 」


そう言って振り返り玄関に向かって大声で呼びかける。

すると、おずおずとランペルが入って来る。


「おお、こっちだよ。入って来てくんな。

...なんだか奴さんえらく恐縮しちまっててな。」


「シツレイシマス。ランペル 、ト、モウシマス。」


そう言ってランペルはルドガーに向かって深々と頭を下げる。

それを分かってかルドガーはそれを制し、ランペルを迎える。


「いえいえ、そうかしこまらずに、中にお入り下さい。

ランペル・スティルツキンさんですね。あなたの伝説は幼い頃から聞き及んでおります。

まさか実際にお目にかかれる事があるとは夢にも思いませんでした。

大変に光栄です。

申し遅れました、私は按摩師のルドガー・オルセン・パーカーと申します。この度はコボルトの救出にご一緒させて頂きます。

よろしくお願い致します。」


そう言ってルドガーはランペルの手を取ってぶんぶん振り熱い握手をかわす。


「コレハ、ゴテイネイニ、アリガトウゴザイマス。」


「なんだ、爺さんランペルのファンなのか?」


そう聞かれてルドガーはニコニコと答える。


「もちろんですよ、ティン・トット冒険記は私の愛読書でしたよ。

盲た今でも諳んじる事が出来る程読み込みましたからね。」


「ナツカシイデスナァ... 。」


そう言ってルドガーとランペルは並んで遠い目をする。


「ちょっと待って下さい! そんな遠い目をしてないで、救出策を練らないと! 」


慌ててロンは思い出に浸る二人の間に入る。


「まあ、ロンの言う事ももっともだな。

それじゃあ救出作戦の立案といこうじゃねえか。」


そう言ってグリエロは峠の森の地図を広げる。


「これが峠の森の全容だ。

ランペルよ、それぞれの氏族の集落は何処にあんだ? 」


「ワタシノ、ミナミノシゾクハ、ココデス。

アトノ、3シゾクハ、ココト、ココト... ココデス。」


そう言ってランペルは地図上の森の東西南北それぞれの氏族の集落の場所を指差す。

そこにグリエロは、何処から拾って来たのか石を置いていく。


「それと、それぞれの氏族の人数ってのはわかるか?」


「ソウデスネ、ニシハ60ヒキ、ヒガシハ40ヒキ、キタハ30ヒキ、トイッタ、トコロデス。」


「なるほどな」と言ってグリエロは地図に置いた石に、これまた何処からか取り出したペンで数字を書き入れていく。


「よし、ここが峠の森のコボルトの集落の位置と人数だ。

それでここが峠の森の南を東西に走る街道だ。」


そう言ってグリエロは街道に沿って紐を置く。


「爺さん、これが簡単だが森の位置関係だ、どうだ? わかるか? 」


するとルドガーは地図に置かれた石や紐を触り頷く。


「なるほど。まあ、あの森でも何度も仕事をした事があります。

集落の位置関係はおおまかには把握しました。」


「よし、それじゃあ策を立てていこうじゃねえか。」


そう言ってグリエロは腕を組んでランペルの方に向き直る。


「ランペル 、お前さんオーク共がどの方向から攻めて来たかわかるか?」


「ハイ、ヨナカノ、キュウシュウデシタガ、オークハ、ミナミ、カラ、オシヨセテ、キマシタ。」


「ふむ、そうなると四氏族の中で一番最初に襲われたのは南のランペルの集落になるかな?」


「ソウデス」と言ってランペルは地図を指差す。


「オークハ、ワレラノ、シュウラクヲ、ジュウリンシ、ホクセイニ、シンコウシテイキマシタ。

ワレラハ、ソノハンタイニ、ニゲテ、カイドウニ、デタノデス。」


「なるほど、そこでロンに会ったって訳だな。

オークの進行を見るに南の氏族を襲った後に西の氏族の集落の方向に進軍したみたいだな。」


グリエロは地図に描かれた谷間を縫うようにして指を滑らせ、ため息をつく。


「この後に東の氏族、北の氏族の順番に進軍すれば最短最速で進行出来て無駄が無いな。

しかし、こりゃコボルトの集落を知っている行軍の仕方だな。

もしこの予想の通りに進軍しているとしたら、オーク共は何を考えて行動しているんだ?」


グリエロの疑問にルドガーが苦々しい顔を見せ答える。


「コボルトの集落を襲い、捕らえようとしているんでしょうな。

コボルトは頭も良く、手先が器用です。奴隷として引き連れていれば何かと便利に使えます。荷物運び、武器や防具の修理、斥候にも使えるでしょう。

それに... オーク共なら餌にもするでしょうね。」


「ソウデス、ハンスウハ、コロシ、ハンスウハ、トラエテイマシタ。

コロシタモノタチモ、ツレサッテ、イマシタ... キット、ショクリョウニ、ナッテイルノデショウ... 。」


そう言ってランペルはうなだれる。


「とりあえず森に入ってみないことには何とも言えないが、オーク共はコボルトを引き連れての大所帯となると進軍は遅くなるだろうから、こっちは少数で先回りすれば、他の氏族は森から逃す事が出来るかもしれねえ。

そうすりゃ、ランペルの一族の生き残りは救出しやすくなるな。」


そう言ってグリエロは地図を指差す。


「ランペル 、お前さんの集落が襲われたのは何日前だ? あとオークの数はどれくらいかわかるか? 」


「ハイ、オソワレタノハ、10カホドマエデス。

オークノカズハ、セイカクニハ、ワカリマセンガ、ザット100ハイタト、オモイマス。」


それを聞いたグリエロは地図を睨みながら腕を組み「ウウム」と唸る。


「百匹の大所帯とは言え、十日もありゃ西の氏族の所には到達しているな。それどころか東の氏族の所まで進軍してるかもしれんな...

俺達は真っ直ぐ北の氏族の所に赴いて、北のコボルト達を逃し、オーク共を迎え撃つってのが良いかもしれんな。」


それを聞いてロンは複雑な面持ちでグリエロを見る。


「そうか... グリエロの見立てでは東の氏族の所まで行ってるか。

東西の氏族は救えなかったか... 。」


「いや、ランペルの話しじゃ半数は生きてる筈だ。ルドガー爺さんに上手く導いて貰って、オーク共に見つからないように上手く森を抜けて北の氏族の集落に行こうぜ。

先回り出来ればかなり有利になる筈だ。

そこでオーク共を迎え撃って捕らわれたコボルト達を救出しようぜ。

爺さんよ、例の罠を張って貰うぜ。死神の罠をよ。」


そう言ってグリエロはルドガーを見てニヤリと口角を上げる。


「いいですとも。オーク共に目にもの見せてやりましょうか。」


そう言ってルドガーも指をボキボキと鳴らす。

グリエロは手を叩き、居合わせる面々に大声で告げる。


「よっしゃ。細かい事は道々教える、こっからは時間との勝負だ、気を引き締めていくぞ!

ロン、お前さんも準備は出来てるな。」


「ああ、直ぐにでも出発出来るよ。」


ロンのその言葉を皮切りに、グリエロ、ルドガー、ランペルと続いて立ち上がる。


ここに即席のコボルト救出パーティが結成された。

ロンは目に決意を秘め身を引き締める。


コボルト救出作戦が始まった。



そこでロンはハタと気がつく。

罠を張る? 迎え撃つ?


ぜんぜん隠密行動じゃないじゃないか。


死神の罠で迎え撃つだなんて、真っ向勝負じゃないか!


グリエロにルドガー、こいつらオーク百匹と真っ向勝負しようとしてるよ!



さてロンは無事に戻って来れるのでしょうか?


ちょっとお久しぶりです。どうぞよろしくお願い致します。

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