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24 ロン 教えを乞う

ロン・チェイニーは早速ルドガー爺さんに会いに行きます。


さて弟子入りさせて貰えるのでしょうか?

ロンは、踊る子猫亭でいつもの昼食を取ると、ギルドの裏手に住んでいる按摩術師のルドガーの家に赴き、扉を叩く。


「はいよ、開いてるから勝手に入ってきておくんなさい。」


と、しわがれた声が奥から響いてくる。

ロンは扉を押し開け中に入る。


中は簡素だが綺麗に整っていて座敷になっている。部屋の中央には布団が一枚敷いてあり、その傍らに小兵の老人が一人鎮座している。

盲目だからか静かに目を伏せている。その姿は、少し神秘的でもある。


ここがルドガーの按摩施術所だ


「はいはい、今日はどうしましたか? 」


ルドガー老は、つるりと禿げた頭に白い髭の穏やかな表情の老人で、とても昔は暗殺者だったとは思えない。


「あの、ロン・チェイニーです、こんにちは... 。」


「あぁ、ロンさんかい。久しぶりだね。

今日はどうしたんだい?」


ルドガーは「まぁ、こっちに来て座んなさい」とロンを促す。それに従ってロンもルドガーの元に行き腰を下ろす。


ルドガーは目を伏せたまま、耳をピクリと動かしてロンの方に向き直る。


「ロンさん、あなた大怪我しなさったね!?

足音が悪いよ、背骨と骨盤がズレてんだね。」


そう言って手探りでロンの手を取り優しく撫ぜる。


「いけない、この手も一度潰れたね? 綺麗に白魔術で治療されてるけど酷い有り様だったろう?」


「はい、そうなんです。先日魔物とやり合って大怪我しまして... よく触っただけで分かりましたね。」


ルドガーはニコニコ笑いながらロンの手を優しく摩りだす。


「そりゃ按摩やって長いからね。わかろうもんです。

だがこのままじゃあ、この手は歳とってから動かなくなるよ。」


「え!? 治癒魔法で完全に治っている筈ですが... 。」


「そうだね、これは丁寧で綺麗な白魔術だ、ちゃんと治ってる。

だが、魔術ってのは素早く治療し、傷を塞ぐ対処治癒ってやつだ。根っこの治療までは出来ないんですよ。」


ロンは神妙な顔でルドガーの話を聞き入る。


「あの、その治癒のお話し詳しく聞かせて下さいませんか?」


ルドガーは「そうかい? 面白いお人だねあなたは」といって続ける。


「白魔術は、即座に治癒されるから致命傷を受けても回復できるっていう大きな利点があるが、急速に人体の形を変えて治すものだからね、大きな怪我に対して技術が及ばないと筋肉が引き攣ったり、骨が変形しちまうんですよ。」


そこでロンはグリエロの傷痕の事を思い出す。きっと混沌とした戦場で何とか命を繋ぐ為の急な処置だったんだろう。


「それに優れた治癒で綺麗に治っていても時間が経てばやっぱりガタが来るんですよ、自然な回復じゃないからね。」


「それじゃあ、この手は...。」


ロンは緊張で手を強張らせるが、ルドガーはニコニコとロンの手を摩る。


「ご安心なさい。この手は丁寧に綺麗に治癒されてると言ったでしょう。

私の按摩術でちゃんと治ります。」


ロンは溜息をついて安堵の表情を見せる。


「ルドガーさん白魔術は対処治癒って言いましたけど、按摩術は違うんですか?」


「私の按摩術は根本治癒の手技だよ。

直ぐに治療しなくちゃいけないような致命傷を負ったら白魔術で治癒しなきゃならないがね。

その後にね、後遺症が残らないように骨の位置を戻し、筋肉の強張りをほぐして人間の本来持ってる自然治癒力を増幅して助けてあげるのが我々、按摩術師の仕事なんですよ。」


そう言ってルドガーは手から二の腕、肩と揉み解していく。


「これって経絡を、あのツボってやつを押してるんですよね?」


「はい、そうですよ。」


そう言ってニコニコ按摩術を施している。

ロンはしばらく黙って施術を受けていたが、意を決して質問をしてみる。


「あの、不躾なんですけど、ルドガーさんは急所にも詳しいと聞いて伺ったんですが... その事のお話しも伺ってもよろしいでしょうか?」


ルドガーはニコニコとした笑顔を少し曇らせてロンに問う。


「何でまたそんな事を聞くんです? 私は年老いた只の按摩術師ですよ。」


「あのう... その、昔、暗殺者をやってて、急所にも詳しいと伺ったんです。それで... 。」


ロンはいきなり核心を突く質問をする。相変わらず空気が読めない。

ルドガーは溜息をつき、やれやれといった面持ちでロンの方を向く。


「ロンさん、そんなお話し何処で聞いて来なさったんです?

暗殺者の話しなんざ、面白い事もございませんし、そんな事をお聞きなさるなんて褒められたものじゃございませんよ。」


その顔には深い後悔と、怒りとも悲しみとも取れない複雑な表情が浮かび上がる。


「ロンさん、暗殺者なんて卑しい職業ですよ、まさかそんなモノになろうってんじゃないでしょうね?

... 暗殺者の末路は悲惨です... 私の仲間はみんな死んでしまいましたし、生き残った私だって... ご覧なさい、光りを失ったんです。」


そう言って伏せていた目を開く。その目は白く濁っていた。


「あ、いえ、すいません。でも暗殺者になりたい訳ではないんです。

僕は強くならなければならないんです。

それでそのお話しを伺いたくて... 。」


そう言ってロンは真っ直ぐにルドガーを見つめる。目の見えないルドガーもロンを見つめ重々しく口を開く。


「ロンさん、何も私に教えを乞わなくても強くなる方法はいくらでも有ります。

言いましたでしょう? 私の技は、暗殺は卑しい技です。

私なんかに教わったらロンさんの技が汚れます。」


そう言ってロンの手を静かに放す。

しかし、ロンは逆にその手を取り、しっかりと握りなおす。


「僕は自分と自分が守らなければならない人のために、強くならなきゃいけないんです。

自分を失わない為にも、傍観者に戻らないためにも。

それに、今お話しを聴いて思ったんです。やっぱりルドガーさんに教わらなきゃならないって。」


「なんで私じゃないとならないんです?」


「はい、急所だけじゃなく経絡も教わりたいんです。

守らないといけない人と、癒してあげたい人が居るんです。

その二つの技術を持っているのがルドガーさんだと思うんです。」


ロンの真っ直ぐだが極端な物言いに面食らったような顔を見せるルドガー。

ロンはさらに続ける。


「僕は強くなる事に貴賎は無いと思います。

それに戦場ではお上品にしてられません。どんな事をしても生き残らなくては。」


そこでロンはゴホンと咳払いして、もう一つ付け加える。


「なにより、それを言うなら僕も拳で戦う卑しい職業してます。」


そこでルドガーは毒が抜けたような素っ頓狂な顔をする。


「なんとまあ、次から次へとおかしな事を言う人もいたもんだ。

まあ、確かに戦場ではなり振り構っていられませんがね... 。

しかし、まあ、あなた悲惨な戦場の事をよくご存知なんですねぇ。」


ルドガー老はニタリと意地悪に笑う。


「いえ... あのう... その辺は受け売りでして... 。」


小さくなるロン。一拍間をおいてルドガーは膝を打って笑いだす。


「ハハハ! 正直なお人だ。

拳で戦う... ロンさん、あなただったんですね

。... なるほど卑しい職業ですか、色々と噂は聞いてますよ。

強くなる事に貴賎は無い、か。そんな事を言う人には始めて会いましたよ。」


「あ、あの... 」と何か言おうとするロンを手で制してルドガーは下を向く。

しばらく黙っていたが、ポツリポツリと何かを確かめるように語りだす。


「私もね、人に言えないような事をしてきて、その報いも受けました。

まあ一線から退いてからは、その償いって言う訳じゃありませんが、自分の持ってる技術を使って、なんとか人の役に立とうとして来たんですがね。

ロンさん、あなたみたいにね、何処からか私の過去を聞きつけて技を盗もうとやって来る手合いは今までもおりました。

あなたみたいに馬鹿正直に真正面から教えを請う人はいませんでしたがね。」


そこでフゥ、と溜息をついてロンの方に向き直る。


「それにしてもロンさん、あなた唐突にやって来て... いくらなんでも急過ぎます。

まあ、この怪我の様子を見るに切羽詰まっているってのはわかりますがね。」


そこで、はたと気がつくロン。

確かに自分は何をそんなに焦っているのだろうか? 唐突にルドガー老の所に押しかけ、さらには触れられたく無いような過去にもズケズケ踏み込んでいる。


たとえ教えを乞うにしても失礼にあたる事だ。


「すいません。確かにいきなり押しかけて持ち出す話しではありませんでした。

僕の失礼な言動、どうかお許しください。」


改めて自分の行動の軽薄さを恥じて小さくなるロン。

ルドガー老はそんなロンを観て再び優しく微笑む。


「なに、あなたまだお若い。気持ちが前に先走ってしまう事もありましょう。

焦らなくて良いんです、もう少しゆっくりと、詳しく事情をお聞かせ下さいな。

それから考えましょう。」


そう言ってルドガー老はロンの手をポンと叩く。


その時、やにわに扉を叩く音が響く。


「すいません! こちらルドガー様のお宅でしょうか!?」


そう聞こえるやいなや、バーンと扉が勢いよく開く。

そこに立っているのはエルザである。


「エルザ!? なに突然、ていうかなんで此処に?」


驚き、問い質すロンを見つけてエルザはルドガー老の施術所にバタバタ入って来る。


「酷いですよ! チェイニーさん! どうして私を置いてっちゃうんですか! 」


呆気に取られていたルドガー老も我にかえり、ロンに向かってニコリと笑う。


「おや、これは可愛い事情だね。」


そう言ってポンポンとロンの手を叩く。

慌てたのはロンだ。


「あ、いや、その。

エ、エルザ、いきなり入って来て失礼じゃないか。ここはルドガーさんの施術所だよ静かにしてないと。」


そう言われて我にかえるエルザ。

急速に顔を赤らめてモゴモゴ言い訳を始める。


「あ... すいません... また我を忘れてとっ散らかった事をしてしまいました。... でもチェイニーさん私を放っぽって居なくなるから心配で... すいません。」


そしてハッと気がつき、両膝をついてルドガー老に向き直る。


「ルドガー様、大変失礼致しました。改めてご挨拶させて頂きます。私... 」


その時また大きな音を立てて扉が開く。

そこに立っていたのはグリエロだ。


「エルザ!やっぱり此処にいやがったな!

ていうか、ロンまでいるのか!?」


呆れたといった面持ちで入って来るグリエロ。ルドガー老の所まで来て頭を下げる。


「スマン爺さん、うちの若いのが二人失礼した。

悪いのは俺だ、迂闊に爺さんの事を話しちまった。」


そう言ってロンとエルザに向き直り


「ロン、お前さんいきなり爺さん所に来てどうするつもりだったんだ? いきなり来てハイそうですかって話しが通るわきゃねえだろ。

こう言う時は俺とかトムを通すんだよ!

技ってのは基本的に秘匿されてるもんなんだよ!」


そして振り向いて、エルザの脳天に拳骨を効かせる。「キュウ」と鳴くエルザ。


「それからエルザ! 中庭にやって来て、ロンの話し聞いた途端に飛び出して行ったと思えば...

行動が迂闊過ぎるだろ!」


そう言って怒るグリエロを「まあまあ」となだめるルドガー老。


「そんなに怒らないでやって下さい、グリエロさん。

いきなりロンさんに教えを請われて驚きはしましたけれどね、いやぁ悪い気はしませんでしたよ。」


そう言ってロンの方に向き直りニコリと微笑む。


「ロンさん、もう一つの事情もわかりましたよ。

なるほど、あなたはおかしな変わり者だ。

でもね、心根の優しい正直者だ。」


「そんな事無いですよ」と恐縮するロンだが。


「私もこう言う商売をして長いんだ、手に触れて話しを聞きゃ大体どんな人間か解りますよ。

グリエロさん、ロンさんを私の所で預かってよろしいんですか?」


「ああ、構わねえ。元より爺さんの所にこいつを連れて来る予定だったんだ。

俺が保証する。こいつは道を踏み外さねえ。

爺さんの技を真っ当に使うだろうよ。」


「そうかい。グリエロさんがそこまで言うんだ信用するよ。

私もいい歳だ、そろそろ衣鉢相伝しても良いかもしれんと思ってたところだ。」


「え!? あの... 教えて頂けるんですか?」


話がトントン拍子に進んでロンは頭が追いつかない。

呆然としているとグリエロに背中をバンと叩かれる。


「おい良かったな。半分ダメ元で話しを持って来ようとしてたんだがな。

この爺さん変な所で頑固なところがあるからな。」


それを聞いて軽快に笑うルドガー。


「はっはっは! 頑固な所はグリエロさんも同じじゃないですか。

まあ暗殺術なんて賤しいものは教える事は出来ませんが、身体のツボや急所の何たるかをお教えしましょう。人を活かす事も損なう事も出来る技だ。心して学ばねばならないよ。」


「はい!ありがとうございます、頑張ります!」


ロンが背筋を正して返事をするとルドガーは一つ頷いて笑い、グリエロに向き直る。


「しかし、私がロンさんに相伝するとなると、あなたもいよいよ観念しなきゃならないね。」


「っへ! 言ってろ爺い。おい! エルザ帰るぞ。」


そう言ってグリエロは泡食うエルザを引きずって帰って行ってしまう。


後に残ったのはロンとルドガーの二人だ。


「あの、ありがとうございます。よろしくお願いします。

あの、僕いつもは朝にグリエロの所で修行していますので、今日の様に昼からお伺いしても良いでしょうか?」


「ああ、そうだねえ... 毎日夕刻には店じまいだ、その時にいらっしゃい。そこから特訓です。あなたの身体を治療しながら私の技をとっくり教えていきましょう。」


「はい! ありがとうございます!」


ロンは嬉しさのあまり飛び上がって喜ぶ。

そのロンの着地した音を聴いてルドガー老は嬉しそうにニヤリと笑う。


「ロンさん、あなた色々と身体に無茶をさせてるね。

こりゃ治し甲斐があるし、教え甲斐がある身体だよ。」


ロンはそのルドガーの嬉しそうな顔を見て、ここに来てチョット不味かったかなと思う。


ルドガーの顔は現役時代のそれに戻っている様に見える。


無事に修行を終えられるだろうか。

いつもお読みいただきありがとうございます。


さてルドガー老を暗殺者の顔に戻してしまったロンは無事に修行を終えることができるのでしょうか?

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