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32 トム・メイポーサの追跡

ロンがランペルをギルドに連れて来た、その夜のお話しです。

バヤデルカ山の麓に広がるニキヤの森をさらに奥へ進むと、太古の森と呼ばれるガムザティ原始林へと至る。


人の手がまったく入っていない森であり、どの様な植物が生え、いかなる魔物が出現するかも知られていない。


深夜、この月の光も届か無い森林の奥深くで、焚き火も焚かず、深く静かに夜営している者達がいる。


ウンド冒険者ギルドマスターのトム・メイポーサと、アーチャーのエス・ディに、彼の率いる調査隊員、黒魔導師のタスリーマ、レンジャーのハンス、魔女のヴァリアンテの五人である。


彼らはバヤデルカ山の坑道で発見されたオークを追って、人間が未踏のガムザティ原始林にまで足を伸ばしていた。


巧妙に隠されたオークの痕跡を追って未踏の原始林にまで訪れたが、ここに来てオークの痕跡が跡絶え、ここ一月程は主だった進展の無い状況だった。


調査隊の五人は闇夜の樹々に溶け込み、一瞥しただけではそこに人が居るとは思われない。


小さくうずくまるトムが、くぐもった声で喋り出す。隠密行動中に周囲に音の漏れないようにする為の特殊な発声法で、波長を合わせないと聴き取れない。


「エス・ディの眼にも、ヴァリアンテの魔女術でもオークの痕跡を見つけられないのには参ったな。

探索場所が違うのかなぁ。」


そう呟くトムにエス・ディは苦々しい顔を見せる。


「いや、俺の眼にも、ヴァリアンテのマナやオドにも力の残滓は感じるんだ。

かなり強力な結界術で目眩しをしているのは解ったんだが、術の発生元がわからねえ。」


エス・ディの言葉に続いてヴァリアンテも端正で美しい顔とは裏腹なガラガラと掠れた声で憎々しげに喋りだす。


「この森のマナを見事に操っているね。完全に術式が完成しちまってるんだろう。

コレを崩して結界を破るのは至難の技だね。

こんな見事な呪術を使っているのがオークの豚野郎だってのが忌々しいね。」


「まあ、我々も完璧に追跡や野営の痕跡を消しながら行動していますからね。

オーク供も自分達が追跡されているとは思って無いでしょうけどね。」


そう言いつつも、ため息をつくレンジャーのハンス。

それに続いて皆もガクリとうなだれる。


そこに音も無く降り立つ人影が一つ。


「どうした!? 珍しいじゃないか、本体が来るなんて。

街を離れても大丈夫なの?」


顔を上げて人影に微笑みかけるトム・メイポーサ。

その人影は腰に手を当てて「ふむ」と独り言る。


その人影はミナである。


「あまり長居出来ないけど、私が放った伝令は皆んな消息を絶っちゃったの。

急いで伝えないといけない事があるから私が直接やって来たの。」


「ミナの使い魔がやられるなんて聞いた事無いな。

オークに妨害されたのか?」


「それが分からないから私が来たの。

そんな事よりオークが出たわよ。ウンドの街に近いわ。峠の森よ。森を治めていたコボルトの南の氏族が壊滅したわ。」


予想外の言葉に一同は顔を上げ目を見開く。


「そんな... 私はこの森のかなりの広範囲にオドを張り巡らしているのよ!? それをかい潜って峠の森に侵攻したって言うの? 」


ヴァリアンテは戸惑いの声を上げる。

トムは狼狽えるヴァリアンテを制し、ミナに向き直る。


「あの森の南の氏族って言ったら、あの辺りの中でも一番古くて大きな一族だろ? いくらコボルトでもそんなに簡単にやられるものか? 」


「そうね、それなりの数の軍隊が進行して来ているんだと思うわ。

他の三氏族もどうなっているか分からない状況なの。」


「そうか。しかし、その情報は誰が掴んだんだ? 」


そこでミナは再び「ふむ」と独り言る。


「ロン・チェイニーよ。南の氏族の長ランペルも救って来たわ。」


思わず破顔するトム・メイポーサ。


「ロンくんかい!? 相変わらず面白い奴だな! やるじゃないか。

コボルトを助けてあげるってのがまたロンくんらしいじゃないか。」


嬉しそうなトムとは裏腹にミナは悩ましい顔を見せる。


「それだけなら良いんだけど、ブランシェトさんが言うには、その他の三氏族も救い出そうとしているようなの。明日にも街を飛び出して峠の森に向かって行きそうな感じね。」


それを聞いてますますトムの顔が生き生きし始める。


「よし分かった。ミナは直ぐに街へ帰ってくれ。

そうだグリエロに言って、ロンくんのお守りを頼んでくれないか。

俺たちも街に戻るよ。全力で走れば二日で帰れると思う。」


「おい! 二日って夜通し走るつもりか!?」


驚いてエス・ディが問いただすが、トムは皆を見てニヤリと笑うだけだった。


「わかりました。直ぐに街に戻ってブランシェトさんに伝えて、段取りを整えておきます。」


そう言うや否や、ミナはまた音も無く闇に消える。


「よし。要らない物は捨てていけ。極力身を軽くして最速で街に戻るんだ。

いくぞ! 」


そう言ってトムはさっさと走り去ってしまう。


他の面々も慌てて走り出す。



アーチャーのエス・ディは走りながらガムザティ原始林を振り返る。

あの森の中に必ずオーク供の本拠地があるはずだ。自分の眼がオークの存在を感知はしているし、上の上の魔女のヴァリアンテもその存在を感じている。

それなのにオーク供は、眼をかい潜り、ヴァリアンテを魔女術を欺いている。


さらに、ミナの使い魔を感知し排除までした。


そうするとオーク供の中にはかなり優れた魔術師が居る事になる。そんなオークが居るものなのか?


ここに来てエス・ディは自分達の追っている存在がオークなのかと疑問が出て来る。


オークが居るのは確かだ。

しかし、それを率いている者が裏に居るのではないか。

そう思ってしまうのだ。


アーチャーのエスラン・ディル・プリスキンは前を一直線に走る、ギルドマスター、トマス・クルス・メイポーサを見つめる。


彼は何を思い走っているのだろう?


エス・ディの彼の眼を持ってしても、トムの心の内は読めない。


破格の戦士であり、ギルドマスターであるトム・メイポーサ。彼が居れば、しかし不思議と何とかなると思ってしまう。


この言い知れぬ不安もトムが払拭してくれるだろう。

そう思いながらトムを見つめ走り続ける。


それはエス・ディだけでは無い。

ここにいる皆がそう思っている。

さっさと街に戻ってオーク供を片付けてしまおう。



そう思いながら走る一同の背後から、夜は白々と明けて来るのだった。

さてどうなるのでしょうね。


いつも読んで頂き誠にありがとうございます。

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