2 ぶん殴る事について考える
満身創痍ながらゴブリンの巣窟から帰還したロン・チェイニーは今日の事を振り返ります。
白魔術師向いてない....
誤字や文章のおかしな所をご指摘頂きました。
まだ全て直せた訳ではありませんが、徐々に訂正していきます。
ご指摘ありがとうございました!
ウンドの街に帰って来た頃にはもう日が傾きかけていた。ロン・チェイニーはたんこぶにたんこぶを重ねてボサボサになった髪に、片目が腫れてふさがったボコボコの顔、おまけにローブはあらゆる所が切り裂かれボロボロになり、血と泥でもはや何色か分からない。その後ろをトボトボついてくるのは赤毛の新米黒魔導師だ。彼女は彼女でツンとした異臭を放っている。
この見るからに異様な冒険者達は、当然の事ながら街の入り口で門番に止められる。
「ちょっと待て、何だお前らは、って何だ、ロンか、ロン・チェイニーか!?どうしたんだ、それ!?」
あまりにボロボロで門番のロドリコもパッと見てロンだとわからなかったようだ。
「あー、ロドリコか。あれだよ、ゴブリン討伐の依頼をかたずけて来たんだよ。」
そう言ってロンはニカッと笑うが、今の面構えでは笑ってるのか怒っているのかよく分からない。
「ひでぇ面だな、どんなゴブリンを始末してきたんだ?...まぁなんだ、大丈夫か? それと連れの黒魔導師は何て名だったか...どうした!?えらくクセェな。」
ロンはそりゃ臭いでしょうねと思って黒魔導師を見ると、俯いて口をへの字に曲げている。今にも泣き出しそうなので取り敢えずフォローを入れておく。
「あー、あれだ、コイツはゴブリンの汚物を浴びたんだよ、まぁ新米にしたら頑張っていた方だよ。...ところで名前なんて言うんだっけ?」
「エルザ...」
消え入りそうな声で答える黒魔導師エルザ。
「そうか、大変だったな。まぁ無事に帰って来れてなによりだ。...ん!?そういえば、もう一人戦士が居なかったか?」
もっともな疑問にロンは自分の腫れ上がった顔を指差しながら答える。
「いの一番にあの馬鹿が使い物にならなくなったから、僕がゴブリンを始末する羽目になったんだよ。お陰でこの有様だ。なかなか目を覚まさないから置いてきたよ、もうゴブリンも居ないし死にはしないだろ。」
これにはロドリコも苦笑いだ。
「まぁなんだ、疲れたろう、今日は帰ってゆっくり休めよ。」
ロンは「おう」と片手をあげその場合を後にする。エルザは俯いたままその後を付いていく。
その後は街の広場まで二人とも終始無言だった。ボロボロのロンは足を止めて異臭を放つエルザと向き合う。
「あー、エルザ...だっけ? 散々な初陣だったな、まぁ初陣は無事に生きて帰るのが目標みたいな所もあるからな、上出来だよ。」
「うぐ...」
「今日は疲れたろ、もう帰れ。ギルドには僕が報告しておくから、明日にでも報酬を受け取りに行けば良いよ。」
「わかた...」
「じゃあな。気をつけて帰れよ。」
「ぐしゅ...」
とぼとぼと家路につくエルザの後姿を見送る。
まぁ、散々な初陣になってしまったもんだと思う。コレにめげずに頑張ってもらいたい。
それからロンはギルドに討伐報告に行って、ギルドの受付でも門番の所でやったのと同じような問答をして家路についた。
家に帰り、風呂に入って、身体中に回復薬を塗って、道具箱に放り込んでいたお古の魔力増幅の水晶を持って治癒魔術を自分にかける。大方傷は治ったろう。
ベットに寝転び今日の洞窟での出来事を思い返してみる。ホントにもう白魔術師はやめよう才能が無い、そう思った。微妙な効果しか無い白魔術を使うより、ゴブリンをぶん殴っていた方が自分に向いているんじゃなかろうかと思う。実際に今日は魔術を行使するより、ゴブリンを殴る拳の方が役に立った。
この度のゴブリンとの泥仕合だが、ほとんどがただ闇雲に殴り合っていただけだった。しかし最後の方はゴブリンの動きが見えて攻撃を躱せるようになって来たし、最後はゴブリンの腕をへし折って無力化出来た。
ゴブリンも魔物とは言え生物なのだ。一皮むけば骨と筋肉と内臓があるのだ。肘を逆から殴れば腕を折ることが出来る。何故なら関節には可動域があって、必要以上に曲げられない。過負荷がかかると折れてしまう。
ゴブリンに殴られて自分の顔は腫れ上がったが、ゴブリンも自分に殴られて顔を腫らしていたではないか。
ロンは白魔術を学ぶ上で、生物学、解剖学、形態学に医学と、癒すために生物について多くを学んでいる。
よく考えれば、人体について、動物について、生物についての構造は熟知しているではないか。
治し方を知っている。裏を返せば壊し方も知っているのだ。
ゴブリンも顔を腫らしていた。自分達と同じ生物なのだ。この考え方を突き詰めれば無手で敵を制する事が出来るんじゃないか?
ロンは考える。子供の頃はカッコイイ剣士になりたかった。しかし剣の才能が全く無い事に早々に気がついた。それならばカッコイイ剣士を影から支えるカッコイイ魔術師になろうと思ったのだ。剣士を魔法でサポートする、息の合ったコンビなんてカッコイイじゃないか。子供の頃の自分はカッコイイ以外の語彙が無いのか。いや、そんな事はどうでもいい。
結局、白魔術師になってはみたがこちらも才能が無かった。小さい頃から冒険者一筋でやってきた。他の生き方を知らない。これからも冒険者としてやっていくなら、剣も魔法も駄目でも、我が身一つでやっていかねばならない。
素手で魔物と渡り合うなんて、前代未聞だ。そんな危険で馬鹿な事をやる奴なんて居ない。
世界初の魔物ぶん殴り屋だ。この世に一人しか居ない。
カッコイイじゃないか!
やはり大人になってもロン・チェイニーの語彙は貧困なのであった。
読んで頂きありがとうございます。
お目汚しかも知れませんが、よろしくお願いします。