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30 ロン 魔物を助ける。

ロンはいつものように修行に出掛けてますが...


相変わらずロンの修行僧のような日々は続いている。

しかし、修行の内容は少し変わった。いや、変わったというより密度が濃い物になったというべきか。


今までの修行の中に、グリエロの武器術とルドガーの按摩術を叩き込まれるという項目が増えた。



相変わらずのグリエロは、あらゆる武器を使いロンの身体にその威力を示している。


剣、槍、斧、棍棒など様々な武器を使い、斬撃、突撃、打撃などなど変化に富んだ攻撃の数々を見せてくれる。


その太刀筋は、やはり一流の戦士から放たれるもので、恐ろしく鋭く一分の隙も無い。

ロンは何度か死ぬのではないかと思わされる事もあり、先日などは矢で射られ本当に死を覚悟した。


その修行はグリエロの腕が動かなくなるまで続く。その後はロンの覚えたての按摩の施術が始まる。


最初グリエロは渋ったが、ロンの説得もあって渋々とロンの施術を受ける様になった。


「別に俺の腕なんて、今さら治さなくてもかまわんぜ... 。」


「まあ、そう言うなよグリエロ。これは僕の修行の一環だ、ルドガー先生に教わった技の確認だよ。」


「なんでい、俺は実験台かよ。」


「そうだよ。だから大人しく施術を受けなよ。

... それに、グリエロ。あんたはもう充分償いをしているよ。」


「... ロン、お前さんに分かるもんかよ。」


「わかるさ。グリエロが鍛えてる孤児の子供達の顔を見ればね。

あの子達の笑顔や訓練に取り組んでいる姿を見れば、グリエロが慕われていて、さらにあの子達の未来の道筋に光を当ててやってるのもわかるんだよ。」


グリエロはそっぽを向いて黙っている。

ロンは施術を続けながら話し続ける。


「だから、今度はあんたが前に進む番だ。

身体を癒し、もう誰も失う事が無いようにしようぜ。」


「なんでい、テメエ一丁前の事を言うようになったじゃねえか。」


「ああ。それもグリエロ、あんたが鍛えてくれたお陰だ。

その礼をさせてくれよ。」


そう言ってロンはグリエロの肘を治療していく。

相変わらずグリエロはそっぽを向いている。


「ありがとよ」グリエロはポツリとそう呟く。

ロンはニコリと笑い施術を続ける。



昼頃には施術も終わり、子猫亭に昼飯を食いに行く。


最近はグリエロも一緒に行く事もあるが、食べる物と言えばキングディアの一物の姿焼きである。


これを食べているロンは体調も良く、傷の治りも早いと言うので、どう言う理屈か分からないがグリエロの肘や膝にも良いだろうと、グリエロも食う羽目になっている。


「最初はこんなもん食うのはヤベエと思ったが、いざ食ってみるとなかなか乙なもんだな。」


「だろ? それにコレ食ってると何故か体調も良いんだよ。」


「そんなもんか?

まぁ、それはさて置き、お前さんこの後は何か依頼を受けてんのか?」


「ああ。坑道や森の奥でオークに会ったら敵わないから、最近はおつかい仕事をやってるよ。」


「あぁ!? なんだそりゃ?」


「近隣の町や村に書類や小包を届けているんだ。

このルックザックに入るくらいの荷物でそう重い物でも無いし、町と町を結ぶ街道はウンドの街中と違って起伏に富んでるし、走り込むのに丁度いいんだ。

それに偶に出てくる魔物も丁度いい修行相手になるしさ。」


「おい、走り込むって!? 隣町のヴァパダルでさえどんだけ距離があると思ってんだ!? 」


「ヴァパダル? ヴァパダルなら、丁度これから行くところだよ。

そうだな、荷物を届けて夕刻迄には帰って来られるかな。」


それを聞いて唖然とするグリエロ。

ヴァパダルの町までは峠を一つ越えて行く筈で、少なくとも五里はある。普通は馬車で行くような距離だ。

それを走って行くだけでなく、その日のうちに帰って来るなど考えてみた事も無い。


「まあ、そりゃ出来ない事はねえだろうが、走って荷物を届けるなんざ聞いた事が無え。」


「ま、荷物を届けるのはついでなんだけどね。

あくまでも筋力と体力をつける為の修行さ。

目標があった方が頑張れるだろ?」


そこまで言って、ロンは皿に残っていた料理を平らげ席を立つ。


「それじゃ、行って来るよ。

また明日な! 」


そう言って口をあんぐり開けたままのグリエロを残してサッサと出て行ってしまう。



ロンはギルドで荷物を受け取り、隣町のヴァパダルに向けて走り出す。


ヴァパダル迄の街道は魔物も殆ど出て来る事は無い。

さらに峠を越えるといっても険しい山などでは無く、標高の低いなだらかな山で、山の斜面を登りきり峠を越えた途端に視界が開ける。

その開けた先には緩やかな下り坂が続いており麓には美しい草原が広がっている。


その草原を眺めながら走るととても気持ちが良く、ヴァパダル迄の道程はロンのお気に入りの進路になっている。


しかしこの日、峠を越えた先に見えたのは、街道から外れてひっくり返った馬車とコボルトの群れに襲われている二十人程の人達だった。


コボルトはゴブリンぐらいの身の丈の狗頭の魔物だ、さほど強くもなく臆病な性格で普段は森の中に住んでいる。


そもそも人前に出て来る様な魔物では無いので、このように昼日中に街道に現れるのは大変珍しい。


しかし、頭が良く武器や道具を使うので群れで現れると厄介だ。


今目の前で襲われている様な只の商人だか旅人だかには少々荷が重い魔物達ではある。


「う〜む。変だな、コボルトがこんな所で何してるんだろ?

おっと、こうしちゃいられないな。」


そう言ってロンは、今まさに旅人に棍棒を振り下ろさんとするコボルトに駆け寄って、上腕にあるワンクンの急所を突く。


突くといっても拳では急所に突きが入ら無いので、人差し指の基節骨を立て、いわゆる第二関節を突き出した形で拳を握る。

急所に突きを入れるためにロンが考え出した拳の形だ。


その指を立てた拳で急所を突かれたコボルトは「っぎゃ!」と叫んで棍棒を落とす。


棍棒を取り落としたコボルトは戦意を喪失して俯いてしまう。

それを確認したロンは、他の暴れているコボルトの元に駆け寄る。


旅人に噛み付こうとしているコボルトの鼻先をブン殴り、他の棍棒を振り上げているコボルトの足を払って横転させる。


その勢いのままロンはコボルトと旅人達の間に入って両手を振り上げて大袈裟に構える。


元より臆病なコボルト達は、突然割って入ってきて、次々と自分達コボルトを殴りつけるロンを見て戦意喪失して縮み上がってしまう。


それを見てロンは大音声で叫ぶ。


「おい! コボルト供! どうして街道に出て来て人を襲う!

この群の率いている奴はいるか! 」


そう言ってコボルト達を一喝する。

するとコボルト達の中から、年老いたコボルトがおずおずと前に出て来る。


「ワタシガ、コノムレノ、オサデス。

ニンゲンヨ、ワタシタチハ、コウサン、シマス。」


出て来たコボルトは片言の言葉で喋り、自分が長であり降伏の意思があると告げる。

襲われていた旅人達は魔物が喋ったので、皆驚いている。

ロンは一つ溜息をついて群の長に話しかける。


「やはり統率者が居たか... どれくらい人語は解るんだ?」


コボルトは元々頭の良い種類の魔物なので、長く生きると稀に人語を解する個体が出て来る。

老コボルトはとつとつと話し出す。


「ハイ、300ネンホドムカシ、ニモツモチトシテ、ニンゲント、タビシマシタ。

ソノトキ、ジンゴ、マナビマシタ。

オハナシ、ホトンド、ワカリマス。」


ロンは顎に手を当て「フム」と思案する。

本来ならコボルトは森の奥でキノコや木の実を取って生活している様な大人しい魔物で人を襲う事など滅多に無い。

ましてや日中、街道の様な往来で人を襲うなど、余程の理由があるのではないか?


「人語を解する統率者がいるにもかかわらず、人を襲うなんて... 徒党を組んで襲撃するという事が後々どういう事になるか想像出来ない訳でもないだろう? 」


「ハイ、ワカリマス... 。」


そう言ってがくりとうなだれるコボルトの長。

何か訳がありそうだなと思うロン。


「幸い、怪我人も出ていない様だな。

でもな、こんな盗賊紛いの事をして、もし怪我人を出したり、ましてや死人を出していたりしたら討伐対象になっていたぞ。」


そこでロンはざっとコボルト達を見渡す。

数にして十五体だ。


一族というには少ない数だ、一族を率いてというなら少なくともこの倍の数が居てもおかしくない。

狩をする部隊として頭数を分けているのだろうか?


「えらく頭数が少ないが、これくらいの数なら戦闘職の冒険者にかかれば、あっという間に駆逐されてしまうぞ。

人間と関わりがあった事があるなら分かるだろう? 」


「ワタシノ、イチゾクハ、コロサレ、チリヂリニナリ、モウ、コレダケデス。

モリヲ、オワレタ、ワレラハ、タベモノモ、ネドコモ、ナク... 」


そう言ってコボルトの長はロンを見、その後ろの旅人達を見て、頭を下げてはらはらと涙を流す。


「タイヘン、モウシワケ、ナイコトヲ、シマシタ。

ケシテ、ミナサマノ、イノチヲ、ウバオウト、シタワケデハ、アリマセン。

イチゾクガ、ウエニ、クルシミ、ヤムニ、ヤマレズ... 。」


「だからといって、人間襲ったら駄目だろ、そんな事したら結局、討伐されてみんな死んじゃうじゃないか。」


ロンがそう言って呆れて腕を組むと、旅人達の中から男が一人出て来る。

その手には山刀を握っている。


「いや... 実は先に手を出したのは俺なんだ。

いきなり魔物が出て来るからよ、驚いてよ... いや、襲われると思ったからさ... 」


バツの悪そうに、しどろもどろと言った感じで男は話す。


まあ、いきなり目の前にコボルトが出て来たら驚くわな、とロンは思う。


狗頭のコボルトは見た目が小型の人狼といった風体で怖いので、狂暴な魔物と思われがちだが、見た目とは裏腹に森の中で細々と生きている大人しい魔物だ。


ロンは改めてコボルトの長を見てみると、左腕に小さな切り傷がある。

あの男の山刀で斬りつけられたのだろう。


まあ、コボルト側からすると、自分達の長が穏便に出て行っているのに、いきなり斬りつけられているのを見れば、それは激高するわなと思う。


しかし、街道を行き来する商人や旅人は魔物に出会う事は少ない。

さらに、護衛を雇わないといけない様な危険な場所ならいざ知らず、この街道は恐ろしい魔物なんて出て来る事が無いので護衛どころか武器も持っていない者が多い。


山中で邪魔な草や木の枝を払う為に使う山刀を武器としているのでもそれが分かる。


ロンはコボルトと旅人、双方を眺め、お互いの事情を考えそれぞれに同情する。


「う〜ん。どうしたもんだか...

まあ、とりあえず、ひっくり返った馬車を元に戻そうか。

おい、コボルト達も手伝え。」


そう言って旅人達の中から男手と、コボルトの長が「ワンワン」言って指示を出して選出した数匹のコボルト達で倒れた馬車を起こす。

思いのほか簡単に元に戻った馬車にロンは少し驚く。


「なんだ!? えらく軽い馬車だな。

荷物入ってるのか? 君ら商人か旅人かと思ったが... ?」


そう言ってロンが訝しい顔を見せると、一人の若い女性が前に進み出て来る。


「はい。その馬車には衣装と小道具しか入っていないんです。」


「ん!? どういう事? 」


ロンがそう言って振り返るや、進み出て来た女性は、流れる様な美しい動きでたおやかにお辞儀する。

顔を上げた女性を見て、その美しさにロンは絶句する。


亜麻色の美しい髪を後頭部でシニヨンに纏め、凛とした眉毛の下には宝石の様な琥珀色した瞳が輝いている。


薄紅色の小さな唇から聞こえる声は小鳥のさえずりのように可愛く美しい。


「私はヴァパダル舞踏団の団長、フィリッピーネ・ヴァウシュと申します。

王都での舞踏公演を終えてヴァパダルの町に帰る途中でした。

危ない所を助けて頂いて、本当にありがとうございます! 」


一瞬、その動きと姿に見惚れたロンだが、無理矢理に頭を現実に引き戻し名を名乗る。


「僕は、ウンドの冒険者ギルドのロン・チェイニーだ。

まあ、双方大事にならなくて良かったな。

... そういや、コボルトの長、お前は名前はあるのか? 」


「ハイ、ナマエヲ、イタダイテ、オリマス。

ワタシハ、ランペル、トモウシマス。」


「そっか、ランペルって言うのか。」


ロンは先程ランペルが言った、一族が殺され住処である森を追われたという一言が気になっていた。まあ何より、臆病で慎重なこの連中が、切羽詰まって盗賊まがいの事までしてしまったと聞くにつけ、気の毒でならない。

ロンは何とかならないか暫し黙考し、フィリッピーネに向き直り、頭を下げる。


「すまないが、このコボルト達は僕が預からせて貰ってもいいかな?

襲われて恐ろしい思いもしたろうが、幸い全員無事な様だし、出来れば何処にも訴え出ないで貰いたい。

僕が責任を持ってこいつらを見とくからさ。」


それを聞いてフィリッピーネは慌てて手を振る。


「いえいえ、そんな! 先に手を出したのはこちらの方ですし、ロンさんの思う通りになされて下さい。」


そう言ってフィリッピーネはランペルに向き直り、膝をついてその手を取る。


「この度は、そちらの事情も知らず、大変申し訳ない事をしてしまいました。

ヴァパダル舞踏団の皆を代表して、このフィリッピーネ・ヴァウシュが謝罪致します。」


そう言ってフィリッピーネはコボルトの長ランペルに頭を下げる。


「コチラコソ、マモノデアル、トイウコトヲ、ワキマエズ、イキナリ、オシカケテ、モウシワケ、アリマセン、デシタ。」


そう言ってランペルも頭を下げる。


それを見てロンは、たとえ相手が魔物であろうと自らの非を認め謝罪するフィリッピーネに、変わり者だが不思議な魅力を感じ、

また、この妙に腰の低く慇懃な魔物にも不思議な親近感を抱く。


「それに、ごめんなさい。もうすぐヴァパダルの町に着くから、持っていた食料全部食べてしまってもう無いのよ。」


そう言ってフィリッピーネはランペルに謝っている。

つくづく変わっている人物みたいだ。


ロンはその変わった二人の間に割って入る。


「よし、まあこんな所で立ち話もなんだ、僕はこれからヴァパダルに届け物をしないといけないんだ。

とりあえず皆町へ向かおう。

... そうさな、コボルト達はどうしようか。」


「それなら大丈夫ですわ! 衣装を着せて馬車の奥に乗っていて貰えれば、団員と誤魔化して町に入れます! 」


手を叩いて、名案とばかりに飛び上がって微笑むフィリッピーネ。

その姿もまるで舞っているようで、非常に絵になる。... が無茶な提案であるような気もしないでもない。


「え... なんかそれ大丈夫なのか? いくらなんでもバレるだろ... 。」


「大丈夫! こう見えても私、結構有名人なんですよ。

門番も私のファンだから、疑う事なく通してくれるわ! 」


ロンは大丈夫かと不安に思ったが、フィリッピーネがあまりに自信満々な様子で言うので、それに従う事にした。


果たして、町の入り口では門番も誰も舞踏団の事を疑う事なくすんなりと通してくれた。


そして、つつがなくロンは依頼を終わらせる。



「ありがとう、フィリッピーネ。助かったよ。」


「いえいえ、こちらこそ! ロンさんのお陰で助かったわ。私達ヴァパダル舞踏団も、あのコボルト達もね。

それに道中、コボルトとお話しする事が出来たなんて、まるで子供の頃聞いたお伽話しみたいでとても楽しい旅だったわ! 」


「フィリッピーネさん、あんた変わってるね。みんな魔物なんて嫌うし、ましてや自分の馬車に乗せるなんて考えもしないよ。

... それに、あんなに話しの通じる魔物なんて他に居ないからね、気をつけてよ。」


「ありがと、気をつけるわ。

でも、困ってるからと言って魔物を助けてしまうロンさんの方がよっぽど変わっているわ。」


そう言ってフィリッピーネは屈託なく笑う。


その笑顔のあまりの美しさにロンは卒倒しそうになるがなんとか堪える。

なんだか後ろ髪を引かれる感じがしないでも無かったが、振り切って別れを告げる。


「じゃあ、そろそろ行くよ... 。」


「そうだ、馬車に乗って行って。

コボルト達をぞろぞろ連れて道々帰れないでしょう?

ウンドの街まで送っていくわ! 」


「え、いいのか!? そりゃ助かるよ。

ありがとう。」



それから再び、コボルト達に衣装を着せてヴァパダル町を出る。


相変わらずすんなり町の門をくぐり、街道をウンドに向けて進む。


馬車で峠を越えたお陰で、予定よりもだいぶ遅くヴァパダルの町を出立したのに、なんとか日暮れ前にはウンドの街に到着する。



「さて、ヴァパダルの門番はすんなりと通してくれたケド、ウンドにはどうやって入ろうか? 」


流石に馬車にコボルトを乗せていては通れないと思ったが、ここでもフィリッピーネは「まかせておいて!」と自信満々にウインクするので、他に良い方法など思いつかないロンは、素直に任せる事にする。


門の前まで来ると門番のロドリコが待ち構えている。


馬車から勢いよく飛び出したフィリッピーネは、ロドリコに朗らかに挨拶する。


「ロドリコさん久しぶり! 今からウンド中央劇場で次の公演の打ち合わせがあるの! 」


「おお〜! またヴァパダル舞踏団が公演に来てくれるのか!

おう! 通ってくれ! 」


驚くほど簡単に門を通る事が出来る。大丈夫かこの街は。

結局そのまま何事も無く、一行はギルドまで辿り着く。



ぞろぞろとコボルト達は馬車を降りていく。

皆が降りたのを確認し、ロンはフィリッピーネに向かい礼を言う。


「ありがとう、フィリッピーネ。結局、世話になったのはこっちの方だったな。助かったよ。」


「いいのよ! 気にしないで、これも助けて貰ったお礼よ。」


そう言ってクルリと回転する。フィリッピーネの一動一静は全て舞の様でとても美しい。

ロンはその動きに見惚れていると、フィリッピーネは「っあ!」と言って手を叩く。


「それに門番のロドリコさんに、ああ言っちゃったから、また近いうちにウンドで公演をしなきゃね!

楽しみだわ!」


そう言ってフィリッピーネは悪戯っぽく笑う。


「その時はロンさん絶対に観に来てね!

特等席にご招待するわ!」


そう言ってフィリッピーネは大きく手を振りながら、馬車に乗り颯爽と去っていった。


コボルト達は名残惜しそうに馬車が見えなくなるまで手を振っていた。

長のランペル以外は人間の言葉は解らない様だが、助けて貰ったのはランペルの説明を受けるまでも無く理解しているようだ。


ロンは十五匹のコボルト達を見ながら思案する。


とりあえずギルドの中に入れて、ブランシェトに事情を話そうとロンは思う。

またブランシェトの怒りの雷が落ちそうだが、他に頼る相手が居ない。


勢いでコボルト達を預かると言ったが、気が重い。

しかし、ここでいつまでもじっとしている訳にもいかない。


「しょうがない、ランペルここは僕の世話になってる冒険者ギルドだ。

頼れる人も居るし、とりあえず此処で今後の事を考えよう。」


「ナニカラ、ナニマデ、スイマセン... 。」


ランペルは律儀に頭を下げ、ロンは気にするなと、ランペルの肩を叩く。

そして、ロンはぞろぞろとコボルト達を引き連れてギルドに入る。


幸い日も暮れて、ギルドには他の冒険者は居なかった。

恐る恐る受付に行ってミナブランシェトを呼んで貰おうと挨拶をする。


「あら、ロンさん遅かったわね。

どうしたの? いっぱいお仲間引き連れて。」


そう言ってロンの後ろに並んでいるコボルト達を見て、ミナは目を丸くする。


ロンはしまったと思うが、ミナの反応は思っていたものと少し違った。


「あら! ランペルさん!? 久しぶりね。どうしたの? 」


「え!? ミナってランペルの事知ってるのか? 」


ロンは驚いてランペルを見る。ランペルもミナを知っているようで、ペコリと頭を下げる。

ミナは何か思う所があるのか「ふむ」と独り言ちて、ロンにそこに居るように告げて奥に引っ込んでしまう。


しばらくすると、ブランシェトと一緒に戻って来た。

ブランシェトもランペルを一瞥するや「あらま」と呟く。


「本当にランペルだわ。どうしたの!? 人前にあなたが出て来るなんて珍しいわね。何年ぶりかしら? 」


「ナント、ミナサマニ、ツヅイテ、ブランシェトサママデ、イラッシャルトハ。」


ランペルはミナともブランシェトとも顔見知りのようだ。

思わぬ展開にロンは頭が回らない。


「え!? なんだランペル、お前って有名なコボルトなのか? 」


混乱するロンをみて、呆れ顔のブランシェト。


「チェイニーあなた知らないで連れて来たの?

ランペル・スティルツキンは、冒険家ティム・ティット・トットと一緒に世界の果てまで行った、お供のコボルトじゃない。」


「はい!? それ僕の子供の頃に聞いたお伽話しですよ。


...え!? 冒険家トムとスティルツキンの冒険譚って実話なんですか!? 」



ロンは驚いてランペルを見る。


「ナツカシイ、ハナシデス」とランペルは目を細める。


なんだか、伝説のコボルトをギルドに連れて来てしまったようだ。

いつもお読みいただきありがとうございます。


なんだかんだ言ってロンって引きが強いですよね。

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