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27 魔女っ子エルザの魔法と過去

みんなでブランシェトの作ってきたお昼ご飯を食べます。

ロンを始め、エルザやグリエロとその教え子達はギルドの中庭で、ブランシェトの持って来たお弁当を食べている。


「すごく美味しいですね! これ全部ブランシェトさんが作ったんですか!?」


エルザはコカトリスの照り焼きを頬張りながら目を輝かせている。


「な。ブランシェトの作る飯は旨いだろ? とてもエルザの頭をカチ割る様なガサツな女が作ったとは思えねえよな。」


そう言ってグリエロも塩パンを齧りながら頷く。


「カチ割ってないわよ! いい加減なこと言うとあなたの頭をカチ割るわよ!」


そう言ってブランシェトは魔術杖を掲げて神聖魔法の神罰呪文を詠唱しようとする。


「ブランシェト先生、落ち着いて下さい。その呪文だと僕らの頭にも雷が落ちます。」


慌てて止めに入るロンはブランシェトの詠唱を聞いて、ふとある事を思い出す。


「あ、そうだ先生、ちょっとお尋ねしても良いですか?」


「え? あら!? ... ええ、いいわよ。どうしたのあらたまって。」


ブランシェトもロンの真面目な顔に我にかえる。

ロンはエルザに向き直る。


「エルザ、ちょっといいか? 中庭の真ん中ら辺に立ててある人型の的があるだろ。

アレに向かって、威力はすごく小さくて良いから、バヤデルカ山の洞窟でオークを倒した時に発動させた魔法を放てるか?」


ロンの問いかけに対してエルザは快く引き受ける。


「はい! 大丈夫です、出来ます!

グリエロさん、あの的に向かって魔法を放って良いですか?」


エルザが駆け出しの黒魔導師だと高を括るグリエロは気軽に承諾する。


「ああ、かまわんぜ。あの人型の木偶は魔樹ブルーンカメリアから切り出したもんだ、ちょっとやそっとでぶっ壊れる事はねえ。思いっきりやれ。」


「はい、わかりました!」とエルザが笑顔で返事をするや、ロンが止める間もなく人型の周りに局地的な嵐が起こる。


一瞬、ロンはギルドの建屋に巨大な風穴が空くのではと危惧したが、流石のエルザも魔法の効果範囲を人型の周りに絞った様で、大事には至らなかったが、それでも威力を見せつけるには充分だった。


人型は灰塵と化し、人型のあった場所は地面が大きく抉れている。


「な、なんだ!? こりゃエルザの魔法がやったのか? オイオイ、すげえな... 。」


驚き唖然とするグリエロ。だが、もっと驚いたのはブランシェトだ。


「え? ええ!? ... ちょっと待って。今の魔法なの? エルザちゃん!?」


ブランシェトの混乱をよそエルザはあっけらかんと答える。


「はい! ファイアドスタと、アイスマエグと、クラックランブルと、ウインドラムの魔法です。」


それを聞いてブランシェトは眉間に皺を寄せて頭を抱える。


「そうなの!? いきなり炎と氷と雷と風の、四属性の魔法を発動させたの?

ちょっと待って... どこから突っ込めば良いのかしら... 。」


珍しくブランシェトが、本当に狼狽するのを見て、グリエロはエルザのやった事の重大さを理解する。


「おい、ブランシェト、俺も見た事ねえ魔法で、確かに驚いたが、なんだ? そんなに凄いのか!?もう少し詳しく説明してくれ。」


ブランシェトは胸に手を当て一息ついて、自身の思考を確かめる様に喋りだす。


「ちょっと待ってね、エルザちゃんが余りに常識的な魔法の理屈を覆す様な事してるから... どこから説明すれば良いのか...。

先ずは、呪文の詠唱が無いわ... 詠唱を無しで四つもの魔法を同時に発動させているわ。

そのうち炎と氷、氷と雷は反対属性で術理が違うから同時に出ないものなの... 」


ロンがやっぱりと言った顔でブランシェトに尋ねる。


「そうですよね。無詠唱で魔法の発動なんて型破りですよね。」


「そうね、私も出来ない事は無いけれど、魔力の変換効率が悪すぎて、威力の大幅な低下か魔力の無駄使いになっちゃうわ。」


「どうもエルザは、呪文詠唱によって行われる魔力変換を想像力だけでやっちゃてるみたいなんです。

エルザの想像力は並外れていて、... そのせいで随分とっ散らかった性格になっているんですが...

その想像力が魔法の発動の根幹にもなってるんですが、それと同時に魔力の暴走の引き金にもなっているんです。」


「そうなのね。でも、ごくたまにいるのよ想像力だけで魔法が使える子って。でもあそこまでの威力となると、それだけでは説明出来ないわ。

... それに、もっとおかしいのが炎と氷のような相克関係にある力が一緒に出て来てた事よ... 。ごめんなさい、私には説明出来ないわ... 。」


そう言ってブランシェトは少々腑抜けた顔でエルザを見つめる。

エルザはまた自分が何かおかしな事をやらかしたと思い、オロオロしながら答え始める。


「あの、えっとですね... 。それぞれの魔法を違う次元で発動させて、時空領域の位相を使ってこの世界に発現させているんです。」


そこでブランシェトが恐る恐る質問をする。

グリエロはもう着いていけていない様で固まっている。


「エルザちゃん、ごめんね、違う次元って何?」


「はい、多元世界論を提唱された大賢者ハラド・グラウミン様のご研究を元に、私は複数異世界の存在を予見しまして、そこから私が構想した超魔弦理論の次元拡張魔法を元に、この世界の他に十個の異世界を見つけ出したんです。」


「エルザちゃん、ちょっと待って。

あなた、もしかして、エルザ・サリヴァーン・ランチェスターなの!?

奇警の天才黒魔導師エルザ・ランチェスター!?

魔力保存の法則の発見者のエルザ・ランチェスター!? 」


「え、あ、はい。私です。」しれっと答えるエルザ。


エルザが答えるやブランシェトは目を輝かせて飛び上がる。


「ええ!? あの魔導師が! 何でこんな所に居るの!?

それに魔術の常識を変えた天才がこんなに若くて可愛い女の子だなんて!

エルザちゃんの魔力保存の論文読んだわ! あれ凄かった! お陰で私の魔力の絶対値も大きく増えたの!

王都の魔法学会から突然いなくなっちゃったって聞いていたからどうしたのかと思っていたんだけれど、こんな田舎の冒険者ギルドで冒険者をしてるとは思わなかったわ! 」


興奮するブランシェトの言葉に、エルザも興奮する。


「あ! 論文を読んで下さったんですか! 嬉しい!

でも、その次に発表した超魔弦理論で異端視されちゃいまして...

それで、閉塞的で排他的な魔法学会に疑問を感じて、もっと世の中の困ってる人達の為に何かしたいと思って、冒険者になるって言ったら学会を追放されて、王都にも居られなくなっちゃって... 」


そこまで聞いてブランシェトが大きく頷く。


「あ〜、それでウンドくんだりまで流れて来たのね。

でも確かに。超魔弦理論は私も読んだけれど、さっぱり理解出来なかったわ。」


「え〜と。簡単に言いますと私達のいる世界であるフーケとは直接繋がらない別の世界を発見したんです。

その異世界なんですけど、普通は知覚出来ないのですが、魔力波を使って測れる事がわかったので、

そこから私は大きい魔力波が時空を歪めるという事を観測したんです。

物質世界と言うのは、時空の多様体から多次元空間の曲率の半数を引いた力と魔力係数で構成されているので、魔力波を持った魔力はお互いの次元世界を行き来できるんです。

そこから色んな異世界を発見しまして、今私達のいる次元と合わせて十一次元の異世界まで見つけました。

私の推論では、二十六次元まで異世界があるんじゃないかと思ってます。」


エルザがそこまで言ったところで、ロンが片手を上げて制止する。


「ごめん、エルザ、全然簡単じゃない。要するにどう言う事なんだよ。

それと魔法を四つ同時に発動させるのとどう言う関係があるんだ?」


「えっとですね。魔力を行き来できるという事は魔力探知も出来るんです。

そこで私はそれぞれの次元で私の同位体みたいな、魔力を持つ人達を発見したんです。そこで精神感応の魔法で意思の疎通を図って、魔法の共同研究を始めまして...

試行錯誤の末、お互いの魔力を同期させて並列処理する事に成功したんです。」


「と、言う事はつまり?」とロンがさらに先を促す。


「はい、そういう訳で私は、理論上では魔法の制御や発動を十一人で行なっている事になるんです。

なので魔法も十一人分の魔力で魔力変換して発動させているので、変換効率を下げる事なく魔法は発動しますし、最大で十一個の魔法を同時に発動させる事が出来るんです。」


成る程と大きく頷くブランシェト。流石に上の上の白魔術師だ大方の概要は理解した様だ。

ロンとグリエロは置いてけぼりだ。


「なるほどね、理屈は解ったけれどおいそれとマネできる様な物じゃないわね...

それに無詠唱で魔法の発動が出来るのは、やっぱり想像力がとても豊かだからかしら?

多少の補助にはなってると思うけど、多次元並列処理しているからって、やっぱり無詠唱であれだけの魔法の発動は難しいと思うけど...。」


そう言って首をかしげるブランシェト、ロンはロンで腕を組んで考え込む。


「う〜ん。エルザの魔法は複雑過ぎてなかなか一筋縄ではいかないな。ブランシェト先生なら何か解るかなと思ったんですが。」


「そうね、エルザちゃんの超魔弦理論って、まったく新しい魔法理論だから解らないのも無理は無いわ。

でも、凄い理論よ、ちゃんと理解したいわ。

... ねえ、エルザちゃん。もっと私に多次元異世界の事を教えてくれないかしら?」


ブランシェトの頼みにエルザは顔をほころばせる。


「はい! 是非とも!

今まで誰も私の理論に耳を傾けてくれなかったんです。

ブランシェトさんみたいな上級上位の白魔術師の方にお話しを聞いて頂けるなんて光栄です!」


「まあ! そう言って貰えるとこちらも光栄だわ!

だって、あのエルザ・サリヴァーン・ランチェスターよ!

一度会って話しを聴いてみたかったの!すごく嬉しい!」


そう言って女性陣二人で盛り上がる。

むくつけき男達は置いてけぼりだ。

その時グリエロが何か思い出した様に顔を上げる。


「ん!? そういやランチェスターって、あのランチェスター家の事か!?

エルザ、お前さん、もしやルーク・シルヴァーン・ランチェスターの身内か!?」


まさかと言う様な顔でグリエロはエルザに問いかける。

当のエルザはやはりしれっと答える。


「はい、ルーク・ランチェスターは私の兄様です。」


これにはグリエロだけでなくロンも絶句する。

今度はブランシェトがついて来れていない。


「え!? 何の事? エルザちゃんのお兄さんって有名人なの?」


「え? ブランシェト先生知らないんですか? 王宮騎士ルーク・シルヴァーン・ランチェスターと言えば、王都の守護者として王都民から慕われているんです。」


「へえ、そうなのね。エルザちゃんのお家って有名なのね?」


自分に興味の無い事にはとんと無関心なブランシェトにロンは苦笑する。


「ルーク・ランチェスターと言えば、何度も魔物の襲撃から王都や周辺の街や村を救った事で有名だぜ。

ランチェスター家の次期当主にしてランチェスター家流槍術の継承者だな。

シルバーランスのルークとかって聞いた事ねえか?

... つーか、エルザ、お前さん名家の出じゃねえか。

学会を追い出されたっつても王都に居場所くらい幾らでもあったろ?」


そんなグリエロの疑問にエルザは力なくうなだれる。


「いえ... 私、三兄妹の末っ子なんですけど、みそっかすで... 上の二人の兄様達は優れた槍術士なんですけれど、私はさっぱり槍の才能が無くて、ルーク兄様なんかまともに口も聞いてくれなくて...

それで、槍術がダメなら別の事で兄様に認めて貰おうと黒魔術の研究者をしてたのですがそこも追い出され、本当に居場所が無くなっちゃったんです... 。」


そう言って溜め息をつく。

しばらくうなだれていたエルザだが、食べかけのコカトリスの照り焼きを握り締めやにわに立ち上がる。


「でも、でも! 私は此処で頑張るって決めたんです。

だから、私は守って貰うんじゃ無くて、あの、その、もっと強くなって、守るんです!」


一人で盛り上がり始めるエルザ。

また何かとっ散らかった事をするのではないかと身構えるロン。

思わぬところで奇警の黒魔導師エルザと出会い楽しそうなブランシェト。

ついていけないグリエロ。


「チェイニーさん、私もっと強くなって、チェイニーさんと一緒に、その、冒険を... 冒険したいです!」


「あ、ああ。ありがとう」と言うロンだが。


もしかしてエルザって、もう既に僕なんかよりもずっと強いのではないか?


と言う、素朴な疑問も頭をもたげる。

そんなロンの疑問も当のエルザには思いもよらぬ様で、今度はグリエロに向き直る。


「グリエロさん! 杖術の特訓もよろしくお願い致します!」


「お、おう。任せとけ」と言うグリエロ。


グリエロも内心、あれだけの魔法を放てるのであったら杖術、いらないんじゃ? とも思う。


そして、エルザはブランシェトの方を向いて深々と頭を下げる。


「ブランシェトさん。あの、いきなりで不躾なお願いなのですが、私に白魔術をご教授願えないでしょうか!? 」


その言葉を聞くや否やブランシェトは即答する。


「もちろんよ! エルザちゃんからそんな事を言ってくれるなんて、願ったり叶ったりよ。

私もエルザちゃんの魔法理論を色々とご教授願いたいわ! 」


「はい! よろしくお願い致します! 」と笑顔で答えるエルザにブランシェトは、一拍間を置いて質問する。


「でも、エルザちゃん。白魔法と黒魔法は全く術理が違う物だわ。黒魔導師であるエルザちゃんが白魔法を学ぶとするなら、一から学び直さないといけないわ、とても大変な事よ。

それに術理が違う魔法を同時に扱うという事は今まで誰も成し得ていないわ。困難と危険が伴うわよ。」


その言葉に対してエルザは真剣な顔で答える。


「はい。学ぶ事の大変さは理解出来ます、もう覚悟は決まっています。

あと、術理の違う魔法の運用は、魔力保存の法則と魔法の多次元並列処理を応用すれば可能なのではと考えています。」


「成る程、もうだいたいの見当はつけられていそうね。

わかったわ。一緒に頑張りましょう。」


ブランシェトはそう言ってエルザの手をとり優しく微笑む。エルザはその手を強く握り返し「はい!」と笑顔で答える。



その二人を呆然と見つめるのは、話について行けずに置いてけぼりをくった男二人だ。


「おい、ロンよ。向こうは向こうで何だか話しがまとまった様だぜ。

何の事だかさっぱりわからないがな。」


「ああ、話しの展開がとっ散らかってて、よく理解が出来なかったが、エルザとブランシェト先生が仲良くなったって事でいいのかな? 」


ただ昼飯を食っていただけだよな、とロンは思う。なんだか大事になったような気もするが。


「おう、仲良き事は美しきかな。だぜ。

何かエルザについて衝撃的な事実が発覚した様な気もするが...

まあ、丸く収まったんじゃねえか?」


グリエロは考える事を放棄した様だ。



ロンはエルザが自信を取り戻し前に一歩でも進めたからよしとしようと思うのであった。

いつも読んで頂きありがとうございます。


エルザって凄かったんですね。


次回はロンも頑張ります。

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