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23 ロン 聞きたい事がある

ロン修業再開です。

早朝、日もまだ上がらぬうちにロンはベッドからモゾモゾと抜け出す。

ベッドから降りて裸足の足が踏みしめるのは冷たい床だ。

結局大事を取ってギルドの医療室で一晩泊まったのだ。


隣のベッドにはエルザとブランシェトが仲良く並んで眠っている。昨日もう大丈夫だから帰ってくれと頼んだが頑として譲らず、彼女達も一晩泊まったのだ。

他に誰もいないとはいえ、こうして医療室のベッドを占拠しているのだが、いいのだろうか?


それはさて置き、四日程寝込んでいた様なので身体の節々が固まっている。

グッと背筋や手脚を伸ばして身体をほぐす。


やはりブランシェトの回復魔法はかなり高度なものだ、あれだけ酷い傷を負っていたにもかかわらず傷口は全て綺麗に塞がっている。


骨の痛みや筋肉の引き攣りなどの後遺症は無い様だ。余りにも酷い傷を負った場合などは怪我が治りきらない事がある。グリエロの肘や膝なんかがそうだ。


昨日ブランシェトにはあと十日は寝ておけと言われたが、身体は快調でとても軽く、寝込んでいたとは思えない程だ。


自分でも呆れる体力の回復だ。前回もそうだった。例のキラーエイプやキングディアが効いているんだろうか?

ブランシェトの回復魔法の水準が非常に高い事を差し引いても、ちょっとこの体力の回復は早すぎる気もする。


二人を起こさない様に着替えて、そーっと部屋を出て行く。

身体を慣らす程度に軽く街を走ろう。生卵は抜きだ。


軽く街中を流す感じで走る。中々良い感じで回復している様だ。すっかり夜も明けて辺りも明るくなり始めたのでギルドに戻る。


ギルドの医療室を覗くと、まだ二人は仲良く夢の中なのでそっと扉を閉じ中庭に向かう。


「お、ロン来たか。お前さん具合は良いのかい?」


グリエロは彼が鍛えている孤児達と一緒に剣を振っていた。


「ああ、ありがとう。調子は上々だよ。それよりグリエロまで剣を振ってどうしたんだよ?」


「ん? あぁ、まあ無いとは思うがいざという時にな... ちょっと勘を取り戻そうかと思ったんだが、やっぱりチョイと長い時間、剣を握っていると駄目だな... 。」


そう言って肘をさする。


「まあ、トムの野郎が居れば何とかなるだろ。俺の出番なんて無えわな。」


「よし、始めるか」と何かを振り払う様に言い放つ。


「とは言えロン、お前さんも病み上がりだしな。あまり無茶はさせられねえ。

後でブランシェトにドヤされても敵わねえしな。」


「うん、そうだよな。でも今日顔を出したのはもう一つ理由があるんだよ。

この前のオーク戦で色々感じた事があるんだ。

それでグリエロの意見を聞きたくてさ。」


「おう、何でも聞いてこい」と、どういう質問が来るかわからないのに気安く請け負うグリエロ。


「聞きたい事って言うか、僕は攻撃の避け方を全然わかってないって事を痛感したんだ。

自分の攻撃が効かなくて反撃を受けた時に全く対処出来なくてさ。」


「何だロン、お前さんそんな初歩的な事も知らねえで、魔物とやり合ってたのか?」


「もともと僕は白魔術師で、役割は後方支援だったからなぁ。

近接戦闘なんてやり始めたのは拳法家始めてからなんだよね。」


淡々と語るロンにグリエロは呆れかえる。


「お前さん、よく今まで生きてたな。

いや、しかし俺もうっかりしてたぜ。そういやお前さんもともと戦闘職じゃないもんな。

こりゃ、すまんかった。

色々と種類はあるが武器の特性を教えてやんなきゃな。」


そう言ってグリエロは中庭の一角に向かって歩きだす。


「おう、こっちだ付いて来い。」


そう言って手招きするグリエロに付いて行くロン。

そこには剣や斧、槍に弓矢といった多数の武器が壁に掛けられている。


「ここには訓練や模擬戦なんかで使う武器が置いてあんだ。

一通りの武器は用意されてあるからな、ここにある武器の特性と躱し方なんかを端から順番に全部叩き込んでやるぜ。」


「お、おう。大丈夫なのか... ?」


「あー大丈夫だ、本物の武器だが刃は落としてあるよ、死にはしねえ。」


「いや、そういうんじゃ無くて...

...いや、よろしくお願いするよグリエロ。」


ロンは魔物に殺されるよりも修業中に不慮の事故で命を落とし兼ねないなと思ってしまう。

グリエロやトムなんかの戦闘一筋の手合いは色んな意味で本気で冗談が通じない。


ロンは付いて行けるか一瞬不安になったが、ここで生半可な事をしていても戦闘技術は身に付かないだろう。

ここは元一流の戦士に教えを請う事が一番の近道かもしれない。


「先ずは剣からいこうか。一番代表的な武器で扱う者の数も多い。何より基本中の基本だ剣の事を知っていると後々応用が利くしな。」


そう言ってグリエロは剣を掴み取り、構える。


そこから剣を袈裟斬りに振り、逆袈裟、横薙ぎに剣を振るう。

流れる様な剣捌きだ。とてもあのグリエロとは思えない。


「剣筋ってのは八つある。左右の袈裟斬り、下から上への逆袈裟も左右の二種類あるな。

それから左右の横薙ぎ、上から下への斬り下ろし、その逆の切り上げだ。」


そう言ってそれぞれの型を披露する。


「あと突きもあるが、剣の突きってのは隙が多い。確実に仕留めれる時か、捨て身の攻撃って時にしか使えねえ。」


「成る程、僕の突きってやっぱり剣呑な攻撃手段なのかな?」


「お前さんの突きは素手で、得物を持って無いだけ引き手が早い。さらに連撃も目を見張る速さだ。

それぞれの武器の特性を知って、正しい体捌きを覚えたら近接戦闘では敵にとってはかなり嫌な相手になるんじゃねえか?」


「そんなもんかな?」


「ま、お前さん次第だな。」


グリエロはニヤリと笑い剣を構える。


「いっちょ軽くやってみっか。」


そこからロンはひたすら剣の太刀筋を身体に叩き込まれる。


文字通りそれは叩き込まれるといったもので、ひたすらグリエロの剣を躱す乱暴なものだった。


日も高くなる昼迄それは続き、ロンが汗だくで青痣だらけになる頃にようやく終わる。

まったく軽くない。やはり病み上がりという事は忘れている様だ。

ブランシェトが居合わせたら雷が落ちるだろう。


「ロン生きてっか? やっぱりお前さん根性あるな。」


それに肩で息をするロンは片手を挙げて答える。


「これが剣の太刀筋ってやつだ、わかったか?

しかしお前さんなかなか筋がイイぜ、剣先じゃなくて俺の肩を見てたな。」


「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ... ああ、この前のオーク戦の時に気づいたんだ。」


「成る程な、じゃあ次からは肩だけじゃなくて目や膝、あと爪先の向きなんかも見る様にしとくんだ。

そうやって太刀筋が見切れる様になってきたら、もう一段深い体捌きを教えてやるよ。」


「ああ、死なない程度に頑張るよ。」


「よっしゃ、その意気だ。」


グリエロはへばるロンを尻目に「じゃあ今日はこんくらいだ」と言って武器を片付け始める。


ロンは息を整えている最中にふと思い出した事があり「あともう一つ」と人差し指を挙げる。


「ふう... そうだった、もう一つ聞いておきたい事があるんだ。」


「なんだい?」と先を促すグリエロ。


「オークと戦っている時に、たまたま肘でオークの側頭部を打ち抜いたんだけど、何て言うか、その時の感触がいつもと違っててさ、何て言うか攻撃が突き抜けるっていうか通るっていうか...

なんせ、それでその一撃でオークを絶命させたんだ。」


そう記憶を探り探り話すロンに、顎を摩りながら答えるグリエロ。


「側頭部って言うと、こめかみか? そりゃ急所だな。確かに強く打ちつけたり、当たりどころが悪けりゃ死んじまうかもな。」


「成る程、急所か。その急所ってもっとあるよな?

グリエロそれも詳しく教えてくれないか?」


「う〜ん。まあ、それなりには知ってるが... 剣で斬るならともかく拳を打ちつけるとなるとなあ... お前さん元白魔術師じゃねえか、そう言うのは詳しいんじゃねえのか?」


「う〜ん。こっちは癒し系だからなぁ。詳しいのは急所っていうより経絡の方だよ。ツボって言うやつ。」


そこでまた、う〜んと唸るロン。


「按摩術とか指圧術とかで使う手技療法も一通り勉強したけど、僕は魔法系に行っちゃったからそっちは専門外だな。」


そこでグリエロは何か閃いた様に手を打つ。


「あ! あの爺さんなら詳しいぜ。

ロン、お前さんも知ってるだろギルドの裏手に住んでる盲目の爺さん。」


「知ってるよ、ルドガー爺さんだろ。

でもあの爺さん按摩術師じゃないか。急所じゃなくて経絡の方だよ。」


「何言ってんだ、あの爺さん昔は暗殺者だったじゃねえかよ。知らねえのか?」


「はい!?」



唐突に次に行くべき場所が決まったロン・チェイニーである。

さてロンは急所をルドガー爺さんから学べるのでしょうか?


いつも読んで頂き誠にありがとうございます。



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